東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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東風谷早苗の隠し持っていた切り札、それはアズマが幻想入りした際に落としたアールバイパーのオプションの残骸から得たテクノロジーで生み出された「RVR-01」型の戦闘飛行バイク「戦闘騎(ライディングバイパー)」であった。

今まさに妖怪の山の頂で、オリジナルと模倣品の頂上決戦が始まる……!


第8話 ~ 頂 上 決 戦 ~

 お互いに距離を微調整すべくじりじりと間合いを離したり近づけたりして様子をうかがう。

 

 何せ相手はあのRVR-01、ガントレットだ。あらゆる方向に対応可能な武装を数多く持つ。ゆえに下手な行動を起こせば逆にこちらが被害をこうむるのは火を見るよりも明らかだ。最適なタイミングと距離をお互いに探っているのだ。

 

 そしてほぼ同時に動き始める。だが、その方向性はまるで違うものであった。早苗さんは回転しながら突っ込み、雷マーク型のショットを放ち、俺は弧を描くように接近しつつハンターをばら撒いた。

 

 衝突するのではないかというほど接近し、そしてすれ違った。こちら側の被弾はなし。早苗さんはというと数発のハンターを受けたようだが、あの数では大したダメージは期待できない。

 

 とどまることなく宙返り。さすがにあの乗り物を完全に使いこなせていないのかしばらくまごついた動きを見せる早苗さん。アールバイパーの兵装をツインレーザーに換装し、その隙だらけの背後狙って追撃を行った。

 

 案の定というか、早苗さんは向きを変えずに反撃を行ってきた。青色のショットを一直線に放つのだ。それもツインレーザーを凌駕する物量で。何かしらの反応があることを予見していた俺はその直撃こそは避けられたものの、早苗さんの周囲でクルクルと回る3つのオプションが斜めに弾幕をばら撒くものだからそちらの弾を受けてしまう。

 

「ちっ……!」

 

 カンッ、カンッと銀翼が被弾するたびにコクピットにも振動が走る。致命傷とは程遠いがあまり喰らいたくはないものだ。こうなれば強烈な一撃を喰らわせて黙らせる他ない。このまま一気に間合いを詰めてレイディアントソードで斬りつける。

 

「かかりましたね!」

 

 銀翼の機動力をもってすれば接近するのは容易でる。だが、そのような状況になることをまるで待っていたかのようにニヤリと嫌な笑みを浮かべる現人神。気づくとアールバイパーは早苗さんを頂点とするようなワイヤーフレームで描かれた四角錐に捕捉されていたのだ。

 

 ガントレットから発せられるワイヤーフレームの四角錐が執拗に銀翼を捕捉してくる。まさか……!?

 

 四角錐がわずかに帯電を始めた気がした。ここに留まるとマズい。だが、体が動かない。間に合わないっ!

 

「フリーレンジ(※1)!」

 

 籠手(ガントレット)の名を持つ戦闘騎(ライディングバイパー)とその周りを回転する3つの青白いオプション「クロー」からアールバイパーを狙うかのようにレーザーが一直線に貫いてくる。その速さは目視では認識できず。気が付いたら既に被弾していたという感じだ。

 

「銀星『レイディアント・スターソード』!」

 

 大きくバランスを崩しながらも咄嗟にスペルカードを取り出して発動する。その発動はあまりに遅すぎた気もするが、どうにか体勢を立て直すと巨大な剣を振り回した。

 

 風切る青い刃がパイロットごと戦闘騎を斬りつける。が、その刃の軌跡から東風はスルリと抜け出してしまう。

 

「危ない危ない……」

 

 もう一振りもかわすと、早苗さんはそのまま俺の背後に陣取った。今度はこちらが避ける番か。

 

 一度振り切る為に速度を上げて逃げようとするが、相手もかなりの機動力を持っているようで距離が稼げない。そうしているうちに青い球体「ハンター」を乱射してきた。どんなにジグザグに飛行しても確実にこちらに迫っている。回避は絶望的……。

 

「菊一文字!」

 

 ミサイル発射のトリガーを引く。一瞬だけアールバイパーの前を浮遊していたポッドは一瞬で遥か背後に。そして光のバリアを展開した。青い球体がバリアに阻まれて消えていく。さらにそれらを発射していた早苗さんもバリアに突っ込もうとしていた……。

 

「そうはさせませんっ! フリーレンジ!」

 

 四角錐のワイヤーフレームを前方に突き出す早苗さん。菊一文字のポッドを感知すると一気にレーザーを照射した。小さい爆発を起こし菊一文字が崩壊する。だが、バリアの向こう側に俺はいないっ!

