東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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東方銀翼伝ep3 T.F.V.(Third Fear the ”Visitor”)
第1話 ~リターンマッチの時~


 幻想郷の支配をもくろんでいたバクテリアン。奴らの要塞「ゼロス」に我が銀翼が果敢に挑み、そして見事爆発させ、永遠亭と幻想郷を救って早数週間……。

 

 俺は相棒たる超時空戦闘機「アールバイパー」に乗り、命蓮寺上空を飛行していた。

 

 抜けるような青空の命蓮寺上空……。銀翼ことアールバイパーは今も交戦状態にあった。

 

 永遠亭でのバクテリアン騒ぎも落ち着いてきたので、まだオプションを使役していなかった頃に俺をたやすく下した泥棒魔法使いに再戦を申し込んだのだ。

 

「この前とは一味も二味も違うぜ。ネメシス、コンパク! 配置につけっ!」

 

 左右に1つずつオプションを装備すると、牽制のツインレーザーをお見舞いする。単調な攻撃故に容易に回避するのは分かっていた。目的はコレを当てることではない。避ける際の軌道を読み、魔理沙に接近を試みる……が、読みが外れた。すぐさま星形弾幕での反撃が来たので、宙返りし、魔理沙の真上に陣取る。

 

「銀符『ツインレーザー』!」

 

 器用に機体を真下に向けるとスペルカードを掲げる。錐揉み回転しつつの急降下から雨のように短いレーザーを乱射する。ネメシスとコンパクからも援護射撃があるので正真正銘の「弾幕」になれているだろう。

 

 しかし相手もかなりの手慣れ。ホウキや帽子のふちへの被弾は確認できるものの、細かく動き回り致命的な直撃を避けている。

 

「ああっ、お気に入りの帽子が……! お返しだぜっ。このっ! このっ!」

 

 急降下しつつ魔理沙本人を通り過ぎたために今度はアールバイパーが背後を取られる形となる。そこを細いレーザーで追撃してくるのだ。レーダーを頼りに回避行動を続けるが、この状況が続くのはマズイ。仕方ない、奥の手だったが……。

 

「操術『サイビット・サイファ』! ネメシスっ、コンパクっ、突撃だっ!」

 

 懐からスペルカードを取り出しとっさの攻撃を回避する。それと同時に左右にいたオプションが光を纏い背後の魔理沙へ突っ込んでいった。弧を描きながらの突撃という思わぬ反撃に魔理沙の横っ腹にコンパクが直撃する。怯んだところをネメシスが体当たりを仕掛けようとするが、こちらは避けられてしまった。

 

 その間にアールバイパーの体勢を立て直し、再び魔理沙と対峙する形を取った。俺はオプション達を呼び戻すとそのまま格納し、ここでショットをリフレックスリングに換装。被弾でフラフラする魔理沙に追撃を行う。

 

 強烈な逆回転で繰り出されたリングはかろうじて回避した魔理沙を吸い寄せるようにリングに捕えた。そのまま俺自身を大きく右側に振る。ハンマー投げの要領で思いっきりぶん回したのだ。

 

「なんだなんだ? 目が回るぜ~」

 

 十分に速度を上げ、リングの回転を再び正しい方向に変更させる。するとまるで同じ極の磁石のようにリングと魔理沙が反発するように離れていった。傍から見ればそのまま投げ飛ばしたように見えるだろう。たった今思いついたが随分と有効なようである。

 

 だが、ここで追撃を怠らない。ターゲットサイトを覗き込み無防備になった魔法使いをその中心に捉える。そしてミサイル発射。

 

「当たれっ、フライングトーピード!」

 

 ゆっくりと標的めがけてまっすぐ進む空中魚雷。追撃が来ることを読んだのか、ミニ八卦路を手にする魔理沙。マスタースパークで俺ごと撃ち落とそうとする魂胆のようだ。

 

 だが、平衡感覚を失っているのか、見当違いの方向に極太レーザーが飛ぶ。マスタースパークやぶれたり! あとはミサイルの着弾を待つのみ……。

 

 信じられないことが起きた。結論から言おう、俺は再び魔理沙に敗れた。誰が信じられようか、切り札たる極太レーザーが2発も発射されるだなんて。

 

 1発目のマスタースパークを回避した直後、あの極太レーザーがもう1発来て、フライングトーピードごとアールバイパーを焼き尽くしたのだ。「弾幕はパワー」とは彼女の信条らしいが、いくらなんでもデタラメである。

