東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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守矢神社を目指して銀翼「アールバイパー」を駆り、妖怪の山を目指すアズマ。しかしいつの間にか天狗のテリトリーに迷い込んでしまい、見張りの天狗「犬走椛」と交戦せざるを得なくなる。

これを辛くも撃退したアズマであったが、鴉天狗「姫海棠はたて」を筆頭に次々と不審者であるアズマを排除するべく他の白狼天狗達が集まってきてしまい……。


第4話 ~決死の抵抗~

 一斉に襲い掛かる白狼天狗どもをすべて回避するのはおそらく無理……というか多勢に無勢すぎる。こんなの相手にする馬鹿はいない。ひとまずは逃げよう。

 

「操術『サイビット・サイファ』!」

 

 カードを掲げるとオプション2つを突っ込ませる。ヤツらがネメシスとコンパクに気を取られている間に俺自身は離脱するべく最大速度で飛行……しようとするが、数が多すぎてさばききれない。魔力が尽きてふよふよ漂うオプション2つを瞬時に呼び戻すと一度アールバイパーの中に格納した。

 

 背後から弾幕多数。サイビットの影響を受けなかった白狼天狗が平仮名の「の」の文字のような弾の壁を多数展開してくる。まずいっ、まさに「前方に鴉天狗、後方に白狼天狗」ってやつだ。とにかく防御しないと……。

 

 リフレックスリングでまた即席の盾を作って……いや、これだけの物量をしのぎ切るのはまず無理だ。どうする……どうする……。

 

『You got a new weapon!!』

 

 久しぶりに聞いた機械的なボイス。何かこの危機的状況を打開する兵装があるというのか? こんな広範囲にわたる弾幕をワイドに防ぐシールドのような……。

 

 ディスプレイをのぞき込むとミサイル系の兵装部分を表示する画面にノイズが走り、一瞬だけ白狼天狗が自らを挟み込むような弾幕を放つアイコンに書き換わる。直後、銀翼によるアイコンに差し替わり、再び機械音が今回入手した武装の名前を淡々と告げる。

 

『KIKU BEAM』

 

 キクビーム……? ああ菊ビーム、つまり「菊一文字」か。これってミサイル系兵装になるんだ。上下に伸びるバリアを展開するポッドを射出するものなのだが、バリアを直接当てると凄まじい威力になるというものだ。どうやらレイビーズバイトを受けた時に習得したらしい。

 

 さっそく使ってやろうとクルリと背後をむくと、ミサイルを発射させる。ゆっくりと球体のポッドが撃ち出され、一定の距離まで進むとバリアを展開。おおっ、見事に弾幕を防いでくれている!

 

だが、相手も間抜けではない。バリアが防いでくれるのは1方向のみ。当然菊一文字が覆われていない場所狙って再び弾幕を張るのは当然の流れであった。よし、ならばもう一度ミサイルボタンを……。

 

 カチリとトリガーを引く音だけが空しく響いた。一度展開したら再装填するのに時間がかかるらしい。恐らくはさっき展開した菊一文字が消えないと次を発射できないとかだろう。焦って何度もトリガーを引いても結果は同じ。強靭なバリアもこれでは役に立たない。

 

ようやく次の菊一文字を発射できたのは改めて撃ち出された「の」の字弾幕が相当接近してから。ポッドがそれらの弾幕を通り抜けたうえでバリアを展開。まるで意味がない。複数からの弾幕で避ける隙間すら見つからない俺が取れる行動といえば……。

 

「逃げるしかない!」

 

 そもそも最初の菊一文字のおかげで退路は開かれたのだ。こんなところにいつまでもいる道理はない。アールバイパーを急加速させてそこから少しでも逃げるのが得策であろう。

 

「しまった、あいつを確保しないと!」

 

 レーダーを見るとやはりというか、はたてがこちらを追いかけているのがわかる。白狼天狗程度ならなんとか振り切れるようだが、鴉天狗となるとそうはいかない。

 

 秘密裏に連絡を取り合っているのだろうか、おそらく鴉天狗のものであろう魔力があちこちからこちらに迫ってくるのがわかる。このままではまた囲まれてしまう!

