東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

28 / 102
迷子になってしまった半霊の持ち主を探すべく「白玉楼」までたどりついたアズマと彼の相棒たる銀翼「アールバイパー」。
ところが白玉楼の主である「西行寺幽々子」はあの「八雲紫」を弾幕勝負で下したというアールバイパーに興味津々で弾幕ごっこを申し出てきたのだ。
幽々子はとても強く、アズマも奥の手である「オプションシュート」を使わざるを得ないのだが……。


第5話 ~炸裂! サイビット・サイファ~

「操術『オプションシュート』!」

 

 俺の叫びに呼応するように、オレンジ色の光の玉となったネメシスはうなりを上げて弧を描きながら幽々子めがけて突進する。周囲の弾幕も吹き飛ばすパワフルさ。普段ならば勝利を確信できる奥の手なのだが、今回は訳が違う。そう、発動直前で幽々子にこの攻撃を読まれてしまったのだ。

 

 まるで舞い落ちる桜の花びらが自らを掴む手から逃げるが如く、スイッスイッと無駄のない動きでネメシスの突進を回避していく。そしてネメシスが残りの魔力を両腕に溜めこみ、フィニッシュの準備に入っている。

 

「まあ大きい♪」

 

 折角の必殺の一撃もこんな言われようである。ネメシスに蓄えられたあらん限りの魔力を投げだして爆発させるも、この亡霊少女は涼しい顔しながら扇子を仰いでいた。

 

「荒々しい花火ね。ところで……、この子どうなるのかしら? ふふっ、可愛いお人形さん♪」

 

 魔力を使いきって自ら動く術を失ったネメシスの手が幽々子に握られる。いつもならこの技を喰らわせた相手は例外なく倒されていたので安全にネメシスを回収する事が出来た。が、今のお手製上海人形はよりによって幽々子の手の中にいるのだ。これでは回収しようにも回収できない!

 

「かっ……返せっ!」

 

 何度も死にそうな思いをしてようやく手にした俺だけの人形。何度も奪われそうになりつつも知恵と勇気(……というよりかは運と蛮勇)で取り戻したオプションへのヒント。何度も試行錯誤して編み出した俺だけのオプション使役術、そして必殺技「オプションシュート」……。そんな俺の苦労の結晶が今や敵の手中にある。もう失いたくない……。俺は必死に喘ぎ、取り戻そうと幽々子への接近を試みる。

 

「こっちよー♪」

 

 あんなデカい扇子型のオーラを纏っているにもかかわらず、素早い動きでアールバイパーを翻弄してくる。更に弾幕まで放ち続けているのだから凶悪極まりない。不意に迫る蝶弾を避けるべく錐揉み回転しつつ前進する……が、進行方向が複数の弾幕によって閉ざされてしまった。マズイ、突っ込む……!

 

 直後、アールバイパーに襲った衝撃。あんなヒラヒラしていた弾なのに喰らうとここまで重たい一撃とは……。今の衝撃でエンジンが停止してしまう。やむなく西行妖の根元に不時着する。

 

「紫からアズマ君の手の内は知らされているんだもの。それにスペルカードを発動する前の挙動でコレが来ることは簡単に読めたわ。それに……その技だって仕留め損なったらこうなる事だってちょっと考えれば分かる筈よ?」

 

 ネメシスの腕をプラプラさせて余裕の面持ちの亡霊少女。何とか人形を取り戻さないと……。だが、アールバイパーのエンジンがなかなか復活しない。くっ、どうすればいい……!

 

 途方に暮れていると、それまでアールバイパーの影に隠れていた半霊が再び活発に動き始める。冥界ということでこの迷子の半霊にも何かしらの影響を与えているのだろう。こうなったらダメ元でアイツに頼んでみよう。

 

「半霊、あの人形を回収するんだ」

 

 コクリと頷くと真っ白い生命体はヒュルヒュルと幽々子に急接近。首尾良くネメシスを回収すると、そのままヒョロヒョロと俺の元まで戻ってくる。

 

「お前……最高だぜ! これで反撃できるぞ」

 

 心の底から感謝の叫びを上げる。心なしか半霊の頬が桜色に染まった気もした。

 

「幽霊まで使役しているの!? それにしても使役して人形を取り返されちゃうだなんてね……。素早過ぎて対処できなかったわ。幽霊のヒットアンドアウェイだなんて」

 

