東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ゼロス要塞への決死の侵入、そして数々の罠を切り抜けた先には巨大エレベーターがあった。

これで深部へ降りることにするも、エレベーター内には多脚兵器「クラブ」が待ち構えていた。

これをどうにか退けると要塞ゼロスの最深部へとたどり着く。そこに待ち構えていたのは……!


第19話 ~ゴーファーの野望~

 縦穴に潜り込み、見つけた光。新たな通路と確信し、俺は一直線にその場所へと飛ぶ。何の変哲もないメカメカしい通路を少し進むと、少しずつその無機質な壁面から有機物特有のブヨブヨした質感の壁に変わっていく……。

 

「なっ、なにこれ……?」

 

 姫様が目と口を覆いながらウエエとえずく。無理もない。まるで巨大な生物の中身のような場所だ。壁面も脳みそなのか、小腸なのか、ウネウネとうごめいており、直視するとグロテスクである。それに、アールバイパーの機体ごしにも生温かさと嫌な湿気が伝わってくるのだ。そう、ここがゼロス要塞の中枢部。そしてその奥に鎮座しているのが……。

 

『我こそ最強! 我こそ宇宙の中心! ハーッハッハッハ……!!』

 

 出た、相変わらず下品な笑いを浮かべているグロテスクな顔。こいつが永琳を、間接的には妖夢を狂わせた全ての元凶……バクテリアンを率いて幻想郷を侵略しようとしたゴーファーだ!

 

『むん? 遂に現れたか、我が宿敵よ。

我を撃つのか? 最強であるこの我を!?』

 

 追い詰められているにもかかわらず今もくぐもった声でこちらを挑発してくる巨大な顔。問答無用で頭から伸びている血管を1本撃ち抜く。頭から数本伸びた血管をすべて断ち切ればゴーファーは倒せるはず。苦痛に顔をゆがめるが、奴は意外な事を口にした。

 

『やはり撃つのだな。しかし、我を破壊したら後悔することになるぞ?』

 

「知っているよ。アンタとは別に本当の親玉がいるって言うんだろ?」

 

 そう言いつつ俺は血管を撃ち抜いていく。その度に苦しそうにうめき声をあげる。そしてこちらの予想通りゴーファーは何も抵抗してこない。否、抵抗できないのだ。

 

『そ、そうではない。

蓬莱人の娘の居場所を把握しているのは我だ。

それを聞き出す前に我を倒してしまうと、娘の場所が分からなくなる。

それでいいのか?』

 

 む……。そういえばそうだった。俺たちはゴーファーの撃破の他に永琳の救出もしなくてはならなかったのだ。トリガーを引く指がピタリと止まる。確かにこれではトドメをさせない。

 

「そうよ、永琳を助けなくては! コイツは憎いけれど何とかして聞き出さないと」

 

 確かに永琳を助けなければならないが、どうやって聞き出そう? 1本ずつ血管を撃ち抜いて拷問しようにも吐きそうにないし……。

 

『蓬莱人の娘はこのフロアの反対側、エレベーター地帯の反対側に幽閉している』

 

 あれれ? こんなにアッサリ教えてくるとは……。いや待て、いくらなんでもおかしいだろ! こんな状況で出された敵の情報、信用しろというのは無理がある。

 

「わかったわ! すぐに助けに行ってくる」

 

 えええっ!? 駄目だ、永琳が絡んできているから正常な判断が下せていない。

 

 どう考えても罠だ! それにゴーファーは外敵が接近してくるとその通路を塞いでしまうという特徴がある。つまり輝夜は来た道を戻ろうにも肉の壁が立ちはだかっており、戻れない筈なのだ。

 

 現に輝夜は行き止まりを前に立ち尽くしていた。こいつめ、元から永琳に会わせる気など毛頭ないのだ。

 

「デタラメ吐きやがって……。往生際が悪いぞ!」

 

 俺は再び頭の血管を撃ち抜く。残るはあと1本……。

 

『ぐああっ! 確かに貴様らを謀るべく、デタラメな場所を口にはした。

だが、どうする? 我を破壊すれば娘の本当の居所は永遠に分からぬまま……』

 

「どうせお前を倒さないとここから出られないんだ。お前を倒してから考える」

 

 最後の血管を撃ち抜いた。これでゴーファーはひとたまりもないはずだ。

 

『うう、無念だ。またしても銀翼に我が野望が潰されるのか……。

だが、後悔するぞ。蓬莱人の娘はいまだ我らバクテリアンが握っている。

それに貴様らは何故バクテリアンが幻想郷で生き抜くことを欲するのかも知っていない。

我は何度でも蘇る。野望を達成するその時まで何度でも何度でも……!』

 

「黙れ、使い走りの中間管理職(※1)めっ!」

 

 何かと思えばいつもの負け惜しみのセリフ。鬱陶しかったので、口にショットを浴びせて黙らせることにした。

 

『ヴァー……!』

 