 

 いくらアールバイパーといえど、あの黒い羽根を持った天狗ども相手にスピード勝負では敵わない。このままではいずれ捕まるのは必須。そもそもアールバイパーにこんな多方向を対応するすべなど持ち合わせていない。この状況を打開するには散らばっている標的を何らかの理由で狭い範囲でまとめ、一気に行動不能にするほかない。

 

 そしてそれがあまりに無謀なことであることは大して考えずとも俺には理解できた。こんな開けた山岳地帯に天狗がわざわざ固まって行動せざるを得ない場所なんて……いや、一つだけあったな。山の妖怪たちが「九天の滝」の呼んでいる大きな滝を利用するんだ。

 

 目視で滝の場所を確認すると大きく迂回するように飛行。山肌ギリギリまで詰めて急旋回。この時点でスピードを上げ過ぎた何人かの鴉天狗が山肌に衝突して行動不能に。機体を縦に傾け山肌に沿うように高速で飛行する。少しでも腕を誤れば銀翼も無事ではあるまい。

 

 着実に滝との距離を縮めていく。そして鴉天狗どもは俺の目論見通り山肌をそって追いかけていた。そして容赦なくこちらを撃ち落そうと放たれる弾。最低限の動きでこれを細かく避けていくのだが、なにぶんこの速度でこの体勢。レイディアントソードを使う余裕もないし、回避行動は困難を極めている。このまま弾幕にさらされ続けるといずれ被弾してしまう。間に合えっ……!

 

 ザアザアと水が絶え間なく落ちる音が聞こえてきた。そうかと思うと俺は九天の滝の裏側にもぐりこむことに成功できたらしいことがわかる。そして同じく滝裏に突っ込む鴉天狗たちも……。よし、今しかない!

 

「菊一文字、発射!」

 

 滝の裏側、俺はあえて真ん前に向けてレーザー型バリアを展開するポッドを撃ち出した。

 

 撃ち出されたポッドはゆっくりと前に進むが、高速飛行を続けていたアールバイパーはそれをすぐに追い越してしまう。コンマ数秒後に鴉天狗も銀翼を追うように滝の裏を飛行するが……。

 

 決まった! タイミングよく菊一文字が展開。鴉天狗どもは菊一文字が発する高出力のレーザーに自分から突っ込んでいったのだ。悲鳴、そして爆発音、ついで墜落していく黒い翼たち。

 

 もはや俺を追う敵はいないと判断し、いまだ響く爆音を背に……

 

「やってくれたわね……」

 

 振り向くとツインテールの片方の先端が焼け焦げて短くなっている鴉天狗の姿がいた。今のトラップを抜けてきたというのか!? 今更戦うつもりはないといっても弁解はできないだろう。俺は何人の天狗を倒してきた? どれだけ武器を振るってきた?

 

「こちらを許すつもりなどさらさらないだろう? ならばやるしか……ないな」

 

 正直どうしていいのかわからない。この可憐な見た目をした少女は紛れもなく天狗。この妖怪の山を治めている種族の一人なのだ。その強さは未知数。そもそもこうやって襲ってくる天狗を倒したところで誤解が深まって事態はさらに悪化するだけだ。

 

 それでもただ一つ、分かることがあった。彼女の目に光る殺意ある眼光。あれはプライドを傷つけられた時の目だ。負けたらまず命はないだろう。ならば……絶対に屈してはならないっ!