 

 黒煙を上げ墜落したアールバイパーから這い出ると可愛らしくも憎たらしい勝ち誇った顔をした魔理沙が手を差し伸べていた。

 

「パワフルな技も編み出したようだし、あの時から随分と強くなったじゃないか。そう気を落とすなよ? あんたは十分強い。あの『ゼロス』とかいう円盤の異変を解決したじゃないか」

 

 これだけコテンパンにしておいてこちらを褒めてもフォローの「フ」の字すら成り立たない。したり顔で彼女は続ける。

 

「ただ、私のパワーがあんたよりもずっと凄すぎただけだ。マスパは2発撃てるんだぜ。恋心『ダブルスパーク』っていうスペルだ。覚えておくんだぜ?」

 

 俺はその手をぶっきらぼうに取ると、よろよろと立ち上がる。くそっ、また負けた……。

 

「分かったからそんな恨めしそうな目でこっちを見るな。そうだ、一緒に無縁塚いかないか?」

 

 彼女の口から物騒な場所の名前が出てくる。無縁塚、訳も分からぬうちに幻想入りし、妖怪の手で殺められた人などのように身寄りのない人間達を葬る場所のことである。俺も白蓮と出会っていなければ今頃あそこで眠っていただろう。

 

 その特性から外の世界とのつながりも強く、外界で忘れ去られたものがこの無縁塚に流れ着くこともあるのだ。確かに新しい武器になりそうなものが漂着している可能性も無きにしも非ずだが……。

 

「香霖もよくあそこに行っているらしい。面白いものがいっぱい落ちているんだ。私も久しぶりに行きたくなったんだぜ」

 

 こちらの意見など聞かずにこの小さな魔法使いは俺の背中をアールバイパーのコクピット入口まで押しやると箒にまたがり飛んで行ってしまった。やれやれ、勝負に負けた身だし付き合うか……。ひとまず外出する旨を白蓮に伝えよう。一度バイパーから離れる。

 

 すぐ近くで俺達の弾幕ごっこを観戦していたらしく、白蓮さんはすぐに見つかった。というより趣旨をすでに理解していた。

 

「すっかり魔理沙さんと打ち解けられるようになったようですね♪ 命蓮寺にいると妖怪ばかりですので人間のお友達は初めてではないですか?」

 

 そういえば幻想郷で人間とここまでお近づきになるなんてことはなかった。

 

「止める理由もありません。一緒に行くとよいでしょう。ただし、お夕飯までには戻るように。それとあんまり危ないことをしてはいけませんよ? あとは魔理沙さんはああ見えて結構繊細なので傷つけたりなんかしないように……」

「大丈夫だって!」

 

 ひじりんマジお母さん。

 

「あ、あらごめんなさいね。うっかり子供扱いしてしまいました。貴方には頼りがいのあるパートナーがもういましたね。銀翼『アールバイパー』と共に幻想郷のあちこちを見て回り、考え、経験を積むのです。それらは貴方だけのかけがえのない宝となるでしょう。それでは……怪我に気を付けて行ってらっしゃい♪」

 

 手を振って見送る白蓮。俺も振り返すと銀翼に乗り込み魔理沙の後を追った。

 

 そして無縁塚……。

 

「遅いぞー。その鳥は私に負けないスピードを持ってるんじゃなかったのかー?」

 

 この陰鬱とした場所に降り立つと不満げな表情をした魔理沙の顔がコクピットにデカデカと映し出された。俺は軽く謝ると周囲を見渡す。

 

 至る所に朽ち果てた骨や、元々は墓石だったであろう崩れた石柱や、元がどのような姿だったのかも分からないようなスクラップが散乱している。そこはもはや墓地としての役割は機能しておらず、正直ゴミ捨て場にしか見えない有様であった。

 

「本当に使えるものが落ちてるのか?」

 

 アールバイパーから降りるとそこらの鉄くずを手にしてみる。じっと見てみるが……ううむ、さっぱり分からない。というより言うほどメカっぽいのが落ちていないのだ。一方の魔理沙はというとチョコチョコとあちこちを物色しており、手際よくゴミを回収したりまた投げ捨てたりしていた。

 

「うひょー、大当たりだぜ!」

 

