これは途中で諏訪子のストップがかかり引き分けに終わるものの、どうやら神奈子は守矢神社の風祝「東風谷早苗」と弾幕ごっこをさせたいようで……。
妖怪の山、守矢神社境内……。今銀翼と風祝がお互いの全力をかけてぶつかり合わんとする……。
「早苗、例の
「ええ、
何やら気になるやり取りを見せる二人。「アレ」のことが気になるが恐らく今の俺には全く察しがつかないモノだろう。ならば目前にまで迫った戦いに集中するべきだ。
静かに吹き付ける東風。間合いを微調整させ攻める時を伺う。風の音がわずかに弱くなった。
最初に仕掛けたのは早苗。振りかざす御幣から弓のような(矢ではない。弓なのだ)形をした青い弾を拡散するように連射してきた。これはウェーブ弾か。切り裂かれまいと機体を降下させこれを回避。負けじとこちらもツインレーザーをばら撒き気味に発射した。
「ネメシス、コンパク! 援護を頼むっ!」
外の世界出身とはいえ幻想郷の住民としては早苗さんだって先輩だ。アールバイパー単機ではどうしても火力で負けてしまう。ならばその名前の通り、蛇になろう。オプションを二つ呼び出すとトレースのフォーメーションを取り、さらに追撃を行った。
「おおっ、『グラディウス』そのまんまです! ちょっと感動しました」
「当り前さっ。こいつはビックバイパーの末裔だぞ」
ようやく同じくらいの火力を叩き出すと、持ち前の機動力で急接近。オプションたちは一度格納し、青い刃を構えた。
「伊達にスピーダしてきたわけじゃないぜ。今度はこいつを喰らえ!」
すれ違いざまにレイディアントソードの一閃。手応えを感じなかったことからどうやら空振りに終わったらしいことが分かる。次の反撃に備え、急旋回。
案の定ヘビのようなニョロニョロした弾を飛ばしていた。思っていたよりも弾速も遅いので余裕でその弾道から離れる……。
「ぐっ?」
蛇はこちらの回避行動に反応するように直角に曲がると再び銀の翼に食らいついたのだ! 機体が衝撃を受けて大きく傾く。あの蛇、標的に当たるまでカクカクと曲がって追いかけていくようだな。
再び早苗さんが蛇を放ってきた。同じ手は通用しないぞ。再びアールバイパーの速度を上げて逃げるのではなく逆に近距離戦を仕掛ける。ツインレーザーを放ちつつ。すれ違う蛇どもはこちらの速度に反応できないようで、奴らが直角に曲がるよりも先に通り過ぎることに成功している。
あとは今度こそレイディアントソードを当てれば……いや、懐からカードを取り出した。何か仕掛けてくる……!
「蛙符『手管の蝦蟇』!」
眩い光を両手に携えふわりと空中に浮かべる。レーダーによると強烈な魔力の塊であるようで、あれだけ小さく圧縮されているのだから、じきに大爆発を起こすことは明白であった。あのまま突っ込むと巻き添えを喰らう……。
「リフレックスリング!」
咄嗟にもう一つの近接武器であるリングをヨーヨーのように突き出す。逆回転させて。早苗さんをリングにとらえると急ぎ光の爆弾から離れる。十分に離れた後、ジャイアントスイングの要領で回転し、そのまま投げ飛ばした。
「今のは……そんなまさか!? 低威力、短射程であんなにいらない子状態だったのに……」
「原作での性能の話はよしてやれ。さて、そろそろ
挑発してみたが、「まだまだ!」と一言早苗さんが口にすると後ろに跳躍するように距離を取る。そしてスペルカードを掲げた。
「開海『海が割れる日』!」
星のような紋様を地面に描くと突如左右から水が噴き出た。んな滅茶苦茶な……。海水なのか、熱湯なのかは定かではないがあれだけの水圧に飲み込まれたらまず無事ではないだろう。
割れるというだけあって早苗さんのいる場所は安全であるが、間欠泉は出たり止まったりを繰り返して安全な場所がグネグネと変わっていくのだ。
「なんちゅうスペルだ。でもな、このスペルカード『ビッグコアMk-IV』とかに改名した方がいいんじゃね?」
「えっ……。ちょっとは参考にしましたけど、そんなの奇跡っぽくないから嫌ですっ!」
インパクトは凄まじいが下手に動かなければ絶対に食らわない。とはいえ水しぶきがすぐ近くまで迫るのでかなり威圧的である。肝心の早苗さんはというとやはり自分も水を被らないように動き回りつつこちらを狙って星型のショットを放っていた。
「狙い辛いな。こういうときは……」
武装をハンターに換装。これで回避行動に集中できる。無数の青い球体が早苗さんに襲い掛かり、そして彼女は地面に膝をついた。
「凄い……。ビックバイパー、シルバーガン、ステュクス……。武装のバリエーションが多すぎます……。ただの超時空戦闘機ってわけではないようですね」
ゼエゼエと息を切らせながらもアールバイパーの兵装を言い当てていく。全部当たりだ。そして人間相手にこんなに善戦したのも多分初めてだ。
「早苗、このままだとアールバイパーに負けてしまうよ。そろそろ
さっきから神奈子さんが口にしている
ピッという電子音と共にどこからか大きな鉄塊が高速ですっ飛んで行った。あれが切り札なのだろうか?
