東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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バニシングコアを撃破し、鈴仙を救出したアズマ。
すぐさま下のフロアで戦っている白蓮を援護しに向かう……。


第15話 ~応病与薬の月の民~

 最奥で威風堂々と佇むは永遠亭の月の頭脳、そして幻想郷にバクテリアンを呼び寄せた張本人。先程のバニシングコアとの戦闘でブチ抜かれた天井からは星空が、そして忌々しい緑色の円盤「ゼロス要塞」がのぞいていた。

 

「来たわね、超時空戦闘機『アールバイパー』。そして銀翼の駆り手『轟アズマ』! 彼らバクテリアンは私たちの存続にかかわる存在。この異変の、私の生きるという意思を邪魔するというなら全力で抵抗するわよ……」

 

 いまだ弓にエネルギー弾を番え威嚇する永琳。生きるための戦い。確かにそう言っていた。でも蓬莱人は決して死ぬ事はない筈……? いぶかしむ俺に白蓮が事情を説明した。

 

「それは……」

 

 彼女から事情を聴き、合点がいった。存在を否定される、忘れられると妖怪は消滅してしまうようだが(命蓮寺の響子もあと少しで消えてしまうところだったらしい)、さしもの蓬莱人もこの消滅までは対処できないのだという。

 

 なるほど、確かに生きる為の戦いだ。そういえばかつての俺も生きる為の戦いを繰り広げてきた。

 

 訳も分からぬうちにアールバイパーが具現化し、訳も分からぬうちに幻想入り。理不尽な理由で強大な妖怪「八雲紫」に命を狙われ、そして気がつくと白蓮に庇われ、命蓮寺の一因になっていた。

 

 そこから始まる八雲紫に弾幕で勝利するための戦い。あれはまさしく幻想郷で生き続ける為の戦いであった。

 

 俺のしてきた事は正しかったのだろうか? 俺が幻想入りした事で幻想郷のどこかで歪が生じていないか、誰かが踏みにじられていないか……。思わず操縦桿を握る腕の力が抜ける。

 

 いいや、今は悩んでいる場合ではない! 永琳の異変を完遂させてしまえば幻想郷はバクテリアンの支配する世界になってしまう。それは何としても阻止しなくてはならない! 抜けかけた力を、闘志を呼び覚まし、雄たけびを上げつつ高らかに宣言した。

 

「ならば幾度となく繰り返されてきた伝説や神話のように、この銀色の翼『アールバイパー』でバクテリアンごとお前の野望を打ち砕く!」

 

 今度は大丈夫だ。ロックオンサイトに永琳を捉え、臨戦態勢を取る。

 

「伝説ぅ? アッハハハハ……! 随分とロマンチックな事を言い出すのね。この無数に現れるバクテリアン達をたった数人でどう料理するのかしら? そんな古臭い伝説など打ち砕いて誰が新たなる幻想郷の支配者に相応しいか、思い知らせてあげるわ!」

 

 最初にけしかけてきたのは妖夢と幽々子さん、つまり永琳の手に落ちてしまったという冥界の住民チームの2人であった。だが、夜空の星々の光がこの異常事態のタネを煌々(こうこう)と照らしていた。

 

「何かと思えば『パラサイトコア』じゃないか」

 

 パラサイトコア。本体から生えた機械の触手で標的を突き刺すことで、それを操るという能力を持ったバクテリアン軍の戦艦である。白蓮が対峙していた時は真っ暗闇でこの二人にしかスポットライトが当たっていなかったために操り主の存在に気が付かなかったのだろう。

 

 すぐに永琳を倒したいところだが、この二人をまず救出しないと何をされるかわかったもんではない。人盾、人質、生贄……。ちょっと思索しただけでこれだけの陰惨な手段が思い浮かんだ。うむ、まずは彼女たちを助けよう。

 

 ならば話は簡単。パラサイトコアを破壊してしまえばこの二人は解放される。

 

 妖夢達を傷つけるわけにもいかないし、俺はその触手の懐目指してアールバイパーを発進させた。一気に懐に潜り込まれた奴は慌てて触手を動かし俺を排除させようと妖夢を操る。

 

「リフレックスリング!」

 

 先程のバニシングコア同様、一度に多くの遮蔽版にダメージを与えるべく、このヨーヨー状に動くリングをめり込ませる。ガリガリと遮蔽版の削れる音。そして悲鳴……悲鳴?

