東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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戦闘機であるアールバイパーさえあれば、何の能力も持たない人間にだって空を飛んで弾を放つことが、つまり弾幕ごっこをすることが出来る!

そう息巻くアズマであったが、どうやらいろいろな困難が付きまとうようで……。


第4話 ~人里へ~

「しっかし、アズマだっけ? 男のくせに弾幕に興味があるだなんて、君も相当な変わり者だよね。まあ私も変わり者って意味では同じだし、強く言えた義理じゃないけれどさ」

 

 見たことのないような工具が次々とリュックサックから出てくる。腕まくりをしたにとりはかなり気合を入れているようだ。

 

「だけどねー、こうデカブツだと弾幕の隙間なんて潜れないと思うなぁ」

 

 パシパシと機体を叩く河童。確かに「弾幕ごっこ」を嗜む少女なんかよりもずっとデカい。ざっと全長20メートル前後といったところか。

人が乗り込む戦闘機だから仕方がないのだけれどね。

 

「そいつは自分のサイズを小さくすることが出来たんだ。敵弾を防ぐバリアの代わりにその機能を使うパイロットもいたけれど……少数派だったな。攻撃に当たりにくくなるだけで、攻撃を防ぐものじゃなかったからね」

 

 俺はこのアールバイパーの、そしてその祖先にあたる超時空戦闘機「ビックバイパー」のことを思い出しながら語る。そうそう、いつだったかのビックバイパーは自機を纏うオーラのようなバリア(確かフォースフィールドって名前だった)の代わりに自らを縮小させて当たり判定を狭める機能を使うことが出来ていたのだ。確か兵装の名前は「リデュース(※1)」。それにしてもまあ人気のない兵装だった。

 

 河童のエンジニアはブツブツ言い続けているが、辛うじて「そうなのか、やってみよう」と聞こえた。どうやら縮小させる機能は再現可能らしい。河童の技術力ってのはかなり凄いのだろう。

 

「よし、大きさに関してはその『リデュース』とやらを組み込む方向で行こう。あと必要なのは『スペルカード』だね。これがないと『弾幕ごっこ』で生き残るのは難しいよ。それに醍醐味である綺麗な弾幕も出しやすい」

 

 またも見慣れぬ横文字が出てきたが、恐らくはあの芸術的な花火弾幕のことだろう。でも生身の人間に魔法なんて使えないし。まずは空を飛んでちゃんと弾を撃てることの方が大事である。

 

「いや、当面は必要ない。スペルカードとやらよりも、まずは最低限のものを……」

 

「えええっ! 君、『スペルカード』を甘く見ちゃいけない!」

 

 素っ頓狂な悲鳴を上げるにとり。そんなに「スペルカード」とやらは重要なものなのだろうか?

 

「よし、見せた方が早いだろう。私のスペルを一つ見せてあげよう。いいかいアズマ、弾幕ごっこをするってことはこういうのに対応しなきゃいけないんだよ? えいやっ、水符『河童のポロロッカ』!」

 

 驚いたにとりがアールバイパーからよっこらしょっと降りて力説すると、何やら技の名前っぽいのを口にしていた。手にはカードのようなものを持っている。その直後、頭上からまるで滝のように水の弾がバラバラと降って来た。思わず頭を抱えてうずくまる。

 

 水とはいえ、こんな高い所から降ってくる水の塊だ。十分凶器になりえる。狙いを外していたので食らうことはなかったが、水しぶきは容赦なくこちらに降りかかる。まるで滝のすぐそばにいるような感じだ。

 

「ざっとこんな感じかな? 私に出来る事はこのアールバイパーの復元と、あと君の言っていた自機を小さくするって奴を再現することくらいだ。パイロットだったんだろう? 何か弾幕っぽいこと出来なかったか、よく思い出してほしい。そうしたらそれがアズマだけの『スペルカード』になるんだから」

 

 にとり曰く「スペルカード」とは「弾幕ごっこ」のルールで強力な攻撃を仕掛ける際に宣言する為に使うものであり(なので不意をつくことは出来ない)、カード自体は何も仕掛けのないただの紙切れなのだという。つまり今の滝のような弾幕は、にとりの力そのものということだ。

 

 弾幕ごっこで八雲紫を倒す、それを意味することが想像以上に困難であることを俺は見せつけられたのだ。これはもう少し真剣に考えなくてはいけないな。うーむ……。

 

 確かにアールバイパーの出てくるゲームのシリーズでは自分で弾幕を展開して、あらかじめ危険な目に遭わないようにする戦略を取る。どういうのがあったかな?

