東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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見る者を狂気に貶める瞳を持った鈴仙の前ではサイビット・サイファのような自動追尾系の兵装が意味をなさない。
否応なく苦戦するも、こちらを見ることで能力が発動するという弱点を逆手にとってレプリカ宝塔を光らせることで撃退。
更に永遠亭の奥へ逃げ込むが、そこには黒髪の少女が縛られていた。
早速救助しようとするアズマであったが、近づこうとした矢先、彼女をコアとして取り込むバクテリアン戦艦「サークルコア」の姿が……!


第11話 ~希望への一手 前編~

(少し前、冥界の住人チームは……)

 

 

 逃げた鈴仙を追いかけ破竹の勢いで突き進む妖夢。そして彼女を援護する幽々子。

 

「ええい、逃げ足だけは速いんだから……」

 

複雑に入り組んだ通路で鈴仙たちを見失ってしまっていた。

 

「落ち着きなさい。感情だけで動いていては足元をすくわれてしまうわ」

 

 しかし渦巻く魔力が強くなっているのは二人にも感じ取れていた。黒幕が近い……。

 

「あっちです! あの先に永琳がいる筈です!」

 

 いかにもな大部屋。確かに永琳はいそうだが……。

 

「待ちなさい妖夢! 警備もいないこんな部屋はハズレかあるいは罠……」

 

 と、言いつつも幽々子もつられて入り込んでしまう。部屋は真っ暗闇で何も見えなかった。

 

「大変です! 何も見えません!」

「分かっているわよ、それくらい。でもこの暗さは異常ね。夜の夕闇というよりは、意図的に暗くされているような……。妖夢、怪しすぎるわ。一度引き返して……妖夢?」

 

 刀を振り回して意気揚々と突き進もうとする半人半霊の姿があった。

 

「やめなさい妖……っ、危ないっ!!」

 

 もう一歩踏み出そうとしていた妖夢を突き飛ばす亡霊少女。尻もちをついてしまった妖夢は衝撃的な光景を目にすることとなる。

 

 地面から縄が飛び出ると幽々子を捉えそして空中に吊るしてしまったのだ。

 

「あああっ……。幽々子様、今縄を斬りますね」

「駄目よ妖夢、話をよく聞いて。罠は二段構造になっていて……」

 

 次の瞬間、ズボッという穴のあく音とともに、妖夢は幽々子の前から姿を消す。

 

 後にはニヒヒと意地悪そうに笑うウサギの声だけがこだましていた……。

 

 

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(その頃貴方とアールバイパーは……)

 

 黒髪の少女を取り込んだ「サークルコア」にどうトドメを刺すべきかと手をこまねいている中、通信機でもあるレプリカ宝塔が激しく光り始める。期待して宝塔を覗き込むが、相手は白蓮ではなく命蓮寺に残っている筈のにとりであった。

 

「苦戦しているようだね。大丈夫アズマ?」

「俺は大丈夫だが……。敵が人質を体内に捕えている! このままでは救い出せない!」

 

 どうにか接近しようと試みるが、そもそも接近したところで解決策なぞない。

 

「ふふん。要はあの丸いヤツの中心にいるお姫様を助けたいのだろう? こんなこともあろうかとっ! にへへ……。こんなこともあろうかとっ!! ああ、博士キャラなら何度口にしてもシビれる素敵な言葉……」

 

 駄目だこの河童、自分の発言で悦に浸ってる。

 

「勿体ぶらずに早く言ってくれ。せっかくの『切り札』も手遅れになったら無意味だぞ!」

「……オホン。こんなこともあろうかと貯金全部つぎ込んで物質転送装置を開発していたのだっ! 今から助手君のアンカーをそっちに転送する」

 

 不意ににとりにツッコミを入れる手が「誰が助手だ」という言葉と共ににとりをどつく。その手はそのまま河童をグイと掴み引っ張り上げる。代わりにムラサ船長が顔を出していた。

 

「いい? アンカーはただぶつけたり、弾幕展開をするだけではないの。うまく使えば遠くのものを引き寄せることが出来るのよ」

 

