東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

44 / 102
要塞ゼロスの最深部でバクテリアンを率いる「ゴーファー」を撃破したアズマと輝夜。主を失ったことで要塞は加速度的に崩壊していくが浚われたはずの永琳の姿が見えない。

輝夜がほの暗い道の先に永琳の気配を感じていた。危険を顧みず輝夜を信じて再び最深部へと向かう……。

※本エピソードが正史となります。


第20話B ~自由への闘争~

「急いでっ!!」

 

 鬼気迫る姫様の大声に俺の体は勝手に動いてしまう。考えるよりも先に俺は銀翼のスロットルを押し込んでしまった。

 

「ええい、いざ南無三っ!」

 

 崩れゆく瓦礫にアールバイパーが一直線に突っ込んでいく。こうなったらヤケだ。ショットを連射して落ちる瓦礫を砕き、この狭くて入り組んだ通路へと突っ込んでいく……。

 

 複数のバクテリアン軍戦闘機が狭い道を飛ぶこちらを撃墜するべく背後から迫ってきていた。その数……5機っ!

 

 中枢を失い、それこそ死にもの狂いで暴走しつつ、ただただ執念だけでこちらを追いかけているように見える。

 

「まったく次から次へと……」

 

 早速ショットを撃ち込み、1体を撃墜した。残り4機が執拗にバイパーに群がってくる。

 

 障害物にぶつからないように慎重に進んでいく……。ゼロス要塞は今も崩壊を続けておりあちこちで小爆発が何度も起きていた。

 

 狭い通路の中、落ち着いて敵機の背後を取ると、ツインレーザーを乱れ撃ち。狂える猟犬どもはあっけなく爆発四散した。

 

 不意に視界が開ける。通路を抜けた先は広間となっており、そこには機械の触手に囚われて気を失っている永琳の姿が見えたのだ。

 

 だが、それよりも巨大な存在が行く手を阻んでいる。本体には青色に光る2つのコア、それとは別に独立して動くユニットにもそれぞれコアがあり、その先端部はアンカーのように射出するであろう兵装をつけている。

 

「『ビッグコア Mk-IV(※1)』……!」

 

 主を失い、それでも外敵を排除せんと狂ったように左右ユニットからアンカーを撃ち出してくる。唸りを上げて迫る物理的脅威は難なく回避できたが、本体から大きく蛇行するレーザーが撃ち出されている。

 

「囲まれたわ!」

 

 それだけではない。うねるレーザーをガイドラインにユニットからは何とも巨大なエネルギー弾まで押し寄せてくるのだ。何としても俺を生かして逃がさないという執念を感じた。

 

 どうにか狭い隙間を見つけてやり過ごそうとするも、今度は折れ曲がりながらこちらを追尾する細いオレンジ色のビームがそれを許さない。ギリギリの隙間の中に身を潜めていた俺にビームを回避する手段は残されていなかった。

 

「がぁぁっ!?」

 

 大きく横にぶれる機体。それでも操縦桿を握り、敵を見失わないようにすると、スペルカードを取り出す。ここは短期決戦に持ち込もう。

 

「操術『サイビット・サイファ』!」

 

 装甲を無視してオレンジ色の火の玉が的確に弱点へと体当たりを続ける。角度をつけつつこちらを狙い撃ってくるユニットは銀翼からの直接攻撃が届きにくい。オプション達がそちらに体当たりしている間に俺は本体のコアを狙い撃つことにした。

 

 どうやら主を失っていることもあってかビッグコアMk-IV自体もそこまでの耐久力が残っていなかったらしく、どうにかこれを撃破することが出来た。

 

 大きく爆発する前に逆回転リフレックスリングを用いて永琳を回収……する前に輝夜が外に出たいというので出してやる。

 

「再会を喜ぶのはここを出てからにしよう。もう長くはもたない。すぐに脱出するぞ!」

 

 今度は機体に衰弱していた永琳を乗せると最高速度で機体をぶっ飛ばし最後のゲートを抜ける。どうやら迷宮地帯を無事に抜ける事が出来たようだ。俺が迷宮から抜け出した直後、無数のフロアが爆風の波に飲まれていった。

 

「危ない危ない……」

 

 今はアールバイパーの外にいる輝夜。意識を失いぐったりした永琳は自力で飛べないので、このような状態になっているのだ。

 

「永琳……帰ろうね。一緒に、永遠亭に……。みんな待っているからね」

 

