東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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幻想郷の住民たちの想いを背負い、銀翼「アールバイパー」はバクテリアン軍の巨大要塞「ゼロス」へと向かう。

パラサイトコアにさらわれた永琳を救出するべく、幻想郷を侵略するバクテリアンの脅威を伝説の通り打ち払うべく……!


第18話 ~強襲、ゼロス要塞~

 バーナーから炎と轟音と推進力を放ちながら、アールバイパーはぐんぐんと高度を上げていく。永琳をさらったパラサイトコアを追って。ゼロス要塞がどんどん大きくなってくる。それだけ接近しているのだ。

 

「随分と揺れるのね」

「限界まで速度を上げているんだ。ちょっと不安定にもなる」

 

 俺も気を抜いていると操縦桿を握る手が弾き飛ばされそうである。思いのほかパラサイトコアは素早くなかなか追いつくことができない。

 

 不意に宝塔型通信機がビカビカ光る。通信のようだ。その相手はにとり。

 

「飛ばしているけれど、まさかあの円盤に向かうつもりかい?」

「そうだ。永琳がさらわれた。何としても救出しないと!」

 

 一瞬にとりが凄い驚いたような顔をしていたが、今はそれどころではない。要塞に近づく侵入者を排除するべくバクテリアンの戦艦が背後から迫って来たのだ。「また後で」と通信を切ると迫るバクテリアン軍を迎撃する。

 

 後ろからの突撃を微妙に機体を傾けて回避する。通り過ぎた数は3機。その後まるでこちらの行く手を阻むようにアールバイパーの周囲を取り囲む。

 

「こいつら……『トリプルコア(※1)』か!」

 

 三位一体の小型高機動戦艦。それがこのトリプルコアである。多勢に無勢なので素早く数を減らしたいところだが、こいつらは仲間がいなくなるとより激しい攻撃を放つので一気に倒した方が安全なのだ。

 

 奴らはこちらを取り囲み退路を塞ぎつつ動き回り、弾幕を放ってくる。へっ、もとより逃げるつもりなんてサラサラねぇんだけどなっ!

 

「このっ! このっ……!」

 

 ネメシスとコンパクを展開し、ツインレーザーを当てていく。コアは耐久力が減ってくると青色から徐々に赤色に変色してくる。3機全てが赤くなった時に強烈なスペルをぶつけてやれば倒せるだろう。

 

 今は3体が電磁フィールドで繋がり合い、こちらを三角形のオリに閉じ込めつつ弾幕を放っている。フラフラと揺れ動きそれをかわしていく。こんな高速で飛行して交戦した状態、もし被弾したら銀翼から投げ出されてしまいまず命はないだろう。にとりの通信も気になるしこいつらはさっさと倒してしまおう。

 

「銀符『ツインレーザー』!」

 

 電磁フィールドが途切れた瞬間を狙いすかさずスペルカードを発動させる。……別に弾幕ごっこではないので兵装を変えない時は口にしなくてもいいのだが、すっかりクセになってしまったようだ。

 

 ショートレーザーの乱れ撃ち。今度はオプション達も加勢しているから3倍の火力だ! 錐揉み回転しつつのレーザーの雨あられは奴らのコアを全て一度に撃ち抜いていった。

 

「やりぃっ! ……おえっぷ」

 

 このスペルの弱点は俺自身が非常に目が回る事である。錐揉み回転しながら激しく左右に動くのだ、目が回らない筈がない。特に今のように調子づいて長時間やっていると吐き気まで催す。

 

「ちょっとぉ、吐いたりしたら承知しないわよ? それより誰かと通信していなかった?」

 

 そうだ、にとりが何か言いたそうにしていた。急いで宝塔型通信機を起動させ、にとりに繋げる。

 

「やっと繋がったか……。アズマ、今すぐ戻るんだ! アールバイパーは大気圏でしか運用できない! 防水や空調の対策はしてるから水中や深海は大丈夫だけれど熱対策はしていない! そんな状態で大気圏突破なんてしてみろ、あっというまに溶けてしまうよ!」

 

 気付くとアールバイパーがかなりの高度に達している事が分かる。もちろん永遠亭などここから見えない。空なのか宇宙空間なのかその瀬戸際なのではないだろうか。

 

「そんな事言ったって……、今は急がないと!」

 

 永琳を見殺しにはできない……。俺はにとりの忠告を無視して更に高度を上げようとした。

 