 何をもって大当たりなのかは知らないが、彼女にしてみればいいアイテムが落ちていたのだろう。それとは対照的に俺にとって有用なアイテムは一向に見つからない。ん? 見覚えのある機械の塊を見つけた。もしやと思い、俺はそれに近づいてみた。

 

 真っ黒い鏡のような板、その下にはボタンと先端が丸くなっているスティック状の何か。恐らくは外の世界のゲームセンターなんかに置かれているアーケード筐体だったものだろう。

 

「なんじゃいそりゃ?」

 

 いつの間にか魔法使いの少女が俺の後ろにやってきて、俺が見ているものをよく見ようと人の方押しのけて身を乗り出そうとしている。それをさらりと払いのけると俺は筐体に近づきよく調べてみる。

 

 パネルはひどく劣化しており何のタイトルなのかは特定できなかったが、所々かすれながらも読み取れる文章から日本語のゲームであり、なおかつ縦スクロールのシューティングゲームだったらしいことも推測できた。画面が縦長なのも俺の推理を決定づけている。

 

「何のタイトルか知らないが、お前も幻想入りしちまったんだな……」

 

 そう感傷的に浸っていると、近くで派手な爆発音が響いた。思わず身構える俺。

 

「あっちから聞こえてきたぜ!」

 

 そうか、ならばその方向に向かえば……!

 

「だからこのホウキは一人乗りだぜ。しれっと乗ろうとするんじゃない!」

 

 いかんいかん、今はちゃんとアールバイパーがあるじゃないか。わざわざ魔理沙のホウキにしがみつく必要はない。

 

 一足先に飛び出していった魔理沙を追いかけるように俺は銀翼に乗り込もうとした。

 

「ゆわ~~ん!!」

 

 その矢先、やたらと肉付きのよさそうな生首が大声をあげながらこちらに向かってきた。いくらどんな化け物が出てきてもおかしくない無縁塚とはいえ、こんなもの目にしたらさすがに驚く。

 

 驚きのあまり変な悲鳴を上げつつしりもちをついてしまった。あの特徴的なリボンは霊夢のものだ。でもあの霊夢が何故さらし首に……!?

 

「さらし首じゃないよ、ゆっくりだよ! ゆっくりれいむ!」

 

 こちらの心を読んだのか、ピョンピョンと跳ねながら抗議するゆっくりと名乗る生首。泣きじゃくっていたのか、その瞼は腫れて赤くなっており、髪の毛も乱れていた。これは何かあったのだろう。さっきの爆発とも関係があるかもしれない。俺は彼女をヒョイと持ち上げると事情を聴いてみることにした。

 

「遊んでたら、急にクモさんがやって来て、ゆっくりのこと、いじめてくるの。お兄さん、クモさんをこらしめて!」

 

蜘蛛? 雲? 彼女から「クモ」と聞いて真っ先に思い浮かんだのは雲山。だが、こんな小さな妖怪を苛めて楽しむような男には見えない。大体雲山の鉄拳なぞ喰らったら泣きながら助けを求めることすらできずにノックアウトしてしまうだろう。じゃあスパイダーの方なのか?

 

「まだお友達が襲われてるの。はやくはやくー!」

 

 むう、手遅れになってはいけないし、先に向かっていった魔理沙も心配だ。俺はゆっくり霊夢をネメシスに預けるとコクピットに乗り込み飛翔した。

 

 相変わらずのゴミの山……いや、違う。ゴミはゴミでも鉄くずや機械の部品っぽいのが増えてきている。なんだか幻想郷に似つかわしくないスクラップがそこらに散乱しているのだ。

 

 前を見るとのんびり飛んでいる魔理沙の姿を確認できた。そしてその真下で「デス(※1)」の残骸が極太レーザーを発射しようとしている様子も……!

 

「危ないっ!」

 

 瞬時にリフレックスリングを装備。急加速すると逆回転のリングで魔理沙を捉え、ブン投げた。

 

「お、おい! 何するん……」

 

 不平の声はレーザーの照射音によってかき消される。地面が不自然にあちこち盛り上がると多くの鉄くずをばら撒きながら大きな影が這い上がってくる。

 

 カバーの壊れた「ビッグコアMk-II」に、制御を失いながらもミサイルを撃ち続ける「カバードコア」……。かつてのように今はもうない触手を伸ばし回転しつつ進路を妨げようとする「テトラン」までいる。

 

 こいつら……バクテリアンの残骸か!?

