T.F.V.プロローグ ~ある少女の邂逅~
私が生きてきた中で、あの日のことを忘れることはないでしょう。ええ、それだけ強烈な出来事があったのです。
そう、今でも思い起こせば情景が蘇る……。あの日は特に風が強く吹きすさんでいました。こんな日は何か「奇跡」が起きる。良し悪しまでは分かりませんが、私の心の中でそう騒ぎ立てているのです。そう思い立つや否や、私は神社の境内に一人立ち、空を仰ぎました。
そして瞬間的にそれは突風となりこの神社を通り抜けて行ったのです。でも、異変はそれだけでは終わりません。上空で何かが引き裂かれるような凄まじい音が響き、私はあまりの轟音に肩をすくませながらも音のする方向に振り向きました。眼前に広がった信じられない光景に私は言葉を詰まらせてしまいました。
空が、割れている……?
かと思えばその引き裂かれた空から銀色の怪物が飛び出していったのです。いいえ、怪物ではありません。よくよく見るとそれは私も知っているシルエットを持っていたのですから。先の割れたフォルム、銀色の翼。
あ、あれは……間違いありません。銀翼「アールバイパー」……。
幻のシューティングゲーム「アールアサルト」の自機ですよ、あれは! 外の世界で一度は遊んでみたかったのに、どこへ行っても筐体がなかったので叶わなかったあのゲームの自機ですっ。さすが幻想郷。実物を拝めてしまうだなんて。私は興奮を隠せずにその場でピョンピョン跳ねてました。
でも、その銀翼は黒煙を吹き出しながら神社に突っ込まん勢いで接近したかと思うと急に方向を変えて山のふもと目がけて飛び去ってしまったのです。一瞬の出来事とはいえ見間違えるはずがない、私はそう確信しました。
こんな時どうすればいいのだろう? 恐怖というよりも好奇心があふれ出る。でもひとまずは……。
「神奈子さまー! かーなーこーさーまー!」
我が神社の主の名前を叫ぶことにしました。
急ぎ神社に入るのですが、そこにしめ縄を背負った神様はいませんでした。辺りを見回してもその姿は見えません。その代りにいたのは特徴的な帽子をかぶった小柄な神様、諏訪子様でした。
「うるさいねぇ。神奈子ならすっ飛んで行ったよ。早苗もあの変な蛇の妖怪がお気に入りなのかい? 私は見ただけで寒気がするよ……」
「変な蛇の妖怪じゃなくて超時空戦闘機『アールバイパー』ですっ!」
私は気だるそうな諏訪子様にそう口調を強めて訂正する。あんなにカッコイイのに妖怪の筈がありませんっ。どうして飛行機を皆知らないんでしょう?
「んなのどっちでもいいよ。それよりも、早苗も行きたいんだろう? いいよ、行っておいで。どうせ止めても無駄だろうし。『シューターとしての血が騒ぐ』とか言って」
そう。私は、いえ私達はつい最近まで外の世界で生活をしていました。こう言うと自慢になってしまうかもしれませんが、外の世界での私はシューティングゲームのプレイヤーであり「奇跡の女性シューター」としてその筋の間ではそれなりに有名であったのですよ。
幻想郷に入ってからはゲームに全然触れていませんが、この幻想郷ではよく似た遊びに「弾幕ごっこ」というものがあるのです。
似ているとはいえ、結構違うこともあるし、何よりも衝撃的だったのは外の世界では男性のシューターが多かったのに、幻想郷での弾幕ごっこは逆に女の子の遊びとして広まっていること。これには本当に驚きました。
これで挨拶することが幻想郷での常識なのだとか。挨拶はもちろん決闘の手段だったりもする由緒正しいもの。もちろん、霊夢さんにもちゃんと「挨拶」しましたよ。
さて、諏訪子様から許可もいただいたことだし、私も行ってみよう。大あくびをする諏訪子様に留守をお願いし、私も空を飛び銀翼を追いかける……。
が、その必要はなくなってしまった。御柱に乗った神奈子様が戻ってきたのです。悔しそうな表情を浮かべて。
「クソッ! 先客がいた。スキマ妖怪と超人住職が
実力者が二人も取り合いをしていたとはいえ、新しいものや珍しいものに目がない神奈子様がこんなにあっさり引き下がるなんて珍しい。ほんの少しだけ私はそう思いました。ええ、一瞬にしてその考えを撤回するに至ることになるのですが。
「仕方ないから部品の一部をちょろまかしてきたよ。誰も拾わないからあのままじゃあ朽ち果てちゃうだろうしね」
誇らしげに語る神様はオレンジ色に発光する円錐型の物体を取り出してきました。こ、これってオプションじゃ……?