「わかったわかった! もう引き止めないよ。……でもちょっとだけ待って欲しい。こんなこともあろうかとアールバイパーに装着して使う大気圏突破用のブースターを作っておいたんだ。そっちに飛ばすからそいつと合体してから向かうんだ。いいね?」

 

 おお、それは凄い! しかし気になるには到着までの時間。それを聞いておかないと。

 

「ええと……。まず今君のいる座標軸をセットして、ブースターに燃料を注入し、その後飛ばすから……」

 

 やたら時間がかかるらしい。どうしよう、にとりを待っていたら手遅れになるかもしれない。でもこのまま向かったら溶けてしまう……。俺はどうすれば……?

 

 こうしている間にも永琳はゼロス要塞へと運ばれているのだ。モタモタしていると取り返しのつかないことになるかもしれない!

 

「それを待っている猶予はない。悪いけれど行かせてもらう!」

 

 強制的に通信を遮断し、俺はゼロス要塞めがけてフルスピードで飛び上がった。そしてついに捉えたのだ。永琳を触手で絡め取っていたパラサイトコアを! いや、厳密には遠過ぎて永琳までは見えないが、あの触手を見紛う筈はない。

 

 周囲の空間が熱を持ち赤く変色してきた。じんわりとコクピット内部が熱くなる。

 

「だ、大丈夫なの!?」

 

 ぶっちゃけ大丈夫じゃない。でも追わなくては、ここで引き下がったら凄く後悔すると思う。だから俺は突き進む。限界のその時を迎えるまで……。

 

「輝夜、よく聞いてくれ。今からあんたを『リフレックスリング』で掴んで、パラサイトコアめがけて射出する。輝夜は伸びきったところで飛ぶんだ! そしてパラサイトコアから永琳を救いだしてくれ!」

 

 熱い……。コクピット内の計器類も警告を発しており、赤い光がせわしなく動き回っている。

 

「馬鹿言ってるんじゃないわよ! そんなことしたらアズマは……」

 

 少し自虐気味にうすら笑いを浮かべながら返す俺。

 

「ははは、このままじゃあ燃えて何もかも溶けちまうな……。でも輝夜は頑丈な月人だ。きっと上手くいく」

「やらないわよ! 蓬莱人を何だと思っているのよ!? 確かに頑丈だし絶対に死なない体だけれど、痛いものは痛いし熱いものは熱いの! それにアンタのところの住職がそんな作戦絶対に許さない筈よ。みんな生きて帰るの。私も、永琳も、そしてアズマも……」

 

 確かに白蓮ならこんな自己犠牲の伴う作戦、絶対に許さないだろう。だが、このままでは……俺は無駄死にしてしまう。空気の摩擦による熱で燃えて溶けて……あっ!

 

「いいことを思いついた。かぐや姫なら持っているんだろう、『火鼠の皮衣』っ! 貸してくれ。アレがあれば燃えずに済むじゃないか!」

「ごめん持ってない。……でもいい考えね。ちょっと待って、これで代用できるかしら?」

 

 懐をゴソゴソとやり取り出したのは炎を纏った盾。何か間違っている気がするが……。

 

「神宝『サラマンダーシールド』っ!!」

 

 掲げられたスペルカード、その刹那再び感じる謎の一体感。永遠亭で輝夜と共闘した際にカグヤの兵装が使えるようになったあの時のような。アールバイパーを覆うのは真紅の炎。赤きフォースフィールドがアールバイパーの先端に取り付けられた炎の盾からなびくように全身を覆ってくれる。立ちどころに暑さが引いた。

 

 相変わらず大気圏突破を試みているところだが、この出力では突破ができなそうだ。ならば……。

 

「リフレックスリング!」

 

 逆回転させたリングをパラサイトコアに突き刺す。これでゼロス要塞まで運んで貰おう。

 

 輝夜と敵であるパラサイトコアの力も借りてどうにか大気圏を突破する。炎のように展開されていたフォースフィールドを解除すると、再び輝夜の元に盾が戻ってきた。

 

 振り返ると青々とした地球が見える。そしてその反対側にはバカでかいゼロス要塞の姿が……。もう目の前にまで迫って来ているのだ。

 

 だが、パラサイトコアに取りついているのがバレたようで、バクテリアンの妨害が始まる。リフレックスリングを離さないように回避するのだが、何せ慣れない宇宙空間だ。思うように動けない。危なっかしい挙動でどうにか回避していく。

