東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

49 / 102
アズマが無縁塚でバクテリアンの残党「グレイブ」に襲われていたところを助けたのは守矢神社の風祝である「東風谷早苗」であった。

その際に早苗はグレイブの元となったゲームの名前を知っていたことから元は外来人、そして謎だらけのアールバイパーについても何か知っていると推測するアズマ。

早速妖怪の山の山頂にあるという守矢神社を目指すのだが……


第3話 ~河童と天狗と~

 あくる日……。にとりの手によって鮮やかに蘇ったアールバイパーはエンジンの心地よい高音を立て、滑走路を踏みしめていた。

 

「守矢神社に向かうなら天狗のテリトリーに気を付けるように。勝手に入ると問答無用で攻撃を仕掛けてくるからね」

 

 妖怪の山で生まれ育ったエンジニアが注意点を述べてくれる。

 

「黒い羽根を持った奴らに近づかなければいいんだな? うまく迂回して向かおう。ルートはあるか?」

「……ない! あのあたり全部天狗のテリトリーだもん」

 

 ないのかよ! それでは守矢神社に向かうためには天狗と一戦交えないといけないことになる。天狗と聞いて真っ先に思い浮かんだのは文。ただのやかましい新聞記者にしか見えないが、にとりが言うには能ある鷹は爪を隠すなんだとか。つまりメチャクチャ強い。

 

 更にいうと鴉天狗という種族は飛ぶ速さも凄まじく、なんでもあの魔理沙以上に素早いやつらがウヨウヨいるらしい。これではアールバイパーの機動力に任せて逃げるという手段も取りづらいだろう。何という強大な障害だ……。

 

「おーい、聞いてるかーい? どうして戦うこと前提なのさ? 君は守矢神社にお参りに行くのが目的だろう? ならばしかるべき場所でその旨を告げればちゃんと通してくれるって。あんまりキョロキョロすると怒られるけど」

 

 テリトリーの入り口に関所のようなものがあって、そこでまっとうな理由で申請すればテリトリーの向こう側、つまり守矢神社には容易にたどり着けるのだとか。なんだ、それなら安心だ。

 

「話の分からない知性の低い妖怪だっているんだから戦闘の準備は怠らないように!」

 

 怒られてしまった……。よし、妖怪の山の山頂目指して……アールバイパー、出撃!

 

 幻想郷でひときわ大きい山という存在はかなり限られており、単純に「山」と言えばこの妖怪の山のことを指すのだ。俺はその天に向かってそそり立つ頂上目指しひた飛行する。

 

 朝日が周囲を金色に彩る中、突如レーダーに強力な反応が見られた。バイパー上空に落ちる影。そしてこちらを覗き込む真っ青な球体型のコア。こちらを見つけるとクルリとこちらを向き両腕を広げるかのように武装を展開してくる。

 

「こいつ、『ブラスターキャノンコア(※1)』かっ!」

 

 厄介な奴と遭遇してしまった。こいつは幻想郷の少女も真っ青になるであろう強烈な弾幕を左右のアームから展開することが出来る。本来なら隕石のように浮遊した障害物を盾として活用して弾幕をしのぐのだが、宇宙空間ですらない幻想郷に隕石が浮かんでいるはずもない。

 

 こちらがたじろぐことなどお構いなしに殺意を持った白い弾幕がアールバイパーめがけて飛んできた。どうする……どうする……!

 

 ええい、障害物がないなら作ってしまえ! 俺はバイパーを低速飛行させると武装をリフレックスリングに換装。逆回転で射出して地面の土や石ころを集め始めた。

 

「ど……どうだ! 即席の盾を作ってやったぜ!」

 

 それらを固めてアールバイパーの前方にセットする。弾幕が岩に阻まれていくが、すぐに崩れてしまった。数発程度しか耐えられないらしい。ならば何度も作るまでだ!

 

 地面を掘り返し砕かれを繰り返しているうちにブラスターキャノンコアの攻撃がやんだ。どうやら景気良く撃ち過ぎて弾切れを起こしたらしい。ざまぁ見やがれ!