 

「そうだな……。本体の動きをトレースして援護射撃をしてくれるユニット『オプション』があったり、他には……」

 

 ああそうそう、敵のボスが持っていた武装を奪い取って自機の兵装として使用する便利なシステムも持っていたな。それもにとりに伝えてみる。

 

「うーん、本体とまったく同じ動きするユニットに、敵の武器を奪い取るねえ……。幻想郷で武器といえば魔力の類になるけれど、そんなの再現できるかなぁ?」

 

 やっぱり彼女の力を持ってしても再現は難しい様だ。

 

 まだ幻想郷で戦闘を行うアールバイパーなんて見ていないし、イメージがわかない。大体自機を強化するためのエネルギー物質「パワーカプセル(※2)」が無ければどんな武装だって使用できない。元のゲームではそうだった。

 

 最悪のケース、粒子ビーム(なんて聞くとちょっとかっこよく聞こえるけど、何の特徴もない通常ショットのことだ)だけで戦うはめになることも考えられる。

 

 相手の能力ってアールバイパーで奪えるんだろうか(※3)? スペルカードを学習して代わりに使ってくれるとか虫がよすぎるかな……。

 

「そこにずっといてもそう簡単にこいつは改造できないよ。さあ、こんなところに閉じこもっていないで弾幕の構想を……って、ああもう、またトラブってる!」

 

 にとりはシッシと自分を払いのけると、急いでアールバイパーの様子を見るべく走りだしてしまった。確かに変な風に唸っているようにも、何故か光っているようにも、黒い煙を吐いているようにも見えるが、素人には何が起きているのか分からない。

 

 やれやれ、追い出されてしまったか。まあ邪魔になるだけっぽかったので仕方ないだろう。我が愛機も気になるけれど、ちゃんと命蓮寺の修復もやってくれるのだろうか……?

 

 

 

 スペルカード……か。縁側に座り込み答えの見えない難題に対し、頭を抱える俺。いきなり何か技を作れなんて言われてそう簡単にできるものではないのだ。何せ、今のアールバイパーに何が出来るのかさえ俺には分かっていないのだから。

 

「アズマさん、何だか塞ぎ込んでいますねぇ……」

 

 後ろから貴方の肩にポンと手を置く聖さん。集中していた俺には彼女が近づいてくることに気が付くことが出来なかった。急な出来事に声をあげて驚く。

 

「ねぇねぇ、どうしたんですか? なんだか浮かない顔をしていますよ?」

 

 人懐っこく問いかける住職サマ。俺は今の悩み、自分が魔力を持たず、スペルカードを考案出来ない旨を伝えた。ふんふんと頷きながら聞いてくれる。聖さんはこういう時に親身になってくれるようである。外来人でさえ受け入れる……か。俺は素敵な人に助けられたものだな。

 

「やはり、随分と悩んでいるようですね。でも、こんな時はリフレッシュが必要です」

 

 今も考え事をやめられない、そんな俺の腕をグイグイと引っ張る聖さん。わわわ……と小さく声を上げ俺は縁側から引きずりおろされてしまった。

 

「それにまだ貴方は幻想郷をよく知っていません。新しいものを見れば何か打開策が浮かんでくるかもしれませんよ。そうだっ、人里ならここから近いし、すぐに案内出来ます♪」

 

 そういえば幻想入りしてから命蓮寺から出ていない。命を狙われている身だからということなのだが、確かにここ以外の幻想郷も見てみたい。

 

 ここ以外の幻想郷にも興味がある。でもスキマ妖怪は怖い。俺は素直にその旨を聖さんに伝えた。相変わらずニコリと笑顔を崩さない。

 

「なんだ、そんなことでしたか。大丈夫ですよ。紫さんだってこの前の弾幕ごっこで深手を負っています。それに今は間昼間だし、人里では騒ぎを起こしてはいけないことになっているんです。私と一緒ならば、いくら貴方がイレギュラーな存在だからと言って、迂闊に手を出すような方はいませんよ」

 

 さあさあ、と聖さんは俺の背中を押していく。せ、せめて履物を準備してからにしてくれ……!