 

 ついにはマスタースパーク並みの強烈なレーザー砲まで飛んできた。これ以上ここに取りつくのは危険だ。

 

「ぐっ、一度離れるぞ!」

 

 突き刺していたリングをまた逆回転させ、永琳から離れる。やはりゼロス要塞内部でないと決着がつかないようである。ならばまずはゴーファーを倒してしまおう。俺は迫る弾幕から逃げるようにゼロス要塞周囲をぐるりと回るように飛翔する。

 

 そして発見した。堅牢な要塞の壁面の中、内部に侵入できる穴を。ハッチからコアを持った巨大戦艦が出撃しているところだ。当然しばらくはハッチが開いたまま。

 

「あそこだっ、飛ばすぞ!」

 

 一声かけるとバイパーは急加速を行う。そしてハッチから出撃するビッグコアMk-IIと入れ違うように俺はゼロス要塞の内部へと侵入したのだ……。

 

 程なくしてハッチが閉まり始める。退路を断たれてしまったが、もとよりゴーファーを倒すまではここから離れるつもりはない。さあ、決着をつけよう!

 

 幻想郷とは遠くかけ離れたメカメカしい内装。デコボコに入り組んだ地形には、侵入者を排除すべく弾幕を張る砲台、執拗にこちらを狙ってひた走る自走砲「ダッカー」、背後から跳ねつつ弾幕を張り退路を塞ぐ「ジャンパー」等が待ち構えていたかのようにこちらに迫ってくる。

 

 床や天井だけではない。そちらにばかり気を取られていたら、虚空からワープアウトしてこちらに突っ込んでくる機雷「ザブ」への対処が遅れそうになった。慌ててバイパーの速度を落とし、前方に奴らを捉えると落ち着きを保ちつつショットで仕留めていく。

 

「どこもかしこも敵だらけじゃないの。アズマ、大丈夫?」

 

 天井すれすれを飛行し、ダッカーどもを1体ずつ丁寧に処理しながら俺はただ無言でうなずいた。その質問はナンセンスだ。大丈夫じゃないからと言ってここで諦めるわけにはいかない。今は少しでも前へ前へ進むことを考えるのみである。

 

「ねぇ、何か返事してよ……って後ろ!」

 

 しまった。小型の敵を吐き出すハッチを倒し損ねていたのだ。俺たちが素通りをしたのを見計らい、無数の雑魚敵を吐き出してこちらに突撃させてくる。バラバラと弾をまき散らしながら的確に迫ってくる。

 

「ちっ、これは賭けだが……」

 

 背後に回って撃ち落とすのが困難と判断し、俺はあえて機体の速度を上げ、狭い通路へもぐりこむ。吸い込まれるように通路に押し入ってくる雑魚敵ども。

 

 そして通路を抜けると、大きめなくぼみを発見。ここなら弾幕に晒されずに済む。すぐさまそこに潜り込んだ。

 

 くぼみの中で体勢を変えると、追ってきた敵機にこれでもかとツインレーザーをお見舞いする。よし、全滅させた! 周囲の安全を確認すると再び向きを変えて要塞の奥を目指す。

 

「全部やっつけたの……?」

「レーダーを見る限りではそんなにいないはずだ。さあ、手薄なうちに……」

 

 安心したのも束の間、天井が落ちてきたのだ。いや、頭上だけではない。通路そのものの地形が隆起している。なんとしても侵入者たる俺を排除したいようだ。

 

 なるべく壁に近寄らないようにし、激突させないように進めていく。と、遠くの通路が閉じられようとしていた。いかん、間に合わないぞ……。

 

「しまった、閉ざされる……」

「このままでは閉じ込められるわ!」

「ダメだ! バイパーの機動力では間に合わない」

 

 閉ざされた通路に激突しないよう減速する。これでは打つ手なしか……。いや、他にもルートがあるようだ。

 

「見てくれ! あっちの閉じた道ではなくてこっちが正しいみたいだ」

 

 レーダーを指さしながら輝夜に説明する。新たに開いたルートの先には強烈なバクテリアン反応が見られたのだ。ゴーファーのもので間違いないだろう。

 

 狭苦しい通路を抜けるとだだっ広い空間に出た。複雑に入り組んでおりレーダーがなければ迷子になっていただろう。敵要塞の深部でこれである。嫌な予感しかしない。

 

