東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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迷子の半霊の持ち主は「魂魄妖夢」という白玉楼の庭師のものであった。
彼女を探そうと試みた矢先、命蓮寺の「寅丸星」から妖夢と思しき少女が人里で刀を抜いて暴れているとの知らせを受ける。

とんぼ返りで現世に戻るアズマであったが……


第6話 ~降り立った脅威~

 太陽も傾き始め周囲にオレンジ色の光をふりまき始める頃、アールバイパーは人里の入口に到着。既に何人かが集まっているようだ。

 

 一人は寺子屋の慧音先生であることがすぐに分かった。そして屈強な男達が数人。恐らく彼らが人里の自警団なる集団だろう。

 

「ヒッ! 鳥の妖怪っ!?」

 

 自警団の一人がアールバイパーを一目見てこの反応。大男が悲鳴を上げて頭を抱えているなんて実に情けない。というかだな……、いつになったら俺の相棒を正しい名前で呼んでくれるのやら。

 

「だから『変な鳥の妖怪』じゃなくて超時空戦闘機『アールバイパー』ですっ!」

「いや、別に『変な』とは一言も言っていないのだが……」

 

 真っ当な突っ込みを受けながらいつもの挨拶終了。うん、確かに「変な」とは言っていなかった。反省反省……。

 

「安心してくれ。こいつは命蓮寺の新入りだし、無闇にお前達に危害は加えないさ。それに中身は人間だからな」

 

 ざわめく自警団達にアールバイパーに危険がない事を説明する先生。ナイスフォローだぜ。

 

「さてアズマ、これから手分けして人里に潜伏している辻斬りを探す。相手はかなりのやり手のようなので、助っ人に来て貰ったんだ。一人は白蓮。彼女は今、里の人間達の避難を手助けしているところだ。もちろんアズマのことも強力な助っ人として頼っているぞ。そしてもう一人強力な子がいる筈なんだが、遅いな……。他の自警団の皆はもう来ているというのに」

 

 助っ人とはこの自警団の皆さんのことなのだろうか? 確かに皆見るからに強そうな体形をしているが、特殊な能力を持っているようには見えない。あえて言うなら自分の住処を何としても守り通すという強い決意が彼らの特別な力になっているところだろうか。

 

「ん? この男たちが気になるのかい? 普段人里を警備している自警団の方だよ。普段は彼らが里をパトロールして人や妖怪のトラブルが起きないように目を見張っているんだ。で、普段は人里にいないのだが、彼等を束ねるリーダーがいるんだ。そいつがもう一人の助っ人であり、私の友人でもあるのだが……」

 

 先生がポツリとぼやいた矢先、山吹色の空の中、一際真っ赤に光る影を見た気がした。それが一際キラリと強く輝いたかと思うと、今度は甲高い鳥の雄たけびのような音が周囲に鳴り響く。それと同時に俺の目の前数メートルに激しい衝撃が走った。風圧に巻き上げられた砂埃が舞っている。

 

 あまりに突飛な現象のラッシュに俺は呆然と立ち尽くしていた。そしてモウモウと立ち込める煙の中、人の姿がボンヤリと見えていた。

 

「わりぃわりぃ……。遅れちまったよ」

 

 立ち込める砂埃とくすぶる炎の中心にいたのは見事な長い白髪を持った少女であった。白いシャツに赤いもんぺ姿と霊夢のように赤と白が眩しい出で立ちである。その彼女が少しかったるそうに片手をあげて皆に挨拶する。

 

「うぃーっす」

「『うぃーっす』じゃないだろう! 大遅刻だぞ、妹紅(もこう)!」

 

 叱責する慧音を無視して自警団に同じように挨拶をする妹紅と呼ばれた少女。この大男たちはこの少女相手に随分とヘコヘコしていた。

 

「妹紅さん、チーッス! 早いところ始めましょうや」

「辻斬りだか何だか知りませんが、サクっとシメてまた伝説作ってくださいよ!」

 

 まるで一昔前のスケバンとその取り巻きのようなやり取りである。遠巻きに見て苦笑する慧音先生の表情は何とも言えない。だが、気を取り直して毅然とした表情で俺達に呼び掛ける。

 

「さて……。わざわざ妹紅や命蓮寺の銀翼『アールバイパー』を呼び出したのは皆も知っての通りだ。人里に現れた辻斬りの確保。出現が確認されてからの時間と被害に遭った者の数から考えてただの人間でないことは確実なんだ。これより作戦を説明する」

 