 

 先手必勝、針状のレーザー「ツインレーザー」をオプションたちと一緒に照射。適度にばらけつつ鴉天狗に向かう。間髪入れずに移動すると別方向からも攻撃。相手はあくまで避けに徹しているようであり、反撃する様子は見えない。

 

 いったい何を考えているのかといぶかしむと、はたては小型ポーチから携帯電話を取り出した。どこかと通信するのか? この期に及んで仲間を呼ぶつもりか?

 

 いいや、違う。携帯電話をよく見ると小さいレンズが見える。あれはカメラだ。こいつも新聞記者なのだろうか? すると迫るレーザーに向けてシャッターを切る。小気味良いカシャリという音とともに、ツインレーザーが消えた。もう一度言う、消えたのだ。

 

「バカなっ? ならばこれでどうだ。操術『サイビット・サイファ』!」

 

 オプションたちを一気に突っ込ませる。さすがに人形はカメラで消えるまい。迫るネメシス達にカメラを構える。ふふん、かかったぞ!

 

 切られるシャッター。オプションは……消えないが、まとっていたオレンジ色のオーラが失われてしまう。魔力切れを起こしてしまったようだ。落下するネメシス達を急いで回収する。あの写真に撮影されると魔力の類が無力化してしまうのだろうか?

 

「せっかくの力もこのカメラの前ではスポイルされてしまうわ」

 

 天狗のカメラにそんな機能がついていたのか。飛び道具が軒並み通用しないとなると接近戦を行わなければいけない。レイディアントソードを構え、バイパーを急加速。すれ違いざまに一閃……しようとするが、それ以上にはたてが素早く引いたためにいつまでも距離を詰められない。

 

「このっ、待ちやがれっ!」

 

 一向に距離を詰められない中、逆にあちらから接近してきた。カメラを構えつつ。さすがにレイディアントソードは消えない筈。大人しく細切れにされるがよい!

 

 剣を振るう風の音、そしてシャッターを切る音。それらがほぼ同時に鳴り響いた。

 

「……あ、あれっ!?」

 

 急にバイパーの挙動がガクンと落ちた感じといえばいいのだろうか? なんと表現したらいいのだろうか、全身から力が抜けるというかなんというか油断するとそのまま意識を失うかのような……? あと視界が一瞬暗くなったかのような錯覚も覚える。うう、意識が朦朧とする。いったい何が起きたんだ?

 

「昔々、カメラに撮影されたものは魂を抜かれるって迷信があったそうね。コレ、こういう使い方のできるのよ。取材用じゃなくていわゆる戦闘モードってやつね。とりあえず動けないようにしてからただの道具に戻したげる」

 

 滅茶苦茶だ。あれは魔力をスポイルする上に魂を抜くカメラだという。おそらく撮影された時に生体エネルギーを奪われたのだろう。確かに何度も喰らっては命がもたない。すぐに逃げないと、こんなの相手にするのは自殺行為だ。だが、どう逃げる? 身を隠す場所も鴉天狗を振り切る速度もないのだ。

 

 せめて入り組んだ地形があればまだ希望はあったが……。仕方ない、いい案が出るまで時間を稼ぐか。そう思い、一定の距離を置いて、でも何をしていいのか分からないのでじっとする。だが、次のアクションがなかなか来ない。さすがにあの化け物カメラもそう何回も使えるものではないらしい。

 

 つまり一度カメラを使わせて間髪入れずに追撃をかませば……。

 

「操術『オプションシュート』!」

 

 もう一度ネメシスを突撃させる。やはり構えるカメラ。そして筋書き通りにシャッターを切る。

 

「コンパク、お前も突っ込めぇー!」

 

 間髪入れずにもう一度突撃を命令。ビンゴだ、カメラの準備が終わらぬうちにコンパクが突進。避けようとするもこいつは標的をしつこく追い掛け回す。そしてついにドテっ腹にコンパクの一撃が入った!

 

「ひっ……!」

 

 だが、これだけでは終わらせない。エネルギーの尽きたネメシスとコンパクを回収しがてら、俺は再びレイディアントソードを構える。怯むはたてに接近すると青い剣を一閃……!

