東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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何故か半霊とはぐれて狂気に陥っていた妖夢、何故か人里に現れたバクテリアン軍の戦艦「ビッグコア」、そして何故か休診中で不気味な沈黙を続ける永遠亭……。
これらの手掛かりから永遠亭の面々が異変を起こそうとしていると察知したアズマは白蓮や妖夢と迷いの竹林に向かう。
すると、まるで竹林全体を守るように鋼鉄の宇宙戦艦どもが行く手を阻んできたのだ。
いよいよ永遠亭黒幕説を確信するも、アズマ達はその物量に押されて白蓮と離れ離れになってしまう。
そしていち早く永遠亭内部に侵入したアズマは多数の赤い瞳ににらまれて方向感覚を狂わせてしまい……


第10話 ~狂気の瞳~

(その頃、永遠亭内部)

 

「がはっ……」

 

 何度目の被弾だろうか。この鈴仙の放つ弾は銃弾のような形をしているのだが、これが急に軌道を変えたりするのだ。そんなトリッキーな攻撃に俺が順応出来る筈もなく、何度もその銀翼に弾を受けていた。

 

 鈴仙の赤い瞳が再び光る。まただ。この直接頭の中をこねくり回される感じ。こんなのをずっと受けていたら冗談抜きで発狂しかねない。あの瞳を見ては駄目だ。ではどうやって反撃する? まさか相手を見ないで攻撃だなんてばかげている。

 

 頼みの魔力レーダーもこの周囲が魔力で満ち溢れているからか、まるで機能していない。いや、まだあの手があった! アールバイパーの代わりに攻撃をしてくれる頼もしい味方が!

 

「操術『サイビット・サイファ』!」

 

 ネメシスとコンパクを呼び出し、鈴仙に向かわせる。が、目標に着弾することなくあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。慌てて呼び戻すが制御を失っているらしく、戻ってこない。

 

「無駄よ。その人形と霊魂は方向感覚を狂わせてまともに機能しない」

 

 自らが回収に回っているとその隙にもう一発弾をくらってしまう。アールバイパーからアラート音が鳴り響く。これ以上の戦闘は危険だ。何とか退避したいがこう方向感覚をかき乱されている状態では逃げることもままならない。ここまでか……!

 

「弱い、弱すぎるわ。能力使ったとはいえここまでアッサリやられてしまうだなんて。次に考えていることは逃げることでしょう? 私もヤバそうになったらよくやるから分かるわ。追い詰められた者の心理はね」

 

 駄目だ、まるで落ち着かない。平衡感覚の欠如やアールバイパーのダメージから離脱は困難。せめて冷静さを取り戻さなくては。……ならば時間稼ぎだ! 何かしらこの状況を打破する手段がある筈。それを模索するための時間が必要である……。

 

 自殺行為かもしれないが、俺はリデュースを解除し、キャノピーを開いた。突飛な行動に銃口(指なんだけど)をこちらに向けつつ口をぽかんとあけて困惑している鈴仙。

 

「いやはや、君は強い。今の俺では勝てそうにないよ。それよりもちょっと話でもしようや」

「貴方は一体何を……。話すことなんてありませんっ!」

 

 まあ当然の反応。いかんね、隙を見せそうにない。こうなればハッタリをかまそう。俺は懐から宝塔型通信機を取り出し見せつける。

 

「これを見なっ!」

 

 いつ見ても本物そっくりだ。本物の宝塔の持ち主である星がこちらを間違えて持ち出してしまったこともあるくらいに。

 

「そっ、それは……?」

「通称『レーザー宝塔』。命蓮寺屈指のお宝であり、自在に曲がるレーザーを撃つことも出来る。あまり使いたくなかったがこいつは最後の切り札。さあどうする……? 下手に動くとへにょりレーザー、撃つぞ?」

 