 彼女を救出したのだ。もはやこんな壊れかけの要塞に用事はない。今も中途半端に生きているセキュリティシステムが暴走し、俺が向かおうとする道も塞がろうとしている。

 

 俺はアールバイパーを全速力で飛ばしていく……。もはやこんな場所には何の用事も未練もない。止まることなくひた進む。

 

 通路内では狂ったように「ガーメイド(※2)」が左右移動しながらレーザーを撃ってくる。意地でも俺達を道連れにしようとしているらしい。もっとも狭い通路ではないので、こちらも容赦なくレーザーを撃ち、機能停止させる。

 

「おっと……」

 

 残骸を錐揉み回転しながら回避。錐揉み回転からのスペルカード発動。

 

「銀符『ツインレーザー』!」

 

 回転したまま、針状のレーザーを乱射。行く手を阻むバクテリアン軍を次々と機能停止に追いやる。

 

 何度も誘爆してこちらに迫ってくる爆風は辛うじてアールバイパーの速度を超えておらず、迫る事も遠のく事もなくあちこちを破壊しながら突き進んでいる。

 

 敵も少なくなってきた。クネクネと入り組んだ地形を更に進む。そして、遂に見えた。要塞の外側……。俺は急ぎそこから脱出を試みる……!

 

 だが、非情にも脱出口が閉じてしまう。恐らくバクテリアン軍が出撃するハッチの類だったのだろう。慌ててレーザーやミサイルを撃ち込むがハッチはびくともしなかった。

 

「そんな……」

 

 これでもかと更に攻撃を続けるがアールバイパーの兵装ではどうにもならないようだ。

 

「逃がさん。貴様だけは、超時空戦闘機の末裔だけは決して逃がさんぞぉ! ゼロス要塞もろとも……」

 

 爆風からゴーファーの声が聞こえた気がした。爆炎が風が吹いた時のようになびき、あのグロテスクな顔のような形になっていたのだ。

 

「一種の亡霊みたいなものでしょう。怖くないわよ!」

 

 少し声を震わせながらも毅然と振る舞う姫様。確かにあのゴーファーの亡霊はどうでもいい。しかし困ったぞ。扉が閉ざされている以上行き止まり。引き返そうにもゼロス要塞の崩壊はもうすぐそこまで迫っている。

 

 駄目だ、完全に退路を塞がれてしまったようだ。もうオシマイなのか……?

 

 こんな時にひどい頭痛。脳みそを直に鷲掴みにされるような痛みに俺は悶絶する。同時に機体と永琳と直結するイメージ映像。こ、この感覚は確か……。

 

「アズマっ、どうしたの!?」

 

 機体ごしでも俺の異変に気がついたのか、姫様が心配そうに顔をのぞかせる。途切れ途切れの単語で状況を説明した。永琳と俺の脳が一体となる幻覚、それに伴う激しい頭痛。そう、輝夜を乗せた時にも感じたあの感覚だ。

 

「それって確か……。永琳の力をアールバイパーを通じて借りている状態じゃないの? 何か攻撃してみて!」

 

 襲い来る頭痛をはねのけるように俺はトリガーを引く。しかし何も発射されない。……ハズレなのか?

 

 ……いいや違う。機体全体が青白い光に包まれる。最初はスペルカードを発動するときに同時に身に纏うフォースフィールドかと思ったが、炎のような揺らめきはない。ではこれは一体?

 

「光が集まってくる。どんどん大きくなって……」

 

 トリガーを引くことでエネルギーを溜めているのか? それってもしかして……R戦闘機によく搭載されている「波動砲」!? それとも、いつぞやのバクテリアン戦役でビックバイパーが使用した溜め撃ちの出来るレーザー「エネルギーレーザー」なのか? ええい、どっちでもいい! とにかく強そうな一撃を放つ事が出来るようだ。

 

 頑丈そうなハッチに狙いを定め、限界まで引き絞った弓を解き放つが如く、トリガーから指を離す。アールバイパーが纏っていた青白いエネルギーが矢のように飛んでいった。いや、矢そのものだ。エネルギー弾は矢そのものの形となり、ハッチの中央に突き刺さると、爆発を起こし、風穴を開けたのだ。

 

 その直後、背後で巻き起こっていた爆発も一層激しくなる。吹き飛ばされるかのように俺達はゼロス要塞の外へと追い出されていった。

 

「うわああああ!!」

「きゃああああ!!」

 

 無事に姫様も要塞の外側に脱出できたようである。俺はバランスを取り、横目で後ろをチラと見る。爆風が要塞を飲みこんでいく。いよいよバクテリアンの最期だ……。

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃永遠亭では……)

