東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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一輪とムラサがかなりしょーもない理由で弾幕ってます。弾幕ごっこで決めることが人の命運や幻想郷を左右する異変等のようなシリアスなもの以外もあるってのを表現したかったのです、はい。霊夢と魔理沙が拾ってきた食材の調理方法をめぐり、激しい弾幕戦を繰り広げる(東方香霖堂より)みたいな。こういう役どころを命蓮組にやらせるのはちょっと難しいですね。


第3話 ~銀翼、再び墜落す~

 命蓮寺の朝は早い。そうか、昨夜は早く眠りについてしまっていたのだ。腕時計は……良かった、動いている。少し奮発して太陽エネルギーで動くタイプのものを買っておいて良かったと思っている。こんな状態では電池を探すことも出来ないし。そもそもこの世界に電池なんてあるのだろうか? それにしても起床するにはいささか早い気もするが……まあいい、起きてしまおう。

 

 元いた世界ではこんなに早く起きる事なんてなかったのでどことなく清々しい。何故か枕元に用意されていた着替え(ナズーリンがこっそり用意したのだろうか)に袖を通すと部屋を出、空を眺めた。突き抜けるような蒼。晴天だ。雲なんてポツリポツリくらいしか見られない。空気もうまいし花火も綺麗……えっ? 花火だって!?

 

 そう、花火なのだ。よく見ると水兵服姿の少女が巨大なイカリを振り回しながら花火……いや、弾幕を放っている。誰と戦っているんだ? 雲と戦っている!? いや、雲じゃない、拳だ。いや待て待て、拳じゃなくてオッサンのでかい顔。いや、雲か。次々と姿を変えていく。ええいハッキリせい! 水兵服の少女と雲のバケモノが弾幕で競い合っているようだ。

 

 更に目を凝らすと、雲の化け物を操っている別の存在に気がつく。頭巾を被ったこれまた少女。あっ、イカリが雲の操り手に思いっきりぶち当たった。ヒュルルルと頭巾の少女が墜落する。が、器用に体をくねらせて上手に着地していた。水兵服の少女も降りてくる。

 

「私の勝ちですよ、一輪。それじゃあ水を汲んできて」

 

 セーラー服の少女が一輪と呼ばれたフード姿の少女に桶を手渡す。何でお寺なのにシスターがいるんだろう……。この世界では外の世界の常識がほとんど通用しないようだ。

 

「ムラサはせっかく柄杓を持っているのだから自分で行ってくればいいのに」 

 

 ムラサと呼ばれた少女に不平を洩らす一輪。雲の化け物は既に行く気満々のようだったが。まああの巨体がいれば水汲みなんて造作もないのだろう。

 

 それにしても朝っぱらからしょーもないことで決闘するとは……。しかしこの「弾幕ごっこ」と呼ばれる決闘、魔法弾らしきものをまるで模様を描くように飛ばしており、攻撃するのにいささか非効率的な気もする。だが見た目は綺麗だしそれぞれ芸術品を見ているかのような美しさを持っていた。美しさでも勝負しているのだろうか?

 

 まあ、生身の人間に弾幕ごっこなんて出来るはずもない。俺には関係のない世界だ……。

 

 そう割り切ると、聖の様子が気になった。何か人ではない体とか言っていたが、あれだけの怪我がすぐに治せるとは到底思えない。確か部屋はこっちの方向だったと思うが……、迷ってしまった。命蓮寺はやたら広いのだ。

 

「あれれ、アズマさん? おはようございます。ふふっ、貴方も早起きさんなんですね」

 

 ご本人に会ってしまった。というかあれだけ傷だらけだったのに、傷口はふさがって……いや、跡すら残っていない。すんごく頑丈なんだな。はぁ、このお寺に人間は俺一人なのだろうか……。ちょっと心細い。

 

「そろそろ朝食の時間ですので一緒に向かいましょうね。一緒ならばもう迷わないわ」

 

 迷子になってるのバレバレだった。うう、恥ずかしい……。

 

 

 

 

 朝食を済ませると、聖がこの話を切り出した。紛れもない俺自身のことである。どうやってかくまい続けるのか。

 

 重苦しい空気が漂う。そもそも紫は俺の居場所を知っているはずなのだ。あのスキマ(紫の能力で生み出すワープ空間の正式名称らしい。聖に教わった)でこちらまで移動して寝込みを襲うくらい造作もないはずなのである。

 

 でも紫はその手段を使用しない。まるで大きな掌の上で泳がされているような嫌な感じだ。そう、答え自体は見えてきているのだ。しかしそれは自らの力ではどうにもできないこと。

 