 

「こいつら、クモさんの仲間だ! 怖いよぅ……」

「へっ、どいつもこいつもアズマに負けた奴らばっかりじゃないか。今だって不意打ちだなんて卑怯な手しか使えていなかった。こんな奴ら、コイツよりもパワフルな私の敵じゃないんだぜ!」

 

 小刻みに震えるゆっくり霊夢をなだめるコンパク。一方の魔理沙はというと威勢の良いことを口にしているがその言動が少し震えているように感じた。

 

 弾幕ごっこには基本的に不意打ちなどない。想定外の事態に気が動転しているのだろう。この場にゆっくり霊夢の言う「友達」はいないようであるが、こいつらを放っておくわけにもいかないだろう。ならば迎え撃つまでだ。

 

「性懲りもなくバクテリアンか。『Requiem for Revengers(復讐者達に鎮魂歌を)』。ネメシス、コンパク! 配置につけ!」

 

 オプションを二つ装備し、装備をツインレーザーに換装。弧を描くようにまずはテトランに接近し、レーザーとフライングトーピードをお見舞いする。遮蔽板による結界のないテトランはまるで豆腐のようにたやすく崩れ去ってしまった。

 

「なんだ、全然大したことないじゃないか。ビビって損したぜ」

 

 デスの極太レーザーをいなしつつ、魔理沙も負けじと極太レーザー「マスタースパーク」を放つ。

 

「パワーが足りないぜ? ポンコツさんよぉ」

 

 デスをレーザーごと飲み込む暴力的な光。真っ白い光の中、筒状の巨大戦艦は消滅していった。

 

 残るはカバードコアのみ。攻撃のつもりか、身を守っているつもりかは知らないがデタラメにミサイルを乱射してくる。負けじとツインレーザーを撃ちまくるが、ミサイルに阻まれて有効打を与えられない。スクラップになっても奴のミサイルは厄介だな……。

 

 だが、スクラップになっていたのが災いしたか、カバーが剥がれ落ちてしまっていた。これでは正真正銘のオープンドコア(※2)である。

 

「こいつはいただきだ! 操術『サイビット・サイファ』!」

 

 2つのオプションがミサイルを掻い潜りカバードコアの弱点に体当たりを仕掛けた。あっけないほどに奴は崩れ再び鉄くずとなった。最後に戻ってきたネメシス達をアールバイパーに格納すればすべて完了。

 

「生首みたいな妖怪の話によると(その間に『生首じゃないよ、ゆっくりだよ!』とゆっくり霊夢が騒ぐ)バクテリアンの残党がこの辺りにまだ潜んでいるらしい。放置すると危険だ。退治しよう!」

 

 今度は俺が先導するように飛行する。

 

「この辺りだよ! お友達、大丈夫かなぁ?」

 

 しばし飛翔したのち、背後から張り上げた声が聞こえる。ゆっくり霊夢が座席の上をピョンピョン跳ねて仲間が近くにいることを知らせてくれた。先程のバクテリアン襲来のことからこの「クモさん」というのも奴らで間違いないだろう。そしてごく近くで息を潜めている可能性が高い。心してかかろう。

 

「魔理沙、何か見えるか?」

 

 アールバイパーの中では下部を見渡し辛い。レーダーを覗いてみたが、ゆっくり程度の魔力ではまるで反応しないようだ。仕方ないので生身で飛行する相方に状況を聞く。

 

 俺よりも低空を飛行していた魔法使いはしばらく旋回した後、「あっ!」と声を上げる。何か見つけたらしい。だが、その表情からはあまり嬉しそうには見えなかった。

 

「うえぇ、私の顔みたいなのがいるぜ……」

 

 考えてみれば気味が悪いよな。自分の顔の生首が飛んだり跳ねたり喋ったりするのだから。声のするほうへと降下すると、確かに生首の妖怪が数体確認できた。魔理沙のようなゆっくり、レミリアのようなゆっくり(すごい満面の笑みだ……)、命蓮寺にいる寅丸星のようなゆっくりまでいた。

 

「これで全員かな? この辺りは危ないから安全な場所まで連れて行ってあげよう」

 

 銀翼から降りて俺は屈みこむと、ゆっくり達に手を差し伸べる。だが、ビクンと体を震わせたかと思うと足もないのにススススと逃げて行ってしまう。意外と素早いようで、人間の足では追い付けない。

 

「あっ、待て!」

 

