東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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永遠亭を別々に攻略するアズマと白蓮。
新兵装「ツインレーザー」と「リフレックスリング」を用いて「サークルコア」を撃破し囚われの少女「蓬莱山輝夜」を救い出すことに成功するアズマ。

永遠亭の主であり、おとぎ話に出てきたかぐや姫その人である輝夜から、永琳が幻想入りしてきた「バクテリアン」と接触したことで人が変わったようになってしまった旨を聞かされる。
バクテリアンのもたらす英知に永琳は完全に魅了されてしまっているらしい。

バクテリアンは永琳と結託し幻想郷を侵略し、自らにとって住みよい世界に作り替えようとしているのだ。バクテリアンの、そして永琳の恐ろしい野望を食い止めるべく、アズマと輝夜は永遠亭最深部を目指す……!

一方白蓮は咄嗟の機転でアズマよりも先に永遠亭最深部にたどり着き、永琳と弾幕勝負を繰り広げていたが、てゐの罠に屈して彼女の軍門に下ってしまった「冥界の住民チーム」とのコンビネーション攻撃で白蓮は膝をついてしまっていた。

急げアールバイパー。白蓮が危ない!


第13話 ~頭「脳」戦~

 サークルコアのエネルギー源として利用され消耗していた輝夜をアールバイパーに乗せると、薄暗い屋根裏部屋から元のフロアに戻る。ここから再び永遠亭通路に戻り、最奥を目指すのだ。

 

 しかし……。

 

 輝夜の幽閉されていた部屋は無数の武装したイナバ達でひしめいていた。あれだけ長時間ドンパチやっていたのだ。見つからない筈がない。サークルコアの残骸を踏みしめ、じりじりとこちらを取り囲み間合いを詰めてくる。

 

「袋のネズミ……といったところかしら。アズマ、どうするの?」

 

 まるで他人事のように尋ねる姫様。お迎えの月の使者を皆殺しにして追われている身であったこともあるというのに、なんとも呑気な人である。もちろん俺の答えは「戦うしかないだろ」なのだが、ちょっとばかり数が多い。

 

「ネメシス、コンパク。戦えるか?」

 

 2体のオプションを呼び寄せアールバイパーの左右に配置する……が、ヘナヘナと力なく地面に落ちてしまった。くうっ! サークルコア戦でのダメージが残っているようだ。まだ戦えるほどの魔力が蓄えられていない。

 

 どうする……どうする……?

 

 ……っ!? 突然激しい頭痛に襲われる。しかしそれはほんの一瞬ズキッとしただけで、次の瞬間には痛みは失せていた。気になるのは頭痛の瞬間、一瞬だけ見えた光景と感覚。見えたのは脳だけになった自分自身がアールバイパーと直結されるイメージ。実体のない俺が後ろに乗っている輝夜と重なるような感覚。

 

 次の瞬間、へばっていたネメシスとコンパクが息を吹き返した。いつものオレンジ色のオーラではなくて竹のような深い緑色のオーラに身をまといながら。

 

「何が起きているんだ!?」

 

 緑色になったオプションはアールバイパーの左右に再び配置され、前後にバルカンを乱射する。射出方向は俺自身が動くことで制御できるようだ。うまく動き回れば効率よくイナバどもを殲滅できるぞ!

 

「ちょっと! 前、前!」

 

 周囲への攻撃に気を取られ、前方からのイナバへの対応が遅れる。放たれるおびただしい量の弾幕。かわしきれない!

 

 不思議なことが起きた。被弾すると思った矢先、アールバイパーの先端から2つの光の輪が展開されたのだ。その輪は弾幕を消し去ってしまった。この緑色に光る輪はバリアであるようだ。

 

 今のバリアと左右の緑色になったオプション達から、何が起こったのかを悟った。

 

「なるほど、アールバイパーに輝夜を乗せて『OF-5(カグヤ)(※1)』になったってことか」

「……なにそれ? 私こんな弾幕使わないけど???」

 

 2方向にバルカンを乱射するグリーンポッドに敵弾から身を守ったり直接当てて攻撃にも転用できるリング型のバリア。間違いない。これはどちらも軌道戦闘機「カグヤ」の武装だ。

 

 左斜めの方向から大量の使い魔を従えたイナバが突っ込んでくる。カグヤの武装がそのまま再現されているならば……。

 

「喰らえっ、ポッドシュート!」

 

 一直線に飛び出す1対のグリーンポッドが使い魔どもを貫通しイナバにぶつかっていく。使い魔を失って出来た空間に入り込むと戻ってきたポッドを再び撃ち出す。サイビットと違い敵を追尾する能力はないものの、近距離で放つことで執拗にポッドによる体当たりを仕掛けることができるのだ。