 

 次はオレンジ色をしたレーザーで迎撃を試みているようだが、アールバイパーをまるで狙えていない。俺はその間に奴の目の前を陣取ると遮蔽板にショットを撃ち込みまくる。今度は逆に隕石が邪魔しないために本当に隙だらけである。

 

 かなりの数の遮蔽板を取り除いた。だが、奴も弾の再装填が済んだらしく、再び弾幕を展開しようとする。俺はそうはさせまいとスペルカードを取り出した。

 

「これで決めるっ! 操術『オプションシュート』」

 

 ネメシスをコアめがけて突撃させる。直後アールバイパーを無数の弾幕が襲ったが、スペルカード発動とともに展開されたオーラ型バリア「フォースフィールド」が防いでくれる。よし、この勝負貰った……!

 

「何してるのっ!」

 

 突然の外野から響く怒声。ブラスターキャノンコアはその声に驚いたのか攻撃をやめてしまった。ネメシスも狙いを外して暴発。戦闘は中断された。

 

 声のした方向を振り向くと二人組の金髪の少女がいた。声を上げたのは帽子を被ったほうだろう。口をへの字に曲げて腰に手を当てて威嚇している。

 

 少し控えめに立っている後ろの少女は、紅葉型の髪飾りと裾がやはり紅葉っぽいワンピースが特徴的な子であった。どこかからかほのかに甘い香りが漂った気がした。

 

「芋コアちゃんはケンカしにここに来たんじゃないでしょう! おいしいお芋作るんでしょう?」

 

 帽子の少女が口にする「芋コア」ってのは、おそらく自分よりもずいぶん小さい少女に怒られてうなだれているブラスターキャノンコアのことだろう。

 

 元になったゲームでこのボスキャラと一緒に出てくる隕石がジャガイモに見えるのでそういうあだ名を持っているのだ。あの少女がどういう経緯でそういうあだ名をつけたのかは知らないがなかなか的を得ている。

 

「穣子、それくらいにしてあげようよ。芋コアちゃん、怖がってるよ?」

「静葉お姉ちゃんは黙ってて!」

 

 どうやらあの色々と秋を彷彿させる少女たちは静葉と穣子という姉妹であるらしい。その穣子(帽子の少女)が肩をいからせて俺に詰め寄ってきた。

 

「それで……どうしてこの子に乱暴したの?」

 

 心外な。こいつから攻撃を受けたから反撃をしただけだ。俺は彼女にそう告げた。俺を見てすぐに殺そうと武装を展開してきたのだから。

 

 まあ俺もゼロス要塞を爆破させたのだ。バクテリアン達に恨まれるのはごく自然であるし、致し方ないとも思っている。事実、無縁塚のグレイブもまさに怨念の塊といった状態であった。

 

「それじゃあ戦意はなくて絡まれたってことね? 芋コアちゃんったら銀色の空飛ぶもの見るたびに目の色変えるんだものね……。とにかくこの子が危害を加えたのなら謝るわ」

 

 ペコリと一礼する姉妹。あまりに拍子抜けした真実に俺はいまだに唖然としていた。

 

 先ほどの戦闘でほどよく耕された地面に芋コア……もといブラスターキャノンコアは種芋を埋め込んでいる。あのアームを用いてなのでかなり広範囲だ。その間にこの姉妹ともいくらか会話を交わした。

 

 彼女たちは秋をつかさどる神様の姉妹(姉の静葉が紅葉の神様、妹の穣子がいわゆる豊穣の女神)であり、穣子は特に芋が大好物なのだという。

 

 そんな中リーダーであるゴーファーを失い、見知らぬ土地で行くアテのないブラスターキャノンコアが穣子と出会い、芋繋がりで意気投合。こうやって農耕に精を出すようになったのだとか。

 

「そういうわけで芋コアちゃんは悪い子じゃないからケンカは駄目よ?」

 