 そうだよ、何もエネルギーが切れるまでネメシスを暴れさせる必要なんてない。途中で戻るように命令すれば魔力の節約になるではないか。最後の爆風がない分火力は落ちるが攻撃後の隙は圧倒的に小さくなる。

 

 減った火力はオプションをより多く射出すれば補えそうだが、生憎人形は1体しか持っていない。

 

 ふとネメシスに目をやるとアールバイパーの右側に陣取っている。邪魔にならないようにと配慮していたのか、半霊は反対側、つまりアールバイパーの左側で浮遊していた。少し機体を動かすと間合いが変わらないようにネメシスと半霊が追随する。

 

 自機の左右にオプションを固定して……そして標的に向かって突っ込んだり元の場所に戻ったり……。何かひらめきそうだぞ!

 

 爆発が使えない分一気に2つを飛ばして……ハッ、これはもしや! 思い出した。この構えはまさしく「サイビット(※1)」のもの……!

 

 一気に2つのビットを敵に向けて飛ばして頃合いを見て自動で自分の場所に戻ってくれるという非常に便利な「サイビット」。ネメシスと半霊をサイビットに見立てて同時に飛ばせば火力も補えて攻撃後の隙も格段に減る……!

 

「幽々子、これが俺の新スペルカードだ! 行くぞっ!」

 

 即席でメモ帳に簡素なイラストを描き作ったスペルカードをゆっくりと掲げる。その名前は既に考えついている。声を大にしてスペル名を口にした。

 

「操術『サイビット・サイファ』! ネメシス、半霊! 同時に突撃っ!!」

 

 再びネメシスはオレンジ色のオーラを纏う。反対側ではなんと半霊も同じようにオーラを纏っていた。2つのオプションがオレンジ色の光を散らしながら大回りしつつ幽々子に迫る。

 

「えっ……、2つも……?」

 

 最初に標的に辿り着いたのはネメシス人形であった。反対側の光とアールバイパー本体の動きに気をとられていた幽々子に避ける術はなかった。鈍い音が響き、ネメシスが突進に成功した事がわかる。弾き飛ばされる亡霊少女。

 

 撃ち上げられ無防備となっていたところに遅れて飛んできた半霊が同じく突進する。当然これもクリーンヒット。重い突進を2度も受けたのだ。流石の幽々子もグロッキーになる筈。

 

「戻れ!」

 

 俺の号令に素早く反応し、ネメシス達が定位置に戻る。対する幽々子は凄まじい爆発音を立てて地面に突っ伏していた。やられ際も無駄に演出を行ったのか? 念の為銃口を向けておく。下手に油断を見せるとどんな不意打ちをしてくるか分からないからだ。

 

「そんな物騒なもの向けないで。今回は私の負け。まさか途中で新しいスペルを思いつくだなんてね……」

 

 と、降参を意味する白旗を何処からか持ち出して振っている。とはいえ、息を切らせている様子も見せないし、妙にケロリとしている。やはり本気で勝負していたわけではないようだ。

 

「それで、そろそろ本題に入りたいのですが……」

 

 そう、俺は白玉楼へ弾幕をしに来たのではない。迷子の半霊について心当たりがないかと聞きに来たのだ。激しい勝負で疲弊していたが役目はちゃんと果たさないとね。

 

「いいえ、何も言わなくて結構よ。今ので用件は大体分かったから。そんなことよりおなかがすいたでしょう? ちょっと上がっていきなさいな」

 

 用件を知った上でこの対応。かなりマイペースな人らしい。あ、亡霊か……。

 

「いえ、俺はそこまで空腹では……」

「たくさん体を動かしたから、私がお腹ペコペコなのよー! ご馳走するわ、貴方も一緒に食べましょう?」

 

 ぶーっと頬を膨らませる亡霊少女。紫以上に子供っぽいところがあるのだな。

 

 そんなわけで、なんかよく分からない理由で白玉楼に案内された。俺の後に続いて半霊も白玉楼へ入りこむ……。

 

 

⇒驚愕する

 

 

 白玉楼はかなり大きなお屋敷であり、その大きさは命蓮寺にも匹敵することが分かる。そして通された広間に向かうと既にこのようになることを予見したかのように多くの料理が並べられていた。

 

「宴会……?」

「いいえ、違うわ。ほとんどが私の分。もちろん貴方にも分けてあげるわ。さあ、うち自慢の幽霊料理人達が腕によりをかけて作った料理よ。たんとおあがりになって♪」

 

