東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

輝夜や白蓮の力もあり、ついに永琳を追いつめたアズマとアールバイパー。
ただでさえ強大なのに、バクテリアンと組んだことによってより一層脅威的な存在となった月の頭脳に苦戦する。

更に悪いことに何度倒しても「蓬莱人」ゆえにその度に蘇ってしまうのだ。

アズマは永琳を倒すことは諦め、彼女に力を与えているであろうバクテリアンの生物兵器「ゼロスフォース」を発見し、これを破壊した。バクテリアン軍の中枢を破壊され、機能を停止させる巨大戦艦達。

もはや永琳にバクテリアンを使役する術はない。新たな勢力を前に自らが霞んで消えてしまうという恐怖も、彼女が幻想郷一の医者としての誇りを取り戻したことで振り払われた。

異変は解決したと誰もが思っていた……

しかし不気味に上空に残り続けるバクテリアン軍の「ゼロス要塞」。アズマの嫌な予感は的中し、永琳が復活した「パラサイトコア」に捕らわれて要塞に連れて行かれてしまう。

全てはゼロス要塞に鎮座する「ゴーファー」が仕組んだことだったのだ。外界の英知として自らを受け入れた永琳に取り入ることで永遠亭を支配し、それを足掛かりに幻想郷をゼロス要塞のようなバクテリアンの世界に変えてしまうという恐ろしい計画……。

アズマは輝夜と共にアールバイパーを飛ばしてゼロス要塞へと突入する……。

恐るべきゴーファーの野望を食い止めるために……!


第17話 ~使命を背負って~

(その頃、人里では……)

 

 突如現れた緑色の円盤「ゼロス要塞」。みるみる大きくなるそれは、人々の間ではこのまま幻想郷に落ちてくるのではと噂になっていた。最初は憶測で誰かが何気なくつぶやいた一言。しかしそれは噂となり人々の間で広まっていき、「実は外界からやってきた妖怪が攻めてきた。あの円盤は侵略者の乗り物だ」等の尾ビレをつけながら、瞬く間に人里中に広がる大きな噂となっていたのだ。

 

「ににに……逃げなくちゃ!」

「逃げるったってどこに逃げるんだよっ? 下手に人里から離れてみろ、次の瞬間には妖怪どものエサになっているぞ!」

「そんなこと言ったって、あんなのが頭に落ちてきてもオダブツじゃないか!」

 

 パニックになり半ば暴徒と化した人々を押さえつけているのは人里を守る自警団の皆さんであった。

 

「危ないッスから……人里から出ないでくだせぇ!」

「あの円盤のほうが危ないだろう! どこでもいい、少しでも遠くに……」

 

 彼らのリーダーたる妹紅もそれに加勢する。

 

「外の方が十分危ないぞ! ここは慧音の妖術で隠されているんだ。空の奴らもここには気付いていないから安心して異変解決の専門家が来るのを待ってくれ!」

 

 人里を抜けだそうとする人間を妹紅と自警団がなんとか取り押さえている。ゼロス要塞の脅威もあるのだが、その前にただの人間が人里から出るのはそれ以上に自殺行為になるのだ。

 

 ところ変わって寺子屋では……。恐怖のあまりシンと静まり返った子供たちでひしめく教室。慧音先生も窓の外に目をやり、今もゆっくりと接近してくる緑色の円盤の様子をうかがう。

 

「落ち着くんだ! これだけの大規模な異変、博麗の巫女や妖怪賢者が黙っている筈がないだろう! 彼女たちを信じるんだ」

「いつ来るんだよっ!?」

 

「そ、それは……」

 

 それは先生にも分からない事。そもそも霊夢が赴くこと自体憶測の域を出ない事であったのだ。ゆえに的を得た答えは返せない。だが、彼女なら絶対に何かしらのアクションを起こす。それだけは確信できていたのだ。もちろんそんな答えで満足する子供達ではない。「いつ来るんだよ?」と口々にする子供達に慧音はほとほと困り果ててしまった。

 

「あっ! 何か飛んでいってるぞ!」

 

 そんな喧騒の中、一人の子供がゼロス要塞に向かう小さな影を発見した様子。やはり、霊夢がこれを無視する筈はないとひとまず安堵する先生。

 

「たった一人で立ち向かうつもりなんだ……。あれは巫女か、それとも妖怪賢者か!?」

「いや違う……鳥だ! ノッペリとした変な鳥の妖怪だ!」

 

 子供たちが見たものは異変解決のスペシャリストではなかった。慌てた慧音は窓の傍に駆け寄り夜空の様子を見る。子供達が言うように、あれは人の形をしていなかった。鳥のような、いや、慧音先生はこれが鳥ではない事を知っていた。