 平和に農業にいそしんでいるだけなら俺もコイツを始末する理由はない。これも白蓮の夢見る妖怪にも優しい幻想郷の一環であると思えば不思議と心も安らぐものだ。

 

 俺はバクテリアンが必死に幻想郷との共存の道を進む様を尻目に妖怪の山へと潜入するのであった。

 

 山のふもとから鬱蒼とした森林地帯を抜ける。ジメジメしているとはいえ、魔法の森のように明らかに危険な瘴気で満たされているわけではないのでそこまで急ぐ必要もない。その証拠にあの時のようにせき込んだりはしない。

 

 とはいえ、あまりに陰気くさい場所なのですぐに抜け出したいのだ。瘴気は充満していない筈なのだが、なんかそれとはまた別の嫌な気が充満しているような気がするし。

 

 そんな中、いきなり光が差し込むエリアを発見した。むむむ、気になる。何事だろうと銀翼を光のある場所まで飛ばす。

 

 見たことのない黒い塊が周囲を吹き飛ばしつつその場所に鎮座していたのだ。この部分だけ木々がまるでないことから推測すると、おそらく空から落ちてきたものであろうことがわかる。どうやら小隕石のようだ。流れ星はロマンチックだし綺麗だけど、こんなのがぶつかってきたらひとたまりもないな……。

 

 記念に持って帰ろうかとも思ったが、ちょっとここでバイパーを降りたくはない。何だか知らないが嫌な気のようなものが漂っているのだから。

 

 さあ、こんな森はさっさと抜けよう。この先に河童の集落があるのでそこの川をさかのぼればもうそこは天狗の住処だ。目的地目指してひた飛翔する。

 

(銀翼移動中……)

 

 急に視界が開けた。眼下には大きなリュックを背負った少女達の姿が見える。おそらくあれが河童なのだろう。一人一人がエンジニアとしての素質を持っており、もちろん水場での作業もお手の物。上空から眺めていると宝塔型通信機が輝き始めた。取り出すとなんとにとりの姿を映し出しているではないか。

 

「無事に妖怪の山に入れたね。この先はまだまだ長いから一度補給や修理を受けるといい」

 

 よく見るとまさに「ここに降りて来い」と言わんばかりに河童が両手を振っている。よく見ると赤い誘導灯をまるで光のラインを描くように振り回すにとりの姿であった。

 

 指示通りに着陸させると、にとりを筆頭に多くの河童たちが群がってきた。

 

「こらこら、これ以上近づいちゃダメだって。ってそこ! 触るなー! そっちもその物騒なスパナはしまうっ!」

 

 いつも変な鳥の妖怪呼ばわりなのだが、河童たちにはこれが機械であることがわかるようで、興味津々といったところか。

 

「ところでお前、命蓮寺はどうした?」

「河童専用の水路で実家と行き来できるようにしたんだ」

 

 そういって彼女が指さすのは地面に突き刺さった緑色の土管。あの中は水で満たされているうえに複雑な構造をしているために河童以外の種族ではとても使用できないものらしい。で、もちろん戸締りも完璧なので他の河童が勝手に使うこともないのだとか。

 

「この前里帰りした時にアールバイパーの話をしたらうらやましがられてさ。ぜひ見てみたいってみんなが言うからここに呼び寄せたのさ。ああもちろん補給とかはするよ。それとちょっとしたプレゼントも……ね。見学の対価だと思ってくれ」

 

 ちょうど芋コア……もといブラスターキャノンコアと交戦していたので多少消耗をしている。アールバイパーの整備中に機体から降ろされると握手を求める河童や勝手にコクピットに乗り込もうとしてにとりに止められる河童などがおり、非常ににぎやかであることが分かる。今もにとりの悲痛な「やめろよーぅ!」という声が響き渡っている。苦労してるなあの子も……。

 

 俺は俺で他の河童に誘われ発明品の品評会につき合わされたり、やたらみずみずしいキュウリを振舞ってくれたりと随分と丁重にもてなしてくれた。

 