 

「アズマさんっ、後ろ!」

 

 反射的にアールバイパーの高度を下げ、少し引く。光を失った瞳で妖夢がその楼観剣をギラつかせていた。あと少し反応が遅れていたらアールバイパーが、下手したら俺までもが真っ二つになっていただろう。

 

 もちろん妖夢は攻撃の手を緩めない。仕損じたと認識すると異常なほど首を回転させ、こちらを凝視、再び楼観剣を振り上げて突っ込んできた。攻撃を当てるまでやめるつもりはないらしい。

 

 俺は無意識にスペルカード「銀星『レイディアント・スターソード』」を手にしていた。喉の奥までこのカード名が出かかったが、途中でハッとなり声を飲み込んだ。こんな場所でスペルカードを発動して大ぶりの剣なんて振り回したら妖夢も幽々子さんも無事では済まないだろう。再び回避を試みた。

 

 ……危ういところで刃がかすめる。しかしその直後、断末魔なのではないかと見紛うほどの金切り声が響く。

 

 まさかオプションのどちらかがその凶刃の犠牲になったのか!? 俺は声のする方向を振り向き驚愕した。

 

「アアアア……!」

 

 なんと左肩からバッサリと楼観剣で袈裟斬りにされた幽々子の姿があったのだ。

 

 楼観剣といえば幽霊をも斬り刻むことの出来る刀であるらしい。そんな一撃をモロに受けてしまったのだ。いくら幽々子といえどまず無事ではない。

 

「ああっ! 幽々子様っ!?」

 

 自らの主の悲鳴だ。妖夢の洗脳を一時的に解除するには十分すぎる大音量であった。自らがしてしまった事実を前にオロオロとたじろいでいる。

 

「今が好機ですっ!」

 

 アールバイパーを踏み台に、大きく跳躍する白蓮は一気にパラサイトコアの中心部に取りつき、至近距離から手刀を振るった。空を切り、そして遮蔽版を両断するチョップ。さらに反対側の腕で今度はコア目がけて拳を当てようとする……が、反撃を警戒したのか、一度離脱した。

 

 その直後、バチバチと放電するエネルギー弾を弓に番えた永琳がそれを思い切り射る。間一髪、白蓮はその直撃を回避したが、エネルギー弾はそのままパラサイトコアに直撃。青く濁りのなかったコアは灰色に変色し、その機能を停止させてしまった。

 

「安心なさい。小うるさい僧侶など端から狙っていなかったわ。せめて盾くらいに働ければと思ったけれど、それすら全う出来ない、それどころか邪魔をするのならこんなデクの棒は要らない。そこで勝手に朽ち果てていなさい」

 

 巨大戦艦の洗脳から完全に解放された妖夢は手負いの幽々子を抱き、戦線を離脱する。当の亡霊少女は今も弱弱しく喘いでおり、相当のダメージを負ったのであろうことが伺えた。

 

「味方を味方とも思わずに道具扱いってところか。まあいいさ、ならば道具の使い主を叩き潰すだけだ!」

 

 この非情なる月の頭脳の暴走を止めなくてはマジで幻想郷が危ない。俺は持ち前の機動力で先制攻撃を仕掛けることにした。

 

 持ち前の機動力で一直線ではなく、ジグザグに少しずつ接近する。対する永琳は弓を番えてエネルギー弾をこちらに狙って撃ち込むのだが、速いだけでただ直進するだけの弾なので、簡単に対処できた。

 

「は、速い……」

 