 

 幻想郷の上空に忽然と姿を現した緑色の円盤は、あちこちで小爆発を起こしていた。それは地上にいる白蓮達にもハッキリと分かる程である。

 

「円盤が壊れるわ! 姫様がやったのよ!! さっすが姫様。普段はぐうたらだけど、やる時はビシっとやる!」

 

 ガッツポーズをしながら鈴仙が叫ぶ。これだけの盛大な花火だ。てゐをはじめとした妖怪兎達も意味が分かっている者と分かっていないものが半々くらいで、でもはしゃいでいるのはほぼ全員といった状況。

 

「ですが輝夜さんは? それにアズマさんはっ!?」

 

 そう、永琳を救出しに向かった銀翼と永遠亭の姫。彼らの姿が何処にも見えないのだ。輝夜は蓬莱人ゆえにさして心配はしていない。銀翼を操るアズマの安否。尼僧にはそれが一番の心配ごとであった。

 

「アズマさん。お願い、どうか無事に……」

 

 尼僧はただ祈る。両手を組みながら。ゼロス要塞はかつてない程の大きな光に包まれていく……。そんな中、銀色の光が爆風よりも速く空を一直線に横切った。

 

「あれは……っ! アールバイパー、アールバイパーですよっ! よかった……。アズマさんは無事だったのね……」

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃ゼロス要塞周辺……)

 

 至る所から光が漏れ出るゼロス要塞が見えた。この要塞ももう持たないだろう。じきに大爆発を起こす。俺はそれに巻き込まれないように出来るだけゼロス要塞から離れていく。

 

 間もなく、ゼロス要塞はかつてない程の光を散らし、大爆発を起こした。爆風に煽られながらもバランスを崩さぬように機体を制御する。アールバイパーのスピードについていけない輝夜は妖夢の姿に変わったコンパクが抱きかかえている。もちろん永琳は俺と一緒だ。

 

 俺、そしてアールバイパーは、神話の銀翼「ビックバイパー」の紡いできた幾多もの伝説の通り、バクテリアンの脅威から永遠亭を、そして幻想郷を見事救い出したのだっ……!

 

Farewell(あばよ)……バクテリアン」

 

 背後では、最期の閃光を放ち、わずかな残骸を残して消えていったゼロス要塞。それを横目に俺は慣れない言葉でかの好敵手に別れを告げた。

 

 結局、なぜ幻想郷にバクテリアンがやって来たのかは分からずじまいであった。永遠亭を攻略している際は永琳がバクテリアンを真似て巨大戦艦を作り出していたと思っていたが、こうやって本物が現れているのだ。

 

 バクテリアンを率いていたゴーファーは「幻想郷で生きる為」と言っていたが……。それとも人の欲望から生まれると言われているバクテリアンだ。永琳の科学の進歩という欲望がゴーファーを、ゼロスフォースを生み出したなんてことも考えられる。……まあ、これも推測の域を出ないのだが。

 

 とにかく幻想郷からバクテリアンの脅威は去ったのだ。これ以上考えても仕方がないだろう。さあ、皆が待っている。早く地球に戻ろう!

 

 そろそろ大気圏に突入する。再び輝夜からサラマンダーシールドを借り、赤いフォースフィールドを纏うと一直線に地球へと降下を始めた。

 

 幻想郷の迷いの竹林の一画……つまり永遠亭に戻ると早速修羅場が訪れた。

 

 ようやく意識を取り戻した永琳を輝夜は思いっきり平手で殴ったのだ。大団円を迎えようとしている矢先での突飛な行動。周囲の空気が凍りついたのは言うまでもない。殴った側、殴られた側、双方無言。一番近い距離で見てしまった俺は非常に気まずい。

 

 長い長い沈黙を経て、先に口を開いたのは永琳であった。

 

「……そう、ですよね。殴られて当然です。あんな自分勝手な事をずっとしてきたのですから。口では永遠亭の存続、繁栄をうたっていましたが、心のどこかで異星の者がもたらす科学を己がモノにしたいという私欲があったのでしょう」

 

 なみだなみだに言葉を紡ぐ月の頭脳。それに応える殴った側、つまり姫も涙声であった。

 

「本当よ。私は狭い部屋に恐ろしい機械と一緒に閉じ込められるし、ウドンゲやてゐにも迷惑かけて……」

 

 途切れ途切れに、しかし意思をはっきりと伝えていく。

 

