東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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人里で妖夢らしき辻斬りが暴れているらしい。
その報せを受けて白玉楼から再び現世に舞い戻ったアズマとアールバイパー。
だが、人里では妖夢とは別に「ビッグコア」という数メートルサイズの宇宙戦艦までもが降り立っていたのだ。

明らかに幻想郷の住民ではない相手に戸惑うアズマだったが、慧音先生と協力してこれを撃破。
今度こそ辻斬りの情報を得てそちらに向かうのだが……!


第7話 ~半人半霊の庭師~

(幻想郷某所……)

 

「まさかあんな簡単にビッグコアを倒すとはね。いえ、あの程度で苦戦されてはつまらないわ」

 

 幻想郷のどことも知れず場所、暗室の中怪しげに瞳が輝く。その瞳が見ているものは、やはりどこからか仕入れてきたであろう映写機が投影する映像。

 

 薄暗い部屋の中、壁に人里の一画が映し出されている。ちょうどアールバイパーとビッグコアが交戦しているところであった。

 

 この真っ暗な部屋の中で唯一の光源となっている映写機は、人里の様子以外にもそれをほくそ笑みながら目を通す女性のシルエットも映していた。背後には彼女を凌駕するほどのサイズをした赤黒い球体が不気味にうごめいている。

 

「もちろん……、分かっているわ。貴方の潜在能力はあんな程度ではない。もっともっと研究を重ねて究極の機械生命体を生み出して見せるわ。それこそ幻想郷に革命を起こすほどの……!」

 

 気味悪くクククと笑いながら女性はその巨大な赤黒い球体を撫でる。

 

 

____________________________________________

 

 

 

(その頃、人里では……)

 

 信じられない光景が広がっていた。黄昏時の薄暗い闇の中で息を切らして倒れ込んでいるのは自警団の皆さん。無数の体の上にただ一人立ち尽くすのは両腕を炎で纏った妹紅と辻斬り……。

 

「そんな……!」

 

 幸いなことに致命傷を負っている者はいないようである。だがそれは辻斬りが手負いの自警団に手をかけようとする度に妹紅が必死にその身を差し出して止めに入るからだ。

 

 だが、その妹紅もかなり押されているようである。何度も切り付けられ、肩を押さえながら息を弾ませる妹紅はそれでも眼光を絶やさずに敵を睨み付けていた。

 

 考えてみれば当然だ、相手は武器を手にしている。あんなものを振り回されては徒手空拳の妹紅では分が悪いというのは火を見るよりも明らかであるから。

 

「アレが『魂魄妖夢』……?」

 

 確かに星が言っていたようにおかっぱ頭の背の低い少女ではある。だが、むき出しの2本の刀は血で染まっており、彼女は常に薄ら笑いを浮かべている。明らかに正常な状態とは言えない。

 

 何よりも特徴的であったのはその紅蓮色の瞳。まるで虚空でも見ているようで、焦点が定まっているようには見えない。だが、殺意に満ちた光を常に放っており、非常に危険な状態であることはここに転がっている自警団の皆さんを見れば容易にわかる。

 

 そしてその息使いひとつが命取りとなった。息を吐く際の一瞬の心の緩み、その瞬間を妖夢は見逃しはしなかった。一気に地面を蹴ると一閃、妹紅の胴体に斬りつけた。それこそ誰も反応が出来ないほどの速さで。

 

 一瞬胴体が真っ二つになる様が見えた気がした。慧音の息を飲む音、虫の息の自警団の驚きの表情。

 

「妹紅っ!」

 

 飛び散る鮮血は赤黒色。その赤黒色はいつしか炎となり、そしてその胴体もろとも爆散した。う、嘘だっ。とうとう人を殺した……!

 

 小さく燃える炎は亡骸を灰に帰す。なんということだ、遂に犠牲者が出てしまった。……と思った矢先、弔いの炎が突然激しさを増す。しばらく激しくメラメラと燃えあがると炎は拡散し、そして消えた。その中心にいたのは無残にも胴体を真っ二つに斬られた筈の妹紅が何食わぬ顔して現れたのだ。

 

「甘いな、蓬莱人は殺せない。不死鳥のごとく何度でも蘇る。さあ、もう一度始め……」

 

 しかし台詞を全て言い切る前に、妹紅は地面に血反吐を吐き、ガクリと膝をついた。ゼエゼエと肩を上下させている。連戦のダメージは残っているのだろう。素人目に見てもそれは十分過ぎるほど分かる。

 

「妹紅、ボロボロじゃないか! いくら不死身だからって無茶し過ぎだ! もういい、よくやったよ。後は私達に任せるんだ」

 

 それでも戦地に赴こうとする友人を必死になって止めるのは他でもない慧音先生であった。ってか「殺せない」って比喩でも何でもなく本当だったのかよ……。

 

 とはいったものの、あれ以上彼女に無茶をさせるわけにはいかない。慧音は妹紅の介抱で手が離せないようだし、ここは俺がやるしかない……!