 

「あれ……?」

「真上だぁー! レイディアントソードを喰らえ!」

 

 機動力は変わらなくとも経験は俺の方が多い。視界の外からの迅速な一撃にはそうそう対応できない。フリーレンジを回転させてこちらに照準を合わせるよりも先にガントレットを模した機体を斬りつけた。

 

 攻撃に成功したのを確認すると今度は一気に距離を取る。背後から迫るハンターよりも素早く宙返りすると再びレイディアントソードを構えて突撃を試みる。

 

「そう何度も同じ手は……」

 

 御幣を掲げて更なる追尾弾を放つ早苗さん。だが、それよりも速くアールバイパーは標的を間合いに捉えんとする。無駄に大回りするハンターでは追いつけまい。

 

「レイディアント……」

 

 だが、何かがおかしい。このままでは早苗さんは大ダメージを受けるのは先ほどの一撃で理解しているはずだ。だというのにあの余裕。だが、いちいち模索している時間はない。すでに動き始めた体に今更ブレーキなどきかない。何が来る? 何を企んでいる? 俺は何か大切なことを見落としているというのか……?

 

「ソード!」

「通用しませんっ!」

 

限界まで接近した俺は青い刃を振るい、再び距離を取る。今度は手応えがない。外したよう……

 

「っ!?」

 

 突如小爆発とともにバランスを崩す我が銀翼。なんとアールバイパーに光の針が何本も突き刺さっていたのだ。あと少しずれていたらコクピットに直撃していた……。みるみる揚力の下がるアールバイパー。機関部を損傷したのかもしれない。

 

 けたたましいアラート音とまばゆい赤いランプが点灯する中、オプションを展開してどうにか足りない浮力を補うように引っ張り上げてもらう。

 

「なんなんだ、この針は。針なんていつの間に仕込んでいた?」

「あら、意外ですね。忘れてしまったのですか? 模倣品だけが持っていてオリジナルは持っていない『アレ』を」

 

 ちくしょう、また「アレ」か。出し惜しみしやがって……。フリーレンジのことだろうか? いや、そういう次元の話ではない。ここでいう模倣品とは早苗さんの使用している戦闘騎のモデルになった戦闘機「RVR-01ガントレット」のことだろう。ガントレットにとってのオリジナルは「ヴァスティールオリジナル」。何故か知らないが早苗さんはアールバイパーをそのオリジナルと重ねて見ている節がある。

 

 ガントレットが持っていてオリジナルが持っていなかったもの……。急な火力上昇に見たことのない光の針……。ああ、そうか。すっかり忘れていた。瞬間的に火力を上げる手段をガントレットは持っていた。恐らくはそれをモチーフにした早苗さんの戦闘騎にも同じ機能が備わっているのだろう。

 

 周囲で回転している3つのオプション……いや、クロウの耐久力を消費して超火力を得る。それはまさしく……

 

「『オーバーウェポン』(※2)か。俺としたことがすっかり忘れていた」

 

 俺が先程の超火力の正体を見抜くと早苗さんは嬉々として答える。

 

「その通り! 凄い火力でしょう? 舐めてかかるから痛い目を見るんですよ?」

 

 今ので調子づいたのか、今度は太いレーザーをいきなり放ってきた。マスタースパークよりもサイズは圧倒的に小さいものの、ツインレーザーの比にはならない威圧感である。あと弾速もすさまじい。

 

 機動力の落ちている状態では避けるのも一苦労である。機体の先端をわずかにかすったらしく、アールバイパーは再びバランスを崩してその場でクルクルと回転してしまう。

 

「うお、落ちる……!」

 

 そのまま墜落するさなか、より一層思い切り引っ張り上げるネメシス達。魔力の消費が激しいのか、彼女達を覆うオレンジ色のオーラがどんどん小さく薄くなる。今魔力が尽きたら確実に落ちてしまうだろう。