「神奈子様、どこに飛ばしているんですかっ! もう……」
フラフラとした足取りで早苗さんは立ち上がると見当違いの方向に飛んで行った
早苗さんがすっ飛んで行った切り札に追いつくと、その鉄塊に跨るようにして乗り込んだ。移動しながらなものだから中々に器用である。そして再び俺の目の前に戻ってきたのだが、その出で立ちに俺は驚きを隠せなかった。
「そのマシンは……。まさか『
早苗さんは戦闘機を模したような飛行バイク「ライディングバイパー」に跨っていたのだ。思春期の乙女が多く持っているという「プラトニックパワー」なるものを原動力とする乗り物である。
青色と白色の眩しいカラーリングは一瞬ビックバイパーのものと思ったが、どうもデザインが違うようである。ビックバイパーよりも大きく左右に開けた翼。先端はブルーに塗装され大きく前に突き出している。銀色と青色というよりかは青色と白色が目立つ。早苗さん本人の緑色の頭髪が際立って見えた。
「その機体、ビックバイパーじゃないな? いや、そもそも超時空戦闘機モチーフではない……?」
明らかに困惑している様を得意げに地上から見上げる神奈子さん。何か言いたげだ。というかオレンジ色に発光する物体を手にしているではないか。あの円錐はアールバイパーのオプションじゃないか。どうして守谷神社の神様が持っているんだ!?
「その反応。やはり、これはアールバイパー、つまり轟アズマの持ち物だったか。困惑しているようだな。少し、昔の話をさせてくれ」
クククと静かに笑いつつ、神奈子は続ける。
「忘れもしないあの日……。幻想郷の空が割れた日があったんだ」
空が割れる? 随分と凄いことをやってのける奴がいるんだな。
「そう、銀の鳥が幻想郷の結界を突き破って飛び去ったあの日だ。異変と言っても差支えないほどの衝撃だった」
なんと、アールバイパーが幻想入りする瞬間を目撃していたのだという。これはもしかしたらアールバイパーの謎に近づけるかもしれないぞ。俺は次の発言に備え集中する。
「傷ついた銀の鳥『アールバイパー』はそのまま樹海に墜落。その後オーバーテクノロジーを巡ってスキマ妖怪とお前の所の超人住職が争ったのは知っているな? 私もその戦いに参加したかったが、あいにく足が遅くてたどり着いたころには、銀翼も争っていた二人もすでにこの場から姿を消していた」
なんという運命のいたずらだ。俺はもしかしたら守谷神社の勢力に属していたかもしれないというのだ。だが、技術革命や新しいものに目のなさそうな神奈子さんが、戦いに加護を持つ軍神がこんなにあっさり手を引くとは考えにくい。つまり手を引くに相応しい何かを得たに違いない。そしてその答えは神奈子さんが今まさに手にしているではないか。
「そうか、俺はあの時に破損したオプションを落とした……」
「察しがいいなアズマ。その通り。突如幻想郷上空に現れたオーバーテクノロジーの欠片。ああ、あれはまさしくオーバーテクノロジーだった。私の知る限り幻想郷はおろか、この地よりも科学の発達した外界にさえこのようなものは存在しない」
さすが外界出身。アールバイパーが明らかに異質なものであることを感じ取っている。が、その超技術の出どころにはあまり興味がないらしく、彼女は意外なことを口にしていた。
「これを回収した私は解析を行い、そして推測は確信へと変わった。スキマ妖怪はそのことで不安を感じていたようだが、私は違った。紫には災厄の塊だったとしても、私にとってはまさに『偉大なる者共が作りし鉄塊』だった」
浮遊する円錐を手のひらの上でクルクルと回しながら続ける。
「誰が生み出したのかまでは知りうることはできなかったが、この際誰だっていいじゃないか。これだけ素晴らしいものを作ったんだ。さぞ偉大なお方だろう。このオプションを解明すれば、新たな技術革命を幻想郷で引き起こせる……と」
俺が落とした超技術の塊、その技術をもとに新たな兵器を生み出したというのだ。まさに紫が恐れていた事態が目の前で起きている。