「『弾幕ごっこ』……。幻想郷での揉め事はこれを使って解決している。でもアズマさんは……特殊な力を持たないただの人間」

 

 水汲みの当番決めから幻想郷を左右する大きな事件(春が来なくなったり、夜が明けなくなったりという「異変」が過去の幻想郷で何度か起きていたようだ)まで、「弾幕ごっこ」と呼ばれる決闘方法で解決されてきたらしい。もしも紫を「弾幕ごっこ」で負かすことが出来ればこれ以上俺の命を狙うことをやめさせることも出来るはずだ。

 

 俺に敵意なんてのはないんだ。紫が俺の話に聞く耳を持たないというのならば、こちらの事情を話し敵意がないことを認めさせなくてはならない。聞く耳を持たないというのならば多少強引な方法だとしても聞いてもらうのみ……だ。

 

「うう、俺も自由に空が飛べて弾を撃つ手段さえあれば……」

 

 しかし飛べない、戦えない俺にその選択肢は選べない。うう、無力な自分が恨めしい。今ばかりは突き抜ける青空も妬ましい。そう、あの鳥のように自由にキーンと飛べるのなら……

 

 ……いや待て。鳥があんな甲高い音を立てるか。というか全身がカクカクで羽毛らしきものが見当たらない。あれは機械だ。いくら常識が通用しない幻想郷だからって機械仕掛けの鳥なんてそうそういるものじゃない。あれは飛行機だ。ってか「アールバイパー」が空飛んでるんですけど。壊れていた筈じゃあ? だが、あのこちらに向かってくるアレは何だ。先端が真っ二つに割れている飛行機なんて他に知らないぞ。

 

「おぅい、盟友! 止め方が分からないー!」

 

 誰か乗っている。素っ頓狂な悲鳴がここまで聞こえるではないか。大声に気付き、俺の他も窓から空を見上げている。その戦闘機はそのまま無理矢理高度を下げ始めているのだ。おい、これはまさか……。

 

「ちょっと荒っぽい着陸をするよっ!」

 

 あろうことか、命蓮寺に落ちてきて、建物に思い切り突き刺さった。爆音が響く瞬間、俺は耳をふさぎ目を閉じた。衝撃が収まり目を開けてみると命蓮寺の壁に大穴をあけてしまった「アールバイパー」の姿が目の前にまで飛び出していた。あと少しで轢かれていたぞ、コレ。

 

 人はそれを着陸とは呼ばない。墜落と呼ぶ。カパっとキャノピーが開くとリュックサックを背負った少女がひょっこり出てきた。人懐っこそうな顔つきであるが何者なのだろうか。とりあえず変人であることは分かる。それが悪戯っぽく舌を出しながらこう言うのだ。帽子を直しつつ。

 

「ええと盟友、落し物だぞ」

 

 落としたのはお前だ。

 

 

 

 

 

 我が愛機は一輪が使役している入道「雲山」がお寺から引き抜いており、ひとまず正しい向きに置いてくれていた。大破していたはずなのに、そして命蓮寺に突っ込んでいたのに傷一つなく、新品同様に戻っているようだ。

 

 壁からアールバイパーが取り除かれて、命蓮寺の穴が明るみに出る。リュックサックの少女はいささか、いや相当ばつが悪そうであった。帽子を取り、聖に何度もペコペコ頭を下げている。

 

「壊してしまった部分は責任を取って直しますから、だから哀れな河童にお許しをー!」

 

 河童? あの頭のお皿に背中の甲羅が特徴的な奴か? きゅうりと泳ぎと相撲が大好きな悪戯好きの妖怪……なのだが、お皿なんてないな。甲羅もない。大きく膨らんだリュックサックが甲羅に見えなくもないが……。

 

 そんなことより! アールバイパーが再び戻ってきたことの方が自分にとっては重要だ。

これが動けば俺は空も飛べるし弾だって撃てる。そう、それはつまり……!

 

「出来る、出来るぞ! 俺にも『弾幕ごっこ』とやらがー!」

 

 喜々として思わず大声で叫ぶ。響子がどこかにいるのか、「やらがー!」と何度かこだましている。それだけ大声だったのだ。

 

 あまりの大声に皆がポカンとこちらを見る。無音が続く。ただ河童の少女が小声で「ひゅい?」と驚きの声をあげていたくらいだ。

 

 皆が自分に何かを言いたそうな顔つきをしている。だがハッキリと言葉を発する者はいない。「あー」とか「ええと」とか的を得ない言葉が時折彼女たちの口から漏れるくらいだ。

 

 意を決したのか、聖が重い口を開く。

 

