東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

 バクテリアン襲来の異変を解決し、平和を勝ち取った「轟アズマ」と彼の相棒である銀翼「アールバイパー」。
 大きな異変も解決し、失っていたオプションも2つまで取り戻せたアズマは自らが強くなれたと感じたために魔理沙にリターンマッチを申し込むも、「恋心『ダブルスパーク』」を前に屈してしまった。

 更なる機体強化のためのパーツを探す為に、魔理沙と一緒に「無縁塚」の探索に向かうことに。だが、ここを遊び場にしていた生首のような饅頭のような妖怪「ゆっくり」達から倒したはずのバクテリアンのスクラップがまるで意志を持ったかのように動き出し、暴れているらしいことを聞く。

 スクラップとなったバクテリアン戦艦を次々と倒していくが、一瞬の隙を突かれ、蟹のような脚を持った「グレイブ」に踏み潰されそうになる。

 なんとか抵抗を続けていると突然天井が崩れ始めて……


第2話 ~復讐者達への鎮魂歌~

 天井は崩れ去り、さわやかな青空と一人の少女の姿がはっきりと見えるようになる。恐らくはあの子が天井を破壊したのだろう。

 

 あれは空飛ぶ巫女だろうか? しかし巫女といえば霊夢みたいに赤色と白色の装束の筈。だというのにあの巫女は青色と白色の装束であった。なんかカエルやヘビの髪飾りしているし誰だコイツ?

 

「早苗じゃないか。助かったぜ」

 

 俺とともにグレイブから離れつつ感謝の言葉を口にする魔理沙であったが、それに応えることなく早苗と呼ばれた巫女はすぐに移動を開始していた。直後、その場所にグレイブのレーザーが薙ぎ払われていたのだ。そして空とぶ巫女はそれを予見してたかのように……

 

「えーい!」

 

 お祓い棒から電撃をまとったレーザーを発射。だが、若干タイミングが遅かったようでグレイブはコアを閉じることでガード。今度は距離を取るとおびただしい量の追尾ミサイルを発射してきた。

 

「……むんっ!」

 

 一斉に新たなターゲットめがけ発射されるミサイル。だが、早苗は微動だにせず、目を閉じて両手を合わせる。何やら簡易的な祈祷を始めたようであり、ブツブツと何かを唱えているらしいことが分かる。

 

 そうしているうちにカッと目を見開いた早苗は、青い球状の弾を凄まじい勢いで発射した。球体は意志を持ったかのようにミサイルに近寄っていき、すべてを撃ち落してしまっていた。

 

 再び攻勢に出るグレイブ。今度は大きくジャンプをしつつ、コアを開いてミサイルを発射しようとする。

 

「次で……決めますっ!」

 

 グレイブのコアに限界まで接近すると両手を前にかざす。するとおびただしい量の電撃が掌からほとばしり、コアに直撃した。電撃は相当の威力のようであり、そのままグレイブのコア焼き切ってしまった。コアを失ったグレイブは崩れ落ちて元の瓦礫に戻っていく。

 

「強い……」

 

 幻想郷ってのは巫女さんをやっていると逞しくなれるのだろうか? 正直な感想が俺の口から漏れ出ていた。

 

 いまだに腰を抜かしていた俺に手を差し伸べる。どこぞの乱暴者の巫女や泥棒魔法使いとは違って非常に礼儀正しい方と見受けられる。俺は安心してその手を握る。

 

「いえいえ、こんなの大したことありません。それよりもお怪我はありませんか?」

 

 よいしょと立ち上がると巫女はニコリと微笑み「東風谷早苗です♪」と自己紹介してくれた。こちらも名乗ろうとした矢先、魔理沙が割って入ってきた。

 

「凄いよな、あんなバカでかい怪物をいとも簡単にやっつけちゃうんだから。私もウカウカしてられないぜ」

 

 ただ素直に強さを褒め称える魔理沙であったが、早苗さんは少しはにかみながら首を横に振るだけであった。

 

「いえいえ、たまたま私がグレイブのことを知っていたので何とかなっただけです。しかしこんなスクラップ置き場に現れるなんてまるで『グラディウス外伝』のワンシーンですね。……まあ魔理沙さんに言っても何の事だかサッパリだとは思いますが」

 

 っ! 待て、今早苗さんは何と言っていた? 聞き間違いでなければ「グラディウス外伝」と言っていたぞ? 幻想郷の住民がどうして外界のゲームのことを知っている?

