東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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永遠亭を守護する不気味な鉄塊たち……。
そして永夜異変以来、再び現れた「偽りの月」
その正体がついに明かされる……!


第12話 ~希望への一手 後編~

(その頃アズマとアールバイパーは……)

 

 

 ここはどこだろう? もう罠はないだろうか? しばらく警戒して周囲を見渡す。怪しい気配もないので一度アールバイパーから降りることにした。リデュースを解除してキャノピーを開く。かすかに吹く涼しげな風が気持ちいい。

 

 ここは屋根裏部屋だろうか、格子のついた窓から忌々しい偽りの月が自分を誇張するかのようにギラギラと輝いていた。

 

 こうやって見ると、確かに吸い寄せられるような気分が高揚するような気もする。

 

「あの月をずっと見つめていては駄目。狂ってしまうわ」

 

 先程サークルコアから救出した黒髪の少女が語りかける。かすかな声であったが俺は酷くビックリした。それほど偽りの月に心を奪われていたのだろう。

 

「助けてくれてありがとう。でも、ちょっと乱暴だったかも」

 

 リフレックスリングで捉えて無理に引き寄せたのだ。今思えば普通の人間でそれをやったら首の骨が大変なことになっていた筈。ん、ということはここにいるのは人間じゃない???

 

「中身は頼りないけど、そっちのイカツイ妖怪は強そうだから及第点ね。さあ、早く先に進みましょう。姫のエスコートだなんてそうそう経験できないわ」

 

 ひ、姫!? そういぶかしむ俺を見て、彼女は「蓬莱山輝夜」と名乗ってくれた。俺も名乗っておこう。というか身分的には俺が先に名乗らないとまずかったか……。

 

「かぐや……姫?」

 

 あのおとぎ話のかぐや姫を思い出す。確かに言われてみればそれっぽい気もする……? えっ、実在するの!?

 

「『なよ竹のかぐや姫』って呼ぶ人間もいるわね。気軽に輝夜でいいわ。あなたは恩人だし」

 

 最初こそ驚いたが、次の瞬間にはその事実を受け入れられている俺がいる。俺もだいぶ幻想郷に慣れてきたのだろうか。

 

「さあ、早く永琳を止めないと。あのままでは永遠亭……いえ、幻想郷がメチャクチャになってしまうわ!」

「待ってくれ! どうして永琳や偽りの月のことを知っているんだ? お前まさか永琳の……」

 

 俺は「仲間か」と言いかけて口ごもる。だとしたら変だ。輝夜はあんな暗い部屋に縛られて幽閉され、更にサークルコアのエネルギー源に無理矢理されていたのだ。あの扱いは仲間というには語弊がある。

 

「あ、あら……私ったら一人で勝手に話を進めてたみたい。わかったわ、追って説明する」

 

 外から射し込む月明かりの中、輝夜はぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。

 

 

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(その頃、永遠亭最奥……)

 

 

 自らの存在の為に戦いを挑む月の頭脳とと、妖怪たちのために尽力する魔住職。周囲は真っ暗であり、お互いの頭上から照らされるスポットライトの光のみがこの部屋の明かりであった。

 

 放たれる弾幕はそれは凄まじいものであり、第三者が介入できるようなものではない。

 

 超人化によって素早く動き回る白蓮に対抗するべく永琳は囲い込むように弾幕を撃ちこむ。魔人経巻の模様の軌跡を残して動き回る白蓮は、突如現れた青い弾に囲まれて右往左往した。

 

 その瞬間を永琳は見逃さなかった。逃げ場を失った獲物を仕留めるかのように手にしていた弓をキリキリと引き絞る。弓に矢は番えられていないが、代わりにエネルギー波のようなものが矢の代わりに番えられていた。これも一種の弾幕なのだろう。

 

「このゲーム、私の勝利ね」

 

 弓から唸りを上げて一直線に弾が発射される。囲われた僅かな隙間でその身をよじらせて凶弾を避けた。直後、囲っていた青い弾が消え、そこから倒れ込みつつ飛び出すように白蓮はその身を飛ばし、反撃を行う。