待てよ、こんな話どこかで聞いたことがあるぞ。早苗さんの操る異質な戦闘騎は突如幻想郷に現れた謎の超技術から生まれた。そして戦神が口にする超技術を「偉大なる者共が作りし鉄塊」と呼称している。
で、「偉大なる者共が作りし鉄塊」はまたの名を……「
間違いないぞ。あの
「アールバイパーのレプリカってつもりか? 似ても似つかない……。だが、似たような話を聞いたことがある。超技術を模倣した戦闘機を駆る特殊部隊『
ここに来てようやく早苗も口を開く。勝ち誇ったような声で。
「『サンダーフォース』……! そう、この機体は『Refinrd Vasteel Replica』、縮めて『RVR』。この戦闘騎は『RVR-01 GAUNTLET』(※2)のもの! アズマさん。このようにオリジナルと戦えるだなんて光栄です」
おいおい、ということは俺がヴァスティールオリジナルってことか!? ……じゃない。スキマ妖怪の恐れていた事態が今まさに起きようとしているんだ。止めないと最悪俺の命にかかわる。
「おい、そんなことしたら幻想郷のパワーバランスが……」
「次にバクテリアンのような侵略者が幻想郷を襲ってきたらどうするのだ? 少しでも抵抗する力が必要だろう! それにお前ばかり、いや、仏教勢ばかりカッコイイ超技術を持つだなんてずるいぞ! お前の持つオリジナルと私が模倣したレプリカ。どちらが強いのかこの私の前で戦い、その結果を見せてみろ!」
幽々子さんにしろ神奈子さんにしろ地の部分は結構子供っぽい。変な鳥とか言われてけなされることも多い中、良い評価を持って接してくれるのは嬉しいのだが……。唯一この状況を冷めた目で見ているカエルっぽい神様に救いの手を求め視線を寄せるが、やれやれと首を振るのみ。
「私にはどうにもできないよ。とりあえずその変な蛇の妖怪で早苗をぶちのめして、こいつらの目を覚まさせてくれ」
結局戦うしか道はないのか。だが、交戦は不可避と悟った瞬間、不思議と俺も気分が高揚としてきた。変則的とはいえビックバイパーとガントレットの一騎討ちなど幻想郷ならではのこと。
そう、まさに夢の対決なのだ。俺も心のどこかでこのようになることを望んでいたのかもしれない。これだけワクワクする弾幕ごっこは初陣だったチルノ戦以来だ。
「この戦神に至高の戦いを捧げるのよ! ……条件をのむのなら、このオプションは返そう」
ふわりと放り投げられる円錐。それはアールバイパーの真後ろでぴたりと止まると機械的なボイスがバイパー内に流れる。
『OPTION!』
3つに増えたオプション。どうやら神奈子さんの手で修理されたらしく、動きは良好だ。
さて、シューターの誇りとしても、これ以上の神奈子さんと早苗さんの暴走を止めるためにも、この戦いは負けられないっ!
「どちらの機体が幻想郷一か決めましょう! オリジナルには負けませんよ?」
「こうなったらヤケだ。早苗、いい勝負をしよう。全力でかかってこい。いざっ……!」
満面の笑みを浮かべる軍神とウンザリしている祟り神が見守る中、
(※1)戦闘騎
オトメディウスに登場した歴代の超時空戦闘機の力を秘めた戦闘飛行バイク。「ライディングバイパー」と読む。
思春期の女性だけが多く出せる「プラトニックパワー」を原動力とする都合上、女性パイロットが圧倒的に多いのだが、男性の乗り手も少なからず存在する。
(※2)RVR-01 GAUNTLET
サンダーフォースVに登場した自機。
冥王星周辺に漂着した前作自機「RYNEX」の残骸から得たテクノロジーで地球人が生み出した戦闘機。
サンダーフォースVにおいてはRYNEXは「ヴァスティールオリジナル」と呼称されている。
(※3)Duel of Top
サンダーフォースVで使用されるBGM。
実はサンダーフォースIVのOP曲のアレンジ。
前作自機との一騎打ちで流れるものであり、とてもアツい展開。
本作品における早苗さんはシューター、つまりシューティングゲーム愛好家という設定になっています。