 真剣な面持ちの慧音を確認するとスケバン……いや妹紅も表情を引き締める。もちろん俺もだ。先生によるブリーフィングを要約すると、聖白蓮があらかじめ里に入り懸命な救助活動を行っている為に里に残った人間は心配ないだろうが、万一はぐれたものを見つけたら救助するという事、そして効率よく任務を遂行するために二手に分かれるとのことの2件が主であった。

 

「大体はそんな所だ。妹紅は自警団を率いて東側から、私はアズマと西側から捜索に入る。どうやら辻斬りからは人ならざる気配を感じるのは先程も話した通りだ。相手が一人だからといって油断しないように」

 

 あまり統率されてはいなかったが、バラバラに「ウッス!」と応えやる気を見せる自警団達は妹紅に率いられながら里へと向かう。それを確認すると今度は俺と慧音が反対側から探索を始める……。

 

 すっかり見覚えのある里の風景であったが、人気がないだけでこんなにも異質に見えるとは思わなかった。温かみのあるはずの周囲の色もどこか不気味に見えてくる。

 

 途中で怯える人々を引率する白蓮とすれ違ったが、軽く会釈しただけで話し込んだりはしない。今は辻斬りの確保が最優先だ。

 

 ただひたすらに歩みを進めていく。ちょっとした風の音すら敏感に感じ取れるくらいに静かになっていた。表通りを見回ったり、路地裏に入り込んだりするが、今のところ怪しい影は見えない。しばらく無言のまま探索が進んでいたが、ふと思い出したかのように慧音が大きく息をつく。

 

「少し休憩しようか。こういうのはガムシャラに歩き回ってもいい結果は出ない。一息つこう。それにアズマなんかはそんなに縮んだ上に機械の翼に閉じ込められっ放しでは息も詰まるだろう」

 

 当てのないものを探すというのは思ったよりも労力を要するものである。俺も二つ返事をし、リデュースを解除し、銀翼を元の大きさに戻す。適当な場所に着地させると俺はアールバイパーから降りて、その銀翼に腰かけた。ふわりとすり寄ってくる半霊を膝に抱え、優しく撫でてやる。

 

「もうすぐだ、もうすぐ会えるからな」

 

 スリスリと甘えてくるこの真白い生命体を可愛がりつつも一抹の不安が俺の脳裏によぎる。半霊の持ち主である妖夢は暴走して辻斬りとなり果てている。そんな状態の半人と会って半霊はどんな気持ちになるのだろうか? ショック受けたりしないのだろうか……。

 

 と、アールバイパーの下から慧音先生がふわっと浮遊し「隣いいかな?」とだけ簡潔に口にすると俺のすぐ横に腰かけ始めた。さらさらの青白いロングヘアーが風になびきながら、夕陽に照らされ光っていた。そのまましばらく黙っていたが、唐突に口を開いた。

 

「ときにアズマよ」

 

俺に唐突に話しかけた先生。ビックリして変な声で返事してしまった。

 

「八雲紫の一件の時は自分も手助けすると言っておきながら、何も出来ずにすまなかった。私は今でも驚いているよ。流石に本気は出していなかったのだろうけれど、あの妖怪賢者の口から『まいった!』と言わせたのだから」

「褒められたようなものじゃない。あの時は勝敗よりもただ死にたくない、生き延びたいって思いで一杯になってそれで……卑怯な手を使って勝っただけだ」

 

 あの勝利は「操術『オプションシュート』」による不意打ちで得たようなもの。弾幕ごっこ用の道具を完全に破壊されているのだ。本来は試合の続行など不可能な状態。だのに俺はスペルカードの発動を宣言し、紫の拘束から逃れたのだ。

 

自らを卑下する俺を見て、先生は諭すように続ける。

 

「いいや、八雲紫は君のスペルに対して『まいった!』と言ったのではなくて、君の抱いていた『幻想郷で生きていく!』という強烈な想いに対して『まいった!』と言ったのではないかな? 紫も『妖怪は人を襲い、人は妖怪を退治するもの』といつも口にしている。そのルールを理解し、受け入れられるかどうか。あの時の彼女はそこを重点的に見ている感じだった。だから胸を張れ、君は幻想郷の住民として認められた!」

 

『生き抜いてやる』という想い。それこそが大切である旨は紫からも言われている。その結果が不意打ちだったのだが、卑怯である事との板挟みで今も葛藤する事があった。

 

 だが胡散臭い紫だけでなく、先生からも同じような事を言われた。おかげで俺は過去の後ろめたさを振り切ることが出来たようだ。それに、どの道もう過ぎた事だ。過去はどうあれ、今の俺は幻想郷の……命蓮寺の轟アズマだ!