「大量の座布団がっ!」

 

 四方八方からおびただしい量のザブが突然虚空から姿を現すとこちらに突っ込んできたのだ。くっ、いくらバイパーでもこの物量はさばききれない……。

 

 すぐ目の前にワープアウトしてきたザブに反応できず俺はぶつかってしまう。

 

「ぐぁっ……」

 

 バランスを崩した銀翼目がけて次々に突進してくる座布団型の機雷。

 

「こういう時こそ『弾幕』よね。アズマ、私も加勢するわ!」

 

 ザブから逃げるように機体をフラフラと飛ばすと、リデュースを解除し輝夜を射出した。すぐさま美しくも力強い黄金色の弾幕を披露してくれる。板のように押し寄せる弾がザブのラッシュを薙ぎ払っていく。

 

「んースッキリ! アズマだけでは心もとないから私も外から援護するわ。感謝なさい」

 

 俺は無言でサムズアップしてそれに応えた。輝夜を置いて行かないように速度を抑えつつ先へ進むと、目の前の床が再び大きく隆起してしまった。同時に背後の床も盛り上がっている。これはもしや要塞の防衛システム? ボンヤリしていると立往生したり最悪押しつぶされてしまうだろう。

 

「囲まれちゃったわ! どうしよう……。わわっ、天井まで下がってきている!」

 

 こちらを閉じ込めて圧殺しようって魂胆か。いや、確かに天井は下がってきているが同時に床も下がっている。これでは押しつぶされようがない。ひとまず命の危機が来てないことを認識し、俺はため息交じりにつぶやく。

 

「違う、周りの床が上がったんじゃない。俺たちの周囲が下がっているんだ」

 

 何のことはない。どうやら巨大なエレベーターの類であったようだ。円柱型に切り離された小部屋はゴウンゴウンと重低音を撒き散らしながら下へ下へと俺たちを運んでいる。まさかバクテリアンが縦穴を使ってくるとは……。

 

「この先にあのゴーファーって奴がいるのかしら?」

 

 それは俺にも分からない。アールバイパーのレーダーはあくまで平面のみを表示するレーダー。機体の上下移動についてはさっぱり分からないものなのだ。答えが返ってこないと見るや、姫様はムスっとふくれっ面になり、エレベーターの中心の柱にもたれかかる。

 

 このエレベーター内には中心を少し外した場所に等間隔に3本の柱がそびえ立っているのだ。それらは半分くらいの高さで一度1本に収束し、再び折れ曲がるように3つに分かれ天井に至っている。変わったオブジェだ。バクテリアンも変な所でセンスを発揮しているな……。

 

 と、感心していたら柱がわずかに動いた気がした。3本の柱のうちの1つが浮き上がったのだ。

 

「輝夜っ、すぐに離れろ!」

 

 こいつは柱なんかじゃない! 要塞の最深部を守護するカニのような機械。こいつは……!

 

 迂闊だった。俺は「クラブ(※2)」のことをすっかり忘れていたのだ。バクテリアンの要塞最深部を防衛する多脚兵器。銀翼の兵装では破壊出来ない強靭なボディでこちらににじり寄って来て踏みつけてくる。

 

 幸い動きはゆったりしているので、もし出てきたらとっとと無視して飛び去ろうと思っていたが、このような閉鎖空間ではそうはいかない。赤紫色のボディをガシャガシャと動かし、こちらに寄って来た。

 

「踏み潰されるぞ。脚をくぐるんだ!」

 

 輝夜にそう指示を出し、俺自身も持ちあがった脚の中に入り込む。股下に潜り込まれたクラブはこちらを踏みつぶそうと脚を動かしてくるが、届かない。ざまぁ見やがれ! その巨体が仇となったな。

 

「なんかプルプルしてるけれど……」

 

 上から聞こえる声。気になって見上げてみると、確かにクラブの中心がプルプル震えている。何故かこいつはこうやって腰を振るようなモーションを見せるのだ。何故なのかって? わっかりましぇーん。

 

 ……と、ボケかましている余裕はなさそうだ。震えたクラブの腰から数体のダッカーが泡に包まれて出てくるのだ。どういう原理なのか、床に向かって重力が働くものと天井に向かって重力が働くものがいた。

 

「ぷぷぷ! 泡吹いてる。本当にカニそのものじゃない」

 