 

「おい、今なんて……」

 

「さて、探し物の途中だったので私は失礼します。これだけ探しても見つからないし、ここにはいないのでしょう。魔理沙さんもお宝探しに精を出すのはいいですが、あんまりボーイフレンドを危険な目にあわせてはいけませんよ? その……個人的には応援していますので」

 

 だが、こちらの制止する声に気が付かずに早苗さんは空を飛び無縁塚を去っていく。魔理沙の「なっ!? コイツとはそんな関係じゃないぜ!」と騒ぎ立てる声をバックに。俺も追いかけ……って生身では空を飛べない。勢い良くジャンプしたはいいものの、すぐさま重力に縛られてしまった。

 

「ちくしょう……」

 

 俺が空を飛ぶために必要な道具は今ガレキの下に埋まっている。わずかに銀色の翼が見え隠れしているので場所自体はわかるが、これを掘り返すのは至難の業であろう。

 

 今の早苗さんの発言のせいでお互いに気まずくて目を合わせられない。いかんいかん、変なこと意識している場合ではない。ガレキに埋まった銀翼を掘り出さないと俺は帰ることすらできなくなる。

 

 少し探すとボロボロになったスコップのようなものを見つけた。数本あるしこれを拝借しよう。魔理沙の分のスコップも確保すると俺は銀翼の真上に移動する。なんと魔理沙がアールバイパーの埋まっている場所めがけてミニ八卦炉を向けていた。

 

 思わず悲鳴を上げながら制止する。

 

「それはやめて! 俺の銀翼を本当にスクラップにするつもりか! 地道に掘り返すぞ」

 

 

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(その頃、無縁塚から離脱した早苗は……)

 

 ゼロス要塞の時の異変ではお留守番でしたが、私もバクテリアンと戦えて満足です。これも一種の妖怪退治ですしね。

 

 それにしてもアールバイパー、見つかりませんでした。魔理沙さんと一緒にいた男の人がそうかなとも思いましたが、銀翼がないことには判断が付きません……。そういえば私ってアズマさんのお顔、知らないんですよねぇ。

 

 アズマさんについてわかっていることと言えば、銀翼「アールバイパー」のパイロットである男性で普段は命蓮寺に住んでいる……。あっ! そうですよ、命蓮寺です。あそこに住んでいるのがハッキリしているのならばそちらに向かえば……。

 

 今度こそアズマさんに会えるかも。彼もなかなかのシューターとお見受けします。きっと友達にもなれるはずです。私は人里はずれに向かうことにしました

 

 

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 ミニ八卦路を向けるも俺に制止された魔理沙は不満そうに口をとがらせていた。

 

「なんでだよ。こういうのは全部パワーで吹き飛ばしてからだな……」

 

「そんなことしたらアールバイパーまで吹っ飛ぶっつーの! ほら、スコップ拾ってきたぞ。掘り出すのを手伝ってくれ」

 

 ボロいスコップがいくつか落ちていたので1つを魔理沙に投げ渡す。

 

「やなこった。ミニ八卦炉(こいつ)を使わせてくれないなら私はもう手伝わない」

 

 なんだか随分と愛想が悪いな。だが、ここまで誘っておいて今更俺を捨てるのはあまりに薄情だ。考え直すようにと俺は説得を試みる。

 

「ふんだ。パワーが云々って言うとアリスみたいにチマチマと細かいこと考える割に、お前のところの住職みたいにアンタはいっつもいっつも大きいほうにばっかり吸い寄せられて……。今だって私を無視して早苗を追いかけようとしていたし……」

 

「待て魔理沙、何のことを言っているのかわからないぞ?」

 

「私だってもう少し成長するんだぜ! うわぁ~ん!!」

 

 それだけ言うと俺を突き飛ばし、泣きながらホウキに乗って飛んで行ってしまった。だから大きいって何が? 無縁塚のスクラップ置き場にポツンと置いていかれる俺。これを俺一人で片づけるのか、キツいなぁ……。日暮れまでに終わるだろうか?

