東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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東方銀翼伝 新章始動……。


東方銀翼伝ep2 S.S.(Second Synchronizer)
第1話 ~博麗のならず者~


 幻想郷某所、暗がりの中で上ずった女性の声が響き渡る。

 

「素晴らしい、素晴らしいわ! ちょっと見てくれに難ありだけれどこんなに素晴らしい力を秘めていただなんて!」

 

 ほのかな赤黒い光がその狂気に満ちた笑みをボンヤリと映し出しているようだ。

 

「調べれば調べる程、興味深いデータが取れる。ここまで研究者の心をくすぐるだなんて……。アナタのこと、もっともっと知りたいわぁ……」

 

 女性はそこらに落ちていた踏み台の上に乗っかると更に続けた。一体誰に話しかけているのだろうか。周囲には他の人の気配などまるで感じられない。はたまた大げさな独り言なのだろうか、どっち道この女性が正常な状態にあるとは言い難かった。

 

「もっともっと研究して自由にこの力を使えるようにすれば……あの山神様なんかに負けない、つまりこの幻想郷に革命が起こせるわ……!」

 

 そのまま高台の上で高らかに大笑いしている。よほど自分に陶酔しているのだろう。そんな女性をどんな感情で見据えているのか、赤黒い大きな目玉が音もなく不気味に発光する……。

 

 

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 八雲紫との決闘も過去の思い出となった頃……。

 

 幻想郷に住まうことを許された俺は命蓮寺で平穏な日々を送っている。今ではすっかり日課となった境内の掃除から、立場上は妖怪の味方である白蓮では受けにくいような人間サイドな依頼の遂行など……。そんな平和な日々がずっと続く筈であった。そう、実際は平穏でも何でもなかったのだ。

 

 俺が八雲紫に勝利したことがあまりにも衝撃的だったらしく、かの「文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)」で大きく取り上げられてしまったのが原因である(「妖怪賢者 外来人の男性相手に墜ちる」だなんて大きな見出しが出てくれば嫌でも目に入る。そういえば、文を最近見かけないなぁ……)。

 

 幻想郷きっての弾幕ごっこの実力者が命蓮寺に顔を出すようになったのだ。もっとも挨拶程度のものであり、実際に勝負の申し出をしてくる人(……というか妖怪ばかりだが)はいなかったのだが、いつこのような存在に勝負を仕掛けられるか分かったものではない。仮に勝負になった場合、勝敗よりも大怪我をしないことが今の俺にとっては大切なことであった。

 

 いつ強者に勝負を仕掛けられるか分からないということで日課であるお寺での務めの傍ら、これまた最近の日課となった弾幕の特訓も行っていた。

 

「それじゃあ始めるよー!」

 

 遥か遠方、緑色の髪に垂れている犬の耳のようなものを持ったピンクのワンピース姿の少女がブンブンと腕を振り回している。今回俺の弾幕ごっこの練習に付き合ってくれる彼女は「幽谷響子」。小柄な体からは想像もできないほどの大声を張り上げることが出来る。それもその筈、彼女の正体は山彦と呼ばれる妖怪なのだ。山で大声を出すと声が返ってくるというアレである。両手を口に添え始めた。何かスペルを仕掛けてくるに違いない。

 

「大声『チャージドヤッホー』!」

「銀符『レーザーワインダー』!」

 

 ぶつかり合う弾幕と弾幕。実力は互角程度であり、実に修行にもってこいの相手である。つい白熱し過ぎて白蓮に叱られることも少なくないが、おかげで弾幕ごっこにも多少慣れてきたような気がする。

 

 そんな命蓮寺での日常。来る非日常に対して準備をしてきた矢先の出来事であった。響子や白蓮、果てはあの紫なんかよりもずっと凶暴で、ずっと強大な奴が寺の門をこじ開けてきたのだ。

 

 しかも相手は妖怪ではなくて俺と同じ人間だというのだから驚きである。

 

「聞いたわよ。珍しい道具を使って紫を負かした男がいるって」

 