 仕方なく再びアールバイパーを起動させゆっくり達を追いかける。ゴミの山にぽっかりと空いた穴に潜り込んでしまったようだ。身を隠したかったのだろうが、これでは袋の鼠だ。知恵はあまりないらしい。

 

 二人でゆっくり達の後を追う。やはり思った通りだ。出入口は一つしかなく逃げ込んだゆっくり達の姿を確認できた。ふうと一息つくと今度こそ確保しようと接近する。

 

「俺たちは敵じゃないよ。さあ、帰ろ……」

 

 ぱらり……と塵が落ちてきた気がした。そう思うとグラグラと周囲が揺れ始める。地震か!? ええい、四の五の言ってられない。装備をリフレックスリングに換装すると迷子のゆっくりを無理矢理確保しようとするが、それよりも早くに魔理沙が救出する。

 

「自分と同じ顔した奴が潰されるのを見るのは嫌だからな。反射的に手が出ちゃったぜ」

 

「ひっ!?」

「うえぇん、怖いですー!」

 

 ゆっくり達が魔理沙に確保されるのを確認し、俺は安堵の息を漏らす。ならば俺もこんなところに長居は無用。こちらも潰されないように脱出を試みる。しかし、ひときわ大きな物体が行く手を遮るように落下。俺達は思わず停止してしまった。

 

 これだけの大きな瓦礫は壊すのも一苦労……違う、レーダーに強力な反応あり。こいつはバクテリアンだ!

 

 初めに紫色の球体が浮かび上がると、それを守るように蟹の脚のような外殻がくっつく。こいつは……

 

「グレイブ……」

 

 ゴミだらけの無縁塚がよほど居心地が良かったのか「グレイブ(※3)」がこの辺りを根城にしていたらしい。ガシャガシャと脚を動かし、威嚇しているようだ。

 

「コイツだよ! コイツがゆっくり達をいじめるクモさんだよ!」

 

 ゆっくり達をいじめて回る「クモさん」ってのはコイツのことだろう。確かに凶悪なバクテリアンを放っておくわけにはいかないし、あちらもあちらで俺達を逃がすつもりはないらしい。

 

 うむ、一戦交えることになるな。そう思索を巡らせていると魔理沙が先制攻撃を仕掛ける。星型の弾幕を展開しグレイブに当てていくが、びくともしないようで、じりじりと接近してくる。

 

「おい、全然効いていないようだぞ? アズマ、コイツどうするんだ?」

 

 やはり強力な装甲を持っているようだ。こいつは何かしら攻撃をする時に弱点となるコアを露出させる。その瞬間に強力な攻撃を叩き込めば倒せるだろう。俺はネメシスとコンパクを呼び出すと臨戦態勢をとる。

 

「魔理沙、こいつは俺がすぐに片づける。その間、ゆっくり達を守ってやってくれ」

 

 思った通りだ。追尾ミサイルを剥き出しのコアから発射させている。トレースの構えでオプション共々グレイブのコアに狙いを定めるとツインレーザーを乱射。ミサイルを撃ち落としつつダメージを与えていった。

 

「よし、あの光ってるコアを撃ち抜けばいいんだな? 任せろアズマ。そんなチマチマしたものじゃなくてパワーで押して一撃だぜ」

 

 そう言うと片手でミニ八卦炉を手にエネルギーをチャージし始めた魔法使い。こいつ、マスタースパークでも撃つつもりか? 慌てて俺は静止した。

 

「バカっ、やめろ! 今にも崩れそうな瓦礫の洞穴でそんなもんぶっ放したら、瓦礫の下敷きになっちまう!」

 

 今まで通りゆっくり達の護衛を頼むと俺は再びグレイブと対峙する。ガシャガシャとこちらに接近し……そいつは急にジャンプした。

 

「着地の衝撃で瓦礫が落ちてくる。迎撃の準備だ!」

 

 ズーンと地響きを起こしながらグレイブは着地。天井がグラグラと揺れるといくつかの瓦礫が落ちてきた。慌てずに俺は降り注ぐゴミを処理。魔理沙も器用に迎撃をしているようだが……。

 

「しまった、壊し損ねたぞ……」

 

 一際大きな瓦礫が魔法使いとゆっくりを襲う。危ない! 俺はくるっとターンするとツインレーザーを撃ちこむが、手応えなし。仕方ない、武装をリフレックスリングに換装し、投げ飛ばす。俺は大きな瓦礫に接近した。

 

「俺が守る!」

 