 

 ふと背後から気配を感じ、振り向くとコンパクが妖夢の姿となり片手を差し出していた。おお、手伝ってくれるのか。どこぞの薄情魔法使いとは大違いだ。

 

 軽く頭をナデナデしてあげるとスコップを手渡し、一緒に埋まってしまった銀翼を掘り出そうとする。本当にこの子はいい子だ。もう一人のオプションは……

 

「ムリ。サイズヲ、カンガエテ」

 

 ですよねー。ただこの上海人形(ネメシス)も何もしないのは悪いと思ったのか、ヘンテコな音楽を奏でてこちらを鼓舞させようと試みた。同じくサイズ的にサポートが不可能なゆっくり達も趣旨を理解したのか、口々に応援の言葉を発する。やかましいながらも心のこもった応援歌だ。あまり知性は感じられなかったが。

 

(少女達穴掘り中……)

 

 数時間かけてガレキを掃除すると銀色に輝く翼が完全に姿を現した。日はすでに傾いておりこれ以上仕事が滞っていたら夜になって非常に危険であっただろうことは容易に推測できる。声高らかに俺の愛機を起動させる。

 

「よし、アールバイパー発進っ!」

 

 俺の一声で銀翼は鼓動を開始し、地面の呪縛から逃れて浮遊できるはずだ。

 

 だが、声はすれど何も起こらない。どこまでも響く俺の声、むなしい。なんだよ、動かないのかよ。エンジンが不調のようであり空を飛べないのだ。くそう、やはりガレキの下敷きになっていたのでどこかが故障してしまったのだろう。

 

 よくよく考えたら結構ヤバいな。銀翼が動かなければ俺はただの人間。ただの人間が夜の無縁塚にたった一人。妖怪どもに「襲ってください」と言っているようなものである。せめて魔理沙を怒らせなければ……。なんで怒ったのか知らないけれど。

 

「お兄さん、帰れないの?」

「そろそろ夜。怖~い妖怪の活動時間だぜ」

「えっ、じゃあみんな襲われて食べられちゃうの? そんなのイヤですー!」

「うー、しゃくやー!」

 

 口々に泣き出すゆっくり達。泣きたいのは俺も同じだが、どうにかしないと。俺が真っ先に思い付いたのは宝塔型通信機。そうだ、これで命蓮寺と通信して助けを呼ぶんだ。

 

 よし、宝塔をセットしてあとは通信したい相手を口にする。そうすると相手の姿がホログラムで形成されて通信ができるのだ。もっとも命蓮寺のメンバー限定という制約があるのだが、今の俺には大した障害にならない。俺は命蓮寺の住職の名を叫ぶ。

 

「白蓮、白蓮! 聞こえるか? 俺だ、轟アズマだ。無縁塚でアールバイパーが故障した。日没が近い、すぐに救助してほしい!」

 

 通信機がビカビカと輝きだす。そして白蓮の姿を映すであろう光が……へにょりと曲がってレーザーとなって拡散した。そのうちの1本がれみりゃに直撃しそうになるが大事には至らなかった。

 

 予想だにしない結果に俺はキョトンとしてしまう。こんなこと宝塔型通信機には出来ない。このへにょりレーザーを出せるものといえば……

 

「コレ本物じゃねぇかァァァァァァ!!!」

 

 どこで入れ替わったのだろうか? これは寅丸星が持っているはずの本物の宝塔。非常にありがたい一品であり、強力なレーザー攻撃を仕掛けることもできるのだが、残念ながら通信機能は持っていない。本物だってわかってたらアールバイパーが埋まる前に使ってたのに……。

 

 とにかく妖怪に襲われたらコレを使えば何とか生き残ることはできるだろう。しかし飛べないしバイパー放っておくわけにもいかないし……。

 

 ネメシスがアールバイパーを引っ張り上げようとしているがこんな程度で持ち上がるはずもない。コンパクも加勢するが焼け石に水。ゆっくり達はバイパーの上に乗っかって応援歌を歌うがそこに乗られたら逆効果だ。

 

 邪魔になるからとゆっくり達をどかそうとする。1匹、2匹、3匹、4匹、5匹……あれ? ゆっくり達は4匹だったよなぁ。1匹増えてる……。

 

 手にしていたゆっくりは見たことのない奴であり、俺が驚いたのに反応して両腕から零れ落ち、ふわりとひとりでに浮遊した。

 

「ぎゃあっ、空飛ぶゆっくり!」

 

「ゆっくりじゃない。赤蛮奇」

 

 暗めの声で自己紹介する赤毛に青いリボンの生首。

 

 そうしているうちに赤毛の生首が次々と現れこちらを取り囲んだ。そして最後に同じく青リボンの生首を脇に抱える首なしの胴体が俺の目の前に現れる。

 