とはいえ故障しているらしく頻繁にショートした時のようなスパークを発している。ですけど神奈子様、それって泥棒じゃ……?
「人聞きの悪いこと考えてるんじゃないよ。いいか早苗、私はただ落し物を預かっているだけだ。落とし主がここに来たらちゃんと返すさ。でも、来る前にいろいろ調べるのは構わないだろう? 早苗だって興味あるだろうし」
そこまで言われると私も反論できなくなり、神奈子様はオプションの残骸を手にどこかへ向かってしまいました。
あの日、空からとんでもないものが落ちてきました。そしてその超技術のカケラは守矢神社に、そして幻想郷に新たな風をもたらすでしょう。罪悪感にさいなまれながらも私も好奇心には打ち勝てなかったのです……。
あれから月日がたち、風の噂でアールバイパーがどうなっていったのかを耳にする機会が出来ました。
なんでも武装という武装をすべて失ってしまったり、スペルカードを受けると失った武装を取り戻せるなど……。
結局あんな異端な物体はそのまま放っておくことも出来なかったらしく、紫さんの手でパイロット(「轟アズマ」さんというらしい)ごと闇に葬られそうになったのだそうです。
彼は何を考えたのか、どこで修業したのか、アリスさんの人形をそれこそ「グラディウス」のオプションにように使いこなして……いや、オプションシュートとか使っていたのでまさかの「沙羅曼蛇2」でしょうか、とにかくあのパイロットが、紫さんを弾幕ごっこで打ち負かしました。私もこの目で勝負を見たので間違いありませんっ!
というか神奈子様と諏訪子様はどちらが勝つかで賭けていたのです。まったくもう……。アールバイパー側に賭けていた神奈子様がドヤ顔でお金を巻き上げていた様子は私の記憶に新しいです。
私としてはその後の異変のほうが印象的でした。アールバイパーの幻想入りに呼応するかのように「バクテリアン」の巨大要塞「ゼロス」が現れたのですから。
あの特徴的な緑色の巨大円盤のような姿を見間違えるはずもありません。なんでも要塞ゼロスの接近をいち早く察知した永遠亭の方々はあろうことかバクテリアンと手を組み異変に加担したのだといいます。
相手がどう出てくるか読めないということで神奈子様からは今回は静観するように命じられていました。私としても超時空戦闘機と人間の欲望から生まれたとされる侵略者の対決の結末を知りたいというのもあったので、反論はしませんでした。
アールバイパーは上海人形のほかに妖夢さんの半霊(実際にはコンパクという別物らしい)をオプションとして使役しており、二つのオプションを飛ばして攻撃していたそうです。その姿はもはや「沙羅曼蛇2」ではなくて「R-TYPE LEO」の「サイビット・サイファ」といったところでしょう。アズマさんもなかなかのシューターのようです。きっと実際に会ったら気が合うのではないかと思います。
紆余曲折ありアールバイパーは見事にゼロス要塞を爆破。爆風の中、颯爽と飛行する銀翼を生で見られました♪
まだあちこちでバクテリアンの残党が残っているようだけど、リーダーを失って統率を失った彼らは新種の妖怪の一種として認識されているみたいですよ。
より順応しようと屋台を始めたりする個体もいるみたいです。
そして平和になってしばらくが過ぎ、あちこち飛び回ったり部屋に閉じこもってばかりだった神奈子様がついに戻ってきたのです。
「この前の機械をいろいろ調べ終わったぞ。面白いものも出来た」といの一番で豪語し、そのついでに手招きしながら私の名前を呼んで……。