 いやほとんど幽々子一人分って……。ちょっとした宴会ならすぐに開けそうなほどの食べ物の量が食卓に並んでいるぞ。とても二人で完食出来るものではない。まあこれだけ大きなお屋敷なんだ。幽霊の料理人を雇っているというくらいなので、他にも使用人とかが沢山いてここで食事を取っているのだろうと考えたいが、そうではないと幽々子は断言するし……。

 

 まあいいや。折角の御馳走なのでいただこう。一口パクリといく。……んまい。そしてかなりあっさりとした味付けだ。なるほど、これなら沢山食べることができそうだ。特にこのお吸い物なんて薄味ながら喉の奥で絶妙なハーモニーを奏でているではないか。

 

「お吸い物が気に入ったのかしら? それは夜雀という妖怪の出汁が沢山出ているのよ♪」

 

 鳥ガラスープ……? というか食事を始めてまだいくらも時間が経っていないのに、幽々子周辺の食べ物がほとんどなくなっている。この時間であれだけ平らげてしまったのか? 彼女の胃袋はブラックホールか何かなのだろうか?

 

「ん~、おいしー♪ おかわりっ!」

 

 別にガツガツと下品に食物を口の中に流し込むというわけではないのに(むしろ見とれる程、上品に食事をとっている)、脅威的な速度で食べ物が減っていく。なるほど、これだけの量でほとんど自分用だと言うのは理解した。

 

(青年&亡霊少女食事中……)

 

 結局あれだけあった料理の山は全て俺達の胃袋に入ってしまった。もちろんそのほとんどが幽々子の胃袋の中なのだが。こちらの食事が終わると待ちかまえていたように幽霊の使用人達が食器を下げていく。今度はお茶やお団子を出され、二人でズズとお茶をすすっている。

 

「やっぱり甘いものは別腹よねー♪」

 

 コロコロと笑いを浮かべながら食後の甘味を美味しく頂く大食い亡霊。あれだけ食べておいて別腹とはよく言ったものだ。だが、実際に美味しいのだから俺ももくもくと喰らっている。

 

「あれだけごちそうになった上に……、ハッ! まさか俺を太らせて食べる気じゃ……」

「それも悪くないわね……って、冗談よ~♪ そんな怖い顔しないで頂戴な。私も亡霊になる前は人間だったのよ? 人間を食べる筈がないじゃない。ところで……」

 

 一通りジョークをかますとようやく本題に話題を移そうとする。今までのほんわかした表情からは予想できないほど神妙な面持ちになっていた。俺も姿勢をただし傍に半霊を座らせ話を聞く体勢を取る。

 

「白玉楼には自慢の庭師さんがいるの。少しおっちょこちょいだけど真面目でとっても可愛い子。それでその子は『半人半霊』っていうちょっと珍しい種族。名前は『魂魄妖夢』。……端的に聞くわ。貴方、この子と何処で会ったのかしら?」

 

 先ほどとは比べ物にならないほどの鋭い目つき。確かに俺は誰かの半霊をずっと連れ回してきた。彼女が知りたいのはそうなるに至った過程だろう。当然俺が無理矢理に半霊をさらったと考えているかもしれない。

 

「俺を、疑っているのか? 人……いや、半霊さらいの犯人だと」

「いえいえ。その線は絶対にないわ。無理に連れ回した半霊が弾幕勝負で手助けなんてしてくれないでしょう? それに不思議なのよ。見ず知らずの人には気難しい態度を取る妖夢が、半人ではなく半霊の方とはいえ、こんなにもアズマ君に懐いている」

 

 疑われているのではないと告げられ胸をなでおろすと、俺は半霊と出会うまでのいきさつを可能な限り幽々子に話した。突然空から降ってきた事、瀕死の重傷を負っていた事、命蓮寺で介抱しある程度元気を取り戻したから半霊の持ち主を捜しに来た事……。

 

「なるほどね。確かに妖夢はこの白玉楼にいたわ。……数日前まではね」

 

 彼女はおもむろに視線を逸らす。とても悲しげに見えた。

 

「あの子ったら『異変が起きた。犯人を懲らしめる』とだけ口にして数日前にここを出ていってしまったわ」

 

 随分と無鉄砲な少女だったと見れる。だが、俺や白蓮もこの状況に置かれたのなら同じ選択をしていたのかもしれないな。

 