 ついに標的を真正面に捉えた。ロックオンサイトから永琳が外れないことを確認するとネメシスとコンパクを展開し、習得したばかりの対空ミサイルをお見舞いする。

 

「フライングトーピード!」

 

 音もなく浮遊したミサイルが一度ぴたりと止まると、一直線に直進する。その数6発。弓を番えて迎撃を試みる永琳であったが、アールバイパーを放っておくわけにもいかず撃ち落とすのは難儀している様子だ。もちろん俺とてこれで攻撃の手を緩めるわけではない。さらに間合いを詰めて追撃を行うつもりだ。

 

 今度は近距離からのリフレックスリング。一番ダメージの通る絶妙な間合いで放つことに成功した。再びこちらに矢を向けるが、縦横無尽に動き回るアールバイパーには追いつけていない。どうやら彼女は接近戦が不得手のようだ。ならばこのまま一気にケリをつける!

 

 だが、そう簡単にはいかない。この状況を打開すべく永琳が掲げたのはスペルカード。

 

「神符『天人の系譜』」

 

 宣言と共にバイパーから距離を取り、弓からではなく直接レーザーを放つ。動きこそ遅かったが、ハニカム状に拡散していったのだ。目の前をレーザーが横切り俺は一度アールバイパーの速度を落とし突っ込まないようにした。

 

 だが、それは彼女の思う壺であったのだ。これは素早い鳥を囲うためのケージ。もとよりレーザーで仕留めようだなんて考えていなかったようだ。アールバイパーから機動力を奪ったうえでの狙い澄ました一撃……。番えられた弓から素早いエネルギー弾がアールバイパーを貫く。

 

 強烈な衝撃に悲鳴すら上がらない。文字通り貫通された銀翼はバランスを崩し落ちていく。今の一撃で動力が止まってしまったらしい。追い打ちをかけるように扇状にショットを放ち、アールバイパーの腹に穴をあけていく。

 

「まずい、やられる! 誰か援護を……」

 

 だが、周囲の戦況を見て愕然とした。鈴仙も輝夜も他のバクテリアン軍との戦闘で手一杯であるようなのだ。これでは援助は期待できない……。

 

「これでジ・エンドね」

 

 今度はコクピットを狙い弓を引き絞る。操縦不能に陥ったアールバイパーに回避する術はない。これが撃ち抜かれるということは即ち俺があの凶弾の餌食となること。まず命は助からないだろう。目元は暗くてよく見えなかったがニヤリと笑みを浮かべているのはわかった。

 

 今まさに放たれる。その電気の走った光が俺を破壊する……。

 

 そして訪れる衝撃。終わった。何もかもが……。我が銀翼は圧倒的な衝撃を受けて吹き飛ばされて……吹き飛ばされる!? おかしい、あんな攻撃受けたらそんなことを認知する前に俺がお陀仏になっている筈。それではなぜ……?

 

「アズマさんは……アズマさんは……! 誰にも殺させ……ませんっ……!」

 

 眼下に広がった光景は矢を胴体に受けた白蓮。あわや被弾するという直前にアールバイパーを押しやり身代わりになったに違いない。なんてことを! いくら身体強化を使えるからって無茶しすぎだ! 白いインナーを赤黒く染めて苦悶の表情でその部分を押さえうずくまっている。

 

 更に悪いことに白蓮の頭めがけて永琳が再び弓を放ったのだ! 1発や2発なんてものであない。それ全てが白蓮を深く傷つけた高出力のエネルギー弾。助けなくては! 俺は高らかに叫ぶ。

 

「ツインレーザー!!」

 

 いまだに不調なエンジンを無理矢理稼働させ、アールバイパーは錐揉み回転をする。そしてこれでもかと短いレーザーを乱射したのだ。出力も安定せずまっすぐに飛べないので、錐揉み回転してまっすぐ飛ぼうと試みる。それでも左右にブレてしまいあらぬ方向へレーザーが飛んで行ってしまう。