 ただ、皆が「尻子玉」と呼ぶ食べ物だけは口にする気が起きなかった。人間の尻から抜き取ったものではなくて、あくまでそういう名前をした普通のお菓子ではあるようだが、やっぱりねぇ……。

 

 俺がいらないという旨を伝えると一瞬驚いたような顔をしていたが、高級品だったらしく、他の河童たちがうまそうに平らげてしまった。

 

 そうしているうちにバイパーの整備が完了。新品のように綺麗になっており思わず声が漏れる。そして先端に先割れ部分がわずかにコンモリしている気がした。どうしたのかと河童に聞いてみる。

 

「バイパー用の近接兵器『リフレックスリング』と『レイディアントソード』の2つをいつでも使えるようにしたんだ。ずいぶんと使い込んでいるようだし、いろいろな武装を取り戻したり使用したりすることでアールバイパーの謎を解明する手助けにもなるだろうしね」

 

 すっげぇ! 整備だけではなく強化までしてくれたのか。喜びのあまりにとりの手を取り大きく振る。ずいぶんと大げさな握手である。

 

 これだけもてなしを受けたのだ。何としても目的を達成せねば。気持ちも新たにふたたび頂上目指して飛び立つことにした。多数の河童たちに手を振られながら。

 

 河童の集落からさらに上流へとさかのぼる。

 

 ゆったり広々とした流れは次第にその幅を狭め、そしてより激しい流れになっていく。もはや知能を持った生物が生活している様子はなく、河川以外だとはるか下方に細々と続く獣道くらいしか見つからず、人の入り込む領域を大きく越えているのだなという実感もわいてくる。

 

 そして切り立った崖が見え始める。集落の河童たちが口々に「九天の滝」と呼んでいたものであろう。つまり天狗のテリトリーも近い。うっかり無断侵入しないように警戒しつつ飛行を続けることにした。

 

 さて、どこかに関所のようなものがありそこで手続きを済ませれば神社への参拝、つまり早苗さんとコンタクトを取ることは可能になるわけだが、いかんせん、木々と岩場だらけの山肌からその門を見つけるのは至難の業である。

 

「どこだよ……」

 

 あまり滝に近づくと危険であろうからその周囲を迂回するようにそれらしきものを探し続けるが一向に成果はあがらない。こんなところで時間を食って夜になられてはたまったものではない。何とかしないといけないのだが……。

 

 と、空を仰ぐと鳥ではない何かが浮遊しているのを見かける。真っ白な犬のような耳を持ち、やはり見事な尻尾を生やした少女のようだ。それが空を飛んでいるのだから恐らく妖怪の類だろう。

 

 天狗といえば文を連想するが、それとは少し違う容姿。だが、こんなところを我が物顔で飛べるのははやり天狗に準ずる存在なのだろう。武骨な剣と盾で武装しているし、おそらくは見張り役なのであろう。

 

 どうするか、天狗であれば彼女に道を尋ねるという選択肢も取れるだろう。うまく意思疎通を取れれば、安全にしかるべき処理を行うことが出来るだろう。しかし不用意に近づいて侵入者だと思われたらこの後に起きるであろう惨劇はまず避けられない。

 

 さて、どうしたものか……と頭をひねる前にあちら側から俺の姿を認識、接近してきた。

 

「すまない。守矢神社に向かいたいんだが、関所がどこにあるのかが分からない。出来れば案内を……」

「未確認飛行物体発見! これより排除します!」

 

 うわぁ! 最悪の事態だ! 何とかこの場を取り持たなくては……。

 

「待てっ、俺に戦う意思はない! ただ道案内を……」

 

 ダメだ、まるで聞く耳なし。この少女は剣を抜き今にも襲い掛からんといったところだ。

 

「見たことのないあまりにヘンテコな鳥モドキ妖怪……怪しすぎる! 白狼天狗『犬走椛』、参る!」

「だからヘンテコな鳥モドキ妖怪じゃねぇっ! 超時空戦闘機アールバイパーだっ!」

 

