東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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創作の世界ではよく空から美少女が降ってきて、ボーイミーツガールな展開になりますが、アズマの元に降ってきたのは得体のしれない真っ白い生命体……?


第2話 ~白い生命体~

 日も落ちるか落ちないかという頃、ようやく命蓮寺にたどり着いた。門をくぐり、格納庫にアールバイパーを置くと謎の白い物体を抱えて自分の部屋に戻る。

 

 床に置いて様子を見てみるが、白い物体はピクリとも動かない。本当に生き物なのだろうか? 試しにもう一度そのモチモチとした物体を撫でてみる。少しだけ身をよじった気がする。やっぱり生き物なのか?

 

 そうだ、食べ物を見せて反応を見てみよう。何か無難なものは……よし、饅頭を見つけた。これなら妥当だろう。そっと目の前に置いて見せる。やはり反応はない……と思った矢先、物体が饅頭に覆いかぶさった。これは、食べているのだろうか。饅頭はすっかりなくなってしまい、物体が先ほどよりも活発に動き回っていた。

 

 やはり生命体だ。食事をするんだから間違いない。それにしても見たことのない生き物だ。後で白蓮に聞いてみよう。そう思い部屋を出ようとした矢先、目の前のふすまが開かれた。

 

「アズマさん、お夕飯の時間……って、ああああっ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げて星が卒倒してしまった星。俺の顔に何かついてた? いや、それともこの白い生命体がよほど珍しいものだったのか? とにかく星を起こすために手を取る。

 

「おい、大丈夫か? まるでオバケと鉢合わせでもしたような反応じゃないか。こんなところで寝たら冷えちゃうぜ?」

 

 俺は倒れた体を揺すって起こそうとするが、いまだにパクパクと口を動かすことしかできない毘沙門天代理。ようやく出た言葉は意外なものであった。

 

「アズマさんが……、アズマさんが死んじゃった……!」

 

 おいコラ勝手に俺を殺すな。余程錯乱しているらしい。おーい、目を覚ませー! 懸命な呼びかけの甲斐あって、星はようやく起き上がった。

 

「てっきりアズマさんが幽体離脱しちゃたのかと思って……」

 

 おや、この白い生命体は幽霊の類だったのか? 確かにこいつは真っ白だし先端が細長いしで、魂に見えなくもない。うーむ。となると俺はずっとこいつのこと生命体って思っていたけれどそれとはちょっと違うのかな? でも普通に饅頭食べてたし……。

 

「とにかく夕飯を食べに行こう。白蓮なら何か知っているかもしれない」

 

 今も足取りが不安な星の手を引いて俺達は居間へと向かった。

 

 

 

「それでは……」

「いただきますっ!」

 

 食べ物に感謝の気持ちを忘れずに。白蓮が合図をすると響子が大声で「いただきます」と口にするのだ。そんないつもの食事の風景。幽霊らしき真っ白い生命体がいることを除いて。俺はコイツに食事を分けているのであまり腹が膨れないが、一々食べたり喜んだりの反応が可愛いのでなかなか止められない。

 

 一通り食べ終わるとカッチリと体を折り曲げてお辞儀のような動きもして見せた。礼儀作法まで身に着けているようだ。ますます何者なんだコイツは?

 

 食事を終えて皆がまた散り散りになる頃、俺は白蓮に尋ねる。今日の夕方、帰り際にいきなり降ってきた真っ白い謎の物体が落ちてきたこと、どうやら生命体であるらしいということ、さらに言うと魂ような形をしているということ。

 

 俺のわかる範囲での説明を聞きながら幽霊っぽい何かを触ったり撫でたりしている白蓮。しかし表情は浮かない。おばあちゃんの……失礼、年長者の知恵袋でもお手上げなのか。

 

「うーん……。この子はおそらく幽霊ですね。ちょっと生命体と呼ぶには語弊があります」

 

 少し見ただけでは白蓮でもこれ以上はわからないという。心当たりがあるのでもう少し調べますとだけ言い残して白蓮は部屋に閉じこもってしまった。こんな腕白な幽霊を連れていては調べ物の邪魔になるだろう。俺は大人しく部屋に戻ろうとしたが……。

 

「おいっ! どこに行くんだよ?」

 