 

 新たな標的を見据えた辻斬り少女は再び刀を構え始めている。ある程度の攻撃を当てて気絶させればいいだろう。まずはショットをお見舞いする。よし、避ける動作を見せない。

 

 が、刀を振るとあろうことかショットを弾き飛ばしてしまったのだ。んなアホな!

 

「そいつに飛び道具は通用しない。全部刀に弾かれちまう!」

 

場外からの助言。どうやら妹紅が不利と分かっていながら近接戦闘を行っていたのはこの為であろう。だが、アールバイパーは格闘戦なんて術を持ち合わせていない。この超時空戦闘機にはロボットに変形するとかそんな機能はないのだ。ならば物量で押し切ろうとネメシスと半霊を呼び出す。

 

貴方「トレースオプションだ。しっかりついて来いよ!」

 

 2体のオプションを追従させる。遠くから見るとまるで蛇のようなオプションの挙動、俺の銀翼が「クサリヘビ(バイパー)」と呼ばれる理由でもあるオプションのフォーメーションだ。ノーマルオプションとも言うが味気ないので勝手に名付けた。

 

 オプションを一列に固めてショットを浴びせる。これで自身も含めて3倍の火力だ、どうする妖夢? しかしこれすらも涼しい顔して斬り落としてしまった。正面から攻めるのは無謀なようである。逆に妖夢は振り下ろした刀から衝撃波のようなものを撃ち出してくる。これを高度を上げて回避すると、次の攻めに入る。

 

「これは斬り落とせまい」

 

 妖夢の真上に陣取ってのスプレッドボムの雨あられ。下手に斬りつけると爆発するぞ。最初は回避行動を取ろうとしていたらしいが、アールバイパー本体とネメシスから投下される爆弾の総数からその選択は諦めると、防御の姿勢を取り始めた。

 

「くっ……」

 

 こちらのショットをことどとく斬り落としていた刀も爆弾の爆風までは防ぎようがない。驚きと悔しさの混じった表情で攻撃を受ける辻斬り。効いているようだ。

 

 刀によるガードが上手くいかないと判断すると、今度は乱れ咲く青い爆風の花をジグザグにかわしてこちらに迫ってくる。近距離戦を挑むつもりのようだ。一気にバーニアをふかし、これを回避する。だが、妖夢はその勢いのまま更に上昇。アールバイパーの真上に陣取った。

 

「しまったな……」

 

 スプレッドボムが投下型ミサイルであることを見抜いたのか、唯一の有効な装備が届かない上に逃げ込むのが目的だったのかもしれない。残念ながらこのミサイルでは上方向に攻撃を仕掛ける術はない。唯一なんとかするには……。

 

「ネメシス、隊列を変えるぞ。フォーメーションオプションだ!」

 

 後ろをついていた上海人形がアールバイパーのすぐ横に付き添うように飛行する。頼んだわけではないが、反対側には半霊が陣取っていた。もしもオプションが全て揃ったらバイパー本体を中心にVの字型の編隊になる。これで少しでも上方向にネメシスを近づけてレーザーを当てようとするが……。

 

 高所を陣取った辻斬りは赤色だったり青色だったりする弾をこちらを囲い込んだり狙ったりするように緩急つけて撃ちこんでくる。やむなく高度を下げつつ右へ左へ凶弾をかわす。スピードではそうそう負けない。いつか隙を見て振り切り、再び高高度から爆撃してやる。それまでは防戦だ……。

 

「おいっ! 後ろに付かれているぞ!」

 

 外野からの声に俺はハッと我に返る。真上からの弾幕の雨あられは妖夢を振り切ることで凌ぎきることはできた。だが、俺がそちらに気を取られている間に、今度は真後ろから攻めてくるらしい。今度も逃げ切って……!