 右手で宝塔のレプリカを掲げつつ凄んでみる。当然このレプリカには本物のようにレーザーを撃つなんて芸当はできない。バレたら終わりだ……。

 

「それは毘沙門天の……!? そんな重要なアイテムを貴方ごときが持っているだなんてあり得ないわ。ニセモノでしょう?」

 

 ぐっ……バレてる! いや、確信は得てない筈。ニセモノだと認めなければいい。震えそうな声を必死に張り上げ虚勢を張り続ける。

 

「果たしてそうかな? 裏をかいて俺みたいな人間が本物を手にしていることもあるかもしれないぞ? そういえば寅丸星はよくコレをなくしてしまうそうだが、俺が拾ったとかも考えられる。そもそも本物が1つだけとは限らないぜ?」

 

 警戒して宝塔にジリジリと近寄る鈴仙。よし、懐疑心を大きくさせればこちらのもの。

 

「簡単じゃないの。近くでよく見れば本物かニセモノかわかるでしょうに」

 

 よし、完全に宝塔に注意を逸らすことが出来た。あとは……。

 

 鈴仙は宝塔を警戒し、本来の敵である俺への集中が途切れる。今や宝塔にクギヅケだ。

 

「そぉい!」

 

 おもむろにレプリカ宝塔を投げ込む。今後に備え、俺はアールバイパーのキャノピーを閉じ、耳を押さえながらうずくまった。直後、耳をつんざく高音と眩い閃光が弾け飛んだ。

 

 宝塔型通信機にも光を発する機能がある。それを利用してフラッシュグレネードとして活用してみたのだ。

 

「ああああああっ!!」

「へあぁ……。目がぁ……、目がぁーーー!!」

 

 光と音が収まった後、見上げるとあれだけいた紅蓮の瞳は消え去っており、そして目の前には目を押さえて悶え苦しむ永遠亭の刺客がいた。

 

「『狂気の瞳』とやらでこちらを凝視していたのが仇となったな。急いでいる、お前達の相手はできない。……もっとも聞こえていないか、今のこいつらには」

 

 無力化したウサギどもにこれ以上の干渉は行わない。俺の平衡感覚が正常なうちにこの赤い瞳のエリアを抜ける。もちろん宝塔型通信機をオプションに回収させて。

 

 宝塔に殺傷能力など皆無。一時的に奪った視力と聴力を回復させて、奴らが追いかけてくるであろうことはすぐに予想できた。空き部屋に身をひそめて落ち着くのを待ったほうがいいかもしれない。

 

 ぐねぐねと通路を突き進み、なるべくあの場所から離れようとする。どこを飛んでいるのかはよく分からない。とにかく前へ前へ……。

 

 不意に薄暗い部屋を発見する。人の気配もないし、ここに潜り込もうとバイパーを飛ばす。

 

 一際薄暗い部屋であった。先程までの喧騒が嘘のように。そういえば白蓮はどうしているのだろう? 無事にテトランどもを倒して永遠亭のどこかにいるのだろうか?

 

 頭によぎった矢先、宝塔型通信機が光る。声からして白蓮からの通信であることが分かるのだが、ホログラムも音声もノイズだらけであり状況はうかがい知れない。

 

「アズマさ……次々……コア……きりがな……助け……もう……た……な…………」

 

 くそう、ノイズだらけで聞き取れない。思わず宝塔に耳を傾けてみるが結果は変わらず。どうやらコア系ボス相手に苦戦を強いられているようだ。すぐに手助けしたいところだが、生憎今の俺にそんな余裕はない。次に鈴仙に出くわしたら今度こそ終わりだ。

 

 宝塔を用いて再びフラッシュグレネードとして活用するには魔力を溜めなくてはいけないし、そもそも鈴仙には手の内がバレている。それに今の俺では奴に敵わない。

 

 ジッと息をひそめていると背後で何かが蠢いているのを感じた。敵の奇襲かと警戒し振り向いた。

 

