東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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永遠亭で囚われの身となっていた輝夜を救出したアズマ。
館の主ということもありその後はスイスイと中枢部へと向かうことが出来たが、妖怪ウサギのてゐがバクテリアン軍「ゴーレム」に洗脳させられていたのだ。
近くにいた鈴仙をコアに「バニシングコア」がアールバイパーに襲い掛かる!

一方、白蓮は敵に寝返ってしまった妖夢と幽々子相手に本気を出せないでいた……。


第14話 ~ボスラッシュ~

 黄色いスポットライトに照らされた矢先、ミサイルの発射される音を耳にした。反射的に機体を移動させていたため直撃は免れたものの、思った以上の速度に俺は縮み上がってしまった。まだ心臓がバクバクいってる……。

 

 これは思った以上に危険だ。あのサーチライトに捕捉されないように死角から攻撃を与えるしかない。俺はバイパーの高度を下げ、ライトから逃れるようにバニシングコアに接近する。

 

 じりじりと近寄る矢先、スポットライトの色が赤色に変わった。ひっきりなしにこちらを探すように赤いライトが縦横無尽に動き回る。そして照らした場所を狙うかのようにこれでもかとミサイルを飛ばしてくるのだ。

 

 あのライトに捕まったら終わりだ。それに流れ弾にも気を付けなければならない。近づくミサイルをツインレーザーで破壊すると更に接近する。スポットライトの根元は比較的安心だろう。灯台下暗し。

 

 意を決してバクテリアン戦艦の目の前に一気に躍り出る。当のバニシングコアは遠方に気を取られ、アールバイパーに気が付いていないようだ。このままネメシスとコンパクを一気に展開し、遮蔽版めがけてツインレーザーを浴びせる!

 

 不意にスポットライトの光がアールバイパーを照らす。暗闇から急に光に晒されて俺は思わず目を覆ってしまう。スポットライトの色は紫……しまった!

 

 バニシングコアは時折紫色のスポットライトで自らを照らすのだ。自らを傷つけようとする敵弾幕や敵機を確認するために。そしてそんな不埒な輩を撃ち落とすために自らの周りをミサイルに巡回させるのだ。

 

「リフレックスリング!」

 

 武装をリフレックスリングに換装。すぐさま射出し適当な壁に打ち付ける。引っ張られるような形でアールバイパーはミサイル弾幕地帯から脱出。すぐさま踵を返し、なぎ払うようにリングを再射出。迫るミサイルを一掃した。

 

壁をバックに攻勢に転じようとした矢先、スポットライトが俺ではない違うものを発見したらしい事を察知する。黄色いスポットライトの照らされた先、それは先程までゴーレムに乗っ取られ、今はぐったりしているてゐであった。

 

「距離があり過ぎて援護が間に合わないっ……!」

 

 妖怪と言えどあれだけのミサイルを食らったらひとたまりもないだろう。しかし標的をロックオンしたバニシングコアは止まらない。煙を吐きながらてゐめがけてミサイルを何発も撃ち込んだ。着弾する度に響く爆音と硝煙……。俺はその惨状を直視する事は出来なかった。

 

 煙が晴れる。そこには変わり果てたてゐの姿があるはずであった。だが、ボロボロになっているのはてゐではなく、輝夜だったのだ。妖怪兎を庇うように両手を広げ、バニシングコアからのミサイルを全て受けきったようなのだ。

 

「侵略者っ! 月人を……蓬莱人をっ! ……輝夜姫をナメるんじゃないわよっ!!」

 

威勢良く吼える姫。確かに服はボロボロになってはいたものの、特に致命傷を受けたようには見えずその眼光をバクテリアンの戦艦に向けている。……って、コイツも蓬莱人だったのかよ!

 

 未だ唖然としつつその光景を傍観していた俺。輝夜に庇われたてゐがゆっくりと起き上がる。

 

「姫……。あんな酷いことをした私を庇って……」

「部下一人守れないようでは、人の上に立つ者として失格よ。それにあんな攻撃、妹紅の弾幕に比べればヌルいヌルい」

 

 差し出された輝夜の手を取り、ゆっくりと立ち上がる地上の兎。彼女を見る優しいまなざしは、振り向いた瞬間……つまりバニシングコアに向いた瞬間、鋭いものへと変化した。

 

「悪いのはあそこにいるバクテリアン軍よ。永琳を、てゐをたぶらかした侵略者、あいつが全ての元凶。さあアズマ、ボケっとしてないで鈴仙も助けるわよ!」

 