 

「いや、あれは巫女でも妖怪賢者でも変な鳥の妖怪でもない。超時空戦闘機『アールバイパー』だ」

 

 聞いた事のあるようなないような名前。子供達は頭にハテナマークを浮かべる。

 

「そう、アールバイパーだ。侵略の脅威が母なる星に迫る時、銀翼は時を超えて人類の希望となり飛翔する……。そういった伝説があるらしい。今はアレを信じよう!」

 

 銀色のラインを描き一直線に高度を上げていく。最後に先生はポツリと祈る。

 

「上手くやってくれよ、アズマ……」

 

 

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(その頃、博麗神社周辺……)

 

「ああもうっ! 折角の満月がヘンテコな円盤で台無しじゃない!」

 

 神社で地団太を踏んで怒り狂うのは異変解決のスペシャリスト、頭の大きな赤いリボンが特徴的な博麗の巫女であった。キッと睨む先はゼロス要塞。喧嘩早い彼女だ、次には「これは異変よ! あのヘンテコな円盤をぶっ壊す!」だろう。そして案の定その通りに捨て台詞を吐くとお札と御幣(お祓い棒のこと)を手に暗黒の夜空を飛行する。

 

「霊夢、今回は出ない方がいいわよ」

 

 が、声がしたかと思うと目玉だらけの異空間に突っ込んでしまう。普通ならこの異常事態にたじろぐであろうが、霊夢にとっては日常茶飯事のことであり、今更心を乱したりはしない。

 

 やれやれとため息をつきつつ、腐れ縁の妖怪の名を口にした。

 

「紫、邪魔をしないで頂戴! あれはどう見ても異変でしょう!?」

 

 紅白な少女を元の空間に押し戻すと、突如虚空に出現した「スキマ」と呼ばれる異空間の入口に腰かける少女を睨みつける。

 

「霊夢、もう一度言うわ。今回は出番なし」

「なんでよ?」

 

 刺々しく返答する。紫をも退治してしまうのではないかと思わせるほど彼女はイラついていた。

 

「あの要塞の周りを目を凝らしてよーく御覧なさいな」

 

 このスキマ妖怪はいきなり何を言い出すのかといぶかしながらもゼロス要塞の周辺を凝視する霊夢。程なくして銀色の光を描く飛行物体の存在を発見した。

 

「あの乗り物は確か……」

 

 彼女の目にはいつか弾幕ごっこでコテンパンにした乗り物の姿が映った。

 

「そうよ、超時空戦闘機『アールバイパー』。そしてそれを操る轟アズマ。あの円盤……『ゼロス要塞』というのだけれど……はアールバイパーと同じく外の世界からやってきたものなの。随分と厄介なシロモノが絡んでいるわ。外界の存在同士で異変が解決できるのなら私達は手出ししない方がいいい。……わかる?」

「わかんない」

 

 そんなに厄介な存在なら尚更戦力が多い方がいいのに……と不可解だという気持ちを思い切り顔に出している。そんな博麗の巫女の様子を見て扇子を口元に当ててクスクス笑う妖怪賢者。

 

「まあいいわ。とにかくまだ出てはダメ。わかったわね?」

 

 苦虫を噛むような表情ですごすごと神社へ戻る霊夢。まあ紫が行かなくていいと言うのなら大した異変ではないと言う事なのだろう。そう自らに言い聞かせ、ストレスを鎮めるべくお茶を飲むことにした。

 

 出撃を諦めたようである霊夢を神社の外から覗き込みながら、スキマ妖怪はゼロス要塞を仰ぎ見る。

 

「紫、霊夢を行かせなくて良かったの? アズマ君だけだとちょっと心配よ」

 

 自分が腰かけているスキマとは別の小さなスキマから友人である亡霊少女の声がする。彼女は今大怪我をしているので、紫は幽々子の声だけを博麗神社に移動させている。随分と器用な使い方だ。

 

「大丈夫よ。あいつは一人じゃないの。あの蓬莱人の姫もついているから。ほら、永琳が向こうにいるのよ。黙っている筈ないじゃない。それよりも体の調子はどうなの幽々子? 随分と派手にやられたそうじゃないの。よりにもよって可愛い飼い犬に」

 

 僅かに平謝りする妖夢の声が聞こえた気がした。

 

「うふふ、大丈夫よ。だって永遠亭だもの。月のウサギさんがいい薬を処方してくれたわ。亡霊にもちゃんと効くので助かったわよ。それで話は戻るけれど、どうして霊夢を……」