 大部屋の中心にいるのは小柄な少女? 僅かな月明りの中、目を凝らしてみる。

 

 まず目に入ったのが美しくそして長い黒髪。それが月明かりに照らされて妖しく光っている。癖毛などまるでなく、余程大切に手入れしていたのであろうことが分かる。王族とか貴族とか、相当の高家とかそんなレベルかもしれない。

 

 だが、それ以上に驚いたのは彼女が縛られていたということ。どう見ても診療所の職員には見えない(そもそも特徴的なウサミミがない)。それでは何故縛られて? 精神を酷く病んでいて外出すら許されていないとか? ……いやいや考え過ぎか。

 

「ん……誰? 永琳ではないようね。変な鳥の妖怪? いえ、ノッペリしすぎているから宇宙人?? とにかく、見惚れてないで助けてよぉ……」

 

 永遠亭のとある大部屋、その中心の柱に縛られている少女という衝撃的なものを見ていて俺の思考回路が一時マヒしていたようだ。見たところ永遠亭の刺客とは思えないし、見るからに衰弱している。幽閉されて随分時間が過ぎているのだろう。救助しようと俺は彼女に近づく。

 

「だから変な鳥の妖怪でもなければ、宇宙人でもない。超時空戦闘機……」

 

 その矢先、周囲が激しく揺れた。しまった、これも罠だったのか!? 大部屋から出ようと振り向くが入口は無情にも閉じてしまった。俺までも閉じ込められたのか。

 

「ちょっ、何? 何なのよ!?」

 

 少女の悲鳴が聞こえ俺は再び反転する。すると球体が黒髪の少女を捕らえていたのだ。囲われてその中心に球体……。

 

 その球体は少女を閉じ込めたままゆっくりと動き出し突進してくる。動きが遅かったので簡単に避けることができたが、球体は壁に当たると跳ね返り更に着地点に砲台を建設していた。あの短時間で……!?

 

 くそう、何処に行っても敵だらけだ。そしてこいつは恐らく……!

 

「サークルコア(※1)と言ったところか」

「冷静に分析なんてしてるんじゃないわよ! 早く助けなさい! 目が回ってしまうわ!」

 

 やれやれ、目覚めたかと思えばコレか。どの道助けを求めている人を見殺しにはできないしサークルコアは何とかして倒さなければならない。俺は操縦桿を強く握り、バクテリアンの巨大戦艦に勝負を挑む……!

 

 

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(その頃永遠亭入口……)

 

「ハァ、ハァ……。キリがないわ……」

 

 次々とワープアウトしてくるおびただしい量のバクテリアン軍が侵入者から永遠亭を守っている。ある時は瓦割の要領で遮蔽板ごとコアを殴りつけ破壊したり、得意の弾幕でコアを射抜いたりと1体ずつ処理していくのだが、無尽蔵にわき出る巨大戦艦を前に流石の白蓮も疲れを見せ始めていた。

 

 今も胸を上下させて苦しそうにゼエゼエと息を吐く。どうにか呼吸を整えようと必死だ。

 

 そして遂に……。

 

「っ!?」

 

 背後から迫ってきた「クリスタルコア(※2)」への対応が遅れその触手に薙ぎ払われてしまう。ビターンと地面に叩きつけられうめき声を上げる魔法使い。

 

「(このまま戦い続けてもいずれ消耗しきってしまう。先に永遠亭に入り込んだアズマさんや幽々子さんも気になるし……)」

 

 白蓮は急に抵抗を止めた。自らの攻撃で戦意を削いだと判断したのか、クリスタルコアは白蓮をその触手で捕らえ永遠亭内部へと消えていく。

 

 外敵を無力化させたことで他のバクテリアン軍も動きを止め再びいずこかへワープしていった。

 

「(この水晶の戦艦、思ったほど力がない。いざとなれば簡単に振りほどけるけれど……)」

 