 

 回転しながら短いレーザーの乱射。バイパーというよりかはビッグコアMk-IIの弾幕っぽいが今は白蓮を救えればどうでもいい。俺は目が回るのも気にせずこれでもかとトリガーを引きまくった。

 

 十分に白蓮に近づいたので回転をやめる。グラグラと視界が揺れるが、どうやら全弾迎撃に成功したらしいことが分かる。あとは武装をリフレックスリングに変えて白蓮を回収するだけだ。首尾よく彼女をリングで掴み、一度この場を離脱する。

 

 一度リデュースを解除し、白蓮をアールバイパーに乗せた。

 

「アズマさんを助けたはずなのに、逆に助けられてしまいましたね……。新作のスペルカードまで使わせて……」

「スペルカード……? まあいいさ、白蓮さんがいつもしてきたことを真似しただけだから」

 

 今のはスペルカードに見えたのか……。後でカードを作っておこう。名前は「銀符『ツインレーザー』」ってところでいいだろう。あまり名前を考える余裕もなさそうだしな。

 

 さて、今の状況をどうにかして打開しないといけない。輝夜達はうまく戦えてると信じるとして、問題は俺たちだ。負傷した白蓮を安全な場所に送りたいがそんな隙を見せたらまず無事では済まないだろう。……となると永琳を倒す、最低でもしばらく行動不能にすることが必須となる。

 

 こちらが体勢を立て直したらしいことを悟ると永琳は再びレーザーで囲い込んでくる。あの時は下手に動きを止めたからマズかったのだ。こんどは完全に囲い込まれる前に包囲網を抜ける。

 

 ……が、間に合わない。こうなったら多少無理矢理でも突破してやる!

 

「銀星『レイディアント・スターソード』!」

 

 一際豪華なスペルカードを指に挟み空を切る。青白い炎「フォースフィールド」を纏いつつ、アールバイパーの何倍もの大きさの青い刃を形成する。そしてレーザーや弾幕を切り刻んでいく。

 

 こちらを迎撃せんと、永琳も速弾を連射して応戦してくる。左右にそれをかわし、十分に接近するとその刃で斬りつける。やはり接近戦は不得手のようだ。斬撃を防ぎきれずに何度も吹き飛ばされている。そして動けなくなったところを見計らい、2本の剣を前方に突き出した。

 

「これで終わりにしよう!」

 

 錐揉み回転させつつ、その剣を永琳に突き立てる。そして貫通。背後では執拗な斬撃とトドメの突撃を喰らい爆発四散する永琳……。異変の首謀者を下したのだ。これで終わった、何もかもが……。

 

 緊張の糸が切れ、フウと一息。額の汗をぬぐい暴れる鼓動を鎮めるべく深呼吸をする。

 

「終わり? あの程度で終わったつもり?」

 

 しない筈の声がする。ゾクリと背筋を凍らせ、背後を見ると……剣に貫かれた筈の体は何事もなかったかのように元に戻っていたのだ。

 

「まさか人間相手に蓬莱の薬の効果を使う羽目になるとはね……」

 

 こ、こいつも蓬莱人なのか!? これでは倒しても倒しても復活してしまうではないか! そんなバケモノじみた永琳とバクテリアンが手を組もうものなら恐ろしいことになる事は火を見るよりも明らかであった。

 

「そちらが(あやかし)と手を組むのならば、私も外界の叡智を身に纏うわ!」

 

 彼女の背後が不気味に暗く赤い光を灯す。そして亜空間からワイヤーフレーム上に展開される鋼鉄のアーム。月人の両手には青く澄み渡ったコアが2つ。それらが全て形成されると、ガシャーンと派手な音を立て、アームが閉じた。どうやらアームは攻撃を防御する装甲であると同時に大口径のレーザー砲でもあるようだ。

 

 3つのコアを持ち、こちらを挟み込むように極太レーザーを撃つ巨大戦艦。こ、この形状はまさか……!


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