 どうやら「道連れアンカー」ばりに思い切りアンカーを射出し、サークルコアの中心で囚われているお嬢様を救出せよという事らしい。無理難題に聞こえるが可能性が0でない。他に手もないのだから、いくら望みが薄いからといってもコレに賭けるしかない。

 

 脇腹を突かれて痛がるにとりが再びムラサの前に現れる。

 

「その為にアンカーをそっちに転送するのだが、座標軸がズレるとうまくいかない。転送中は動かないでほしいんだ」

「待て、正気か!? いま俺はバクテリアンの兵器と戦っているんだぞ! 動かないようにだなんて無理だ」

 

 今も縦横無尽に跳ね回る球体を回避しつつ通話している状態なのだ。

 

「今ハッキリと座標軸が分かるのはアズマのアールバイパーだけなんだ! 自分でも無茶なこと言っているのはわかる。でもアンカーを転送するにはこうするしか……」

 

 これ以上ないものねだりをしても無駄だろう。ならば無理かもしれないがやるしかない。俺はアールバイパーを空中で静止させる。

 

にとり「オーケィ、始めるよ……」

 

 通信機の向こう側からガゴンガゴンと機械類が動く音が響く。そして高まる駆動音。本当に始まったらしい。俺はサークルコアの動向を気にしながらこちらに来ないことを祈るくらいしかできなかった。

 

 目の前でアンカーの形をしたホログラムが下から少しずつ形成されている。本当に物質転送が始まったようだ。

 

「いいかい、くれぐれも座標軸をずらさないように!」

「無茶言ってくれるよ。出来るだけ……な」

 

 身をよじり、執拗にこちらを狙い撃つ砲台の攻撃を凌ぐ。今のサークルコア本体は外殻に沿ってグルグル回っているだけなので体当たりの心配はない。

 

 アンカー型のホログラムが半分ほど表示された。よし、ここから折り返し地点……!

 

 不意にサークルコアの動きが止まる。またこの中をバウンドするつもりだろう。ヒヤヒヤしながらその動向に目を見張る俺。何度もアールバイパーをかすめる度に俺の寿命が縮んでいく気がする。

 

「あと少しだ。もう少しだけ辛抱してくれ!」

 

 だが、悲劇は起きた。唐突に乱反射するサークルコアの本体が一直線にこちらに向かって来たのだ。まずい、あんなの回避できる筈がないぞ!

 

 どうするか……。逃げるか? しかしそんなことをしては作戦は水の泡となる。さりとてあんな巨体の体当たりを食らったらアールバイパー……というより俺がひとたまりもない。

 

 思索を巡らせ最善の答えを導こうとする……。

 

 不意に視界が右に大きくブレた! 脳みそを直に揺るがす強烈な衝撃! 一瞬何が起きたのか分からなかった。グラグラする視界が少しずつ復活する。あろうことかサークルコアの体当たりをもろに受けてしまったようだ!

 

 痛みのあまり悲鳴も上げられない。声が……全然出ない!

 

「アズマっ、大丈夫!? ちょっとにとり、アズマがっ!!」

「座標軸の深刻なブレ! 粒子化したアンカーが亜空間で引っかかっている。質量の割合は全体の10……20……ちょっ、マシンが引火した!! そんでもって小爆発っ! あああっ、私のウン年分の貯金がぁぁぁ~~」

 

 宝塔型通信機の向こう側でも修羅場になっていたようだ。けたたましく鳴り響くアラームがこちらにまで聞こえる。

 

「あっちでは人の命がかかっているのよ! 今更転送装置なんて……」

「分かっている! でも今の私達では手を差し伸べられないだろう! それよりも目の前の問題を何とかしよう。転送装置が火を吹き始めた。水だ、水をかけるんだ!」

 

 お互いに水にゆかりのある妖怪。鎮火はそこまで苦ではないだろう。コクピットの中から見上げるとホログラム化したアンカーがまるで現世とスキマの狭間で挟まっているかのように中ぶらり状態となっているのが確認できた。

 