 

 薄雲で遮られていた夕陽が再びアールバイパーを射す。沈みゆく夕陽は過去の俺との決別。夜空と夕陽で混ざり合った紫の空に光る星々はこれからの無限の可能性の証。そして同じく紫色に染められた小さな雲は……

 

「そうだ、その意気だ。これでようやく本題に入れる。その『生き抜く』という想い、何か本能的なもの以外も感じた。自分自身以外の為にも抱いた気持ちなのだろう。その相手はやはり……?」

 

 俺はただ無言でうなずき天を仰ぐ。紫雲は吉兆の証。そして右も左も分からない俺を導いてくれた命の恩人の象徴……。

 

「そうか、何も言うな。君の表情が全てを物語っているのだから。ならば尚更胸を張らなくてはいけない。自分の行動に自信を、誇りを、責任を抱け。あの時……アズマが唯々生き抜きたいとひたすら思った時のように。それこそが君自身の、そして君の愛する……」

 

 ありがたい話の途中だと言うのに、突然半霊がざわざわと騒ぎ出す。何か気配をキャッチしたのだろうか?

 

「辻斬りが近いかっ? アズマっ! 銀翼に乗り込み戦闘の用意!」

 

 勢いよくアールバイパーから飛び降りた慧音は凛と気を張り、来る敵に備えている。俺もバイパーのコクピットに飛び乗り、リデュースを発動した。機体の外で半霊は今もせわしなく震えている。見ているこっちが不安になる程だ。

 

 既に陽は沈み辺りは夕闇に支配されつつある。そして薄暗い人里の一画で、不意に人影が飛び出してきた。長い得物を持っている! ついに出たか、辻斬りめ!

 

 俺と慧音は不用意に飛び出した人影を取り囲んだ。

 

「見つけたぞ! 長い刀を振りまわして人里を恐怖に陥れた不埒な辻斬りめっ!」

「ぴゃっ!? ……ど、どひゃあ! 変な鳥の化け物~!」

 

 突如我々の前に飛び出してきた怪しげな人影はヘンテコな悲鳴を上げると尻もちをついた。なんだ、あまりに呆気なさすぎるぞ。

 

 いや、コイツよく見ると辻斬りでも何でもない。確かに小柄な少女ではあったが、長い得物だと思っていたのは刀ではなく紫色の傘。大きな舌と一つの目玉を持った奇妙な傘。今にも涙が零れ落ちそうな両目はそれぞれ色が違う。オッドアイと呼ばれるものだったのだ。というかコイツって確か……。

 

 思い出した。命蓮寺によく遊びに来る「唐傘お化け」と呼ばれる人を驚かせることを生きがいとする妖怪じゃないか。確かこのオッドアイの少女は「多々良小傘(たたらこがさ)」とかいう名前だった。

 

 白蓮も「この子は危険がないから」と言っていたので俺も一緒に遊んでいたな……。さしずめここで人間を驚かせようとしたら運悪く辻斬りに出くわしてしまって逃げ惑っていた途中だったのだろう。

 

「辻斬りがこの先にいるのか?」

「ツジギリ……? そ、そんなレベルじゃないよぉ。もっとビッグでコワい正真正銘のバケモノがいたんだ」

 

 その後もうわ言のように何かを口にしていたが、慧音が落ちつくようにと諭しながら抱き締めると静かになった。俺は今も来る敵に備えて身構える。小傘の口にするバケモノの特徴はやはり妖夢とは似ても似つかないもの。なんだ、辻斬りの他にも脅威が潜んでいるというのか?

 

 程なくして巨大な影がぬっと姿を現す。人里に建つ小さな建物と同じくらいの大きさ。確かに辻斬りなんかよりもずっとデカい。が、その影が近づくにつれて俺も驚愕せざるを得なくなってくるのだ!