 ああっ、俺は俺でやっちまった。これでは売られた喧嘩を買ったようなものではないか。でもああ言われるとこうやって反射的に啖呵を切ってしまうんだ。

 

 というかいつになったら超時空戦闘機だと認識してくれるんだ、幻想郷の大部分の住民は……。河童くらいじゃないか、初対面で機械だって分かってくれたの。

 

 嘆いていても仕方がない、こうなってしまった以上ひとまず彼女を落ち着かせよう。穏便に済ませるのは絶望的と判断し、俺はオプションを展開し戦闘態勢を取る。ああもう、結局こうなるのかい……。

 

 手始めにフライングトーピードを発射する。ネメシスとコンパクの分を含めて合計6発。対する椛は早々に青白い大きな丸い弾を連なるように発射し、それらを撃ち落としていく。こちらも負けじとミサイルを撃ち続け、敵影とすれ違った。

 

 接近戦は不利であると判断し(剣士相手にレイディアントソードだけで勝負するのは危険だ。妖夢にもまるで敵わなかったではないか)、武装をツインレーザーに換装。椛の背後を取ると改めてロックオン。トリガーを引きこれでもかと針状の光線を乱射した。

 

 しかし命中したのはほんの数発。とっさに振り向いた白狼天狗はその紅葉の描かれた盾を構えながら振り返ったのだ。

 

 あのシールドは厄介だな……。だが、天狗という割には随分と足が遅い気もする。この白狼天狗というのは鴉天狗と違ってそこまで速いわけではないのだろうか? 大体あんな重武装でスピーディな動きなど不可能だろう。

 

「くっ……無駄な抵抗はやめなさい! そして幽閉している人間を解放してあげなさい!」

 

 幽閉? そんな物騒なことは……違う。椛は俺を鳥の妖怪に拘束されて閉じ込められている人間と勘違いしているのだ。なんちゅう視力だ……。

 

「他でもない俺だよっ! これは乗り物であって俺が操縦しているの!」

 

 そう言い切ってやると、椛はハッと瞳を見開く。ようやくわかってくれたか。いや、分かって欲しいのはそこじゃないけど。

 

「妖怪に意識を乗っ取られているようですね。仕方ありません。奥の手ですが……。狗符『レイビーズバイト』」

 

 ちっがーう!!

 

 俺の悲痛な叫びもむなしく掲げられたスペルカード。ようやく本気を出すといったところか。さあ、どう来る? 身構え、来る弾幕に備える。

 

 だが、いつまでたってもその時は来なかった。なんだ、不発なのか? 不敵な笑みを浮かべる白狼天狗がなにか怖い。どこから来るんだ? どこから……?

 

 ……見えたっ、それは椛のはるか後方。まるで牙を見立てたようにギザギザに撒かれた弾の壁。あれが大挙してこちらに突っ込んでくるのだ。なるほど「噛みつく(バイト)」なだけあって牙をモチーフにした弾幕だったのか。

 

 俺は冷静に弾の隙間を見つけると掻い潜るようにやり過ごすことに……しようとして何かがおかしいことに気が付く。噛みつくのだから当然牙が片方だけではおかしい。今俺が見ているのを上あごだとすると下あごもどこかにあるわけで……。まずいっ!

 

 改めてレーダーを見ると背後からも魔力の壁が迫っているではないか。そしてそれは上あご側の隙間を埋めるように配置されている。レイディアンソードで弾幕を斬りつければ……いや、牙状の弾幕が分厚すぎて対処しきれない。これでは回避不可能だ! どうする……。

 

 焦り再び周囲を見渡すが安全そうな場所は見当たらない。つまりこの顎に囲まれた時点で俺の敗北は確定……いや、一つだけ安全地帯がある。椛のすぐそばだ。もしも本当に隙間なく配置されているのであれば他でもない椛が自滅してしまうのだ。きっとそれを回避する手段があの傍らには用意されているに違いない。

 

 剣を扱う椛に接近することは賭けになるが、やるしかない。狭まる空間、俺は速度を限界まで上げて椛に急接近。案の定その無骨な剣を振り回し始めた。大剣にはさらに巨大な剣で対抗だっ……!

