彼女が率いる無数の白狼天狗達は新技「菊一文字」でまとめて撃退するも、はたてには通用しない。
どうにかカメラの弱点を突いてこれも撃退するも険悪なムードは変わらず。
そうしているうちにアズマと面識のある鴉天狗「射命丸文」が到着したことで、両者のわだかまりは解消された。
文が言うには付喪神があちこちで発生して悪さしていることは事実のようであり、今は大きな削岩機が付喪神化して暴れ回っているのに手を焼いているというので、それを止めに行くことに。
文に案内された場所は山肌にポッカリとあいた穴の中であった。何かしらの鉱石でも採掘していたのだろうか? 奥に目をやると何やら巨大な物体を取り囲む天狗たちの姿が見えた。
エネルギーの供給源であろう3つのコアはそれぞれ信号機のような色をしており、上下にはムカデのように短い脚が無数に生えている。そしてそれらを攻撃から身を守るために工具が取り付けられているのだ。
「追い詰めました。これより攻撃に移ります」
統制のとれた動きで巨大な削岩機に剣での攻撃を仕掛けるが、頑丈な黄色い外殻はびくともしない。予想以上の硬さに手をこまねいた白狼天狗は逃げる間もなく、削岩機のまるで腕のような形をした工具に一気に薙ぎ払われてしまった。包囲から解放された削岩機はバックするように洞窟の奥へと逃げ出す。
「奴を逃がすなっ!」
今度は編隊を組み鴉天狗が追いかける。対する削岩機は真っ赤なドリル型ミサイルを展開、一気に煙を吐き散らしながら発射させる。
「前衛を援護する。スポイラー隊、映写機用意! 敵弾幕を無力化せよっ!」
後ろで控えていた天狗たちが一斉に取り出すのはカメラ。まさかあれでドリルミサイルを消そうって魂胆なのか?
「やめろっ! ドリルミサイルはカメラで消せないっ……」
はたて戦でオプションたちを突撃させた際に吸い取られたのはあくまでオプションに蓄えられていた魔力。実体のあるものを消すなんて不可能である。
案の定、前衛も後衛も迎撃に失敗。あれだけ統制のとれていた天狗の兵隊はほぼ壊滅状態となった。
「あわわわ……」
信号機のようなコアに赤いドリルミサイル。こいつは「クレイジーコア(※1)」で間違いないだろう。しかし河童がどうしてこんなものを? いや、付喪神化したことで姿が変わった可能性も否定できないな。
「こいつに弾幕ごっこの常識なんて通用しない。そして機能を停止するだけってのは難しそうだ。破壊してしまってもいいか?」
思っていたよりも強大な敵を前に、俺は視線だけを文に向けて確認する。
「破壊もやむなしってことですね。河童の皆さんには後でお話ししておきましょう……」
おそらくこれだけ暴走したものを沈静化させるには破壊するほかないだろう。
まずは上下の工具だ。接近してレイディアントソードを振るうが、まるで手応えなし。外敵を排除するかのように工具を振り回し始めた。機体を左に振り、紙一重で避けるとスピードを落として一度距離を取る。
ツインレーザーに換装すると迫るミサイルを撃ち落としつつ錐もみ回転しつつ再び工具に攻撃。そのくすんだ銀色に無数の穴をあけてやった。ついでに何故か回転している遮蔽板にも攻撃を加え、数枚を砕いた。
「あの腕っぽいのが邪魔ですね。私たちもサポートしましょう!」
羽団扇を掲げ振るうとドリルミサイルをいくつか切り裂きながら工具を切り裂いていく。片方の工具がバラバラになった。
「アズマさんがさっき切り付けてくれたので、そこを狙えばこの程度は楽ちんですっ!」
ドヤ顔をしつつ軽く言っている文であるが、なるほど納得。実はとんでもなく高い技術を見せつけているようだ。
クレイジーコアの工具が届かない程度の距離からレイディアントソードのつけた傷を正確に狙ったらしいのである。本当に天狗ってのは敵に回したくない。
感心しているとドリルミサイルが目前にまで迫ってきていた。慌てて俺は武装をリフレックスリングに換装。逆回転で射出するとミサイルをつかみ取った。
「お返しだっ、てぇいっ!」
ミサイルを抱えたまま接近し、もう一つの「腕」に落とす。派手な爆発とともにもう片方の工具もバラバラに砕け散った。これで弱点の攻撃に集中できるぞ。
薄闇の中、クレイジーコアが焦っているのがよくわかる。腕を失ったことで後退しつつミサイルをさらに激しく飛ばすようになったのだ。
「一気に決める! 陰陽『アンカーシュート』!」
再び飛び交うドリルミサイルをリングで確保。これをコアに投げ込めばかなりのダメージが期待できる。最初はゆっくりと回転、そして徐々に加速をつけて……。一瞬別のドリルミサイルが目の前の視界に躍り出た気がした。しまった……!