 そう、白蓮はワザと捕虜になったのだ。永遠亭の中枢に近づくタイミングを見計らい脱出し、永琳と対決しようという目論見である。

 

 そんな魔住職の真意を知ってか知らずか、クリスタルコアは獲物を永遠亭の奥へと運んでいった……。

 

 

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(その頃鈴仙は……)

 

「うう、まだチカチカする……」

 

 アズマの持つ「宝塔型通信機」の激しい光によって、視覚と聴覚を一時的に奪われた鈴仙とてゐ。流石に少しずつ視覚を取り戻し、いまだにガンガン痛む頭を抱えつつヨロヨロと起き上がる。

 

 意識を取り戻した後にするべきこと、それは逃走したアールバイパーの追跡であった。しかしそれは叶わないこととなる。

 

「気をつけなさい妖夢。あの『狂気の瞳』があちこちで光っているわ」

 

 冥界からの刺客が接近しつつあったのだ。

 

「むむっ。このまま進んだらまた狂わされてしまうのですが」

「修行が足りないわよ妖夢。心の目とかそこの半霊で見ればいいじゃない。出来るのでしょう?」

 

 赤い光が点々と光りつつあるというのにこのノホホンとした亡霊は何ともなさそうである。

 

「最近、半霊の扱いが酷いです! 男の人と添い寝させられるわ、無茶な要求されるわで……」

 

 口では文句を言うが再び狂気にとらわれたくない妖夢は静かに目を閉じた。瞼で閉ざされた妖夢の視界。彼女だけに漆黒が覆う……。

 

「幽々子さま、大変です。目を瞑ったらやっぱり真っ暗です!」

「どこかで聞いたセリフよね……。って、滅茶苦茶に刀を振り回すのはやめなさいっ!」

 

 侵入者を排除するはずの月のウサギを無視して幽霊たちは愉快な漫才を繰り広げていた。

 

「どこまで私をコケにするつもりだっ!」

 

 無視され続けたことに耐えかねて大声を張り上げる。それが開戦の合図であった。

 

「前のようにはいきませんよ! 今回は幽々子様もついていますから、恥をさらすわけにはいきませんっ!」

 

 突進する半人半霊とそれに向けて銃を構えるように指を向ける月の戦士。今、因縁の弾幕勝負が始まる……!

 

 

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(その頃、貴方とアールバイパーは……)

 

 

「サークルコア」の本体部分に幽閉された少女を救出し、自らもこの部屋から抜け出るためにひとまず遮蔽版を取り除こうと攻撃を加える。しかし脆弱部である遮蔽版は本体が回転しているためになかなか狙いが定まらない。頑丈なボディにショットを弾かれてしまう。

 

「手早く『サイビット・サイファ』を使えばいいのだが……」

 

 いつもであれば本体めがけてオプションを突撃させていただろう。しかし、今回に限って言えばそれは不可能なことである。閉じ込められた少女にも危害を与える可能性が高いからだ。そしてサイビットを本体に用いることの出来ない理由がもう一つ。

 

「くっ、少しかすったか!」

 

 サークルコアの本体は簡素な兵器工場にもなっているらしく、外殻に接地するたびに固定砲台を置いていくのだ。こちらの処理を怠ると四方八方から狙われる羽目になる。オプションはそちらの処理で手一杯であった。

 

 砲台対策は周囲を一度の攻撃できる近接武器である「レイディアントソード」でも対処しやすいが、肝心の本体へダメージを与えるにはいささか射程距離が足りない。かといってリップルレーザーでは大きくなりすぎることが災いして弱点へ到達しにくかったりするのだ。

 

 となると残るは「スプレッドボム」での誘爆をうまく当てるしかないのだが……。

 

 ゴロゴロと転がってくる本体からゆっくりと退きつつ爆弾を投下。うまい具合にダメージを与えているようだ。しかしタイミングを取るのが難しい。次に投下したスプレッドボムは予想よりも早く炸裂してしまい、ダメージを与えることが出来なかった。