 周囲を震わせるほどの大きな断末魔を上げ、巨大な顔は大爆発。これにより退路が確保された。ゼロス要塞の中枢を破壊したことによって辺りはみるみる崩壊していく。俺は輝夜をアールバイパーに乗せると、退路目がけて飛ぼうとした。

 

「今のがバクテリアンの大ボス……? 口だけであっけない奴だったわね。さあ、今度は永琳を救出しましょう!」

 

 そうは言ったものの、崩壊は予想以上に早く進んでいる。どうにか退路の途中で出会えればいいのだが……。

 

 

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(その頃永遠亭最深部……)

 

 銀色の光がゼロス要塞に突入してから久しい。誰もが空中の宇宙要塞に釘づけになっていた。アールバイパーの安否を案じながら。

 

「まるで反応がないわね……。あの鳥モドキ、もしかして途中でやられちゃったんじゃ」

 

 空中の巨大な要塞を目にウサミミの少女がため息交じりに口にすると、すぐさま反論するのは尼僧。

 

「アズマさんはそんな簡単に屈してしまうような人ではありませんっ! それは誰よりも私が理解しているつもりです!」

 

 口では毅然としていたが、それでもその安否を一番案じていたのは彼女に他ならない。周りに悟られぬように両手を組み、祈り祈る白蓮であった。

 

 不気味な緑の円盤がわずかに発光した気がした……。次の瞬間、外側から少しずつ形が崩れていく。

 

「円盤が……崩れている。バクテリアンは滅んだの!?」

 

 だが、心配事は他にもあった。ゼロス要塞に向かった3人。彼らが要塞の中枢を破壊したらしい事は分かったが、まだ生きて脱出できる保証ができたわけではないのだ。

 

「アズマさん……どうか無事に帰ってきて……!」

 

 

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 長く響いた断末魔。ゼロス要塞の中枢であるゴーファーが破壊されたことで、要塞全体で爆発が起きる。その不気味な要塞は少しずつ崩壊を始めていたのだ。

 

「ここにいると危ない。離れるぞ!」

 

 輝夜をアールバイパーに乗せ、ゴーファーが塞いでいた道を退路に爆炎があちこちで咲き乱れる通路を高速で飛行した。グネグネと複雑な道を衝突しないように小刻みに操縦桿を操り進む。

 

「早く永琳を……」

「分かっている! でも俺達まで爆発に巻き込まれたら……」

 

 悔しさをかみしめるように口ごもる姫様。要塞の崩壊は加速度的に早まっており、今も壁面がボロボロと崩れていっている。その破片1つ1つがまるで意思を持っているかのようにアールバイパーに群がってきた。

 

「輝夜、力を貸してくれ!」

 

 アールバイパーと、そして輝夜と俺の脳みそが一体になる感覚。展開してたオプションが緑色のオーラを纏った。前後二方向にバルカンを乱射するオプション。微妙に機体を制御させ、振りまわすように扱う。破片は粉々に砕けていった。

 

「あっちだ、あっちに出口が……!」

 

 機械的な内装のはるか先、漆黒の宇宙空間が広がっていた。あの先は要塞の外側。あそこまで行ければ……!

 

 しかし、そんな俺をあざ笑うかのように目の前で壁がせり上がり、希望への道を塞いでしまった。この期に及んで要塞のセキュリティが生きているとは! 仕方がない、他のルートを探そう。

 

 とはいったものの、これだけある分岐路。一体何処に行けば……?

 

「アズマっ、あっち行ってみよう!」

 

 何か根拠があるのか、輝夜はそのうちの1つを指差していた。だが、その先は薄暗く、更にクモの巣のように道が入り組んでいる。とても出口には見えない。それに入口は今にも崩れ落ちそうであった。いくらアールバイパーの機動力をもってしてもあの瓦礫を完全に回避するのは難しいだろう。

 

「そっちはかえって中枢に近づいてしまう。来た道を戻る気か?」

「えっとね、あっちに永琳がいる気がするの! 根拠はないけど……」

 

 要は当てずっぽうである。これだけ要塞内で俺達は混乱していたのだ。

 

 今も崩壊を続けるゼロス要塞。ゴーファーを失ったのだから当然と言えば当然だ。永琳もこの混乱に乗じて脱出しているかもしれない。

 

 そう思索を巡らせている矢先、輝夜の指差した方向に瓦礫が落ちていく。

 

「道が塞がる! あの道は諦めて脱出を優先するんだ。永琳もきっと脱出している。さあ、俺達も!」




(※1)
「ゴーファー(gofer)」とは「使い走り・雑用係」という意味がある。
またゴーファー自身も「グラディウスII」で自分はバクテリアンの一部でしかないと死に際にカミングアウトしていた。


※今後の展開ですが東方銀翼伝SSはマルチエンディングとなっております。複数の結末があり、それを順々に公開していき、最後に正史であるトゥルールートを公開していく予定です。

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