「とても言い辛いことなのですが、貴方は……かなり可笑しなことを口にしているのですよ」

 

 そうかもしれない。皆に慕われている聖だって、紫に「弾幕ごっこ」で勝てなかったのだ。幻想郷の創造主たる大妖怪にこんなヒヨッコが勝負を挑むなんてのはちゃんちゃら可笑しいということなのだろう。

 

「無謀なのは俺にだって分かっている。でも皆がこんな事態に陥ったのも不可抗力とはいえ俺のせい。だから俺自身の手で決着をつけたいんだ!」

 

 その決意が揺らぐことはない。俺は寺の善良な妖怪達を面倒な事件に巻き込んでしまったのだ。しかも俺が乗っていた銀翼によって天井に大穴まで開けている。

 

「ええっと……それもあるのですが、もっと根本的なことです。そうですね……。貴方はフリフリのワンピースを着て町を歩いたりはしますか?」

 

 変な事を聞くものだ。自分に女装趣味なんてものはない。無言で首を横に振った。

 

「貴方は、殿方である貴方は女の子の遊びに首を突っ込もうとしているのですよ?」

 

 およよ? 予想外の答えに変な声を上げてしまった。「弾幕ごっこ」はこの世界における決闘の手段だと思っていたが、遊び? それも女の子の? お手玉、おはじき、おままごと、弾幕ごっこ。そういうことなのだろうか?

 

 いまいち理解出来ない。それじゃあ幻想郷の平和は遊びで守られてきたということなのか? こうなったら後には引けない。俺はさらに力説する。

 

「問題ないです。外の世界では『ジェンダーフリー』が流行っています。進んで家事を行う男性、稼ぎに出る女性、そういう人も増えつつあるのが今の外の世界なんです。さあ、弾幕ごっこにも『ジェンダーフリー』の風潮を!」

 

 必死になって演説するも、半ば呆れている命蓮寺のみなさん+α。唖然としながらも、今度は星が口を開く。

 

「まあ、確かに人と妖怪が対等の状態で決闘を行う手段として『弾幕ごっこ』そして『スペルカードルール』は作られてきましたが、まさか人と妖の境界だけじゃなくて、男と女の境界まで薄めてしまうとは……」

 

 彼女は苦笑いしているが頭ごなしに否定しているわけではない。だが、誰が何を言おうとも、俺の意思はもはや揺るがない。となるとアールバイパーをそれらしく改造する必要がある。

それが出来そうな人……じゃなくて妖怪は……。

 

 たった一人で、そして一日で鉄クズとなった銀の翼を蘇らせた河童。自分は真っすぐに彼女を見つめる。

 

「ま、まあ君がどうしてもって言うなら協力しないでもない。谷河童のエンジニア『河城にとり』としてもこの銀色の鳥には興味があるわけだし……。よし、乗った! どうせしばらくここで泊まり込みで働かないといけない身だしね。建物の修理よりもメカ弄ってる方が楽しいもん」

 

 河城にとりと名乗る河童はポケットからスパナを取り出しており、やる気満々のようだ。自分も彼女についていく。これから自分自身の武器となるものだ。技術面では分からないことだらけだが、要望くらいは話しておこうと思ったのだ。

 

 先ほどから少々話が上手くいきすぎている気もするが、幻想入りして最初の出来事が最悪だったんだ。これくらいの埋め合わせがないとやってられない。

 

 このまま自分が「弾幕ごっこ」を行うという方向で話が進みそうだ。それでいい、それでいいんだ。

 

 どんなに変な奴と思われても、どんなに無謀だと言われても、聖が、命の恩人が傷つくところをもう見たくない。そしてそれは自分がちゃんと使命を果たす必要があるということも意味する。誰も悲しませない。

 

 生きたい……否。生きる、生き抜いてやる。俺の手で生きる道をもぎ取ってやるんだ。俺の生き様をあのスキマ妖怪に見せつけてやる!

 

 

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 そこに一つの目玉が光った。命蓮寺の天井に有る筈のない「穴」が開いていたのである。穴の中から不気味な目玉が、アールバイパーを、白蓮を、にとりを凝視していたのだ。

 

 一連の出来事を見終わると目玉は消えた。おぞましい紫色の亜空間の「穴」と共に。目玉がわずかにほくそ笑んだ気がした……。




そして大破した筈のアールバイパーが空を飛んでいます! やはりというかご都合主義というか……、メカとは切っても切れない関係を持っているキュウリ大好き娘が出てきます。
「ちょっと荒っぽい着陸」の元ネタ(魂斗羅ザ・ハードコア)分かる人いるんだろうか……?

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