 

 突然の耳鳴り、甲高くキーンと脳内に直接響く。何が起きたんだ? 声が出ない、動けない。妙に周囲がスローモーションだ。何があった? 何が起きる?

 

 思い出せ、こんな緊迫した状況でボンヤリすることは許されない。確か、確か……。こうなる直前に最後に浮かんだのは緑のワンピース姿の少女が刀を構えている姿……。

 

「アズマっ!!」

 

 再びの先生からの甲高い怒声で目が覚めた。レーダーを確認すると妖夢と思われるエネルギー体がバイパーに急接近している。アールバイパーを一刀両断するつもりか! 何て速さだ。避けれるか……いや、無理だ!

 

「操術『サイビット・サイファ』!」

 

 俺は焦りつつもスペルカードを掲げる。発動の瞬間、アールバイパーが青白い炎に包まれた。間一髪で展開されたフォースフィールドが斬撃を凌いでくれたようである。同時に魔力のオーラを纏いつつ突撃するのはネメシスと半霊。逆に背後を取ってやった。奴は確実に喰らう筈。

 

 最初はネメシスが突撃する。標的をその両腕で掴むと小刻みにくるくる回りながら体当たりを連続で仕掛ける。

 

「このっ……!」

 

 対する妖夢は刀の腹でそれを叩くとネメシスを吹き飛ばして撃退した。だが、間髪入れずに今度は半霊が突っ込んでくる。腹の辺りに体当たりしてダメージを与える。む、彼女達のオーラが赤く変色している。魔力切れが近いようだし、そろそろ呼び戻すか。号令をかけると両者は急速に元の位置へと戻る。へへへ、どてっ腹に一発ブチかましてやったぞ。

 

「半霊を……」

 

 追撃をしようとロックオンサイトを覗き込んだが次の瞬間、妖夢はいなかった。レーダーにも反応がない。気配を殺したのか?

 

「返せっ!」

 

 違う、真下だ! 勢いよく天に昇る龍の如く刀を突き出して飛び上がる。纏っていたフォースフィールドに守られてアールバイパーは真っ二つにこそされなかったが、大きくバランスを崩し、地面に突き刺さりながら墜落してしまった。こんな衝撃を受けても爆発炎上しないアールバイパーは凄いのだが、肝心の俺は動けないし出られない……。

 

 自らの身を守るフォースフィールドも消えてしまい、こちらが抵抗できないと見ると妖夢はスタっと地面に降りる。ゆっくりと歩みを進め、間合いを取りつつ、刀の柄に手をやった。まずい、やられる……。

 

 どうする、何か抵抗しなくては……。リップル? いや、地面に撃ってどうする。レーザー? いやいや、地面をえぐってどうする。となるとスプレッドボムの衝撃で飛び出すか。上手く接近した瞬間に炸裂させれば迎撃できそうだが……、正直上手くいく自信がない。妖夢は一瞬だけとはいえ凄まじい速度で一閃するのだから。

 

「You got a new weapon!」

 

 む、この無機質な声はアールバイパーからのものだ。この状況で何か新しい武装が解禁されたらしい。上書きされるノーマルレーザーのアイコンがモザイク状に歪む。レーザー系の兵装のようだ。一体何が……?

 

 周囲の空気が凍りつく感覚、妖夢が刀を抜き攻撃の態勢を取り始めたのだ。賭けよう、この新武装を放ってどうなるのか。

 

「いっけぇぇぇぇ!」

 

 最後のトドメを受けると思った刹那に放った悪あがき。正体も分からぬ新技を繰り出したアールバイパーは青白い刃の軌跡に晒される。

 

 や、やられ……た? いや、俺は無事だ。ということは……。

 

「うぐぁっ!?」

 

 思わぬ衝撃を喰らい、のけ反りながら吹き飛ぶ辻斬りの姿が一瞬見えた。違う、俺は斬られたんじゃない。俺が何かしらの反撃をしたんだ。

 

「そ、その青色の剣は……?」

 

 ディスプレイに目をやると信じ難い兵装の名前が表示されていたのだ。遅れて機械的なシステムボイスが兵装名前を読み上げる。

 

「RADIANT SWORD」

 

 レイディアントソード(※1)、自分の周囲360度を一閃する青い刃。なるほど、刀を使う少女と一戦交えて得る兵装としては至って妥当。そしてこの剣によってめり込んでいたアールバイパーも脱出に成功する。

