東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

43 / 102
要塞ゼロスの最深部でバクテリアンを率いる「ゴーファー」を撃破したアズマと輝夜。主を失ったことで要塞は加速度的に崩壊していくが浚われたはずの永琳の姿が見えない。

アズマは輝夜の無事を優先し、永琳もこの騒ぎに乗じて脱出したであろうと考えて一直線に脱出することを選んだのだが……。


※こちらは正史ではないエンディングになります。


第20話A ~自由への逃走~

 確かにここにいる筈の永琳をまだ救出していない。だが、これ以上この要塞での探索は危険だろう。このままでは俺たちも危なくなってしまうことが予想される。

 

 残念ながら輝夜の勘だけを理由にリスクを取るのは分の悪い賭けと言わざるを得ない。

 

 脱出することを告げると今も恨めしそうに塞がった中枢への道を見据える輝夜。この場所も大きな爆風に飲み込まれそうになっていた。これ以上この場にとどまるのは危険だ。俺はここと決めたルートめがけて銀翼を加速させた。

 

 通路内では狂ったように「ガーメイド(※1)」が左右移動しながらレーザーを撃ってくる。意地でも俺達を道連れにしようとしているらしい。もっとも狭い通路ではないので、こちらも容赦なくレーザーを撃ち、機能停止させる。

 

「おっと……」

 

 残骸を錐揉み回転しながら回避。錐揉み回転からのスペルカード発動。

 

「銀符『ツインレーザー』!」

 

 回転したまま、針状のレーザーを乱射。行く手を阻むバクテリアン軍を次々と機能停止に追いやる。

 

 何度も誘爆してこちらに迫ってくる爆風は辛うじてアールバイパーの速度を超えておらず、迫る事も遠のく事もなくあちこちを破壊しながら突き進んでいる。

 

 敵も少なくなってきた。クネクネと入り組んだ地形を更に進む。そして、遂に見えた。要塞の外側……。俺は急ぎそこから脱出を試みる……!

 

 だが、非情にも脱出口が閉じてしまう。恐らくバクテリアン軍が出撃するハッチの類だったのだろう。慌ててレーザーやミサイルを撃ち込むがハッチはびくともしなかった。

 

「そんな……」

 

 これでもかと更に攻撃を続けるがアールバイパーの兵装ではどうにもならないようだ。

 

『逃がさん。

貴様だけは、超時空戦闘機の末裔だけは決して逃がさんぞぉ!

ゼロス要塞もろとも……』

 

 爆風からゴーファーの声が聞こえた気がした。爆炎が風が吹いた時のようになびき、ゴーファーの顔のような形になっていたのだ。

 

「一種の亡霊みたいなものでしょう。怖くないわよ!」

 

 少し声を震わせながらも毅然と振る舞う姫様。確かにあのゴーファーの亡霊はどうでもいい。しかし困ったぞ。扉が閉ざされている以上行き止まり。引き返そうにもゼロス要塞の崩壊はもうすぐそこまで迫っている。

 

 駄目だ、完全に退路を塞がれてしまったようだ……。もうオシマイなのか……!

 

 荒れ狂う爆風の中、一筋の光が走る。大きな矢を番えた背の高い女性、永琳のものだった。

 

「アズマっ、離れて!」

 

 あれは強烈な弾幕を纏わせた矢。確かにあの一撃ならハッチを破壊出来るかもしれない。しかし……

 

「永琳、それを撃っては駄目っ!!」

 

 輝夜の悲鳴。あれだけ強力そうなものだ。足元のおぼつかない場所で放ったら反動で永琳は後ろ側、つまり爆風に飲み込まれてしまうのは明白。ここまで来て永琳の救出に失敗するなんて悔やんでも悔やみきれないだろう。

 

「姫様、出口をこじ開けないとアズマが爆風に飲み込まれてしまうわ。このままでは誰も助からない」

 

 再三制止を呼び掛ける輝夜を無視して、永琳は頑丈なハッチめがけてエネルギー弾を射った。一直線に走る赤と青の光。それらは螺旋を描き、ハッチの中央に着弾。あれだけビクともしなかったハッチに大穴をあけたのだった。

 

 一方の永琳は強烈な弾を放った反動で爆風に向かって飛ばされていく。

 

「いけないっ!」

 

 俺は機体をターンさせ、リフレックスリングを射出する……が届かない。みるみる月の頭脳が爆風に飲まれ消えていく……!