 

 

 

 そういうわけで出かける準備を済ませる。日差しがあるので聖さんは三度笠のようなものを被っているようだ。門の前で一輪とムラサに見送られる。一輪も頭巾をかぶっているが、暑くないのだろうか? それよりも日焼けを気にしているのかもしれない。そんな中、ムラサはいつもの水兵の帽子である。幻想郷では被り物が流行っているんだろうか?

 

「姐さん、アズマさん。行ってらっしゃーい!」

 

「にひひ、ラブラブですねー」

 

「こらムラサ、からかわないの!」

 

 真面目だったり茶化しながらだったりの二人に見送られ、俺と聖さんは門を出る。なんかムラサが不穏な事を口にしていたがスルーした。一輪が釘を刺していたし。

 

 あの時は夕闇の中がむしゃらに走っていただけなのでよく分からなかったが、流れる時間も空気も元いた世界に比べてのどかなものだ。よく見ると道端に時折花が咲いており、見る者を楽しませている。

 

「手、繋いじゃいましょう。どこでどんな妖怪が狙っているか分かりませんからね」

 

 どこかで怯えた仕草でも見せていたのだろう。そんな俺に聖さんはこんなことを提案してきた。

 

 急に紫がスキマから現れて、俺をスキマの中に攫っててしまう可能性だって決して低くない。そうでないにしてもいつ妖怪の襲撃があるか分からないような場所なのだ。今は妖怪が活発になる夜ではないにしろ、用心するに越したことはない。

 

 俺はこのありがたい申し出に乗ることにした。喜々として自分の手を差し出す。聖さんのぬくもりが俺の手の平に伝わって来る。温もりと共に安心感を覚えていく。この感覚は懐かしい。まるで見知らぬ場所を母親と手を繋いで一緒に歩いているような感覚だ。

 

 

「こうしていると恋人みたいですね」

 

 こここっ、恋人!? よく見るとその手のつなぎ方はお互いの指を絡め合ったようなもの。俗にいう恋人繋ぎのものであった。これは俺が無意識にやったものなのか、それとも聖さんが……?

 

 門前でのムラサの一言が頭によぎる。うう、余計な事を言って……。意識してしまうじゃないか!

 

「んもぅ、焦り過ぎですよ? 手に汗かいているではありませんか。ふふふっ」

 

 俺をからかったのか? 聖さんには意外とお茶目な所があるようだ。そうしているうちに遠目に木造の建物群が見えてきた。そういえば緊張がほぐれている。そうか、ガチガチだった俺をほぐすために聖さんはあんなジョークを言ったのだろう。

 

 ああ、俺は聖さんには敵わないな。そうひしひしと思わされるのであった。




※1「リデュース」とはグラディウスIIIに登場した「?(バリアのこと。グラディウスシリーズではバリア系兵装は伝統的に『?』に割り振られる)」系の兵装である。
自機を縮小させて当たり判定を小さくするのだが、肝心の防弾機能を持ち合わせていないという欠点を持つ。
後にスーファミ移植版にも同名のバリアが登場するが、小さくなるところまでは同じだが、あちらは被弾するたびに元の大きさに戻っていき、元の大きさに戻るまでは被弾してもミスにならないという特徴があった。

※2「パワーカプセル」とはグラディウスシリーズに登場するパワーアップアイテムの総称である。パワーアップの方法が特殊なので、グラディウス初心者はまずこのパワーアップのシステムを頭に叩き込むところから始まる。
劇中でも言われていた通り、この作品には登場しない。

※3 実際にMSX版グラディウス2(IIではない)ではボス戦艦の内部に入って新たな兵装を手に入れることが出来た。


こんな感じで分かりにくいネタには注釈を入れていこうと思います。でもあんまり「※マーク」を入れ過ぎるとテンポが悪くなるので、さじ加減が難しいですね……。

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