 

「なんだ……コイツ?」

 

 その姿があらわとなると慧音も唖然とする。あまりに幻想郷に似合わない機械仕掛けの巨体がゆっくりと近づいてきたのだから。

 

 その巨体はアールバイパーのように無機質な体を持ち、横に伸びた六角形の形をしていた。中央には青く光る円形のコア、前方には大口径のビーム砲が4つ、そしてマンボウのように平べったい体。俺はコイツを知っている。こいつは「ビッグコア(※1)」だ。間違いない。ご丁寧に遮蔽板までついているのだから。

 

「ビッグコア……どうして幻想郷にいる!?」

 

 答える声はない。一斉に照射される4本のビーム砲、それが答えであった。もとより話し合いなど通じる相手でないことは十分承知。さらに言うとビーム砲による不意打ちも予測済み。俺は大回りでビームを避ける。残念だな、お前の戦い方は手に取るようにわかるんだ。

 

 避け際にリップルを放つが、ビッグコアの頑丈な装甲に弾かれてしまう。ビッグコアを倒すためには中央のコアを破壊すればいい。しかし奴の装甲は非常に堅牢であり、アールバイパーの武装では破壊することはできない。なので唯一の脆弱部である遮蔽版を狙い撃ちして壊すことでコアをむき出しにするのが正攻法だ。

 

 その小さな遮蔽版を壊すのにリップルでは少々分が悪い。距離を稼げば輪が広がるということは、それだけ装甲に着弾して弱点に攻撃が届きにくいことも意味するのだ。それならば、リップルからノーマルレーザーへ換装。遮蔽版を狙い撃つことにした。

 

 が、相手も黙っているだけではない。4つのレーザー砲で応戦してくる。リデュースしたアールバイパーでは隙間を潜り抜けることも出来なくはないが、少しリスキーである。よって再びビームの塊ごと回避。しかしこの回避行動によってレーザーが狙った場所に命中しない。

 

「これ以上人間の為の里で好き勝手なことはさせない! アズマ、要はあの青い目玉を壊せば機能を停止するんだな? 助太刀するっ!」

 

 光学兵器の撃ち合いに業を煮やした慧音はスィーっとビッグコアの真横に陣取る。

 

「簡単じゃないか。真横から攻撃すれば目玉をすぐに壊せる」

 

 お、おい……! なんかそれはやってはいけないような……。しかし慧音の放った弾は何もないのに見えない壁に弾かれてしまっていた。

 

「っ! 結界か何かか!?」

 

 どうやら一見弱点がむき出しに見える側面は見えない壁に覆われているらしく、目に見える装甲のように攻撃を遮断してしまうようだ。となると結局は正攻法しか受け付けないということになる。ならばとロックオンサイトを覗き込み再び攻撃の態勢を……いや、何か仕掛けてくる! いや、これは……錐揉み回転してくる!

 

「慧音、すぐに離れるんだ!」

 

 俺が呼びかけ終わるか終らないかという頃、ビッグコアはその薄っぺらい体をギュルンギュルンと高速回転させた。衝撃をまともに喰らい、慧音が弾き飛ばされる。

 

「かはっ……!」

 

 腕のないアールバイパーは吹っ飛ばされた彼女を救う術を持ち合わせていなかった。他の幻想郷の少女のように生身で空を飛べれば抱き抱えながら受け止めることも出来たのにと自責の念に駆られる。重力の赴くままに慧音はそのまま地面に叩き付けられ、小さくうめき声をあげた。

 

 更に悪いことにビッグコアの攻撃はこれだけでは済まなかった。錐揉み回転は未だ止まらず、そのまま俺めがけて突進を始めたのだ。スピードを最大にまで上げて回避行動をとる。間に合うかっ……?

 

 間一髪のところで直撃を免れる。すぐさま振り向いて反撃の準備に出た。さあ、狙いを定めて……!

 

「どうしてお前が幻想郷にいるのか、どうして俺たちを襲うのかわからないが、考察は後だ。お前……撃ち抜く!」

 

 突然の敵に戸惑っておりイマイチ本気を出せないでいたが、慧音が負傷したことで目が覚めた。俺はネメシスを呼び出し自分の後についていくようにと命じる。

 

「ネメシス、トレースオプションの構えだ!」

 

 オレンジ色の魔力のオーラをまとったお手製上海人形はアールバイパーのすぐ後ろを一生懸命ついていき、援護射撃を行う。なんとその後ろでは半霊までもが後をつけていた。さすがに援護射撃はしてくれなかったが。

 

 ビッグコアのビームが再び放たれる。相変わらずの素早さだが、単調さも相も変わらずだ。俺はそれを再び避けるが、ネメシスは光学兵器にさらされる。だが、それでいい。今のネメシスはあらゆる攻撃を受けない。よし、そろそろ反撃だ。ネメシスから放たれる細長い青いレーザー。それがビッグコアの遮蔽版に命中し、それを砕いた。

 

「まだ終わりじゃないぜ!」

 