 そうだった。一人蚊帳の外で呆然としている場合ではない。奴はまた赤いライトを縦横無尽に走らせてミサイル弾幕を広げている所だった。

 

「どんなものでもいい。弾幕を張ってミサイルを撃ち落としてくれ。俺が奴のコアを……鈴仙を救いだす!」

 

 今もデタラメな軌道を描くミサイルを撃ち落としながら二人に援護を要請する。

 

「やってやるウサ! てゐちゃんの『のーみそ』弄ったツケを返してやるウサね!」

「お姫様に指図するなんて大それた男……。でもいいわ、丁度私も同じことを考えていたもの」

 

 了承を得た俺は一気に前方に躍り出る。外敵の接近に気がついたのか、バニシングコアが俺を黄色いスポットライトで照らした。

 

「今だっ! ありったけの弾幕をぶつけてくれっ!!」

 

 赤の、青の、色とりどりの光がアールバイパーの背後を通り過ぎていく。少し遅れてこちらをスポットライトで照らしていたバニシングコアが大量に展開していたミサイルを一気にこちらに向けて発射し始めた。

 

 この一撃で雌雄を決する。本命がいるんだ、お前にそこまで時間はかけられない。その思いを胸に俺は操縦桿を強く握りしめる。銀翼は薄闇の中で色とりどりの弾幕の星が瞬く幻想の宇宙空間を飛翔し始めた。バイパーに搭載されたAIが機械的に、そして事務的にこちらを鼓舞してくる。

 

『Destroy them all!』

 

 白煙を上げて迫るミサイルは二人がかりの弾幕に阻まれ途中で爆破されていく。対するバニシングコアもライトを一瞬たりとも外さず、次から次へとミサイルを乱射してくる。3人を相手しているだけあって、向こうも必死の抵抗を見せているのだろう。

 

 1発の弾がミサイルにかする。ミサイルは着弾後に爆発せず、弾道を狂わせつつアールバイパーのすぐ横をかすめ飛んだ後、爆発を起こした。ヒヤリと嫌な汗が一筋垂れる。いかんいかん、こんなことでビビっては駄目だ! 俺はさらに標的へと接近する。

 

 コア、つまり鈴仙を閉じ込めている遮蔽版をバイパーの射程圏内に捉えた! 奴の遮蔽版を取り除かないとコアにまで届かない(遮蔽版は一種の結界を張っており、これが残っている限り、一見脆弱に見える横部分からの衝撃を無効化してしまうのだ)。遮蔽版は複数が連なっている。ここは貫通性能を持った兵装で一気に片付けよう。

 

「リフレックスリング!」

 

 右回転させたディスク状のショットを撃ち出す。ガリガリと遮蔽版を削っていく。リングが戻る頃には遮蔽版を破壊出来ていた。もう1発、今度は鈴仙を救うために逆回転させたリングを撃ち込めばいい。狙いを定め、もう1発を発射しようとする。

 

「アズマっ、1発撃ち漏らしたわ! そっちに向かってる」

 

 姫様の声に反応し、周囲を見渡す。程なくして1発のミサイルを発見。すぐさまこちらもスプレッドボムを爆破させ迎撃。この場にとどまるのは危険と判断し、このままバニシングコアの周囲を1回転したのち、攻撃を加えることにした。一度巨大戦艦から離脱する銀翼。しかしその巨体を視界から逸らすことはしなかった。

 

 逃げる者に追い打ちをかけるべくミサイルでの追撃が来た。背後から追われる形となっており、戦闘機としてはかなり分が悪い状況。仕方がない。奥の手を使わせてもらう。

 

「銀星『レイディアント・スターソード』!」

 

 懐から良質な紙で出来たスペルカードを取り出す。それと同時にアールバイパーの速度を限界まで落とした。機体左右斜め後ろに1対形作られるのはアールバイパーよりもずっと大きな青い刃。左右同時に振りかざし、追ってくる脅威を斬り落とした。

 

 振りかざす直後に再び加速。爆発を免れたものの、その軌道を大きく狂わせたミサイルが発射主、つまりバニシングコアの側面へ飛ぶ。そして側面に着弾、爆発。思わぬ衝撃にバニシングコアが激しく揺れ動く。デタラメな色をしたスポットライトが無秩序に暴れまわる。恐らくパニック状態に陥っているのだろう。

 