 

 ぐるんぐるんと3つのオプションが回転している……否、俺が回転している。そういえば早苗さんのオプションは回転してるんだよな。そんなことを考えつつ体勢を立て直す。

 

 と、急に機体のふらつきが止まった。今度は3つのオプションがアールバイパーの周囲を回転している。なるほど思い出した。こんなオプションのフォーメーションもあったな。そのまんま「ローリングオプション」というフォーメーションだった気がする。

 

 それと気になる点がもう一つ。アールバイパーを支えるのに精いっぱいで魔力の消費が止まらなかったオプションたちだったのだが、それが止まった気がするのだ。回転することでエネルギーの消費を安定して行えるようになったためだろうか? オプションを格納してもバランスはそのままとれている。

 

 こちらが動けないことをいいことに早苗さんはさらに追撃を行う。それらをレイディアントソードで切り払い被弾を避けていくのだが、完全に防御するのは不可能。近接武器を警戒して接近してくることはないものの(フリーレンジを封じたことになるのだ。アレをもう一度喰らったら流石にヤバい)、これではじり貧である。さらに悪いことに……。

 

「これなら防御出来ない筈。ウェーブ!」

 

 ジリジリとゆっくり焼き焦がすようなレーザーを放ってきた。ウェーブとは非常に色の薄いレーザーであり威力自体はハンター以上に低いのだが、地形や防壁を無視して攻撃可能という今の状況だと結構厄介な代物である。

 

「モウダイジョウブ」

 

 そんな中、オプションたちが元の魔力を取り戻したらしいことが分かる。再びオプションを新たに得たローリングのフォーメーションで展開。

 

 回転によって3つのオプション安定してエネルギーを消費している。早苗さんのクローも同じように回転させて、必要時に過負荷をかけて強烈な攻撃を繰り出した。もしや銀翼でも再現が出来るのではないだろうか。あのオーバーウェポンとやらを。

 

 ふと早苗さんの戦闘騎の周囲を回転していたクローが動きを止めた。こちらを焼き焦がすような薄いレーザーがわずかに変色。試すしかない! 俺も回転するオプションたちにその場にとどまるように指示。

 

 直後に感じる吐き気。何か見えない力で外側から締め付けられるような感覚。苦痛に顔をゆがめながらもこの感覚に似たものを前にも感じたことがあるのを思い出した。

 

 あれは人里で暴走した妖夢と対峙した時。事故で白蓮さんの魔人経巻に触れた時にぐるぐる巻きにされたことがあった。あの時の感覚、つまり魔力がアールバイパー本体に収束している違いない。

 

 俺の中で推測は確信に変わった。あとはこれを一気に放つことが出来ればオーバーウェポンの成立だ。声高らかに吐き気を催すほどにたまり切った魔力を解き放つように宣言。

 

「模倣品に負けてたまるかっ! 俺も使ってやるぞ。操術『オーバーウェポン』!」

 

 仕掛けが分かれば後は単純だ。ネメシス達の蓄えている魔力をアールバイパー本体に収束させて通常よりも段違いの火力で武装を使用する、それだけだ。

 

 魔力の血潮がオプションから俺自身に、そして増幅された火力が機体前方へ一気に放たれるイメージ。まさに魔力の血管でつながれて銀翼と一体化したような感覚を覚えた。その火力に翻弄され機体がガタガタと揺れる。操縦桿を取り落さないようにしっかり握りなおすと、再びトリガーを引いた。

 

 細い2本の光の針を放つ筈であったアールバイパー。しかし今はなっているのは無数の針が連なったもの。遠目に見れば巨大なレーザーにも見えるもの。やはりマスタースパークに比べると圧倒的に細い(早苗さんが放って見せたものよりもさらに一回り細い)ものであったが、バチバチとあちこちでスパークが走っており見た目以上に派手であった。

 

 思わぬ強烈な反撃に早苗さんはまるで反応できず、オーバーウェポンで強化されたツインレーザーをもろに受けた。

 

 ヨロヨロとバランスを崩す早苗さんの戦闘騎。

 

「イタタ……。や、やりますね……。そうやって戦ううちに、色々な武装を覚えていくのですね」

 

 眼下では神奈子が拳を振り上げて鼓舞するように早苗さんにげきを飛ばす。

 