 

 最後は輪型のバリアを直に当ててトドメ。この後もバルカンやポッドシュートでイナバどもを一掃していく。……あらかた片付いたようだ。

 

「どうだっ! 数を揃えても銀翼の前では赤子同然っ!」

「私の力もあるらしいんでしょう。いや、私こんな力使った覚えないけどさ。お調子者なんだか……アズマっ、まだ1匹残っているわ! 真後ろ!!」

 

 雄たけびを上げながら竹槍を突き出し突っ込んでくるイナバ兵がいた。しまった、ネメシス達も対処しきれていない!

 

 真後ろに攻撃する手段はポッドを除いて持ち合わせていない。グリーンポッドを制御する猶予も残されていない。いや、今のアールバイパーが軌道戦闘機を完全に模倣しているなら「あの手」が残っている筈だ!

 

「スピードチェンジ!」

 

 軌道戦闘機も可変式で、機体速度を自由に上下出来るが、思えばアールバイパーもそうであった。俺はスロットルを思い切り倒し、機体速度を大幅に上げた。

 

 銀翼の背後から青白いバックファイアが勢いよく飛び出す。哀れ竹槍のイナバは突然発せられた炎に炙られて黒コゲになってしまった。

 

 今度こそ包囲していた敵を全滅させたようである。それならば長居は無用。再び永遠亭の廊下に躍り出る。

 

 しかし廊下を抜けた先もイナバどもが大挙して押し寄せようとしているところであった。ええい、一々相手していたらキリがない! とっとと撒いて敵の大将を撃破すればいいだけ。踵を返し、銀翼を反対側へと向けるが……

 

「道が入り組んでいる! どこを通ればいいんだ!?」

 

 迷っている暇はないのだが、こうも同じような道、そして分岐があれば狂気の瞳なしでも発狂モノである。特に時間に猶予がない今の状況では。

 

「言った通りに進んで!」

 

 そうだ、今は永遠亭のお姫様が銀翼に乗っているんだった。彼女なら正しい道順を知っている筈だ。

 

「そこを右折!」

「左折よ!」

「そのまま直進!」

 

 最高速度のアールバイパーを輝夜に言われたとおりに操縦する。正直ここまで速度を上げての精密な操作は困難を極めている。重くなった操縦桿、少しでも油断すれば指がすっぽ抜けて次の瞬間スクラップになってもおかしくないような状況。更に通路は入り組んでいく。

 

「左から2番目!」

「右……いや左だったわ!」

「ええと……忘れた!」

 

 おいおい、「忘れた」はねーだろ! フィーリングに身を任せ通路を選ぶ。

 

……

 

 ふう、行き止まりではなかった。クネクネした道を行き止まりに気をつけつつ高速飛行する……。かの銀翼達が行き先も分からず壁に激突しひし形の爆風に消えていった高速ステージを彷彿させる……。ツブツブや開閉するシャッターがないだけマシなのかもしれない……。

 

「すごーい! スイスイいけるじゃん! アンタなかなかやるじゃないの」

 

 はしゃいでるし……。散々言われたとおりに動きまわり勝手にはしゃがれ、お姫様のエスコートってのは想像以上に体力や精神力を消耗する……。

 

 とはいえ、そういうことをするほどの余裕が生まれたというのも事実だ。迷路のように入り組んでグネグネした道はいつの間にか広がり、一直線の素直な道となっていたのだ。

 

「そろそろ最深部に近……っ!?」

 

 上下から同時に殺気が!?

 

 反射的にアールバイパーの速度を上げる。背後からピシャーンと巨大なフスマのしまる音。

 

「思いっきりうちのセキュリティシステムに引っかかっちゃったみたいね。テヘペロ」

「『テヘペロ』じゃねぇぇぇっ!!」

 

 ツッコミの叫びがドップラー効果によって音階を変えながらこだまする。そう言うことは先に言わんかいっ! 何度も閉ざされるフスマの音。あと少し反応が遅れていたらと恐々とした。

 

 どうにかフスマが閉まる前に銀翼を飛ばしていたが、それにも限界が訪れる。迫るフスマ! もはやこれまでか……。

 

「速度を落とすのよ!」

 

 なにっ、ここでスピードダウンだって!? これ以上飛ばしても間に合うか微妙だというのに速度なんて落としたら……そうか、わかったぞ!