 もうおしまいだ……。あの冷たい視線はとても友好的に見えない。このままろくろ首に襲われて俺は食われてしまうのだ。ああ、せめてアールバイパーが動けばこいつと戦って、たとえ勝てなくても逃げるくらいはできたのに……。

 

 生身で逃げようにもあちこちで生首に睨み付けられて恐怖で動けない。何か……何か突破口は……? そうだ、宝塔だ。宝塔のレーザーでこいつらを撃退して……

 

「セキバンキお姉ちゃーん!」

 

 震えながらも宝塔を取り出そうとする俺の足元をゆっくり霊夢がスススと通り抜けると赤蛮奇に抱き付いた。

 

「よしよし、こんなところまで遊びに行っていたのか? 怖かったろう?」

 

 途端に柔らかな目つきになるとゆっくり霊夢を撫で始める。他のゆっくり達も彼女のもとに駆け寄っていく。まるで迷子になったペットと飼い主の感動の再会のようだ。生首だらけだが。

 

「さて、この子たちがここまで遊びに行っていたのか。それともそこの不埒な男が誘拐していたのか、体に聞いてみるかねぇ?」

 

「乱暴はダメだぜ? こいつはヒーローなんだ」

「そうでーす! ゆっくり達のこといじめてくるクモさんと勇敢に戦ったんです」

「かっくいいの! 銀色の翼を持った鳥の妖怪さん! うー♪」

 

 口々に俺の潔白を証明するゆっくり達。怪訝な表情でこちらを睨むろくろ首。浮遊する首がこちらに近づくと懐疑の目でジロリとこちらを凝視する。そんな中、ゆっくり霊夢が再び俺に抱き付く。取り落とさないように俺はキャッチすると頭を撫でた。

 

「おにーさんはワルモノじゃないよ! こんなにやさしいんだもん」

 

 それだけ聞くと空飛ぶ生首は持ち主の傍らにまで戻る。表情も幾分穏やかになったようだ。マフラーのせいで口元は分からないが。

 

「そう、疑って悪かったわ。そして私の可愛いペット達を守ってくれて……感謝する」

 

 ペコリと首を垂れると頭がポロリと零れ落ちた。一瞬ビクっとなったが、同じ手は2度も通用しない……、しない筈だ。いや、本当はビックリした。その反応を見て彼女の目がわずかに笑った気がした。してやったり、と。

 

「それでさぁ、セキバンキお姉ちゃん。かくかくしかじかで……。とにかくお兄さんはすごく困ってるの」

 

 俺の抱えるゆっくりが、アールバイパーが故障してしまい空を飛べず、帰れない旨を伝えてくれていた。ただ、超時空戦闘機ではなくあくまで妖怪の一種として認識しているらしく、故障ではなくて怪我と表現していたが。

 

「こんな闇の支配する中、戦う手段を持たない人間がたった一人。確かに風前の灯火。この傷ついた変な鳥の妖怪を安全な場所まで送ればいいのね。まかせなさい」

 

 だから変な鳥の妖怪ではなくて超時空戦闘機なのだが、今はツッコミを入れる余裕もないので黙っておく。そして赤蛮奇はそれだけ言うと9つの生首を使ってバイパーを引き上げ始めた。

 

 特別腕っぷしが強そうには見えない彼女であったが、さすがにこれだけいれば持ち上がるようだ。それでも相当きつそうだが。引き続きネメシスとコンパクにも手伝ってもらい、俺はゆっくり達と一緒にコクピットに乗り込んだ。

 

(銀翼移動中……)

 

 周囲も真っ暗な中、宝塔の光が道を照らしている。それ以外の光源といえば時折キラリと流れ星が走るくらい。さすが幻想郷だ、よくよく空を見ると星々が精一杯きらめいている。美しい星空に気を取られているうちに命蓮寺が見えてきた。よし、ここまでくれば安心だ。

 

「重かっただろう? それにこんなところまで出向かせちゃって」

 

「別に構わない。私の家もこっちの方だから。それよりも人間なのに妖怪に対して抵抗が少ないなって思っていたけれど……妖怪寺の人間だったのね。なるほど納得」

 

よっこらしょと銀翼を下しても顔色一つ変えずにポーカーフェイスのまま返す。ボソリとした「さあ行くよ」の声とともに、ゆっくり達は赤蛮奇の後についていく。

 

「その……何というか、この子たちは私の大事な家族なの。急にいなくなっちゃってもし何かあったと思ったら、いてもたってもいられなくなってね。でも貴方のような優しい方に見つけて貰ってよかった……」

 

 俺とて彼女なしには無事に帰ることが出来なかった。お互い様だよと言ってやる。さて、もう時間も遅いし別れの時が来たようだ。

 

「おにーさん、ばいばーい!」

 

 もみあげを手のように動かして手を振っているつもりだろうか? 俺も別れの言葉を告げると我が家に足を運んだ。

 

 命蓮寺の居間では、おたまを持った白蓮が出迎えてくれた。ちょうど晩御飯時であったようだ。なんとか間に合ったな……。

 

「お帰りなさいアズマさん。いろいろと大変だったみたいですね……」

 

 特に何も言っていないのにどうしてわかるんだろうか?