 泡を割って出てきたダッカーどもがクラブに踏まれないようにチョコマカと床や天井を駆け回り、弾を狙い撃ってくる。輝夜、笑っている場合ではないと思うぞ。ひとまず脚の間を再びくぐり、クラブの外側に退避した。

 

 機体をターンさせるとオプションを呼び、ダッカーどもを掃除していく。スペルカードであるオプションシュートやサイビット・サイファを使えば楽ではあるが、長期戦が予想されるので魔力の無駄使いは出来ない。フォーメーションオプション、つまり左右に編隊を組み、プチプチと敵機を倒していくのだ。

 

 再びクラブがにじり寄ってくる。今度は下にくぐらずに壁面ギリギリに陣取る。プルプル震える腰。またダッカーを産み落としてくる。その前に俺は腰めがけてツインレーザーとフライングトーピードを撃ちまくる。オプションのフォーメーションもトレースに変えており、一点を集中して放ち続けた。

 

 まずは青い光の針が、遅れて空飛ぶ魚雷がクラブの腰に着弾する。案の定手ごたえがないのだが、吐きだされるダッカーを処理することには成功した。……っ! クラブの脚が降り上げられる。ひざ蹴りを喰らってはひとたまりもないと機体をローリングしつつ平行移動を行う。

 

「上からも来ているわ!」

 

輝夜に注意される矢先、奴は上の脚を振り下ろしてきた。間に合わないっ……!

 

「操術『オプションシュート』!」

 

 咄嗟のスペルカード発動。アールバイパーが青白いオーラに包まれ、クラブのひざ蹴りから守られる。同時に勢いよく縦横無尽に飛び回るネメシスが残りのダッカーを体当たりで倒していった。

 

最後の1体を倒した後、大爆発……厳密にはネメシス人形の纏っていた魔力的オーラの爆発。魔力を失いふよふよと漂うネメシス。

 

「輝夜、その人形を回収してくれ」

 

 爆風によってよろけたクラブはしばらく動きを停止させた。輝夜、今のうちに人形を回収すれば安全だぞ。

 

 どうにかネメシスを回収した直後、再びクラブが動き出した。なんだか地団太を踏んでいるように見える。エレベーターの床が剥がれていく。どういう原理か、瓦礫は上方向に「落ちて」いく。それも何故かアールバイパーを狙うかのように。

 

 前に引きながら、瓦礫をツインレーザーで砕いていく。同時に踏みつけ攻撃も避けなければならないのでかなり苦しい。それでも銀翼を落とせないと見ると、遂に奴はジャンプまで始めてしまった。

 

「あああ……、危なっ!」

 

 上方でやり過ごしていた輝夜は急に迫るクラブの腰に激突しそうになり、一気に距離を取っていた。何度もその3本足で踏みつけようとズシンズシンと地響きを立ててくる。その度に俺は機体を細かく制御して踏まれないように逃げ回った。

 

 踏みつけたところからはまた床が剥がれ飛び散っていく。今度はこちらを追いかけたりはしないが、量がハンパなものではない。どうにか喰らわないようにショットを撃ちっぱなしにしつつ立ち回っていく。

 

これで何度目だろうか、クラブの脚が床に思い切り叩きつけられる。ズズンと床が大きく沈み込んだかと思うと、一気に床が抜け落ちてしまった。それはもちろん床に足付けてガシャガシャ歩き回っていたクラブも同時に落っこちることを意味している。

 

 6本足をシャカシャカ動かしながら、クラブは奈落の底へと消えていった……。この高さから落ちればいくら頑丈なボディでもひとたまりもないだろう。

 

 輝夜をアールバイパーに乗せると開いた大穴めがけて機体を進めていく。真っ暗であったが、一筋の光が漏れている。あそこがおそらく……!




(※1)トリプルコア
「グラディウス外伝」に登場したボス。それぞれは小型であるが3機が様々なフォーメーションを取って複合攻撃を仕掛けてくる厄介な相手だ。

(※2)クラブ
「グラディウスII」に登場した巨大な敵。要塞深部にて6本足でこちらを押しつぶそうと迫ってくる。グラディウスシリーズではおなじみの要塞深部での「蟹」ポジション、その元祖である。
基本的に倒すことは出来ないので(作品によっては倒せることもある)脚の間をかいくぐってやり過ごすしかない。
何度か往復するとどこかへ立ち去っていく。

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