その結果俺の目の前で大爆発。振り回していたミサイルが別のミサイルにぶつかってしまったようなのだ。お互いに爆発物ゆえに途中で爆発。アールバイパーはその爆風にあおられて地面を数回バウンド。襲い掛かる衝撃に歯を食いしばり、再び追いつこうとエンジンを吹かす。
今回は幸いにもちゃんと動いた。事前に河童に整備を頼んでおいて正解だったな。はるか先で文とはたてがミサイルを避けながら遮蔽板に攻撃を加えようとしているらしいのが見える。
遅れを取ってたまるかっ! スロットルを握る手に力が入る。その場にとどまろうとする慣性の力を背後に押しのけ、あらん限りに急加速した。
飛び交うミサイルも弾幕に比べればさすがに少ない。邪魔なのは撃ち落とし、ようやく先行していた天狗たちがハッキリと見えるくらいに追いついた。
不意にクレイジーコアから多量のミサイルが撃ち出される。追いつめられてあちらも必死なのだろう。派手に煙を撒き散らし、一瞬本体が見えなくなったくらいだ。
「しまっ……!」
煙から突如現れたそのうちの1発に直撃こそ免れるも、かすってしまったツインテールの天狗。バランスを崩し壁に激突した。そして動きを止めたことを奴が見逃すはずもなかったのだ……。
「はたてっ!?」
手負いの天狗に追い打ちをかけるべく赤いドリルがうねりを上げて突っ込んでくる。文は文でライバルの被弾が想定外だったのか、かなり前に進んだうえでの急停止。助けに行くと敵に後ろを見せることになり、リスクの大きい行動となる。
こうなれば俺が彼女を庇う他ない。だが、どうやって?
ツインレーザーでは火力が足りないだろうし、リフレックスリングやレイディアントソードでは届かない。頑張って間合いに入ったころには既に手遅れになっているだろう。
サイビット・サイファならギリギリ届くかもしれないが、そんな魔力が尽きかけた状態で間合いに入っても満足に結果を残せないのは明白だ。
火力があってでも範囲が広い兵装と言えば菊一文字があるが……。ダメだ、論外。あんなところまで飛ぶはずないし、大体浮遊速度も全然速くない。これならオプションを突撃させた方がまだ希望が……。
そうだっ、それだよ! オプションに菊一文字を持たせればいいんだ。オプションシュートの要領でネメシスかコンパクを飛ばして持たせた菊一文字を展開。上手くいくかわからないが、今はこれに賭けるしかない。
「コンパク、今から思いっきり前に飛ばすから、このポッドを持ちながら行くんだ。いいな?」
無言でコクリと頷く半霊。それを確認するとオプションを展開、ビームを出すバリアをコンパクに託し、ただ叫んだ。
「操術、オプションシュート……。いや、もはや別の技だな」
少し激しく自分の頭を左右に振ると、改めて号令をかける。
「操術『ソードレーザー』!」
銀翼からゆっくり撃ち出される菊一文字。ほぼ同時に勢いよく飛び出たコンパクがポッドを手にするとオレンジ色の光を散らしながらギューンと前方へ一気に飛翔。
そして思惑通りはるか前方で菊一文字のビームが展開。無数のドリルミサイルが光の壁に阻まれて爆発四散した。
遅れて俺もはたての傍に到着。へたり込んではいたが、ビームのおかげで彼女はほとんど無傷のようだ。フウと安堵の息を漏らすが、クレイジーコアの猛攻は止まらない。
「これで終わりにしてやる。ネメシス、お前にも手伝ってもらうぞ。ソードレーザー!」
任務を全うして魔力の切れかかったコンパクを回収すると、今度はネメシスを飛ばす。狙うはクレイジーコアの信号機の部分、つまり原動力たるコア。数多のミサイルをかいくぐり、コアの目の前に到達した頃に菊一文字が発動。上下に伸びたビームが3つのコアに強烈なダメージを与えた。
信号機の光が消え、クレイジーコアの動きが止まる。俺は急ぎネメシスを回収すると一気に距離を取った。爆発するぞ……!