 俺の腕の中をスルリと抜け出すと真っ白な幽霊は勝手にどこかへ飛んで行ってしまった。俺は見失わないように急いで追いかける。

 

 

 

 幽霊が逃げ込んだ先はアールバイパーの格納庫であった。どうにか捕まえようと手を伸ばすが、狭い場所をスルリと通り抜けられてしまった。人間の体ではそんな芸当できないので、仕方なく大回りして追いかける。

 

「うわわっ!? なんだなんだ??」

 

 今日散々無茶させたアールバイパーのメンテナンス中だったのか、河童の素っ頓狂な叫び声が響いた。

 

「おうい、そいつを捕まえるのを手伝ってくれ!」

 

 しりもちをついていたエンジニアを呼ぶと二人で幽霊を追い回す。

 

「そっち行ったよ!」

 

 しかしこんな実体を持っているのかどうかも怪しいこいつを捕まえるのは並大抵の難しさではない。ある時は俺の股下を潜り抜け、ある時はアールバイパーの真下に潜り込まれ、ある時は二人で捕まえようと同時に飛び掛かったらお互いの額をゴッツンコしたり……。

 

 ヘトヘトになりながら追い回した挙句、ようやく腕白幽霊を捕まえることに成功したのだ。にとりに礼を言うと、今度はまた逃げ出さないようにしっかりと抱きしめながら部屋に戻ろうとする。

 

「ゼエゼエ……散々走り回って汗ぐっしょりだ。そういえばコイツもあちこち汚れているな」

 

 あんな格納庫を縦横無尽に飛び回ったのだ。そりゃあ汚れる。俺はこの幽霊っぽい生命体と一緒にお風呂に向かうことにした。

 

 

 

 修羅場だった。風呂場に連れて行き、脱衣所まで着いたはいいものの、突然白い生命体がジタバタと暴れはじめるのだ。

 

「この腕白小僧め……。キレイにするんだから大人しくしてくれ」

 

 幽霊の先端(細長くなってる)でピシとこちらを叩いてくるが、どうにか逃げ出さないようにホールドしつつ浴場へと向かう。

 

 膝の上に置いて、お湯をかけつつタオルで優しめにゴシゴシ擦る。その間も幽霊は嫌がっているようであった。水が苦手な幽霊だなんて聞いた事ないぞ……。水にトラウマでもあるのか……? いや、船幽霊のムラサだって入浴はするんだ、その線は薄い。単にお風呂嫌いとかなのだろう。

 

 幸い猫のように鋭い爪や牙があるわけではないので引っかかれたり噛みつかれたりはない。石鹸で念入りに洗いつつ汚れを落としていく。が、また暴れ出した。しかも今度は石鹸でヌルヌルになっていたので俺の腕の中から滑り落ちて縦横無尽に飛び回り、そして湯船にダイブした。ああっ、まだ石鹸落としていないのに……。

 

 せめて石鹸だけでも落とすために捕まえようと俺も湯船に入る。幽霊はまるでコブラのように体を持ち上げて威嚇しているようだ。思いっきり警戒されている。仕方ない、一度諦めた風を装って隙を見て捕まえるか。

 

 俺はゆっくりと肩まで湯船につかると、この奇妙な生命体も警戒態勢を解いて湯船に入り始めた。なんだか避けられているような気もするが、そんなに体をゴシゴシされるのが嫌だったのだろうか?

 

 よし、そろそろ行動に出ようと俺は幽霊に掴みかかった。よし、捕獲成功。だが、ジタバタと暴れ始めて思うように動けない。

 

「後は石鹸を洗い流すだけなんだからもう少し大人しくしてくれっ!」

 

今度は取り落とさないようにしっかりと掴んでいるが、暴れるせいであっちへふらふらこっちへふらふら……。そして不意にピョーンと跳ねた。俺もつられて動いてしまう。そして向かった先は入口……。

 

「すっかり遅くなってしまいましたが……」

 

 入口が急に開かれた。その先にいたのは一糸まとわぬ姿の住職サマ……。直後激しくぶつかる音と女性の悲鳴が響いたのは言うまでもない。

 

 

 

「まったく貴方という人は……ガミガミ」

 