 

 背後で甲高い悲鳴と爆発音が響く。レイディアントソードを格納すると振り向き、標的を撃破したことを確認。はたての手にしていたカメラはバチバチとショートしていた。あの調子では修理は必須だろう。

 

「危険なカメラは処理させてもらった。もはや戦う手段もあるまい」

 

 勝ったのだ、鴉天狗に。カメラのないブン屋など恐れるに足りない……筈なのだが様子がおかしい。

 

「よくも……よくもっ! 河童のオーダーメイド、完全防水性だったのにぃー!」

 

 天下の天狗がこんなにもあっけなく倒れるはずがなかったのだ。食い掛からんという勢いでこちらに一瞬で詰め寄るとアールバイパーを殴打。大きく煽られ機体バランスを崩してしまう。

 

 まずい、今の俺はスキだらけだ……!

 

 空中でフラフラとする銀翼にさらなる追撃を行うべくはたてが動きに出る。さらに別の翼をもった天狗が接近していることがわかった。もはやこれまでか……!

 

「はたてさーん、探しましたよー!」

 

 突き抜けるような声。この快活な声を持つ天狗といえば……文だ! 何とかバランスを取り、俺は文に懇願する。

 

「文、天狗たちの間で俺が付喪神だと思われているらしいんだ。違うってことをこの子に教えてやってくれ!」

 

 これで、これで誤解が解ける筈だ……。わざとらしくフムフムと相槌を打つと怒れるはたてをなだめるように文が歩み寄る。

 

「はたてさん、これはアレですよ、アレ。今幻想郷で最もホットな妖怪『チョウジクウセントウキ』ってやつです」

 

 だからアールバイパーは妖怪じゃねぇっ! 誰にも気づかれず、俺は一人でコクピット内でずっこけた。

 

「そんなまさか? だって乗り物だって自分で言ってたし……」

「あーあー、これだから引きこもりは困るんですよ。バクテリアンの異変、解決したの彼なんですよ? あの日の文々。新聞、読んでないんですかぁ~?」

 

 ニヘヘーっと笑いながら、今もむくれているはたての頬を指でツンツンする文。見たところこの二人は友達であるらしい。その後、はたてが「誰がライバルの新聞を定期購読するのよっ!」と返していた。なるほど、切磋琢磨する仲なんだな。

 

「とにかく、俺はここを抜けて守谷神社に向かいたいだけなんだ」

「これだけ盛大に人のテリトリーで暴れておいて、そのままみすみす逃げるつもり?」

 

 冷たい視線を向けるはたて。うう、やはりダメか。だが、具体的に何をすればここを通してくれるのか……?

 

「うーん。はたてさん、わかってないですねぇ。何も『タダで』だなんて言っていないのに。アズマさん、ここ最近、道具の付喪神化があちこちで確認されて困っているのは、はたてさんの言う通りなんです。空から隕石が降ってくるのと関係があるのかもしれませんが詳しいことは我々にも……。でっ! あなたにお願いしたいのですが……」

 

 心がこもっているのかどうかも怪しいが、両手を合わせてお願いする文。その直後地面を大きく揺るがす轟音。何やら巨大な物体が地面を蹴破って出てきたのだ。しかしその後地上に出ることには失敗したのか、再び地中へと姿を消してしまった。

 

「河童に借りていた削岩機が付喪神化しちゃいまして、止めてほしいのです。我々では手に負えなくて……ねっ? なんか今のはたてさんマトモに戦えなさそうですし」

 

 ううむ、付喪神が暴れていること自体は本当のようだ。確かに俺の手で仕留めれば少なくとも奴らの仲間ではないことを証明できる。

 

「むぅ……分かったわ」

 

 不服ではあるようだが条件をのんでくれた。俺も本物の付喪神退治とやらに取り掛かろうではないか。


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