「おかげで私のからかい相手がいなくなってストレスがたまったものよ。あっ、妖夢ってね……根が真面目過ぎるから、ちょっとからかっただけで凄く面白いことになるのよ~♪」

 

 いやいや、なんでそうなるのさ!? このままでは話が脱線しそうだ。話の趣旨があっちへこっちへフラフラしているのは良くも悪くも亡霊らしく芯がしっかりしていないというか……。いや、幽々子自身は芯が強そうだけど……。俺は咳払いをして話題の修正を促す。

 

「あ、あら……ごめんなさいね。それで妖夢が出ていってからもう何日も経っているけれど一向に帰ってこないのよ。流石に少し心配になってきたところ。そうだアズマ君、悪いけれど妖夢を探して欲しいの」

 

 なんてこった! 命がけで冥界まで赴いたのに、半霊の持ち主の名前が「魂魄妖夢」という事しか(他にも妖夢の特徴を幽々子から教わったりもした。銀色のおかっぱ頭で背が低い。緑色のワンピース姿である。刀を2本常に帯刀しているなどなど……)収穫がないじゃないか。だが、肝心の妖夢の居場所がまるで突き止められない。せめて妖夢がどんな異変を解決しに行こうとしたのかさえ分かれば……。

 

「ところで妖夢がどっちに向かったのかは……?」

「ここを出るとき妖夢は何て言っていたかしら? ええと……」

 

 次の瞬間、俺の懐が眩い閃光を放ちながら激しくバイブレーションする。急な出来事に驚き服の中をまさぐると、何やら宝塔のようなものが閃光と振動の発生源であることが分かる。

 

 これはかの毘沙門天代理が愛用している宝塔、それのレプリカだ。俺は「レプリカ宝塔」と勝手に呼んでいる。八雲紫との決闘の後で、アールバイパーでの任務は危険が伴うだろうと白蓮が授けてくれたものである。

 

 暗い夜道を照らしたり空気清浄機になったり(俺はあまり使っていないが)様々なアロマな香りを出したりもする便利なアイテムである。あと持っていると運気が上昇する(ような気がする)。更に通信機としても機能しており、このように命蓮寺と常時コンタクトを取ることが出来るのだ。どういう原理なのかは知らないが、宝塔の光から通信相手がホログラムのように映ったりもする。

 

 俺はそんな宝塔を模した通信機を机の上に置き、コンタクトを試みる。

 

 その光が映し出す姿は寅丸星のものであった。ホログラムとして映し出される表情からかなり焦っている様子がうかがえる。

 

「アズマさんっ! 人里で辻斬りが現れたって大騒ぎになっています! 逃げ遅れた妖怪や人間達が何人も負傷しているようです。自警団が姿をくらませた辻斬りを追っているようですが難航している様子。アズマさんもアールバイパーで支援を!!」

 

 通信を一緒に聞いていた幽々子の表情が固まる。顔色も青白くなっておりワナワナと唇を震わせている。辻斬りに心当たりでもあるのか?

 

「そんな、まさか……! 妖夢、妖夢なのっ!?」

 

 異変解決に向かった筈が人里で辻斬り? だが、その後星の口から告げられる辻斬りの特徴などから確かに辻斬りの正体が妖夢であるという線が濃厚だ。

 

「あの子は昔っから情緒不安定になることが稀にあるの。今は半霊がいないからより不安定になっている筈! アズマ君、私からもお願いするわ。あの子を、妖夢を止めてあげて!!」

 

 異変解決の為に出ていった、その後瀕死の半霊が落ちてきた等から異変の犯人に倒されて捕らえられているとばかり思っていたが、違うらしい。でも何故見境もなく人斬りを? そして半霊だけがこちらに来た理由は?

 

 とりあえず考えていても仕方がない。急いだ方がいいだろう。妖夢とやらのもう一つの体である半霊が近くに向かえば何か変化が起きるかもしれない。半霊を速やかに人里に向かわせることが出来るのは幽々子でも白蓮でもない、紛れもなく俺なのだから。

 

 俺は西行妖の根元に不時着させていたアールバイパーを起動させ、最高速度で人里を目指した。




(※1)サイビット
横STG「R-TYPE LEO」に登場した自機の上下に配置されるオプション。
一定時間、敵を自動追尾して体当たりさせる「サイビット・サイファ」が強烈だ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。