 

「獄界剣『二百由旬の一閃』」

 

 まさかの反撃に慌てた妖夢は大弾を大量に放ち、それを自らの斬撃で切り刻みながら応戦する。大中小の弾幕でこちらを翻弄する厄介な弾幕であった。だが、俺も得たばかりのレイディアントソードを振るい、小さい弾幕を消し去り応戦した。明らかに焦りの表情を見せた妖夢。

 

 そう、この青い刃を用いれば小さな弾くらいなら斬り落とすことができる。そうか、飛び道具を斬り落とす妖夢を見て既視感があったのはこの兵装の事を俺が知っていたからだ。そのまま接近すると再び剣を振るう。やった、近距離で一発かましたぞ!

 

 弾幕による攻撃が有効でないと判断し、再び刀を構えて斬りつけてくる。すかさずレイディアントソードを振るい応戦した。

 

「そんな付け焼刃で……」

 

 だが、刀を使い慣れている彼女の方が圧倒的に上手。一方のこちらは周囲にくるりと刃を回転させるのが限界。回した後もアールバイパーの挙動の反対側に剣を振るうことができるようだが、練習もしていない状態で制御できるかと言ったらそんなの出来る筈がない。

 

「片腹痛いわっ!」

 

 翼にダメージを受け、フラフラと墜落する。無防備になった状態でコクピットめがけて刃を突き立てようとする。まずい、キャノピーを貫通などしたら、まず俺は助からないっ!

 

 己の最期を悟り硬く目を閉じた矢先……。

 

「スターソードの護法っ!」

 

 聞いただけで安心感を覚える声、白蓮のものだ。第三者の介入に顔をしかめた辻斬りは白蓮の飛ばした弾を斬りつける。

 

「っ!?」

 

 だが、刀で一刀両断された弾は消えない。文字通り剣の形となって妖夢に迫っていった。

 

「小癪なっ!」

 

 もう一度刀を振るいようやく弾を消した。相当焦っていたのか、太刀筋はかなり乱れていたようである。

 

 対する白蓮は身体強化でも施したのか、身軽にステップを踏むとその拳を突き出し真っすぐに辻斬りに突っ込む。それを刀の腹で防いだ妖夢は逆に刃を振りかざし攻勢に出ると、対する白蓮は光る巻物を広げてそれを防ぐ。そんな攻防がしばらく続いた……。

 

「超人『聖白……!」

「隙ありっ!!」

 

 更なる身体強化を用いて白蓮は勝負に出ようとしたのだろう。しかし呪文の詠唱が大きな隙となってしまった。斬り上げられた刃が白蓮を襲う! 危ういところで一歩下がって間一髪それを避けた白蓮であったが、手にしていた巻物を弾き飛ばされてしまう。まずい、あれがないと白蓮は……!

 

 無理矢理にエンジンをふかし、急上昇するバイパー。巻物に接近しそれをキャッチするんだ……! その想いを胸にただただ上昇する。ここまでの動きがスローモーションに感じる。そして上空で巻物に接近。キャッチするぞ……。

 

 でもどうやって? リデュース中のアールバイパーからは乗り降りは出来ないし、大体高速飛行中の戦闘機から身を乗り出すだなんて狂気の沙汰である。仕方がない、己の身で受け止めて送り届ける。

 

 俺はエア巻物こと「魔人経巻」に体当たりするように飛んだ。

 

「アズマさんっ! それに触れては……!」

 

 この身で巻物を受けて送り届ける。俺はそれだけを行おうとした。だが、魔人経巻に触れた瞬間……。

 

「うぐわぁっ!!」

 

 まるで蛇のように巻物が伸びるとアールバイパーを絞め付け始めた。な、なんだコレ……!? 特にコクピットが潰れているわけではないのに頭がギリギリと絞め上げられるような感覚。

 

 同時に魔人経巻に描かれた不思議な模様がディスプレイに乱雑に表示される。コンピューターウイルスの類? そんなまさか!? 幻想郷にそんな奴いてたまるか。となると白蓮の巻物が干渉していることになるが……。

 

白蓮「やめて! その人を、アズマさんを傷つけないでっ!!」

 

 持ち主の必死の悲鳴もむなしく、魔人経巻は俺に苦しみを与え続ける。まずい、意識が……!