……怒られた。こんな遅い時間まで起きていた事(白蓮が風呂場に着いた時は既に日付をまたいで久しい時間だったらしい。さすがに誰もいないと思ったら俺がいたので驚いていたようだ)、風呂場で暴れた事、もちろん俺が白蓮をものすごい勢いで押し倒してしまった事も十分怒られる要因だ。

 

 どれもこれも俺だけの落ち度ではないが、怒られても仕方がないくらい色々やらかしていることは事実である。横では白い生命体もしゅんとうなだれているように見える。

 

「この白い生命体が汚れていたんで一緒にお風呂に入ろうとしたんですよ」

 

 言い訳をするつもりではないが、この事だけは伝えなければいけない気がした。それを聴いた白蓮はフウと一息ついて、額に手を当てて天井を仰いだ。

 

「そりゃあ嫌がられますよ。貴方はペットのような扱いをしたのかもしれませんが、その子、人の心を持っています」

 

 思わず口から漏れ出た驚きの声。そう、白蓮はこのおおよそ人間には見えないこの生命体の事を人間の幽霊だというのだ。原形全然とどめてないぞ?

 

「いいですか、色々とその子について調べてみたのですが、大変なことが分かりました。その子は確かに霊魂の類なのですが、その中でもちょっと特殊な『半霊』と呼ばれるタイプです」

 

 開かれた本を指差して俺に見せてくれた。なるほど、この半霊と呼ばれた幽霊が人間の周りを飛んでいる絵がある。白蓮曰く「半人半霊」と呼ばれる種族であり、人の体と幽霊の体を両方持っているのが特徴であるようだ。両方揃った状態が正常なのであり、半霊単体がこんなところにいること自体が異常事態なのだという。

 

「つまり持ち主が困っているってこと?」

「……でしょうね。どうやら迷子になってしまったようです。半霊もその持ち主の体の一部なので迷子になるなんてちょっと考えにくいのですが……」

 

 考えにくいとはいえ、目の前でこのようなことが起きている。確かに半霊を放っておくとキョロキョロと誰かを探しているようなそぶりを見せる。そんな半霊をやさしく抱きしめてみると大人しくこちらに身をゆだねてくる。なんだか可愛い……。そしてひんやりとしていて気持ちがいい。

 

「とにかく私が調べられたのはここまでです。あとは霊魂のことなら冥界に赴いたほうがよく分かるでしょう。明日になったらそちらに向かってみてはどうでしょうか?」

 

 俺は翌朝、朝食を済ませ次第その冥界とやらに向かうことにした。今すぐ飛び出そうとしたら夜は危険だとか貴方も疲れているでしょうと心配されて止められてしまったのだ。

 

 

 

 翌朝……。幻想郷の空はどんよりと曇っていた。いきなり気分が削がれるが、でも行かなくてはならない。迷子の半霊の為にも俺が一肌脱がなければならないのだ。

 

 冥界への行き方ならあらかじめ白蓮に聞いてある。まずはひたすら高度を上げ、そして巨大な門を目指せとのことだった。かつては現世と冥界を厳重に隔てていたらしいが、今はそれも曖昧であり空さえ飛べれば比較的簡単に向こう側へ行くことができるのだという。

 

 俺は今アールバイパーのコクピットの中にいる。にとりによる最終調整が終わり、まさに発進する時なのだ。外では半霊が待機している。

 

「よしっ、こっちの準備は終わったよ!」

 

 命蓮寺に何故か河童。かつて勝手に乗り回したアールバイパーで寺に大穴を開けてからの縁であり、ここでアールバイパーの整備を行ったりしているのだ。今となっては欠かせない。

 

 さて、ゆっくりと我が銀翼が向きを変える。目の前に広がるのはトンネルのような形をした滑走路、そしてその先は命蓮寺の外側。

 

 ピカピカとアールバイパー内の計器類がせわしなく動いたり点滅し、徐々に大きくなるジェットエンジンの音……。滑走路に緑色のランプが灯る。出撃の時が来た!

 

「アールバイパー発進……! Let's rock'n roll!!」

 

 軽くつぶやいた直後、俺の体に強烈なGがかかる。滑走で光る点は次第に線となる。俺は光に、翼になるっ!

 

 かくして俺は迷子の半霊を救うべく、銀翼を駆って鉛色の空へと一直線に飛ぶのであった……。


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