「早苗ー、このままじゃ負けちゃう! こっちも強烈なオーバーウェポンで対抗するんだ!」

 

 ふらついていた風祝はその声で目を覚ましたかのようにキリリと表情を引き締める。

 

「これでおあいこってところでしょうか? いいでしょう。最大最強の火力をその銀翼にぶちかまします!」

 

 静かに目を閉じると御幣で空中を切るように横に掲げる。口元がわずかに動いていることから何かしらの奇跡を起こそうとしているらしいことが分かる。

 

 静かに、だが激しく周囲の空気が渦巻き始める。抜けるような青空は今や暗雲立ち込め時折雷鳴が鳴り響いていた。明らかにヤバい雰囲気だぞ……。

 

 しかし異変はそれだけではない。早苗さんよりも明らかに近い距離で何かがスパークする音が聞こえたのだ。何事と周囲を見回すも音の出元は分からずじまい。それもそのはず、なんとレイディアントソードが帯電を始めていたのだ。恐らく嵐を呼ぶ奇跡の恩恵をこちらも受けているようだ。あれだけスケールの大きいものだ。自分だけ恩恵を受ける……だなんて虫のいい話はないってことだな。

 

 そういえばレイディアントソードをオーバーウェポン状態で放つとどうなるのだろう?

 

 一足先に攻撃の準備の整った早苗さんは四角錐型のワイヤーフレームを展開し始めた。恐らく近距離からのフリーレンジによるオーバーウェポンを仕掛けるつもりなのだろう。

 

「せっかくだ。こっちも最大パワーでレイディアントソードをぶちかます。どっちがパワーで勝るか……正々堂々と勝負だ!」

 

 俺の持つ武器で最も火力の出るものはこのレイディアントソード。いいだろう、力と力、どちらがより強大か比べようではないか。相手ももとよりそのつもりだったようで

 

「フリーレンジ……」

「レイディアントソード……」

 

 未だにスパークの止まらない青い刃を振りかざし一直線に突っ込む。ぐんぐんと互いの距離は縮み……

 

「オーバーウェポン、発動ですっ!」

「オーバーウェポン、発動だぁっ!」

 

 放たれる無数の電撃のムチとほとばしる光の刃。あれは確か無縁塚でノービルにトドメをさした攻撃……。あれが最大最強の攻撃のようだな。それが限界まで近づいた矢先、轟音と共に周囲がまばゆい光で包まれた。

 

 交錯する雷と刃……!

 

 

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(その頃、アズマと早苗さんの対決を観戦している2柱の神様は……)

 

 互いに一歩も引かない一風変わった弾幕ごっこ。それを見る神様は2柱。日本酒片手に満足げにそれをじっくりと見据える神奈子と、そして最初こそウンザリしていたのにいざ戦いが始まるとピョコピョコ跳ねまわって応援を始める諏訪子。

 

「いけー! どっちもがんばれー!」

「私としては早苗に勝ってもらいたいんだが……しかしアールバイパー、只者ではないな。オーバーウェポンのからくりに気づいただけでなく自分のものにしてしまったようだ」

 

 そして周囲の空気が渦巻き、両者が最大最強の力をもってして正面からぶつかっていった。

 

「力と力のぶつかり合いはいつ見ても素晴らしいね。早苗は安定のフリーレンジか。

「そしてアズマ……だっけ? あっちの蛇はレイディアント……」

 

 そこまで口にする諏訪子を神奈子は引き留めた。

 

「違う、ただのレイディアントソードじゃない。オーバーウェポンを使ってるんだ。そうでなければあんなにスパークしない。そうだな、あえて名づけるなら……『サンダーソード』(※3)といったところね」

 

 澄まし顔でそんなこと言うので、ずっこける諏訪子。何せネーミングがあまりにそのまんまだからである。

 

「確かに電気が走ってたけど、こりゃまた安直なネーミング……」

「別にいいだろっ! 分かりやすくて」

 

 その瞬間、大きな雷が守矢神社に落ち、バリバリと轟音を撒き散らしながら閃光を放った。

 

「ぐっ、何も見えないっ!」

「どうなったの!?」

 