 

「お願い、落ちついて! おね……ガハァッ!?」

 

 思わぬ脅威の登場で白蓮はすっかり妖夢の事を忘れていたようであり、背後から袈裟斬りにされる。じわりと白いインナーに鮮血が染みる。ショッキングな出来事に薄れかけた意識は覚醒する。眼は冴えたが、同時にぼやけていた苦痛も戻って来て、俺は顔をゆがめた。

 

 これ以上の追撃をさせまいとリップルレーザーを撃ち妖夢の注意をこちらに向ける。波紋型のレーザーはあっけなく妖夢に斬られてしまうが、その隙に白蓮は退避に成功。ふわりと飛び上がるとアールバイパーに取りついた。

 

「その人を傷つけないで……」

 

 魔人経巻の本来の持ち主が触れた途端、大蛇のようであった巻物はまるで絹織物のように柔らかになり、俺は苦しみから解放された。同時にディスプレイも元に戻りつつある。が、白蓮は吐血するとアールバイパーの翼の上で膝をついた。落ちないように一時的にリデュースを解除する。

 

「その、ごめんなさい。貴方を危険な目に遭わせてしまって」

「白蓮、もう喋らないで。俺はもう大丈夫だから。後のことは俺に任せてくれ」

「うぅ……。確かにこの怪我では貴方のサポートは無理でしょう。でも、これだけは……」

 

 震えた手で懐から取り出したのはスペルカード。その材質、デザインは豪華絢爛であり俺のメモ帳の落書きのようなペラペラの安っぽいスペルカードとは全然違っていた。

 

「貴方にこのスペルカードを授けます。これは『スターソードの護法』、弾を消し去る刀を持った妖夢にはこのようなスペルが必要です。どうか妖夢を止めて、助けてあげて……」

 

 それを最後に白蓮はアールバイパーの翼から落下した。眼下で慧音先生が受け止めている様が見えて少し安心する俺。

 

 手にしたカードはほんのりと暖かかった。裏を見ると魔人経巻の模様がわずかに光を帯びており、ただのスペルカードではない事が分かる。もしかして俺にもこのスペルが使えるように魔力を込めたのだろうか?

 

 今俺が手にしているスペルカードはただのスペルカードではない。魔力が、そして白蓮の想いが込められたものだ。……ええと、どう使うんだろう? とりあえず掲げながら名前を口にしてみた。

 

「スターソードの護法!」

 

 アールバイパーから護符の形をした弾が回転しながら飛んでいく。同時にフォースフィールドが自身を守るように覆ってくる。ゆっくりと辻斬りに迫る護符の数、1つ2つ3つ……あれ?

 

 明らかに白蓮が使用していたものよりも弾数が少ない。もはや弾幕とは呼べないほどのスカスカっぷりに唖然としてしまった。当然刀一振り二振りで処理される。……むなしい。そのままアールバイパー本体も斬りつけるつもりだ。

 

 避ける術もなく、纏っていたフォースフィールドを剥がされてしまう。後がない……!

 

 考えろ、考えるんだ……。普通に弾を撃っても妖夢は刀を用いて防御してしまう。よってリップルレーザーは無効。かといって接近戦を仕掛けるとその剣術に翻弄されてしまう。よってスプレッドボムもレイディアントソードも使用できない。

 

 ならばオプションシュートか? しかしネメシスは相当魔力を消耗しているようで、1発撃てるかどうかも怪しい。同じ理由でサイビットもまともに運用できないだろう。

 

 そして新たに手にした「スターソードの護法」。だが、あんな数も少なくゆったりとした弾幕では1回は消されずに済むとはいえ、すぐさま処理されてしまうだろう。この弾を素早く繰り出すことさえできれば……。

 

 そうだ、スターソードの護法の弾を飛ばさずにレイディアントソードに纏わせよう。弾幕ごっこをするにはあまりに射程距離の短い青い刃ではあるが、弾幕で練り上げて大きな剣とするのだ。これならば一度は消えない弾幕を高速で繰り出すことができる!

 

 俺が案を閃いた矢先、アールバイパーのコンピューターがヴーンと激しく唸り始める。ディスプレイにザザザとノイズが走りちらつく。時折魔人経巻の紋様が浮き出てくるような気もした。

 

「You……g……ew……」

 

 ノイズだらけで何を言っているのか分からない。しかし俺は確信している。これからアールバイパーに何が起きるのかを! マヨイの先にあるヒラメキをっ!