 

「銀星『レイディアント……」

 

 アールバイパーの翼をかすめるように牙が突っ込んでくる。白蓮さんの用意してくれた高級な紙質のカードを高々と掲げ、さらに椛との距離を詰める。

 

「スターソード』!」

 

 青いワイヤーフレーム上の剣を左右に展開。椛を挟み込むように斬撃を食らわせる……が、とっさに出た盾に防がれてしまう。さすがに勢いはあったので弾き飛ばすことに成功したがこちらの剣はバラバラと崩れ落ちてしまった。

 

 そうしているうちに椛の牙が再び生成される。もう一度噛みつくつもりのようだ。レイディアントスターソードは砕けてしまったし接近戦は不可能。ツインレーザーもフライングトーピードもあの盾の前には無力。

 

 ならば……その盾を使わせてもらうっ!

 

 逆回転リフレックスリングの吸引機能であの盾をもぎ取ってやろう。兵装をリフレックスリングに換装すると逆回転で発射。案の定椛はガードするべく盾を構えた。よし、かかったぞ!

 

「お前の盾をいただきだぁー!」

 

 腕から紅葉柄の盾がすっぽ抜ける。リングをそのまま引き寄せると、盾がアールバイパーの前方にセットされる。視界が悪くなったが、おそらくはあの牙を模した弾幕にも耐えられるだろう。

 

 強引に椛と距離を取りつつ迫る牙を勢いだけで突破。確かに弾幕から身を守ってはくれた。だが、このままではショットも撃てないしどう反撃するか……。

 

 こんな状況は前にもあった。どんな時だ? 魔理沙をブン投げた時、瓦礫を放り投げた時……。そうか、コイツをそのまま椛にぶつけてやればいい。

 

 その前に迫る牙を何とかしないと。だが、確信を持てた。弾幕の防御と投擲を同時にこなす術があることを。

 

 俺は再びリフレックスリングを射出。伸ばした状態で機体をハンマー投げの要領で回転させる。最初はゆっくりと、そして次第に勢いをつけて。盾に当たった牙状の弾幕はかき消されていく。

 

「何、何をしようというの?」

 

 自らを襲う牙から己が身を守り切った俺は狼狽する天狗に狙いを定めリフレックスリングの回転方向を反転。勢いよく椛に持ち物を返す一撃となった。これぞスペルカード級の一撃。なんだ、強くなる鍵はこんな身近にも転がっていたのではないか。ならば高々と宣言してやろう。

 

「これが俺の新スペル。陰陽『アンカーシュート』!」

 

 陽気な妖怪「ムラサ」からヒントを得たリフレックスリング。普通(陽)に回転させればリングからも弾を撃てて、逆回転(陰)させれば色々なものを引き付けることが出来る。

 

 これぞ射程距離こそ短いけれど便利な兵装。陰となり脅威を集め固め、そして陽に転じてそれを一気に放つ。カッコいいこと言ってるけど、要はやってることはジャイアントスイングなんだけどね。

 

 ゴォウと唸りをあげ、残りの「牙」を吹き飛ばしつつ、紅葉柄の盾は椛にクリーンヒット。剣で試みた防御もむなしく綺麗にヒットしたのだ。パカーンと甲高い音を立て、椛は崩れ落ちた。

 

 大人しくなったのを確認したのち俺は武装を解除。本来の目的を果たすべく椛にゆっくりと近づく。

 

「だから俺は戦いに来たんじゃなくて関所を案内してほしくて……」

「私では手に負えません。一度離脱します!」

 

 それだけ言うと紅葉を巻き上げながら姿を消してしまった。むう、逃げられたか。恐らく俺と交戦したという情報は他の天狗にも知れ渡ってしまうだろう。

 

 だとすると関所どころではないな……。事情を分かってくれそうなのは射命丸文くらいだが、彼女に会えるかどうかもわからない。とにかくこの場所にとどまるのは愚策だ。このテリトリーを抜けるにしろ和解するにしろ解決に向かって動かないと!