 閃光が収まった後もモウモウと土煙が立ち込めておりその状況はうかがい知れない。勝ったのはアズマのサンダーソードか、それとも早苗のフリーレンジか……。

 

 嵐の後の穏やかな風が土煙を舞い上げて少しずつ周囲を明るみにする。最後に立っていたのは……早苗であった。

 

「勝負ありっ! この勝負は早苗の、戦闘騎『ガントレット』の勝利……」

「いや、待って!」

 

 祟り神が叫んだ直後、戦闘騎「ガントレット」はわずかにグラリと傾き、電気がショートし始める。そうなったかと思うと爆発を起こし墜落してしまったのだ。

 

「早苗ーっ、大丈夫か!?」

 

 顔色を瞬時にかえてドタドタと墜落現場へと走る戦神。

 

 

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(その頃、墜落したアールバイパー内部……)

 

 うぅ、頭がフラフラする。確か早苗さんのフリーレンジ……いや、オーバーウェポン状態で放つフリーレンジは「ウィップ」って名称だったか……。

 

 とりあえず早苗さんの大技と俺のレイディアントソードがぶつかり合ったと思ったら思い切り落雷して……その後の記憶がない。

 

 あちこち痛む中、周囲を見回すとアールバイパーは墜落してしまったことが分かる。リデュースも解除されているようなのでどうにかコクピットから這い上がることにした。

 

「あっアズマさん。無事みたいですね。よかった……」

 

 巫女服のあちこちがボロボロになった早苗さんが満面に笑みを浮かべて俺に手を差し出している。俺は自分の右手をじっと見つめるとガッチリと彼女の手を掴んだ。その背後では黒煙を上げる戦闘騎の姿があった。最後の一撃は相打ちだったようだ。

 

「勝負は引き分け。早苗の大技とアズマの大技がぶつかり合ってどっちも墜落しちゃったんだ」

「いいや、早苗の勝ちだ。早苗は生身でも弾幕が出来るからな!」

 

 ズイと割り込んできた神奈子だったが、諏訪子に鬱陶しがられながら額を小突かれる。

 

「まだ言ってるよ……。戦闘騎の性能テストを兼ねた勝負なんだからアレが動かなくなった時点でそれはないっての!」

 

 神様たちの話によると、電撃を纏ったレイディアントソードと早苗さんの電撃を纏ったフリーレンジ、つまりウィップと正面衝突をし最初にアールバイパーが墜落するも、間もなく早苗さんも墜落ということで引き分けに終わったことだそうだ。

 

 そうだ、だんだん思い出してきた。あの時のレイディアントソードは制御がきかずに前に突き出すだけで限界であった。切るというよりかは突くという表現が相応しかったその挙動はまさしく「サンダーソード」のものであった。後でスペルカードに登録しておこう……。

 

 名前は何がいいか……。あれはただの銀符って感じではなかったな。オーバーウェポンを使ったことだし……よし決めた。スペル名は「重銀符『サンダーソード』」にしよう!

 

 それにしてもあの場面でまさかのサンダーソードか……。かのSTG「サンダーフォースV」の自機はオーバーウェポンを使っていたがその自機のオリジナルに当たる機体はやはり光る剣を突くように使っていた。この幻想郷でもオリジナルが光る剣、模倣品がオーバーウェポンを使ったってのは何かの因縁を感じる……。

 

「……オホン。とにかく心躍るアツいバトルだった。私も大いに満足した! いいデータも取れたしそのオプションは正式に君のものだ。いろいろとありがとう!」

 

 色々と疑問も残るが、これまでにない程のギリギリの接戦を早苗さんと行ったということは明らかだ。弾幕ごっこ中の息遣い、挙動、攻撃を仕掛けるタイミングから彼女の人となりがぼんやりと見えた気もした。

 

 決闘というよりもスポーツで競った後のような爽やかさが後には残った。さすがは宴会と並び、幻想郷で親睦を深める遊びなだけはある。日も傾きその暑さも鳴りを潜める中涼しげな風が吹きぬける。そんな中、俺は風祝とガッチリと握手を交わした。

 

「これで本当の友達ですね。幻想郷での人間のお友達は結構珍しいものです……」

「俺もだ。というより初めてだ」

 

 全力を出してぶつかり合った後、夕日をバックに友情を結ぶ。なんと清々しいことか!