いまだに動けぬツインテールの天狗をリフレックスリングで確保すると、文と共に来た道を戻る。クレイジーコアにコテンパンにやられた天狗たちはすでに脱出しているようで、途中で誰かに出会うこともなかった。崩れ落ちる岩盤よりも早く銀翼と黒翼は開けた場所まで脱出できたのだ。ゴゴゴとこもった爆音が響いた。あの爆発、しかも地盤が崩れて埋もれてしまったのだから、さすがにヤツもおしまいだろう。
一仕事終えた俺はリデュースを解除して機体から降りる。いまだに腰が抜けているはたてに手を伸ばし、立ち上がらせる。
「いつまで腰を抜かしているつもりだ?」
伸ばした手を悔しそうに睨み付ける鴉天狗であったが、おずおずと俺の手を掴むと勢いよく立ち上がった。それでもまだ不服そうにブツブツつぶやいている。
「まだ俺やアールバイパーを付喪神と呼ぶかい?」
乗り手がいないので今は石のようにピクリとも動かない超時空戦闘機を見せて一言。
「ふん、とりあえず害なす存在ではないことは分かったわ。それと、助けてくれて……ありがと」
今も自分の勘違いを認めたくないのか、消え入るような声であったが自らの過ちを認めてくれたようだ。
「なーに、人間だろうと妖怪だろうと間違えるときは間違えるさ。だからそんなに気にすることはない」
さて、誤解も解けたし付喪神も退治した。これでこの長すぎる寄り道も終わりを告げて、守矢神社に向かうことが出来る。さて、文にでも案内してもらって……。
「うわちゃぁ……。貴方という人は、なんとまあ……。私は上への報告やら新聞作りで忙しいのですよ。はたてさんにお願いしてはどうですか?」
彼女はそう言うといつの間に撮影したのだろうか、アールバイパーがはたてと交戦しているところやクレイジーコア相手に果敢に突っ込む写真を取り出した。
冷静に考えるとこいつはまともに戦ってなかったことになって憤慨ものなのだが、普段自分では見られないアールバイパーの雄姿が写っているのだ。俺はもっと見せてくれと彼女に近寄る。
「ダメですって! 続きは新聞で……と言いたいところですが、他でもないアズマさんのお願いですんでちょっとだけ……チラッ」
少しだけ見せてもらったが、なかなかの奮戦ぶりに自分のことでありながらも大きく唸った。しかし最後の一枚をよく見ると俺がへたり込むはたてに手を差し伸べるものであった。見られたことに気付いたこのパパラッチ天狗は小さくペロっと舌を出すと、いたずらっぽくこう続けた。
「えーっと人と妖の平等とかでしたっけ? 命蓮寺での教えをキチンと守っていて感心感心♪ これぞ人間と妖怪の友情、いやそれ以上? にひひ……。それにしてもアズマさんはネタに事欠きませんねぇ♪」
一緒に写真を見ていたはたてが大きく目を見開いたかと思うと、その顔がユデダコのように紅潮していく。反対側では相変わらずニヤニヤ笑いの文がこちらに限界まで顔を近づけるとボソボソと一言。
「で・す・がっ! 私も負けませんからね? 貴方は私のものです。ああ、記事的な意味でってやつですよ」
それだけ言うと背中から黒い翼を一気に展開し、バサバサと羽音を立てて空の向こうへ消えてしまった。後ろではたてが「そういうのじゃなーい!」と騒ぎ立てるのを尻目に。あれ、似たようなことが昨日もあったような……?
まあいいか。文も忙しい身だし、はたてに道案内を頼もう。
俺は再び銀翼に乗り込むとリデュース発動し、2メートルほどに縮小。このツインテールの鴉天狗に道案内をお願いする。
「守矢神社でいいんだっけ?」
「天狗のテリトリーを通る以外にルートがあればいいんだが、そんな都合のよさそうなモノ、なさそうだしな。よろしく頼むよ」
あまり周囲をキョロキョロすると怒られると聞いていたが、俺の周囲を取り巻くように逆に天狗の方から寄ってくるのだ。しかし監視をしているというよりかはアールバイパーを見ているといった感じだろうか?
本物の付喪神を倒したとはいえ、文やはたての口ぶりから他にも道具の付喪神化は進んでおり、今もどこかで付喪神化した道具が暴走しているのかもしれない。こうやって警戒するのは至極当然である。
その傍観者たちも次第にまばらになり、そしてある地点を境にぱったりと途絶えたのだ。
「もう少し行くと鳥居が見えるわ。ねぇ、アズマ。付喪神と戦って転んだ時。私はもう駄目だって思ってたの。でも、貴方が体を張って守ってくれたわね。あの盾のようなビームがなかったらって思うと……。命拾いしたというか希望の光みたいだったというか……。一度は敵対した身だし、何よりも文がいるとこだと照れちゃって言えなかったけど、本当に感謝してるわ」
別れ際に若干顔を俯かせつつ思いを口にしている。こう感謝の念や好意を向けられるのはすがすがしい。
「気にするな。俺はただ諦めずに自分に出来ることをしただけ。希望を失わなければ銀翼は時を越えて馳せ参ずるっ! ……なんてな。俺の、いや、アールバイパーの力を借りたい時は命蓮寺にいるからいつでも訪ねるといい」
「そういうことじゃないのに……ばか」
ん? なんか不服そうである。照れてる? ……いやまさか。確かにソードレーザーで危機を救ったがあれだけで恋慕にまで発展するはずがない。俺の思い違いだろう。
そんな鴉天狗の少女を尻目に、銀翼は鳥居に向かい飛翔する。妖怪の山にはびこる付喪神異変も気になるが、手掛かりもないし今は本来の目的を果たそう。いざ誰かを本当に守らないといけないという時に腕が振るえなくなるなんてことにならないように……。
(※1)クレイジーコア
「極上パロディウス」に登場したボスであり、壁コアの一種。
自走する壁コアというアイデアは後に「グラディウスV」の「キーパーズコア」として逆輸入されることになる。