 

 俺は言われたとおりにスロットルを引き、アールバイパーの速度を落とした。目の前で派手な音を立てて閉じるフスマ。しかし程なくして再び開かれたのだ。

 

「た、助かった……」

 

 と、安堵するのもつかの間、再び開いたフスマの向こう側は絶望で埋め尽くされていた。

 

 幾重にも閉ざされたフスマ。開く気配すら見られない。これは完全に詰んだか?

 

 いや、よく見るとフスマがわずかに開いている。どういうわけか微妙に左右に開いている個所がブレており、まるでこちらを試しているかのようだった。

 

 ……やるしか、ないよね? 俺は機体を地面に垂直に傾け、わずかなスキマをかいくぐっていく。

 

 針の糸を通すような思いを何度もし、フスマ地帯を完全に突破したようである。永琳の待つ最深部まであとわずか……。

 

そして遂にその入口らしきものを発見した。意を決して乗り込もうとするが……。

 

「待ちなさい。仮にも永琳がいるとされる部屋。それにしては周囲のセキュリティが甘過ぎると思わない?」

 

 確かに門番の一人でもいてもおかしくない状況。先に侵入した白蓮が倒したとも考えられるが、何せあの黒髪のイナバがあちらの味方にいるのだ。どんな罠が隠されているか分かったものではない。

 

「助けに行こうとして罠にハマってたら様にならないな。よし、周囲を少し調べてみるか」

 

 とはいったものの、身を隠せるようなものもなく素人からすれば特に罠なんて仕掛けられているようには見えない。本当に白蓮が処理してしまったのだろうか?

 

「あと調べると言ったらこの部屋の真上だけれど……」

 

 サークルコアの爆発から身を守るためにとっさに屋根裏に逃げ込んだ事を思い出しポツリと口にする。

 

「この上に部屋なんてあったかしら……?」

「どの道この部屋の様子を見るんだ。上から覗き見るとかするためにも……」

 

 緑色のオーラを纏っているコンパクとネメシスにポッドシュートを命じる。適当な大きさに天井を破壊すると銀翼を忍び込ませた。

 

 ビンゴ! 案の定、月のウサギと地上のウサギのコンビが待ち構えていた。この先に何かがあるという動かぬ証拠だ。恐らくあのまま部屋に入っていたらてゐの罠にかかって大変な目に遭っていただろう。

 

 ……しかし、こちらに気が付いていないようだ。耳をそばだてると何か揉めているらしいことが分かる。

 

「どうしてよりによって私がスポットライトの役をやらないといけないのよ!」

「我らがお師匠様にライトを用意してもらった分これでも楽な方ウサ。ほら、もっとカッコよく光を当てないと」

「そうはいってもこのスポットライト、やたら重たい上に勝手に色が変わるから不便なことこの上ないのよね……」

 

 スポットライト? 俺の聞き間違いでなければ確かにそんな事を言っていた。いったい彼女らは何をしているんだ?

 

「まあこれもお師匠様の、ひいては私達の為……ね。でも、本当に大丈夫なの? こんな事して本物の異変解決屋がやって来たら……」

「今更博麗んとこの巫女さんが怖くなったのかい? 大丈夫ウサ。たとえ巫女だろうが魔法使いだろうが、バクテリアンの戦艦には誰にも勝てないウサ。イザというときはこいつも駆り出すウサ」

 

「私達の為!? よくそんな事が言えたわね! この私をふん縛っておいて!」

 

 しまった、激昂したお姫様がいらんことしてくれたぞ。

 

 リデュースを解除してたのがまずかったか、輝夜はいつの間にかアールバイパーから外に出ており、憤怒の声を発していた。その叫び声に驚き、銀翼と姫様に視線が集まる。

 

「げげげっ、その声は……輝夜! そしてそこにいるのはアールバイパー! ええい、いつもいつもタイミングの悪い時に邪魔ばかりして、鬱陶しいウサ!」

 

 ロックオンサイトにこの2体のウサギ捉え、いつでも攻撃できるようにした。

 

「そうよ。この異変は永遠亭の皆の為。新たに幻想郷に現れた神々や魔住職に淘汰されないよう、私達も外界から力を取り入れることにしたの。お師匠様の見つけた強大な力を! むしろその変な鳥の妖怪こそが姫様の存在を脅かす存在……」

 

 いつになったら幻想郷の住民達はバイパーを戦闘機だと認識してくれるのだろうか? もしかしたらそんな時など永遠に来ないのかもしれない。だが、俺は言い続ける。

 

「だから毎度毎度言うが、アールバイパーは変な鳥の妖怪ではなくて……」

 

 またも鈴仙に遮られた。最近まともにツッコミを入れられたためしがない。

 