「さっき、霊夢との会話聞いてなかったの?」

「無茶言わないでよ……」

 

 聞いてる筈がない。霊夢と会話していた時は幽々子と通信などしていないのだから。

 

「外界からやって来た問題事は外界からやって来た銀翼で解決出来ればそれに越した事はないわ。それに……伝説だか神話だかお笑いだかは知らないけれど、あのゼロス要塞が出てくる度に、銀翼があの内部まですっ飛んでアレを破壊するって伝えられているそうよ」

 

 アールバイパーとの決闘の後、紫は外界に赴いて銀翼の事をあれこれ調べていたらしい。今も描かれる銀色の光に目をやりながら紫は続ける。

 

「謎だらけのアールバイパーについて何か解明できるチャンスよ。もちろんアレがしくじったら霊夢を向かわせるつもり。もっともあの男はこの私を決闘で下した程の実力者だし、そう簡単にくたばるとも思えないけれどね」

 

 紫の言う「決闘」とはアズマが幻想郷で生きていく権利を勝ち取るために仕掛けた弾幕ごっこのことである。

 

「決闘って、あの上海人形の突撃でやられた時? かなり手を抜いていたんでしょう? 紫ったらバレバレだったわよ。でも人間にしては……十分すぎる強さよね」

 

 投げやりに「まあね」と答えると妖怪賢者はゼロス要塞に向かう銀翼に改めて目をやる。そして幽々子にも聞こえないほどの小声でつぶやくのであった。

 

「『人類最後の希望』……か。胡散臭い二つ名だけれど、その希望とやらに賭けてみるのも面白いかもしれないわ」

 

 あくまで演劇でも見るかのように呑気にスキマに腰かけ、薄ら笑いを浮かべながら円盤の浮かぶ夜空を深呼吸をして仰ぎ見る妖怪賢者なのであった。

 

 

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(その頃、霧の湖……)

 

 いつもは静寂に包まれる湖であったが今夜に限って言えば相当やかましい。至る所で妖精たちがキイキイと甲高い声を上げて空を指さしているのだ。これだけの注目の的となっているのはもちろんゼロス要塞である。

 

「チルノちゃん……、あの緑色のやつ本当に落っこちてくるの?」

 

 はやし立てる者、逃げ惑おうとする者、ただただ訳も分からず踊りまくっている者。様々なやかましい反応を見せる妖精たちの中、少しオドオドしながら友達に話しかける緑髪の彼女は異彩を放っていた。

 

「へへーんだっ! おっこちてこようともあたいが蹴散らしてやるわ! それともピューンってあっちへ飛んでいって凍らしてやってもいいわね! だから大ちゃんはなんにも心配いらないよ!」

 

 大見得を切る氷精であったが、チルノ自身もどうすればいいのか分からないままであった。でも大ちゃんと呼んでいた友達が怯えている。自分まで弱気になってしまってはいけない。だからこそいつも通りの振る舞いをしているのだ。

 

「む、無茶だよ……。すっごく大きいんだよ? 落っこちた時点で大惨事になると思うの。それにあの円盤は空のずっとずっと上の『宇宙』ってところにあって、そこに辿り着くには『大気圏』ってのを抜けなくちゃならないの。そこはとっても熱い所らしいわ。いくらチルノちゃんでも……」

「うう、あたい熱いのニガテ……あれ、なんか飛んでる!?」

 

 氷精の青い瞳が映し出したのは緑色の円盤に一直線に立ち向かう銀色の光。キラリと光るそれは超時空戦闘機「アールバイパー」が描く銀色のラインであった。それを指差してチルノはドヤ顔で胸を張る。

 

「大ちゃん、何も心配する事はないよ! ほらアレ! 銀色の光りがピューって飛んでる。アールバイパーがやってくれるみたいだ!」

「あーるばいぱー……?」

 

 まあ当然の反応である。大ちゃんはこの銀翼との面識がないのだから。

 

「『チョウジクウセントウキ』の『アールバイパー』だよ。あたいのマナデシかつ、えーえんのライバル! あたいがちょっと鍛えたらあのスキマババアもやっつけちゃったんだよ! 最強なあたいのオスミツキだし、あの円盤もサクっとぶっ壊してくれるよ!」

 

 まるで自分の手柄のように大笑いしながら空を見るチルノとは真逆の反応を見せる大妖精。大丈夫かなぁと心配しながら円盤を見つめるのであった。

 

「ほら、アイツを信じられないの? アイツを信じないって事はあたいを信用していないって事にもなるのよ! さあ、アールバイパーが上手くやってくれるように応援しないと! ガンバレー、ガンバレー!!」

 