 

「いいねいいね。青春だよコレ。こういうのはいつ見ても素晴らしいわ!」

 

 軍神が頷きながら固く結ばれた友情を見届けている。

 

 幻想郷で出来た初めての人間の友達。心躍るところだが、次の瞬間、山が大きく揺れた。

 

「地震っ!?」

 

 たじろぐ早苗さん。だが、違う。ただの地震じゃないぞコレ! その証拠にズドンと何かが落ちてきた音が直後に響いてきたのだ。あれは空から何かが落ちた音。まさかこのタイミングで隕石群が? 俺は反射的に早苗さんを庇うように腕と自らの胴体で覆う。

 

「こんなに降り注ぐだなんて明らかにおかしい! いったいどうしたというんだ?」

 

 膝をついて転倒しないようにする神奈子。その間にも妖怪の山に幾多もの小隕石が降り注ぐ。

 

「こっちにも来るぞ!」

 

 1つの黒い塊が轟音を立てながら守矢神社に急接近。迎撃しないと! 俺は銀翼まで歩みを進めようとするがいまだに地面の揺れが収まらずに転んでしまう。いけない、間に合わない……!

 

「ひっ……!」

 

 万事休すのところ、神奈子が俺達を阻むように立ちふさがった。

 

「うちの早苗をやらせないよっ!」

 

 そのまま腰をかがめると背中に背負った注連縄と御柱から無数の弾幕を展開。しかし降り注ぐ隕石を砕くには至らず、そのまま神奈子の背負う注連縄に隕石が直撃してしまう。激しい激突音を立てて神奈子は数メートル吹っ飛んだ。

 

「うぁっ……」

「か、神奈子さまー!」

 

 軍神様の体を張った迎撃で俺たちは無事だったが、身代わりになった神奈子の身を案じて駆け寄る。

 

 注連縄はぐにゃりとひしゃげ、自慢の御柱も折れてしまっていた。神奈子もうつぶせに倒れ伏したままで起き上がる気配がない。

 

「そんな……こんなことって!」

 

 悲観に暮れる俺達。だが、少し距離を取って何かを訝しむのは守矢神社のもう一柱の神様、諏訪子。

 

「おかしいな……、だって直撃じゃないんだろう? あの速度での激突とはいえ即死だなんて神奈子の頑丈な体ではあり得ない……」

 

 そう口走った矢先、むくりと起き上がる神奈子。安堵する早苗であったが、諏訪子はその表情を崩さない。

 

「待つんだ早苗、様子がおかしい!」

 

 俯きながらフラフラと歩み寄る神奈子は確かに異常である。いつでもどっしりと構え、笑う時は豪快に笑い、弾幕するときは豪快に弾をばらまく明快なのが神奈子である。だというのに今はまるで操り人形のように挙動が弱弱しくふらついているのだ。

 

これは確かに様子がおかしい。早苗さんも表情を曇らせてその様子を見届ける。そして俯いていた神奈子がついに顔を上げる。

 

「神遊びの時間だ! オマエラ、武器を取れ! 弾幕乱れ飛ぶパーティしようぜ!」

 

 裂けるのではないかというほど吊り上がった口元。そこから覗く歯がギラギラとしている。その顔は明らかに正常なものではなく飢えた獣のようなものであった。

 

 不気味に砲台のようにこちらを向く御柱に明らかにヤバそうなオーラを出した注連縄。そしてこちらを睨みつける神奈子の瞳は夕陽をギラギラと反射させていた……!




(※1)フリーレンジ
サンダーフォースVに登場する兵装。
ワイヤーフレーム状の四角錐を展開し、ショットボタンを押すことで範囲内にいる敵にレーザーを食らわせる。

近距離であるほど威力が上がり、サンダーフォースVにおいてはかなりの高性能の武器だった。

(※2)オーバーウェポン
サンダーフォースVに登場する攻撃手段。
オプションであるクローの耐久度を犠牲に発動。発動中はより強力な攻撃を仕掛けることが出来るようになる。

(※3)サンダーソード
サンダーフォースIVに登場する兵装
サンダークロー装備中に、しばらくショットを撃たないでいるとクローにエネルギーが溜まっていくので、そこでショットボタンを押すと前方に光の剣を突き出す。

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