 

「くっ! もう一回……」

 

 更に永琳に接近し、リフレックスリングを放とうとするが、爆風に煽られて近づけない。これ以上近づくと機体のバランスを崩してしまうだろう。

 

「アズマ、姫様を最後までエスコートするのよ。姫様、私がいなくて自堕落な生活など送らず姫らしくお淑やかにするのですよ。私はちょっと帰りが遅くなるけれど……この程度の爆発、なんて事はないわ。……蓬莱人だもの」

 

 なんと……これでは最初から永琳は自らを犠牲にしていたように聞こえる。

 

「何を言っているんだよ! 皆で生きて帰るんだ。さあ、一緒に帰ろう! 白蓮とそう約束している。もう一度リングを飛ばすから……」

 

 だが、一際大きな爆発音が響くと、アールバイパーはまるで突風にあおられるように吹き飛ばされてしまう。そのままハッチに開いた大穴を飛び出してしまった。最後の最後に倒した筈のゴーファーが大笑いしている姿が見えた気がした。

 

「永琳っ! えいりーん!!」

 

 コクピット内部で外に出ようと暴れる輝夜。気持ちは分かるがそんな事をしても変わらない。そしてどうにか宇宙空間で機体をバランスを取り直す頃に……

 

 至る所から光が漏れ出るゼロス要塞が見えた。この要塞ももう持たないだろう。じきに大爆発を起こす。俺はそれに巻き込まれないように出来るだけゼロス要塞から離れていく。

 

 間もなく異変の元凶はかつてない程の光を散らし、大爆発を起こした。

 

 俺、そしてアールバイパーは、神話の銀翼「ビックバイパー」の紡いできた幾多もの伝説の通り、バクテリアンの脅威から幻想郷を見事救い出したのだ。……だというのに心はやるせない気持ちで一杯であった。

 

「永琳を救えなかった……。すまない、輝夜。すまない……」

 

 後ろでは、少女がすすり泣く声が響いていた。俺までも目頭が熱くなり、とめどなく涙があふれ落ちた。ああ、何て顔して地球に戻ればいいんだ……。だが、成功した事も、失敗したことも幻想郷で話さなければならない。

 

 もうバクテリアンの脅威は去った事、永琳は救出出来ずにゼロス要塞の爆風の中に消えていった事……。

 

 俺は無言で地球に戻ることにした。俺には後ろを振り向く勇気などなく、ただただ母なる青い星を目指す。これから何て顔して輝夜に接すればいいのだ……。

 

 そろそろ大気圏に突入する。再び輝夜からサラマンダーシールドを借り受けなくてはならない。正直気まずいってレベルではないのだが、俺は意を決して姫に話しかける。

 

「凄い悲しそうな顔。アズマだって辛いんだよね」

 

 泣き晴らして目が赤くなった姫は無言で盾を手渡す。アールバイパーが炎の色をしたオーラを身に纏った。

 

「すまない。謝っても謝りきれないが、すまない。俺は永琳を……」

「そのことはもういいわ。とても悔しくて悲しい事だったけれど少なくとも永琳は生きている。あのバクテリアンって奴らも復活する気満々のようだし、その時に永琳を助ければいいわ」

 

 あれだけ泣き晴らしていたというのに、今はすっかり立ち直ったらしい。

 

 なんともたくましい精神をお持ちのようだ。それでも迷いの消えない俺に輝夜は「過去なんていつまでも引きずるものではないわ。『今』を、そして『これから』をどうするか、それが大切よ」とありがたい言葉を頂く。

 

 俺なんかよりも、そしてあの白蓮よりも長い時を生きてきた彼女の言葉はとても重いものであった。それだけ輝夜の過去は追っても追い切れないほどに多いのだ。その一言で俺の心は幾分救われたようだ。

 

「そう、もっとシャンとしないとね。アズマはバクテリアンから幻想郷を救ったヒーローなのだからもっと胸を張らないと。それと、一つだけ約束して。またあの要塞が現れたら私も連れて行く事。まだ永琳を殴っていないわ」

 

 無言で頷くと、気を確かに持ち俺は操縦桿を握り、大気圏へと突入した。

 

 

__________________________________________

 

 

 

 ゴーファーを撃破して数ヶ月が過ぎ、季節の色が移り変わって久しいくらいだ。

 

 永琳のいない今は鈴仙が代わりに永遠亭を切り盛りしているらしい。俺も心配になって何度か立ち寄ってみたが、彼女は師匠のような立派な薬師になると意気込みはバッチリであった。

 

 そしてゼロス要塞は消えたものの、あの異変以来、幻想郷各地でバクテリアン軍の残党をよく見かけるようになった。表向きには「人間に害為す新種の妖怪」ということで妖怪退治、異変解決のスペシャリストである霊夢が対応に追われている。

 

 もちろん霊夢一人で、さばききれるような状態ではないので俺もアールバイパーに乗り込み、野良バクテリアンを退治するべく出撃する。永琳を救えなかったという罪滅ぼしもかねて……。