 

 椛と交戦し逃がしてしまった以上、いつ天狗が襲撃してくるかわかったものではない。ここで取りうる選択は、大人しく引き下がるか強行突破するか……。いやいや、天狗のお偉いさんに会って誤解を解いてもらうのが一番だろう。鴉天狗の足の速さや執念深さは文を通じてある程度理解しているつもりだ。放っておくとロクなことにならない。

 

 レーダーを頼りに進行方向を決めるのだが、突如レーダーに強大な魔力が急接近しているのを確認。これだけ速い魔力の動きは……弾幕かっ! 俺は身構えて回避動作に入ろうとしたが、弾幕などどこにも見当たらない。

 

「どこだ……?」

 

 周囲を警戒し迫る脅威を探し出すのだが、待てども待てどもそれらしきものは出てこない。いや、2時の方向に……違う、6時? いやいや9時の方向かっ?

 

「おっと、それ以上動くな」

 

 結論から言うと全部正解。いつの間にか俺は多数の白狼天狗に取り囲まれていたのだ。そして12時、つまり真正面に現れたのは狼のような耳を持たず、漆黒の翼を持った天狗……鴉天狗であった。射命丸かと一瞬期待したが、どうも容姿が全然違うようだ。

 

 全体的に白と紫のイメージが強く、帽子も紫色、ツインテールをまとめる髪飾りも紫色。ついでにスカートもチェック柄の紫。知らない天狗だ。

 

「はたて様、一気に確保しましょう!」

 

 詰め寄る白狼天狗を「はたて」と呼ばれた鴉天狗が制止する。こいつ、目的は何なんだ?

 

「とある白狼天狗からタレコミがあったのよ。ノッペリとした変な鳥の妖怪が妖怪の山に侵入したと」

 

 俺に向けるのは携帯電話だろうか? いや、小さいレンズがついているのであれも一種のカメラなのだろうか?

 

「だからノッペリとした変な鳥の妖怪じゃなくて超時空……じゃなかった。俺はただ守矢神社に向かいたいだけだ。勝手に戦闘を仕掛けたのはそっちじゃないか!」

 

 まるで融通の利かない白狼天狗とは違い、はたてはフムと顎に手を当てて考え込む。

 

「分かっているわ。それは道具なのでしょう? 最近になってアレが増えてきたのよ。ちょうど流れ星を多く観測するようになってからだったかしら?」

 

 増えてきた? 何が? まさかアールバイパーがたくさんいるだなんてことは考えられまい。

 

「『付喪神』よ。道具が何らかの理由で暴走して妖怪化するというアレ。迷惑な付喪神は徹底的に叩きのめして元の道具に戻すべきよ。そしてその道具もきっと暴走している」

 

 つ、付喪神!? アールバイパーは正真正銘の乗り物だ。俺が操縦しているんだからそんなわけないだろう。

 

「バカなことを言うな! これは乗り物だ。俺が俺の意思で操って……」

「大変! 持ち主まで道具に乗っ取られているわ。コテンパンにしてもう悪さできないようにしてやりましょう!」

 

 俺の「だから違うわー!」という悲痛な声は次々と襲い掛かる天狗たちの雄たけびにかき消されてしまった。

 

 ちくしょう、結局やりあうしかないのか……!




(※1)ブラスターキャノンコア
「グラディウスV」に登場したバクテリアン戦艦。
遊戯王カードにもなっている。
圧倒的な弾幕を展開してくるのでアステロイドなどを防壁代わりにして切り抜けよう。
アステロイドをジャガイモに見立てて「芋コア」なんてあだ名もついている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。