 

「アールバイパーが故障しているようですし、貴方もとても疲れているではありませんか。顔に出ています」

 

 まあ確かに……今日は色々なことがあったな。雲山に後でバイパーを格納庫に押し込むように、そしてにとりに修理を依頼し、晩飯にありついた。

 

 白蓮さんの料理は本当にウマイ。味付けがしつこくないからいくらでもイケる。それはそれは勢いよく食べていたようで「がっつきすぎですよ?」と注意されてしまった。

 

「そうそう、俺の宝塔型通信機を返しておくれよ」

 

 同じくご飯を一生懸命かきこんでいる星に話しかける。当の本人はキョトンとしている。

 

「何言ってるんですかアズマさん? これは私の宝塔ですよ。まさかなくしてしまったのですか?」

 

 頬を膨らませて抗議する毘沙門天代理。しかし星の持つ宝塔からホログラムが流れている。うむっ、あれこそ俺の本来持つべき「宝塔型通信機」。

 

「あれれー? これニセモノのほうでーす! どこ行っちゃったんでしょう? ナズー、ナズー!」

 

 大騒ぎになる前に本物の宝塔を手渡す。皿のように見開いた星の目はなかなか忘れられないだろう。

 

「あーっ! それですよ、それ! どうして持っているんですか!?」

「俺が聞きたいよ。おかげでバイパーが故障したときに通信して助けを求め……」

 

 そこまで言ったが、このままでは星がボロクソに叩かれるだけだ。せめてものフォローをしてあげるか。

 

「いや、おかげで凶悪な無縁塚の妖怪にやられずに済んだ」

 

 それだけ言うと本物の宝塔を星に手渡す。すぐさま俺の通信機を取り戻した。そうそう、この感触。

 

 さてと、食事を再開させよう。再び俺は黙々と箸を進める。

 

 こうして食事の時間は過ぎていく。そろそろ就寝してもよいのだが、俺はこれからのことに少し思索を巡らせることにした。窓を開き外の空気を取り入れ頭を冴えさせると座り込んだ。

 

 正直俺はまだまだ弱い。今日だって魔理沙に敗れたし、グレイブ戦でも魔理沙を庇う為とはいえ傷を負ってしまった。最終的に奴を仕留めたのは乱入してきた早苗さんだし。

 

 そう、その早苗さんのことも気になって仕方がない。何故バクテリアンのグレイブを知っていたのか? しかもスクラップ置き場に現れる奴を見て「まるでグラディウス外伝だ」と口にしていたのだ。恐らくは俺と同じで外の世界の住民……?

 

 だが、早苗さんはとても強かった。アールバイパーを用いてようやく露払い程度の戦闘をこなせる俺と違って、奴の弱点を知っていたとはいえ、鮮やかに倒して見せたのだ。どうしてそこまで強くなれたのか、彼女に会えばなにかヒントを得られるかもしれない。

 

 窓の外ではまたしても流れ星が落ちていた。そのきらめく星を見て、俺は決意する。そう、俺はもっと強くならなければならない。直前の皆の団らんを思い出し、改めて口から漏れ出る言葉を噛みしめた。守りたい、平穏なひとときを、皆の笑顔を、そして何よりも誰よりも俺の命の恩人の……!