 

 今回は人里からではなく、霊夢からの要請であった。強力なバクテリアンが現れて一人では倒せないとのことである。急ぎ現場に急行してみると、おそらく顔があったらドヤ顔なのだろうなぁとカッコつけてる「ビッグコアMk-III」と巫女服のあちこちがボロボロになっている霊夢がいた。

 

「ぶっといレーザーでこっちを閉じ込めると、ジグザグに反射するレーザーがすごい速さで飛んできて……」

 

 なるほど、こいつは久しぶりにきつい仕事になりそうだ。さっそく退治しようと巨大戦艦を正面に据えるが、Mk-IIIがもう1機接近してきていた。

 

「さすがの俺もコイツら2体は厳しいぞ。奴を倒す魔法の言葉を教えてやるからそっちは任せる」

 

 俺は一瞬空を見上げる。確か……よし、思い出した。

 

「これが魔法の言葉だ。『ううまま、うままう、うまう、うままう』。これで奴も怖くない」

「ううまま……うまうま? なにそれ? 唱えればいいの?」

 

 頭にハテナマークを浮かべる腋巫女。まあ当然か。もう少し詳しく説明することにした。

 

「『う』が後ろ、『ま』が前だ。反射レーザーを撃つたびに前後に細かく動けば避けられるぞ」

「前? 後ろ?? 何に対して???」

 

 あっ……。そういえば何に対してだ? ウェポンゲージの……いやいや、そんなの見えないもんな。俺だって今は見えないもの。な、なんて説明すればいいんだろう。的を得ない言葉をちらほらと口にするがそんなもので霊夢が納得するはずがない。何だかイラついているようにも見えて怖い……。

 

 悶々としていたら2体のコアがレーザーを撃ち始めた。

 

「ほんっと図体だけデカくて役に立たないわね。こんなのが幻想郷の危機を救ったってヒーローなの!? 紫はそう言っていたけれど買いかぶり過ぎにしか見えないわ! もう……勿体ないからあまり使いたくなかったけれど……『夢想封印』っ!」

 

 巫女は懐から紙切れを取り出す。妙にカラフルなスペルカードであった。青白い光に貫かれるはずだった霊夢。しかし今は周囲の何物にも干渉しないかのようにすり抜けてしまう。

 

 巫女から発せられる色とりどりの光の球体は的確にMk-IIIのコアに直撃し、大爆発。同時に2機倒してしまった。これはいつぞやの弾幕ごっこでアールバイパーを一瞬で葬った恐怖のスペル……。

 

 つーか一人で倒せたじゃん。まさかスペル使うのが面倒だからって理由で俺を呼び出した? こんの怠け者の巫女がぁ~~~!

 

 憤りを発散するべく胸倉に掴みかかろうとした矢先、宝塔型通信機がビカビカと光り出した。命蓮寺からの通信だ。俺は再びアールバイパーのコクピットに乗り込んだ。

 

「アズマさんっ! また上空にゼロス要塞が出現したようです。輝夜さんも気付いたらしくて命蓮寺に来たのですが……、貴方のところへ向かっている筈ですよ」

 

 ここ最近のバクテリアンどもの狂暴化、凶悪化にも納得がいった。奴らは懲りずに幻想郷を侵略しようとしているのだ。程なくして輝夜も俺の元を訪ねてきた。

 

「さあアズマ、今度こそ要塞のどこかにいる永琳をブン殴ってでも連れ戻すわ! だから私を永琳のところまで連れて行きなさい!」

 

 姫らしからぬ血の気の多い発言だ。だが、やることは一緒。あの要塞のどこかに永琳がいる筈。これは俺の推測だが、ここ最近のバクテリアンの復活のペースが早まっているのは蓬莱人である永琳が影響しているからだと思う。何としても救い出そう。

 

 輝夜を銀翼に乗せると虚空に忽然と姿を現した緑色の円盤向かって急上昇を始めた。

 

「前は行けなかったけれどコレはれっきとした異変よ! あのヘンテコな円盤、この前のように爆破してやりましょう!」

 

 異変解決のスペシャリストもやる気満々である。皆の気持ちは1つ。永琳を救出し、そしてゼロス要塞を徹底的に破壊する。強力な味方をつけて、俺は再度バクテリアンの巣窟へと向かうのであった。誰にも聞こえないくらいの小声で俺はつぶやいた。

 

 

「Destroy them all……」

 

 

 

東方銀翼伝ep2 S.S. Normal End




(※1)ガーメイド
「グラディウスIII」に登場した敵。狭い通路からこちらを狙い撃ちしてくる。
倒しても残骸がその場に残ってしまうため、破壊する場所を考えないと道をふさがれてしまう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。