「仰る通りです姫様。こんな私など、姫様と一緒にいるだなんてもう……」

「永琳がいなくなってから仕事も家事も溜まりに溜まっているのよ。これから目いっぱい馬車馬のようにコキ使ってやるから覚悟なさい!」

「えっ!? そ、それでは……」

 

 天井の抜けた永遠亭の一画。今宵は満月。遮るものの無くなった夜空で、その静かな光はキラキラと降り注ぐ。そして幻想郷で誰よりも月が似合う少女を照らしていた。そのままへたり込んでいた永琳に手を差し伸べる。

 

「何をしているの? やってもらいたい事は山ほどあるわ。せいぜい過労死しないよう気をつけることね」

「姫様……!」

 

 その小さな手を掴む永琳の両手。そしてスックと立ち上がる。

 

「ちゃんと動けるようね。それに永琳の手、あったかい。それじゃあ早速だけれど……」

 

 吸い寄せられるように姫は月の頭脳に抱きつき、顔を埋めた。

 

「ギュっ……てして頂戴。そして……えっぐ……もう何処にもいかな……ヒッグ……いで……」

 

 溢れる涙をぬぐうよう、自分よりも大きくて包容力のある従者に甘えるよう、グリグリと永琳に顔を擦りつけるかぐや姫。いつだったか、輝夜は永琳のことを自分の母親のような人だと紹介していた。なるほど、こうやって見ると親子にも見える。……親の方も子の方も軽く一億年は生きているらしいが。

 

 俺は二人の月人が抱き合っているを見てボンヤリと思考を巡らせていた。ゼロス要塞での戦い、幻想入りした時、そして幻想郷に来る前での生活、知人、家族……。

 

 家族……か。ひとり暮らしを始めて久しかったが実家はどうなっているのだろう。しばらくは里帰りなど出来そうもないしな。

 

「外の世界に残してきた家族が気になるのですか? そんな顔していましたよ」

 

 ズイと横に並んだ住職サマは俺の心を見事に当てていた。やれやれ、彼女には隠し事は出来ないようだ。

 

「さすがに外界の、それもアズマさんのご家族のこととなると安易に推測する事はできません。ですが……アズマさんには私達がいます。命蓮寺という場所もあります。この幻想郷という地においては、ちゃんと迎えてくれる人も、帰る場所もあるんですよ!」

 

 そうだ……そうだったな、もはや俺は一人ではない。すっかり命蓮寺の一員だ。今となってはここの皆は幻想郷における家族のようなものと言っても過言ではないだろう。

 

「さあ、異変も解決したことですし、私達も行きましょう。私の、そして貴方の帰るべき場所『命蓮寺』へ!」

 

 外界のことはまた落ちついた時に紫に交渉するとして、今は幻想郷における俺の居場所にいればいい。白蓮は俺のようなヨソモノにも優しく手を差し伸べてくれた。寺に集まる妖怪達も俺につらく当たったりはしない。……そうだな、確かに俺は命蓮寺の一員だ。

 

 さて、迷いも晴れた。俺は再びアールバイパーに乗り込もうとするが、白蓮に行く手を阻まれた。そのままぎゅっと抱きしめてくれたのだ。

 

「よしよし……。ちょっとホームシックになってしまったようですね。心が落ち着くまでこうやって抱きしめながら撫でますよ」

 

 折角の好意だ。無下にはできない。俺は母性溢れる抱擁を受けているうちに幾多もの戦闘で体が疲れていたのか、力が入らなくなり、そして夢心地のまま意識が消えていった。

 

 命蓮寺に戻るのは、少し眠ってからでも……いいよね?




(※1)ビッグコア Mk-IV
横STG「グラディウスV」に登場した巨大戦艦。
Mk-IIIが確立したレーザーで囲いこんでの攻撃をさらに発展させており、コイツの囲い込みレーザーは大きくうねる。
押し潰されないようにオプションを駆使して4つのコアを破壊しよう。

(※2)ガーメイド
横STG「グラディウスIII」に登場したザコ敵。
狭い通路で上下移動をしながら地形の隙間からレーザーを撃ってくる。
コイツが厄介なのは破壊してもその場で破壊不可能な残骸が残り続けてしまう事。
うっかり通路を塞いだ状態で破壊してしまうと詰んでしまうぞ。


今回のタイトルはグラディウスIIIにおける要塞脱出シーンのBGM「Escape to the Freedom」が元になっており、結末によって「逃走」になるか「闘争」になるかを分けてみました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。