 

「光魔『魔法銀河系』っ!」

 

 再びこちらを囲い込もうと弾をばら撒く永琳であったが、それをすり抜けるように光のレーザーはへにょりへにょりと曲がりながら標的である永琳を撃ち抜く。暗黒の空間で光を散らしながら突き進むレーザーは、周囲を宇宙空間と錯覚させた。

 

「くっ……」

 

 へにょりと曲がるレーザーを連続で受けた永琳は遂に膝をついた。相手が戦意を失ったと見て白蓮も着地し、ゆっくりと異変の首謀者へ歩み寄る。

 

「八意永琳さん、もう勝負はつきました。貴女の起こした異変で多くの妖怪たちが苦しんでいるんです。さあ、偽りの月を元に戻して下さい」

 

 一瞬恨めしそうに白蓮をにらむ月の頭脳。しかし直後、邪悪な笑みをこぼし高らかに笑い飛ばす。

 

「ねぇ、あくまで私に味方するつもりはないのかしら? 共に革命を成功させ、新たな幻想郷の支配者になるの。貴女ならナンバー2にしてあげるわ」

「ふざけないで! 妖怪たちを苦しめたうえでの新たな幻想郷!? 苦しむ妖怪達を踏みにじって得た世界だなんて幻想郷じゃない! 貴女の計画には手を貸せませんっ!!」

 

 珍しく白蓮が激昂する。偽りの月は月の光に依存する妖怪達を酷く苦しめているのだ。彼らを踏みにじった上で異変を成功させる。白蓮がそのような所業を許すはずがない。

 

「永琳さん、私は悲しいです……。永遠亭という診療所を開いて、傷ついた人間や妖怪達の為に献身的であった貴女ですもの。もっと聡明な方だと思っていた」

 

 先程の怒りが嘘のように今度はかすれるような小声で言葉をしぼり出す。暗黒の中のスポットライトの効果も相まってまるで悲劇のヒロインのように見える。

 

「私こそ……。貴女はもう少し賢い方だと思っていたわ」

 

 次の瞬間、悲しみに暮れる白蓮を突き飛ばし、高く跳躍する永琳。スポットライトの光が懸命に彼女を追いかけていた。

 

「少なくとも、私に賛同してくれた人はいたわ」

 

 パチンと指を鳴らす音。直後、スポットライトの光が2つ増えた。そこに照らされていたのは妖夢と幽々子であった。

 

「この冥界からやってきた彼女達は貴女なんかよりも幾分賢かったってことね。私に賛同し忠誠を誓ったのだもの」

 

 紅蓮の瞳を輝かせ、二人がかりで住職に襲いかかってきた。

 

 

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(その頃アズマとアールバイパーは……)

 

 夜も更けており真っ暗であるはずの周囲であったが、窓から漏れる月明かりが相手の顔を認識できる程度に照らしていた。輝夜がぽつりぽつりと俺に告げる。

 

「永琳……『八意永琳』は一人では何もできない私の世話をしてくれた方なの。親といっても語弊はないかも。本当は貴方のところの住職と同じで優しく、誰にでも慈愛の心を持って接する人だったわ。永遠を生きる月人にとってそれは不変のこと。そう、『あの日』さえ来なければ……」

 

 あの日? 随分と勿体ぶっている。今は状況が状況だから分かりやすく説明してくれと言うが、輝夜の口調は変わらない。

 

「ある日、永琳が奇妙な生き物を拾ってきたのよ。生き物と呼ぶにはちょっとノッペリとしすぎた……。そうね、アズマが使役しているその変な鳥の妖怪みたいに」

「だから『変な鳥の妖怪』じゃなくて、超時空戦闘機『アールバイパー』ね?」

「と、とにかくその妖怪『チョウジクウセントウキ』の『アールバイパー』さんみたいにノッペリとした生き物だったわ」

「『超時空戦闘機』は妖怪の種族名じゃないですっ!」

 