 そう言って門をいきなりこじ開けて俺の前に現れたのは巫女であった。いや、紅白の巫女装束だと思ったがよく見ると色々な所がアレンジされている。特に腋を露出させているのが特徴的であった。急に門が開かれるものだから俺と一緒にいた響子が大きな耳や小さな尻尾をピクンと震わせて硬直していた。

 

 また俺に用があるのか……。あのままだと巫女が響子に喰ってかからん勢いだったので、名乗り出ることにする。

 

「そう、俺が紫と決闘をした(とどろき)アズマだ」

 

 名乗りを上げると巫女がピクリと反応しこちらに詰め寄る。

 

「ふうん、アンタがねぇ……」

 

 自らを「博麗霊夢」と名乗った彼女は一通りこちらをじっくりと見つめると、とんでもない事を言い出す。

 

「なるほどね。命蓮寺ならお宝もいっぱいあるし、アンタも珍しいものを持っているに違いないわ。さあ、私と勝負しなさい。私が勝ったらアンタが持ってる一番のお宝を貰ってやるわ」

 

 なんて強引な人だ。やんわりと断ろうとしたが断ると今度は命を取られかねないので、仕方なくアールバイパーに乗り込んで弾幕勝負に応じることにした。

 

「そうねぇ。あり得ないとは思うけれど、アンタが勝ったら私の一番のお宝をプレゼントするわ。これなら対等でしょう?」

 

 ここで巫女に屈したら俺の大切なものを奪われる……。この戦い、負けられないっ!!

 

 

 

 め、滅茶苦茶だ……。気がつくとアールバイパーは黒煙を上げ墜落しており、その上を霊夢が少し退屈そうな顔をして浮遊していた。

 

 何が何だか分からないうちに俺は霊夢に屈してしまったのだ。こちらの攻撃はことごとく避けられ、相手の攻撃は避けた筈なのに当たっている。それは決闘の体をなしておらず、もはや暴力の領域であった。

 

 どうにかコクピットから脱出する俺。

 

「なんだつまんない。紫を退治したっていうからもう少し骨があると思ったのに」

 

 何故だろう、ここまで潔く負けると悔しささえ感じなくなる。うん、こんな勝負なかった。

 

「勝手に無かったことにしてるんじゃないわよ! さあ、アンタのお宝をいただくわよ」

 

 うう、あの目ざとい巫女はごまかせなかったか。仕方あるまい、俺の一番の宝とやらを渡さなくてはならないな。

 

「俺にとって大切な宝ってコレのことだけど……」

 

 俺と共に幻想入りし、幾多もの危機を共に渡り歩いてきた銀色の翼を持った相棒。それこそが俺にとって一番のお宝だ。それを指差して見せる。

 

「は?」

 

 先程まで霊夢が自らボコボコにしていた銀色の翼。信じられないと言わんばかりに目を見開いている。だけど俺にとっては何よりもの宝物なのだ。嘘はついていない。

 

「だから俺のお宝ってのはコレのことだけど。超時空戦闘機『アールバイパー』、またの名を『希望を繋ぐ銀翼』、ちょっとマニアックな呼び方だと『銀蛇伯爵』。これがあれば自由に空を飛んだり弾を撃ったりできるのさ。俺にとってはなくてはならない大切な存在だ!」

 

 唖然とする霊夢。まるで魂を抜かれたようである。

 

「こ、これが一番のお宝……? (い、いらねぇ……。そんなのなくても私飛べるし弾幕出来るし……)紫ィ、騙したわね!」

 

 天に向かって吼える霊夢。そんな霊夢と俺の間に空間の裂け目が音もなく発生した。そんな登場をするのはあの妖怪賢者くらいだろう。このように呼ばれて一々出てくるのだから、アレで結構律儀な性格なのかもしれない。

 

「あら、私は一言も嘘なんて口にしていないわ。あれこそが幻想郷をひっくり返しかねない超技術の塊『アールバイパー』。外来人の持ち出すものの中でもとびっきりのレアなお宝よ」

 

 開いた扇子を口元に添えながら、涼しい顔でスキマに腰かけている大妖怪。と、そのスキマの中から子供の声が聞こえる。恐らくは橙であろう。

 

「紫様ー、食事中に席を立ったらお行儀が悪いですよー」

 