 向こうは向こうで必死に抗っているんだ。こうなれば俺だって根性見せてやらないと……。

 

「爆撃『スプレッドボム』!」

 

 フォースフィールドを纏い、アールバイパーは高く跳躍した。外殻の中狭しと飛び回り周囲を爆撃していく。青白い爆風が周囲の視界を埋め尽くしていった。厄介な砲台もこれで一掃できただろう。そのまま命蓮寺から送られてきたアンカーの傍に向かう。

 

「よし、どうにか持ち直したぞ! 再び転送に入ろう」

 

 ホログラム化していたアンカーは銀翼の接近に呼応するかのように実体を得ていく。しかし転送が不完全だったのか、先端部分しか転送されていなかった。根元部分が今まさに少しずつ実体を現そうとしている。

 

「くっ! またなのかっ、また暴走を……」

 

 河童の技術力をもってしても転送装置などというものは簡単にできるものではなく。アンカー1つを転送するにもこれだけ苦労しているらしいことが俺にも分かる。

 

 激しい爆発音、それは永遠亭ではなく命蓮寺で俺の為に戦っている方での音。その弾みでアンカーが完全に実体化した。

 

「ああサヨウナラ、私の貯金……」

 

 力なく膝をつく河童。今ので転送装置が完全に壊れてしまったらしい。意気消沈するにとりに代わり、船長が指令を送ってくる。

 

「にとり、あんたはよくやったよ。……コホン、そのアンカーでコアの中心を捉えるんだ」

 

 アンカーはアールバイパーに呼応するかのように吸い付いていた。撃ち込むイメージを持てばアンカーは動いてくれるらしい。ターゲットサイトを覗いてサークルコアの中心を狙う。跳ねまわる奴を捉えるのは至難の技であった。

 

 ……今っ! 完全に動きを止めた。俺はアンカーを撃ち出したっ!

 

…………

 

……

 

 しかし無情にもサークルコアに弾かれてしまう。弾かれたアンカーはクルクルと回転を起こし、無差別に飛び回った。このままではサークルコアに押しつぶされる他に、自分の撃ち出したアンカーで自滅してしまう可能性まで出てきた。

 

「ムラサっ! このアンカーどうやって戻すんだよ! 2つも飛び回る物体があったら俺いよいよ危ない!」

「鎖のイメージだ! 錨を鎖で巻き取るようなイメージ!」

 

 くそう、これだから人の弾幕をそのまま使うのは嫌だったんだ! だが、今は泣きごとを言っている場合ではない。暴走アンカーを引き戻さないと……。サークルコアに押し潰されて二階級特進ならまだしも、自滅してソレだなんて死んでも死にきれない。

 

 アンカーを必死に引き戻そうとするが、変な風に慣性が働いており、錨を引き寄せると言うよりかは釣りをしているような感覚であった。

 

「うおおお……」

 

 このタイミングでっ! この力でっ! 今まさに回転するアンカーを引き寄せた。

 

 しかし少女を救出するまでこれを繰り返すとなる気が滅入る。……いや、そんな必要はない。クルクル回る物体がつかず離れず行ったり来たり……。思い出せ、そんな兵装があったぞ。

 

 くるくるくるーと飛んでいって、一定の距離でしばらく留まってその後戻ってくるヨーヨーのような……。ヨーヨー! そうだヨーヨーだ!

 

『You got a new weapon!』

 

 来たっ! ちょっとマイナーだったから忘れてたけれど、こんな時にあると嬉しいあの兵装が!