 

「ちょっと! 中に私がいること忘れないでよっ!」

 

 そうだった。このサークルコアはコアの代わりに少女の魔力的な何かをエネルギー源としているようだ。とにかく救い出すには遮蔽版をすべて取り除かないといけない。

 

「がっ!?」

 

 再びサークルコアが跳ね回る。外側の壁もグルグルとまわり軌道を読みづらい。さらに球状の本体からもレーザーを放ってくる。そのレーザーを受けてしまったのだ。直撃ではなかったものの、機体を大きく揺るがした一撃。思わずリップルレーザーで応戦するが、あえなくリング型の光線は外れてしまう。

 

 接近してのミサイル攻撃もあのようにレーザーをまき散らされてしまっては迂闊にできない。

 

「操術『サイビット……』いやダメだ!」

 

 頼れる切り札ではあるが、関係のない人を巻き込んでしまうことが確実であるためサイビットも使えないだろう。

 

「剣では届かない。リップルは大きすぎるし火力も足りない。適度な威力と連射性、そして精密な射撃を行うには……」

 

 今のアールバイパーの武器では成し得ないだろう。思い出せ、今まで戦ってきた相手の中で針のように細く鋭い一撃を放てた奴が……。

 

 おぼろげながらに浮かんだ記憶。霊夢に圧倒的実力差を見せつけられ、散々蹂躙されたあの時だ。一瞬で勝負は決まってしまったが、あの最後の瞬間だけは鮮明に思い出せた。

 

 確か名前は……「封魔針」とかいったか。執拗にこちらを狙うお札を警戒した矢先、霊夢は針のような素早いショットを連続で浴びせかけ、アールバイパーをハリネズミにしてしまったのだ。

 

 思い出しただけでも震えが止まらない。あまりの針の多さに最初は自分も串刺しにされたかのような錯覚を覚えたのだ。

 

 だが、それも昔の出来事としてある程度は割り切れるようになった今、あの時のことをよくよく考察できるようになっていた。

 

 あったぞ、あんな針のようにスマートで、でも激しい武装が……!

 

『You got a new weapon!』

 

 来たっ! 土壇場でこの絶望的状況をひっくり返しうるあの声が! 武装を表示していたディスプレイにノイズが走る。ザザザと激しくノイズを発生させ、消えたのは「レイディアントソード」。そしてそれを上書きするかのように描かれたアイコン。機械的なシステムボイスが告げる兵装の名は……。

 

『TWIN LASER!』

 

 ツインレーザー(※3)。純粋に火力を求めたノーマルレーザーと、純粋に扱いやすさを求めたリップルレーザーのいいところだけを取り入れたレーザー系兵装だ。リップルレーザー並みの連射力を誇り、更に威力もリップルよりも高いというかの名兵装。勝てる、こいつがあればあんなコア系ボスなど敵ではないっ!

 

 

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(その頃冥界の住人チームは……)

 

「ていやっ!」

 

 刀の一閃。その軌跡からウロコのような形をした弾幕が形成される。それらは標的である鈴仙の左右に向かって放たれ、退路を塞いだのちに第二波の狙い撃ちを繰り出しつつ一気に接近した。

 

「ワンパターン過ぎるわ。その弾幕は既に見切ったと前にも言ったはずよ」

 

 接近する妖夢をその紅の瞳で睨み付ける。

 

「何度挑んでも同じ。再び正気を失うがいいわ!」

 

 勝ち誇り、瞳を輝かせる月の兎であったが、睨み付けた直後、硬直する。妖夢がぐにゃりと溶けたのだ。

 

 いくらなんでもそんな能力は行使していない……というよりそんな能力持っていない。何が起きたのかと狼狽しているうちに、溶けた妖夢はさらに人型の原型を失いゆく。そしてこのトリックの正体を知ることになる。