「姫様、妖怪『アールバイパー』とそれを使役するアズマという人間。彼らは命蓮寺の回し者です。私達の計画を頓挫させ、永遠亭を幻想郷から消そうとしているんですよ! お師匠様もそう言っていました。なぜそんな奴と手を組むんですか!?」

 

 その赤い瞳に悪意らしきものはなく、ただただ純粋に自らの組織を良くしていこうという向上心の光のみが宿っていた。鈴仙、お前は騙されているぞ。

 

 しかしこれで納得がいった。輝夜は永遠亭の主であるにもかかわらず、この計画に反対した。ゆえに全てが終わるまで、鈴仙はバクテリアンを用いた異変の成功こそが自分たちの存続の為と思い込み、邪魔にならないよう輝夜を小部屋に縛って幽閉していたのだろう。

 

「とにかくこう出てこられては……。姫様、もう一度眠ってもらいます!」

 

 赤い瞳を光らせ、銃をかたどらせた指をこちらに向ける。臨戦態勢だ。前回は敗走してしまったが、今回は輝夜という強力な味方がいる。

 

「待ちな、ウドンゲ」

 

 決戦の火ぶたが切って落とされると思った矢先、妙にドスのきいた声がそれを制止する。困惑する鈴仙をその小さな腕で阻むのはてゐであった。

 

「今回は超時空戦闘機とお姫さんが協力し合っている。普通にやり合っても勝ち目は薄い……ウサ」

 

 うっ……。悔しいが輝夜は今のアールバイパーなんかよりもずっと強いのだろう。察しがついたのか、相方のウサギはスポットライトを照らすマシンに手を当てて無理だと口にする。

 

「た、確かに姫様の実力は凄まじいけれど……。でもこの『バニシングコア(※2)』を動かすエネルギーは貰っていないじゃない! あくまでお師匠様の作戦の為にスポットライトだけが稼働する状態なのよ?」

 

 バニシングコア……? 確かにそう言っていた。バニシングコアとはサーチライトと数多くのミサイルランチャーを装備した哨戒を主な任務とする巨大戦艦。そのライトで侵入者を見つけ出すのだ。

 

 そして次に触れらてたお師匠様とは恐らく永琳のことだろう。やはり、バニシンゴコアを用いて何かを企んでいたのだ。だが、この話の流れからすると奴も戦闘に駆りだされる。そうすれば恐らく下のフロアにいるであろう永琳にも影響を及ぼす筈。白蓮、俺は……いや俺も戦っている。戦っているぞ!

 

「ハァ? 『エネルギーがありません』だァ? 察しが悪いなぁ……ウサ」

 

 邪悪な笑みを俺たちにではなく、鈴仙に向けるてゐ。

 

「てめぇがエネルギーになりゃいいウサ! そこのカグヤ姫がそうしていたようにな!」

 

 突然鈴仙の前に踊り出るてゐ。するとその小さい体全身で仲間を思い切り突き飛ばした。その先に待ち構えるのは「バニシングコア」のジェネレーター。しかしコアらしきものは見当たらず、その部分がスカスカになっていた。ま、まさか……!

 

「ど、どういう事なの? 確かに姫様を縛って幽閉したのは事実だけど、エネルギーにするって……」

 

 バニシングコアの淵にしがみつき困惑する月のウサギ。

 

「言葉どおりの意味ウサ! あんたにはバクテリアン戦艦のコアになってもらうウサ。光栄だろウサ? ウサ……新たなる幻想郷の支配者、バクテリアン軍の手足……ウサ……になって戦えるんウサだから。ウサササササ!!」

 

 響きわたる鈴仙の金切り声と、妖怪兎の高笑い。バチバチと放電を起こし魔力の類がバニシングコアに吸収されているらしい事が分かる。

 

「あなた……てゐじゃないわね!?」

「寝ボケたことウサるのも大概にするウサ。ウサにいるのは正真正銘のウサカワイイてゐちゃんウサ!」

 

 最後の抵抗むなしく、鈴仙はバニシングコアに取り込まれてしまった。全身に陰のさしていたボディは命が宿ったかのように赤みを帯び始める。それが機械の体で為されているのだから奇妙な光景だ。

 

「ウサ、ウサササッササ! ウーササササ!! サササーウウササササ!!」

 

 突如浮かび上がるイナバは奇声を発しつつぶらりぶらりと両肩を軸に大きく揺れ始めた。がくりと垂れた頭部がガクンガクンとスイングしている。

 

「てゐ、後ろにいるのは……?」

 

 よく見るとてゐの両腕はダンゴ状に連なった太い触手と連動して動いていた。その宿主は虚空からゆっくりと姿を現す。

 