 

『REFLEX RING』

 

 リフレックスリング(※1)。リング状の弾を飛ばし、そしてヨーヨーのように戻ってくるダブル系の兵装だ。若干射程は短いが、ダブル系では珍しく貫通性能を持っている武器。その独特の間合いをキープできれば高火力を期待できる。

 

 もしやと思い、少女めがけてリフレックスリングを当ててみた。左方向にギュルンギュルン回転するリングが黒髪の少女を捉えると、こちらに一気に引き寄せた。

 

「さすがアズマ! アンカーから新しい武器を呼び覚ますだなんて、やっぱり一味も二味も違う。貯金はたいて転送装置を作った甲斐もあったものだ……グスッ」

 

 まだ壊れた転送装置の事を引きずってはいたが、素直にアールバイパーの兵装が増えたことを祝福してくれている。

 

 対するサークルコアはエネルギー源たる少女を失いその巨体を維持することが困難になっていた。あちこちで小爆発を繰り返しており、この部屋にもその爆風が及ぶことは容易に想像がついていた。

 

「上だっ!」

 

 俺は天井めがけてツインレーザーを放つ。針のような光線が天井に円を描くように穴を開ける。その中心を今度はリフレックスリングで斬り裂いた。あとはあの穴から部屋を抜けるのみ。

 

 危機一髪、バイパーが部屋から出た直後、爆音が下で鳴り響いていた……。

 

 

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(その頃白蓮は……)

 

 周囲がだいぶ暗くなってくる。無言のまま、水晶の体を持ったバクテリアンの戦艦が聖白蓮をその触手で抱きながら、永遠亭の深部へと進んでいく。そろそろ中枢が近いと判断した白蓮は一気に行動に出た。

 

「破ぁっ!」

 

 クリスタルコアの触手に抱かれて拘束されていた聖は一瞬の隙をついて片腕を触手の拘束から逃れさせる。白蓮の体がわずかに浮き上がり空中で踊った。

 

 自由になった腕は拳を作り、クリスタルコアの弱点に一直線に振り降ろされた。

 

「南無三っ!!」

 

 瓦割りの要領で遮蔽板、そしてコアを貫く超人の拳。制御を失い崩れゆくクリスタルコアから白蓮は手早く脱出した。

 

 背後から激しい爆発音。片足で着地した白蓮はそのまま床を強く蹴り、最奥の部屋を目指す。

 

 そして永琳が潜伏しているであろう部屋が開かれる……。その部屋は薄暗いどころではなく真っ暗であった。視覚が役に立たないと悟った白蓮は神経を研ぎ澄ませ、何処から襲ってくるかも分からぬ罠に警戒する。

 

「ようこそ、永遠亭最深部へ」

 

 紛れもなく今回の異変の黒幕、永琳の声だ。スポットライトの光が突然射してその姿を露わにさせる。音もなくふよふよと浮遊しつつゆっくりと白蓮に近寄る。

 

「異変を起こしたのは貴女ですね。この異変で多くの妖怪たちが今も苦しんでいます。どうしてこんな事を……」

 

 凛とした面持ちで挑む僧侶であったが、それを嘲笑うかのようにへらへらと、でもどこか自虐的に答える女医。

 

「知ってるかしら? 今、幻想郷は書き換えられようとしている。ここ最近様々な力の渦がこの幻想郷にやってきたわ。山の上の神々、そして……妖怪を庇う変わり者の僧侶。このままでは私たちは淘汰されてしまう。だから決めた、再び幻想郷で異変を起こして誰がこの世界の強者足り得るかを見せてやろうとしているのよ。貴女達がそうしてきたように、外の世界の力を借りてね!」

 

 演説しながらゆっくりと浮かび上がる永琳。スポットライトの光が器用に永琳を追いかけていく。

 

「そ……そんなことの為に月を隠して、奇妙な機械の生命体を生み出したというのですかっ!?」

「そうよ。誰からも忘れられ、力を失い淘汰される。幻想郷の妖怪達が最も恐れていることだったわね。もちろん私だってそんなのは御免。その破滅の未来から永遠亭を、そして私の可愛い弟子たちを守るためなら、悪魔に魂を売ることすら(いと)わない……!」

 

 両者、戦闘態勢を取る。もはやこの衝突は止められない。

 

「理由は何であれ、そんな自分勝手なこと、絶対に許しません!」

「生きるという意思を否定するなら、まずは貴女から消えなさい!」




(※1)リフレックスリング
横STG「グラディウス2(IIとはまた別の作品)」に登場した兵装。
前方にヨーヨーのようなものを撃ち出す。
射程距離があるがダブル系兵装にしては威力が高い。

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