 回避したその足で今度はビッグコアの斜め上に陣取る。さて、スプレッドボムをお見舞いしてやるか。いくらビッグコアの装甲が分厚くともスプレッドボムの爆風は貫通してしまうのだ。これで2枚目、3枚目と遮蔽板を破壊していく。

 

 ゆらりとアールバイパーに狙いを定めるべく動き始める巨体。しかし、あまりに遅すぎる! 今度は低空飛行し、ネメシスに遮蔽板を破壊させる。よし、これでお前を守っていた板は全部壊したぞ。あとはそのコアを撃ち抜けば……。

 

「うう……」

 

 体当たりを受けてうめきながら気を失っていた先生が目を覚ます。と、慧音は何かに気がついたようだ。

 

「このバケモノを覆っていた結界が消えている……? よし、今なら!」

 

 真横で起き上がった先生は真横からコアめがけて頭突きを喰らわす。急な衝撃にバランスを崩したビッグコアはそのまま地面に倒れ込んだ。コアが赤く変色しており、今の攻撃がかなりのダメージになっていた事が分かる。

 

 先程は横から攻撃しても結界によってビクともしなかったが、今は悶えているようにさえ見える。そうか、遮蔽板を失った事と関係するのかもしれない。遮蔽板を失うと結界の効力が無くなり横からもダメージを与えられるとか?

 

 ともかく再び起き上がったこの巨大戦艦にトドメをさすべく、俺は少し背後に引く。逃げる? いや、俺の後をついて行くネメシスを誘導するためだ。アールバイパー本体とネメシスから同時にレーザーを照射する。

 

 それは一直線にコアに直撃し、それを打ち砕いた。

 

「やった!」

 

 するとあれだけ堅牢だった装甲が音を立てて崩れていく。そして大爆発。カラクリが分かれば大した相手ではなかったな。

 

 物陰に隠れて震えていた小傘がようやく顔を出す。

 

「もう出てこない?」

 

 人里は危険だから離れるようにと小傘に一言。彼女はダッと空に飛びあがり、またたく間に消えていった。

 

「なあ、アズマはさっきのバケモノについて知っていたのか?」

「いや……。アレが何者であって、どう戦えばいいかは知っていたが、どうして幻想郷に姿を現したのかは分からない。信じたくはないが外界で忘れ去られてしまったのだろうか?」

 

 俺は慧音に分かる限りの事を話した。

 

 今の巨大戦艦は昔のとある名作横STGのボスキャラだった。今俺が乗っているアールバイパーの大元となった超時空戦闘機の出てくる作品でもある。いくら「横STG御三家」の1つとして称えられている作品だったとしても、外界ではSTG人気は既に下火になって久しい。

 

 多くの人に忘れられて幻想郷に迷い込んだと解釈する事も出来る。現にこのアールバイパーも本来はそうやって人々に忘れ去られた結果、幻想郷に辿り着いたのだから。

 

 だが、不可解な点もある。ビッグコアの側面が結界に守られているという事。そんな話原作では聞いたことがない。これはどういうことなのだろうか?

 

「それでは今のは君の乗っているアールバイパーと同じ……いや、でもまるで生気というものを感じなかった。……ううむ、分からないことだらけだが、今は本来の目的を達成しよう」

 

 そうだった。今は辻斬りとなってしまった妖夢を止めることが最優先事項。再び振り出しに戻ってしまったが、少しずつ探していかないとならない。

 

 と、また物陰から人が飛び出してくる。今度こそと銃口を向けるが……

 

「お、俺だ! 撃つんじゃない!」

 

 妹紅と行動していた筈の自警団のメンバーではないか。至る所傷だらけで命からがら逃げてきた事が容易に分かる。

 

「その怪我は?」

「例の辻斬りを見つけたんスが……、化け物じみた強さで我々は全滅。一人残った妹紅の姐さんがサシでやり合っているけれど……」

 

 気を失いかける自警団を抱きかかえ、どっちで見たのかと問う先生。男は力なくその方向を指差すと今度こそパタリと倒れてしまった。

 

「もういい、喋るな。少し休んでいるがいい。これだけの人数が皆やられるとは……。妹紅、無事でいてくれ!」

 

 俺も妹紅の援護をするべく、慧音先生の後に続き高速で飛行した。




(※1)ビッグコア
横STG「グラディウス」シリーズに登場するバクテリアン軍の戦艦。
中央のコアとそれを守る遮蔽版以外は頑丈な装甲で出来ているのだが、シリーズが進むたびに少し頑丈なザコ敵扱いにされたり逆に自機になったりと扱いがいいのか悪いのかよくわからないヤツである。

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