 鈴仙やてゐの頭部と同じくらいの大きさをした脳みそであった。ギロリとした1つ目がこちらを凝視している。脳みそから2本だけ生えていた触手をモノを捨てるようにポイっと動かすと、てゐも首根っこを掴まれた後、放り投げられる猫のように地面に叩きつけられた。

 

 バクテリアン軍の触手を持った脳みそ(それでいて1つ目)。そんな奴は大体見当がつく。こいつは「ゴーレム(※3)」だ。

 

 一言にゴーレムといっても、巨大戦艦ばりの巨体を持つ個体もいるし、今俺の目の前にいるような女の子の頭の上に張り付いていられる小さいものまでいる。ちなみに岩や土で作られた巨人のゴーレムとは容姿が全然違う。

 

「テメェは用済みだ。ったく。任務とはいえ、こんな小娘の洗脳なんざやらせて……」

 

 うつぶせに突っ伏したてゐの上に乗っかるとまるで愚痴をこぼすように続ける。うめき声をあげて起き上がろうとする彼女を触手で小突いたりしている。

 

「しかもコイツ狡猾だったけど月の頭脳とやらじゃなさそうだし。まぁいっか。バクテリアンに懐疑的だった鈴仙とかいう月の兎を消せたし。テメェらはこのバニシングコアと死ぬまで遊んでな!」

 

 それだけ早口でまくしたてると、小さいゴーレムはピューとどこかへ逃げ出してしまった。

 

 すぐさま追いかけようと銀翼を飛ばそうとする……が、一斉にスポットライトを浴びせられる。アラート音をけたたましくかき鳴らし、バニシングコアが行く手を遮った。

 

「アズマ……」

「分かってる。鈴仙は何としても救う!」。

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃、白蓮は……)

 

 不意にスポットライトの光が失せた。上のフロアでアズマがバニシングコアと戦闘を始めたからである。

 

 すぐさま訪れる暗闇……いや、スポットライトの眩い光がない分、視力は暗所に慣れやすくなっている。今や薄暗いながらも周囲を確認できるようになっていた。

 

「アズマさんも……必死に抗っているんです! 私だって……まだまだ!」

 

 第六感と言うべきか、アズマとの長い付き合いによる勘と言うべきか、白蓮にはこの状況の変化はアズマが何か行動を起こしたからであると悟っていた。

 

 はやる心を必死に抑え、神経を研ぎ澄ませ周囲の様子を探る。倒すべきは永琳と、先程ライトで照らされていた赤黒い眼球のような見た目のバクテリアンのみ。そして、白蓮は彼女の居場所を突き止めた。地面を蹴り、飛翔する。

 

「南、無、三っ!」

 

 飛び上がってのタックルが永琳に炸裂。空中でバランスを崩したところを今度は鉄拳を浴びせる。これだけ綺麗にクリーンヒットしているのに、アザ一つつかないあたり、月人の頑丈さがうかがい知れる。いや、人間があまりにもろすぎるだけか……。

 

「(接近戦では分が悪いわ……)冥界組! ボーっと突っ立ってないで援護なさい!」

 

 うつろな瞳をした妖夢がようやく動き始め、行く手を阻むように立ちふさがった。やや後ろでは幽々子も援護しようとしている。

 

「そこをどいてください……。貴女達は傷つけたくない」

 

 その瞳が見据えるもの、それはすべての元凶たるバクテリアンの眼球……。

 

 だが、一時的に得ていた優勢も相手も暗所に目が慣れてしまえば結局は多勢に無勢となり、白蓮は再び窮地に陥る。的確にこちらを狙う三人がかりの複合攻撃には対処しきれず、再び膝をついてしまった。

 

「往生際の悪い……。今度こそ仕留められなさい!」

 

 再び弓を引きしぼる永琳。その弓につがえられたエネルギー弾だけが、この暗所で不気味な光を放っていた……。




(※1)OF-5
横STG「R-TYPE FINAL」に登場した自機の1つ。
同じくアイレムの縦STGである「イメージファイト」の自機をイメージした「ダイダロス」系の機体の最終強化版。
輝夜ではなくこっちのカグヤの力が引き出されてしまったようである。

(※2)バニシングコア
横STG「グラディウスIV」に登場した巨大戦艦。
色とりどりのサーチライトでこちらを照らした後、ミサイル攻撃を仕掛けてくる。
ライトの色によってミサイルの性質も異なってくる。

(※3)ゴーレム
横STG「沙羅曼蛇」に登場し、その後もグラディウスシリーズに度々登場するボス敵。
2本の太い触手と一つ目を持った脳みそのような姿をしている。

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