 

「しまった、半霊……!」

 

 元の姿に戻った半霊はそのまま鈴仙の顔に覆いかぶさり彼女の視覚を奪った。本物の妖夢は一時的に高度を下げて身をひそめていたのだ。

 

「これでは自慢の狂気の瞳も使えないでしょう」

 

 床を蹴り、大きく跳躍すると今度はその胴体を向けて一閃。至近距離からのウロコ弾を喰らわせたのだ。とどめの一撃を放った直後、半霊を呼び戻した。

 

「私を狂気の深淵から救ってくれた変な鳥の妖怪が教えてくれた技です」

「おめでとう、妖夢。リベンジを果たせたのね。でも、素直にアズマ君のオプションの真似しましたって言えばいいのに……」

 

 妖夢が必死に戦っていたというのにこの亡霊少女、ポカンと口を開けて眺めていただけであった。相も変わらずの天然っぷりに妖夢はガクリと肩を落とす。

 

「ほら、今日の晩御飯が逃げていくわよ。追いかけないと」

「だから食べちゃダメですってば!」

 

 みょんににぎやかな冥界の住民たちは逃げる月の兎を追って永遠亭の深部へと進んでいく……。

 

 

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(その頃、貴方とアールバイパーは……)

 

 

 ツインレーザー入手後は一気に事態が好転した。一瞬の隙をついての針状の光線狙い撃ちによりすべての遮蔽版を取り除くことに成功したのだ。

 

 だが、その後が分からない。いつもならばこのまま中心のコアを攻撃して破壊すればいいのだが、今回はコアではなくて少女がいる。まさかそれを破壊するわけにもいかないし、どうにかして助け出さないといけない。

 

 だがどうやって? 腕のないアールバイパーでどうやって回収する?

 

 焦る矢先、宝塔型通信機がビカビカと光を放った。誰かからの通信だ。相手は白蓮だろうか?

 

 ノイズだらけのホログラムからわずかに通信の相手が白蓮であることが分かる。しかし声がまるで聞こえない。俺は何度も彼女の名前を叫ぶが反応はない。

 

「っ!?」

 

 一瞬だけクリアになったホログラム。しかしそれはあまり見たいものではなかった。

 

 白蓮がバクテリアン軍に屈していた。「クリスタルコア」の触手に絡め取られてどこかに連れて行かれているところのようである。必死に声を聞き取ろうと通信機に顔を近づける。不意に影が落ちた。

 

「しまっ……!」

 

 サークルコアの体当たりが来る! 白蓮も気になるが助けるにはまず自分が助からないと! もちろんそこで囚われているお姫様も。急ぎ操縦桿を傾け回避を試みる。

 

 どうにか直撃は免れたようだ。しかし……。

 

「ネメシス! コンパクっ!!」

 

 オプション2つがサークルコアの下敷きとなってしまった。潰れる前に機体を押しのける二人の姿が見えた気がした。そうか……。あいつら、俺のことを身を挺して……。ひどくダメージを受けており、ぐったりとしている。俺は舌打ちをしながらも展開していたオプションを格納した。

 

 事態は何も解決していない。逃げ惑っていると再び通信機が激しい光を放っていた。また白蓮と繋がったか!?




(※1)サークルコア
横STG「グラディウスV」に登場するボス。
砲台を生成する球体が縦横無尽に跳ね回る。

(※2)クリスタルコア
横STG「グラディウスII」に登場する巨大戦艦。
全身クリスタルで出来ており、何故か後ろから登場する。
触手をうねらせて弱点を防御しながらレーザーを撃ってくる。

(※3)ツインレーザー
横STG「グラディウスIII」に登場した兵装。
「=」のような形のレーザーを連射する。
劇中での描写の通りリップルレーザーの連射力とノーマルレーザーの火力を併せ持った使い勝手のいいレーザー系兵装。
残念ながら敵を貫通する能力はない。

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