 

 装備していた武装を示すディスプレイ。「?」のマークの右側の空欄にぼんやりと浮かんだものは「!」のマーク。散々迷いに迷って試行錯誤の末に閃いたという証。遅れてノイズだらけの中表示されるのはアールバイパーが巨大な剣を振るう姿。しかし名前は表示されない。慌てるな、名前は俺が付ける。

 

「銀星『レイディアント・スターソード』!!」

 

 青い刃にスターソードの弾が吸い寄せられるようにまとわりつく。俺の技と白蓮の技、ぐるぐると渦を巻きつつ一つの剣へと昇華していく……。

 

 見ると剣はもう1本あった。これで妖夢と同じ二刀流になれたというわけだ。形作られた剣はうっすらと魔人経巻の紋様が刻まれている。俺にはなんだかそれが嬉しかった。

 

「うおおおっ!」

 

 自身を防御するかのように剣をクロスさせつつ急接近し、間合いに入った瞬間に左側の剣を振り払う。

 

 防御の体勢を取る妖夢であったが、これだけの大振りの刀による斬撃は防ぎきれなかったようでまともに食らっている。怯んでいる隙に右側の剣を斬り上げるように振るう。アッパーカットを食らったかのように妖夢は上空に打ち上げられた。

 

「そろそろトドメの一撃だっ!」

 

 銀翼を急上昇させ、妖夢に追いつくと今度は両方の剣を挟み込むように振るう。

 

「ひぃやぁあああっ!!」

 

 剣と剣のぶつかり合う音。纏っていたスターソードの弾幕の欠片がボロボロと零れ落ちる。派手に爆発を起こし地面に落ちていく辻斬りの姿が見えた。今勝負はついた。もはやあの辻斬りに戦意は残されていまい。

 

 俺も彼女を追うように着陸することにした。

 

 地上に降り立つと息を切らした妖夢がまだこちらに刀を向けて臨戦態勢をとっていた。しかしあまりに弱弱しく覇気が見られない。これ以上の戦闘は限界なのだろう。どうしようか、もう少し攻撃を加えて気絶させるべきか……。

 

 と、俺に付き添って飛んでいた半霊が一直線に妖夢に向かって飛んでいく。真っ白な魂のような形状だった半霊は少しずつ変形する。人の形をとっていた。いや、白く透き通っているところ以外は妖夢そのものの姿であった。

 

 半霊がいまだ赤い瞳をぎらつかせる妖夢を抱き締める。直後、彼女の瞳が青くなった気がした。

 

「あ、半霊……」

 

 直後妖夢はその場で崩れ落ちてしまった。半霊も元の形に戻る。

 

「正気を取り戻したのか?」

 

 当の本人は気を失ってしまったので判断しかねる。だが、最後の最後に見せたあの表情は平気で人を斬りつけるような凶悪な奴の顔ではなかった。

 

「終わったのか……? 酷い怪我だ。早く妖夢を永遠亭の病院へ……」

「ダメだ慧音! 診療所はどういうわけか開いていない」

「妹紅、それは本当なのか!?」

 

 無言で頷く蓬莱人の少女。

 

 妹紅から告げられた驚愕の事実。永遠亭の診療所といえば、迷いの竹林の中にポツリとある、どんな難病も治療できるという外の世界の総合病院をも凌駕する診療所である。竹林に住む妹紅がそう言うのだから開いていないというのは間違いはないのだろう。

 

 それではどうすれば……?

 

「命蓮寺に運びましょう!」

 

 痛々しい血の跡を残した白蓮が申し出る。今も腹部に手を当てて少し苦しそうだ。

 

「白蓮こそ病院に……」

「私の能力を忘れましたか? この程度の怪我、人の体が持つ治癒力を強化すれば大したものではありません。それよりも妖夢さんが心配です。アズマさん、妖夢さんをアールバイパーに乗せて命蓮寺に運びましょう」

 

 俺はぐったりとした妖夢を半霊に手伝って貰いつつアールバイパーに乗せる。そして急いで命蓮寺に向かった。




※1 レイディアントソード
縦STG「レイディアントシルバーガン」に登場した兵装。発動後は周囲をクルリと一閃し、その後は格納するまで自機の移動方向とは反対側に剣を向ける。
特定の敵弾を斬り伏せることが出来るぞ。
なお原作東方でも寅丸星のスペルカード「レイディアントトレジャーガン」としてこの作品のネタが使われている。

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