 そして体勢が整わないうちに発射されるミサイル。それは銀翼や少女達でなく、永遠亭の柱に向かって発射された。思わぬ標的に誰も対応できない。もちろん柱も攻撃を避けたり迎撃したりなどはしない。

 

 突如衝撃が振動となり周囲が揺れる。続けて床や天井に炸裂。パラパラと天井が剥がれ始めた。これは……本格的に天井が落ちてくる。

 

「迎撃はもういい! 天井が崩れる。安全な場所へ避難してくれ!」

 

 安全な場所、それは……バニシングコアの懐だ。遮蔽板があった場所は今は空洞になっている。バイパーや少女二人も入れるだろう。

 

「コイツの中心に入るんだ! 無駄に頑丈だから傘になる」

 

 どの道鈴仙を救出するために俺はあそこに向かわないといけない。ようやく立ち直ったバニシングコアの中心へ銀翼を飛ばしていく。地響きと時折落ちてくる天井の破片を避けながら輝夜達もこちらに向かっていた。

 

 一足先にコアの目の前に達した俺は逆回転でリフレックスリングを射出。鈴仙をバニシングコアから引き離した。程なくして姫とイナバも到達。

 

 その巨体が降り落ちてくる脅威から身を守っていた。……と、突然アールバイパーのモニターにノイズが走る。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

 この感覚はバイパーが新しい武器を手に入れるとき。しかし少女との弾幕ごっこなどしていなかった。いや、随分前での弾幕勝負が遅れて武装に変換されることもあるにはあったが……。

 

『You got a new weapon!』

 

 スプレッドボムのアイコンが砂嵐に溶けてなくなり、そして空中にミサイルが発射されるアイコンに変わった。

 

『FLYING TORPEDO』

 

 フライングトーピード(※1)。「フライング」の名前通り、空中を直進する空対空ミサイルである。自分で狙いを定めないといけないが、一度に二発も発射できる地味だがかゆいところに手の届く武装だ。

 

確信した。これはバニシングコアとの交戦で得たものだ。巨大戦艦の残骸の中に入り込んでの武装入手とは恐れ入った。確かにそうやって超時空戦闘機が武装を増やすこともあったなぁ……(※2)。

 

 と、感慨深くなっていたら、天井よりも先に床が抜けてしまった。鈴仙というコアを失ったバニシングコア、そして俺たちは重力の赴くまま真下のフロア、つまり白蓮と永琳が交戦している場所へと落ちて行った……。

 

 床と天井がブチ抜かれることによって白蓮と永琳は月明かりに晒されることとなった。

 

 不自然に暗黒空間にされていた場所はバニシングコアのスポットライトを失い、そして天を覆うものを失ったことで適度な薄暗さに戻ったのだ。

 

 眼下に広がるのは膝をついて屈してしまった白蓮と彼女に最後の一撃を放とうとする永琳。

 

 バニシングコアの残骸は頭上からの瓦礫から俺と輝夜達を庇い、白蓮と永琳を阻むように落下した。ズシンという重苦しい地響きと振動。無事に落下できた以上、このバクテリアン軍の残骸にはもはや用はない。目の前の邪魔なスクラップをツインレーザーで吹き飛ばすとかつて暗黒に覆われていた永遠亭最深部へ躍り出た。遅れて地上のイナバと姫様も。

 

 まず喉を突いて出たのは長い間別行動をしていてその安否が心配だった我らが住職サマの名前であった。

 

「白蓮っ! 大丈夫かっ!?」

「アズマさんっ! 来てくれると信じていましたよ」

「へへっ、当たり前だ! 人々が希望を持ち続ける限り、銀翼は危機を救うべく、時を超えて馳せ参ずる!!」

 

「希望の銀翼」そして「最後の希望」。ともに銀翼の超時空戦闘機を比喩した言葉。アールバイパーはそんな伝説や神話を残してきた銀翼たちの末裔。ここぞとばかりにキメる。最愛の仲間の無事を確認すると、俺は踵を返し今回の異変の犯人をギンと睨み付けた。




(※1)フライングトーピード
横STG「グラディウスIV」に登場した兵装。
ミサイルボタンを押している間、上下に投下され、ボタンを離すか地形に触れると直進を始めるテクニカルなミサイル。
ミサイルボタンを連打すれば対空ミサイルにもなる。

(※2)
MSX版の「グラディウス2(IIとは別作品)」では倒した戦艦の内部に侵入して武装をゲットすることが出来る。

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