 お約束のツッコミが更にパワーアップしている気がするが、相変わらず姫様のスルースキルは凄まじい。とにかくツッコミばかりでは話が進まないので聞き役に徹することにした。

 

「永琳はそのノッペリとした生き物にひどく興味を持ち、いろいろと研究を進めていったわ。そして同じような生き物を創造してしまったの。永琳は機械生命体だとか言っていたけれど、瞳孔のない真っ青な一つ目が恐ろしげだったわ」

 

 なんと、謎の機械生命体が幻想入りをし、永琳に捕まった後で解析されてしまったらしい。そして彼女の手で新たな生命体を創り出してしまった。月の頭脳とも呼ばれる彼女だが、まさかそんな事まで成し遂げてしまうとは……。

 

「その機械生命体に呼応するかのように永遠亭の真上に巨大な円盤が現れたわ。恐らく永琳の拾った機械生命体はあの円盤に乗って幻想郷にやってきたようね。もちろんそんなものが空にそのまま浮かんでいたら大騒ぎになってしまう」

 

 ここまで話すと輝夜は窓に目をやった。偽りの月が誇示するかのようにデカデカと光り輝いていたが、目を凝らしてよく見ると満月が、より小さくて謙虚な光を弱弱しく放つ本物の満月が見えるではないか!

 

「永琳が偽りの月で隠していたのは本物の月じゃない……!?」

「そう、貴方には知ってもらわないといけない。これから誰と戦うのかをしっかりとその目に焼き付けて。奴の名は……」

 

 

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(その頃、永遠亭最奥……)

 

「あははは! 踊れ踊れ!」

 

 永琳と彼女の手に落ちた冥界の住民達の三位一体の弾幕を前にボロボロになっていた。幻想郷きっての実力者が一度に襲いかかったのだ。流石の白蓮でも対処できる筈がなかった。

 

 度重なる被弾で体は何度も空中をキリキリと舞い、そして最後には床に突っ伏してしまった。

 

 こんなにも何度も飛ばされているというのに、スポットライトの光は執拗に白蓮を追っていて、一瞬たりとも彼女を暗闇に晒すことはなかった。

 

「妖夢さん、幽々子さん……目を覚まして! こんな恐ろしい計画に手を貸さないで……」

 

 倒れ込んだ白蓮の顔面を踏みつける妖夢。無言、そして無表情でやってのける。正気の沙汰とは思えない。

 

「無様なものね。冥土の土産に教えてあげる。貴女が誰に喧嘩を売ってしまったのかを」

 

 新たなスポットライトが永琳の真上に照らされる。合計3本のライトで照らされたそれは球体であった。真っ赤な血の色をしたグロテスクな眼球。白蓮はあまりのグロテスクさに吐き気を催す。

 

「なに……あれ……?」

「欲すれば知識を授けてくれる。欲すれば力を授けてくれる。ただただ欲を求めるものに忠実な、新たなる幻想郷に必要不可欠な存在。その名も……」

 

 

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(その頃、アズマとアールバイパーは……)

 

 

「……奴らは『バクテリアン』。そう名乗っていたわ」

 

 偽りの月に向けて何か術式のようなものを撃ちこむ輝夜。月はぐにゃりと形を変えて巨大な円盤の姿となった。暗い緑色をした円盤。それは幾度となく超時空戦闘機たちが爆破させてきたバクテリアン軍の要塞「ゼロス要塞」そのものであった。

 

 バクテリアンが幻想郷を侵略している……!? 宇宙空間にぽつりと佇むイメージを持っていた俺は地球からその要塞が見える様に驚きを隠せないでいた。

 

「もうあんなに近くに……。前はもっともっと小さかったのよ。奴らはいずれ幻想郷に乗り込んでくるに違いないわ。バクテリアンのもたらす英知に魅入られた永琳を媒体に……! アズマ、もう時間がないわ! 早く永琳を止めに行きましょう!」

 

 無言で俺は頷くと、アールバイパーに輝夜を乗せ出撃する。永遠亭の、幻想郷の希望となるために……!


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