 リフレックスリングを逆回転で発射。大きい瓦礫を掴むことに成功した。

 

 だが、掴んだ瓦礫は非常に重たいようで、挙動がよろつく。落下エネルギーに引っ張られ、あわや瓦礫が魔理沙に直撃しそうになる……が、どうにか持ちこたえた。ふう……。あとは適当な場所にブン投げればOKだ。

 

「おいアズマ、後ろ……!」

 

 背後を指さす魔理沙の一言で俺はヒヤリとした。その直後、一瞬背後でグレイブの中心が光ったのを確認した気がする。

 

 まずい、完全に狙われている。だが、そう思ったころにはもう遅い。虹色のレーザーを薙ぎ払うように照射するグレイブ。機動力を失っていたアールバイパーでは回避が間に合わず、左側の翼に直撃。バランスを失い墜落してしまう。

 

「オマエ、オレノナカマ、タクサン……タクサンコロシタ」

 

 ガシャガシャと勝ち誇ったように詰め寄るグレイブ。テレパシーなのだろうが、こちらに語り掛けるは積もり積もった呪詛。コアを閉じたままなので反撃もできない。

 

「オマエモ……ミチヅレ……」

 

 脚の一つを大きく持ち上げる。このままアールバイパーを踏み潰すつもりのようだ。くそっ、バイパーはまだ浮かび上がらない。必死にエンジンをふかすが、機能は復帰しない。

 

「シネェェェェェ!!!」

 

「もうダメです、オシマイでーす!」

 

 振り下ろされる鉄の脚。ゆっくり星はもう助からないとあきらめ泣きじゃくっていた。俺もどうすればいいのかわからない。もはやこれまでか……。

 

「諦めないで!」

 

 背後からの激励はゆっくり霊夢のもの。そうだ、オプションたちならまだ動ける。決定打にはならないかもしれないが、せめて時間稼ぎだけでもしよう。そうしているうちに何か、何か突破口が見つかるはずだ。その思いを胸に俺はスペルカードを掲げる。

 

「操術『サイビット・サイファ』!」

 

 オレンジ色のオーラをまとった上海人形と半霊がグレイブにまとわりつく。バランスを崩したのか、振り上げていた脚を戻してしまった。それを見ていたゆっくり達は魔理沙の手を離れ一緒に突っ込んでいった。

 

「散々いじめてくれたな! もう逃げてばかりなのはゴメンだぜ。倍返しにしてやる!」

「ぎゃおー、ばいがえしー!」

「ええとええと……えーい!」

 

 ゆっくり霊夢の必死な叫びに感化されたのか、次々に反撃に打って出るゆっくり達。もちろんバイパーの中にいるゆっくり霊夢も例外ではない。一度リデュースを解除して外に出してやった。

 

 もちろん決定打にはなっていないが、当のグレイブも困惑しているはずだ。何せあのレーザーは地面の敵を撃つようには出来ていない。踏みつけようにもこれだけ多くのゆっくりやオプションにまとわりつかれては満足に移動もできない。

 

 そうこうしているうちに再び地面が大きく揺れた。また地震だろうか? だが、グレイブはゆっくり達にまとわりつかれて動けないでいる。ではいったい……?

 

 一際大きな揺れは天井を崩すのには十分すぎる威力であった。

 

「グレイブの真下に逃げ込め!」

 

 動けぬ蟹は脅威でも何でもない。いまだに動けないアールバイパーは乗り捨ててグレイブの股下に陣取る。遅れて魔理沙、ゆっくり達がもぐりこむ。

 

 ガラガラガラと天井が崩れ、久方ぶりに空を見た気がした。その空に今の揺れの原因であろう誰かが浮遊していた。

 

「お、お前は……?」




(※1)デス
グラディウスシリーズに登場する小型戦艦。
初出の「沙羅曼蛇」では空母だったのだが、空母としての機能をオミットされ代わりに極太イオンレーザー砲を搭載したモデルの方が主流。

(※2)オープンドコア
グラディウスIIIに登場したカバードコアの蔑称。
回転するカバー部分に当たり判定が設定されていなかったので、遮蔽版を壊したらそこに入り込むことによって簡単に倒せてしまう。

(※3)グレイブ
グラディウス外伝に登場する大型多脚兵器。
大ジャンプして踏みつぶそうとしてきたり本体である球体から追尾ミサイルや薙ぎ払いレーザーを撃ってきたりする。

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