 

 思わず懐から取り出すのはスペルカード「銀星『レイディアント・スターソード』」。白蓮から譲り受けたそれはしっかりとした材質でできた煌びやかなものであった。絆の証ともいえるそのカードを俺は焼き付けるように見る。

 

「どうしましたかアズマさん。もう寝る時間ですよ?」

 

 傍から見ると異様な光景だろう。いつの間にか敷かれた布団の上に棒立ちになってスペルカードを凝視しつつブツブツつぶやいていたのだから。

 

 そんなところを後ろから白蓮に見られて声をかけられたのだ、変な声をあげながら驚き振り向いた。

 

「今日早苗さんっていう巫女に会ったんだ。すっごく強かったし、無縁塚に現れたバクテリアンのことを、そしてそのバクテリアンの出てきたゲームのことを知っていた。彼女は何かアールバイパーの手掛かりも持っているかもしれない」

 

 それだけ一気に告げると白蓮は俯き気味に少し俺から視線を逸らした。

 

「早苗さん……。妖怪の山の頂にあるという守矢神社の風祝『東風谷早苗』さんですね。確かに彼女は外の世界の出身です。彼女を訪ねれば何かしらの変化が訪れるでしょう。今日も訪ねてきたのですが、行き違いになっていたようです。貴方は明日にでも行くのでしょう? 早苗さんは明日以降しばらく神社にいないといけないらしいので」

 

 どうやら俺が早苗さんに会いに行く、つまり妖怪の山に向かうこと前提で話を進めているようだ。というか命蓮寺に来てたのか。何という不運なすれ違い。

 

「そうしたいんだけど、白蓮は止めないのか?」

 

 妖怪の山というくらいだし、それこそ妖怪がウヨウヨいるのだろう。今でこそアールバイパーの整備に精を出しているにとりも、俺が幻想入りしていなければこの山で平穏に暮らしていたはずだ。

 

 もちろんにとり以外にも河童はたくさんいるんだろうし、皆が皆彼女のように友好的とも限らない。そんなどんな妖怪がいるとも知らない場所に行こうというのに止める気配はないのだ。

 

「貴方が自分で考えて、そうしようと思ったのでしょう? 止める理由もありません」

 

 確かにこれは誰かに強いられてとかではなく自らがそうしたいと望んだこと。だが、あれだけ危険な区域、俺に切り抜けることが出来るのだろうか?

 

「でもやり遂げられるか不安なんだ。俺は……弱い」

 

 彼女を前にすると本音を隠せない。希望も迷いも不安も何もかも洗いざらい話すことになるのだ。俺がそれだけ白蓮という人を頼りにしているから……かもしれない。

 

「弱くなんてありませんっ!」

 

 そうやってナーバスになる俺に白蓮は一喝。

 

「アズマさんは自分の手で幻想郷で生きるすべを手にしたし、大きな異変も解決しました。そんな貴方が弱い筈ありませんっ! 今のアズマさんに足りないものは幻想郷での経験値。実力が伴っているのは私もわかります。その為にも、貴方は色々な人に会って、いろいろな考え方に触れていくべきです」

 

 なるほど、経験……か。アールバイパーの武装だけではなく俺自身の力にもなる。そう、武器だけ強くなっても意味がないように俺も銀翼を操るに相応しい強靭な心を手にしなければならないのだ。

 

「それに相手は神社だ。一応商売敵になるはずだけれど……」

 

「アズマさん、確かに立場上はそうなるかもしれませんが、早苗さんも、あそこの神様である神奈子さんも立派な方ですよ。彼女達から何か学ぶこともあるでしょう。貴方なら無事に達成できます。もっと自分を信じて……。さあ、出発の時は近いです。今のうちにおやすみなさい」

 

 それだけ言うと白蓮さんはくるりと踵を返して俺の部屋を出ようとした。ふと、その歩みが止まり再び俺の顔を覗き込む。

 

「私はいつでも、いつまでも待っています。貴方の帰るべき場所は命蓮寺の他にありませんから。逞しくなって帰ってくる日を楽しみにしていますよ。ちゃんと帰ってきてくださいね? 確かにお二人も魅力的な方ですが……私のこと忘れちゃ嫌ですからね!」

 

 何を心配しているかと思えば……。神奈子さんって方には会ってないから何とも言えないが、確かに早苗さんも可愛らしい人ではあった。でも命の恩人を、俺が紫さんに打ち勝つまでかくまってくれた白蓮さんを悲しませることなんてするつもりはない。

 

「ははは、その心配はないよ」

 

 安心するようにと告げると白蓮は部屋を出ていった。さて、明日は出撃の時だ。今日はもう寝てしまおう。窓を閉めようとするとまた流れ星が光のラインを描いていた。本当に今日はよく流れ星を見る。

 

 さて、もっと星を見ていたかったが、明日は大事な日だ。鬼が出るか蛇が出るか。機体だけでなく俺も知識を吸収し、さらに強く、そしてアールバイパーの謎を少しでも解明するために……今はゆっくりと休むとしよう。


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