 訳も分からずはやし立てるように空に向かってエールを送る。他の妖精達も趣旨が分かっているのかいないのか、思い思いの応援の言葉を空に投げかけていく。

 

 霧の湖ではかつてない程の大声が何度もこだましていた……。

 

 

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(その頃、紅魔館では……)

 

 紅の洋館でもゼロス要塞は異彩を放っていた……。下唇をかみしめながらそれを鋭く睨みつけるのはメイド長こと十六夜咲夜。偽りの月の異変かと思えば奇妙な円盤が出てくるのだから。

 

 そして彼女が一番信じたくなかった事。先程から震えが止まらないのだ。

 

 寒いからでも武者震いをしているからでもない。……怖いのだ。明らかに幻想郷に似つかわない奇妙な円盤だ。メイド長と言えど少女。そう感じるのも無理はない。だが、それを認めたくない咲夜はただ震えをこらえつつ睨みつけることしか出来いのだ。誰の助けも借りられず。

 

「咲夜、本当は怖いのでしょう?」

 

 背後から幼き主の声、それも不意にかけられたので咲夜は思わず変な声を出してしまう。

 

「おおお、お嬢様! ここにいては危険です。あの円盤がいつ次の行動に移るか分かったものではないのですよ」

 

 そんなのお構いなしにツカツカとメイド長に歩み寄る吸血鬼。その小さな手が咲夜の頬を優しく包んだ。優しく触れられたことで思わず体中の力が抜けてしまう咲夜。へたりとその場に座り込んでしまった。

 

「虚勢を張らなくてもいいわ。いつだって運命が味方してくれるのだから。咲夜、ゼロス要塞……緑色の円盤の周りをよく見て御覧なさい。銀色の翼が見えるわね?」

 

 言われたとおりに座り込みながら夜空を凝視する咲夜。そして彼女は見つけた。たった1機で円盤に突っ込まん勢いで飛行する銀色の翼を。

 

「あれは確か……お嬢様をショットガンで吹き飛ばしたいつぞやの侵入者?」

「そう、銀翼『アールバイパー』ね。バクテリアンが人類を脅かす時、銀翼は時を超えて人類の希望として飛翔し、あのバクテリアンの要塞を爆破させるそうよ。幾度となく繰り返されてきた運命、歴史、伝説そして神話……。アズマがその伝説通りにあんな円盤を爆発させるわよ。そういう運命なのだから」

 

 咲夜には夜空をバックに腰に手を当てる吸血鬼の少女がとてもカッコよく見えた。いつになくカリスマを放っているように見えたのだ。

 

「よく言うわよ。あの変な鳥の妖怪……アールバイパーだっけ? アレを最初に見つけたのは私なんだけど」

 

 ジト目でレミリアを睨みつけるのは相変わらずゆったりとしたローブに身を包むパチュリーであった。表情を読みにくい彼女ではあるが、口元や口調から不満を募らせている事が分かる。

 

「それにあの円盤が何者なのかとかその神話だかお笑いだか極上だかは知らないけれど、文献を見つけてきたのも私よ。大体レミィだってそんなに偉そうにしているけれど私が色々と調べる前は……」

 

 サァっとレミリアの顔から血の気が失せる。口封じをしようと翼を展開し紫もやしめがけて接近するが時既に遅し。しゃがみ込みつつ声色をレミリアに寄せてパチュリーが続けた。

 

「『うー、怖いよぅ! 円盤が落っこちてくるよぉ……』って情けない声を上げながら頭抱えてしゃがみこんでいたのは何処の誰だったかしら?」

「あーあーあー! それ言わないって約束したのに! パチェのばか~!」

 

 涙目になりながらポカポカポカと図書館の魔女を殴る吸血鬼。そのやり取りを座り込みながら一部始終見ていた咲夜は少しだけ恐怖心から解放されるのであった。

 

 

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(そして永遠亭最深部……)

 

 天井が崩落し、夜空が覗く永遠亭最深部。

 

 そこから勢いよく発進したアールバイパーは幻想入りしたバクテリアンの要塞を爆破させるべく戦地へ赴いて行った。輝夜も永琳を救うというまた別の戦いの為、アズマと共に出撃している。

 

 そして部屋の隅っこでは鈴仙による投薬での治療を受けている幽々子と彼女を看病する妖夢が怪我というまた別の脅威と戦っているのだ。

 

そ んな中、白蓮はと言うとただただゼロス要塞とそれに向かっていく銀色の光から目が離せないでいた。そしてゆっくりと目を閉じて祈りをささげる。

 

「アズマさん、輝夜さん、永琳さん……。どうか無事に帰って来て……」


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