 直後、スキマに向かって微笑みながら手を振ってその中に潜り込むと、そのままスキマごと消えてしまった。これには霊夢だけでなく、俺もポカンと立ち尽くすしかなかった。どれだけ神出鬼没なんだ、あのスキマ妖怪は。

 

「と、とにかくそんなものじゃ私は満足できないわ! 外来人なんだし、他にも幻想郷ではお目にかかれないレアものとか持っているんでしょう?」

 

 アールバイパーを奪われずに済んだのはよいのだが、これはこれで俺の大切な相棒を侮辱されたようでなんか釈然としない。心の整理をつける間もなく、霊夢がズイと詰め寄ってきた。顔が近いです、そんなにされても出ないものは出ないですよ!

 

 

 

 何か手に入れようと必死に俺の体を揺さぶる霊夢。

 

「ほら、どこに隠し持っているのよ? 吐きなさい、そのほうが楽になるから」

 

 こりゃたまらんということで、俺は自分の部屋に戻って珍しそうな道具をいくつか持ってくる。

 

「ま、待ってくれよ。今見せるから……」

 

 だがその反応はあまりに素っ気ないものであった。腕時計(太陽電池内蔵で幻想郷でもちゃんと使える)も外の世界の雑誌(にとりやムラサに好評だったゲーム雑誌)も、とあるシューティングゲームの自機を象った模型も「こんなのいらない」と一蹴されるばかり。それでも何か貰わないと気が済まないらしく「他にも見せろ」の一点張り。

 

 何なら満足してくれるか思索を巡らせていると……

 

「あらあら、アズマさんってばもう霊夢さんとお友達になったんですね♪」

 

 お茶やお菓子の沢山乗ったお盆を手にしている白蓮がやって来た。この状況をどう解釈すれば友達同士に見える? どう見てもカツアゲの現場だろう。だが、これで霊夢の注意が白蓮に向いた。

 

「気が利くじゃない。お茶菓子まであるわ」

 

 真っ先に縁側に座ると美味しそうにお茶をすすり、茶菓子に舌鼓を打っていた。もしかして霊夢、お腹が空いていただけなんじゃ?

 

 そうやって二人でお茶をしていたらようやく満腹になったのか、非常に満足そうな面持ちでだらける巫女。……と思ったら急にパチっと目を開いて俺の手を引く。一々彼女の行動が読めない。

 

「アンタに弾幕のイロハを教えたげる。あちこちでやるからよく見て覚えなさい」

 

 拒否権なぞなく、俺はアールバイパーに乗り込みこの自由人過ぎる巫女の後をついていく。

 

「お夕飯までには帰ってくるんですよー」

 

 この住職には遊びに出かけているようにしか見えないらしい。

 

 

 

 目を覆いたくなるような惨状。俺が霊夢の後をついて行って見られたものを手短に表すと、その一言に尽きる。人里の人間から『悪さをする妖怪を退治してくれ』と依頼された上での行動ならまだいい。中には『珍しいものを持った妖怪だから』という理不尽な理由で勝負を仕掛け、打ち負かしたうえでそれを持って行ったりだなんてこともしていた。

 

「待ってよ、そいつは何も悪さしてないじゃないか」

「うっさい、私の目の前に妖怪がいる。妖怪は徹底的に退治よ!」

 

 これではどちらが人間でどちらが妖怪なのかわからなくなってくる。正直彼女から学べるものは……ない。弾幕ごっこのテクニックだけでも盗もうとしたが、何せ格が違いすぎて参考にならないのだ。

 

 その後も妖怪退治という名の略奪行為が続き、弾幕の放たれる音と妖怪たちの悲鳴を何度も耳にする羽目になった。

 

 散々夕方まで付き合わされて俺はもうぐったりである。ようやく霊夢から解放された俺はアールバイパーを飛ばし、命蓮寺への帰路につく。

 

 と、キャノピーにベチっと白い何かが落ちてきた。最悪だ、鳥のフンか。いや、それにしては大きすぎる。な、なんじゃこりゃ!? 前が見えなくなったことで飛行が不安定になる。仕方なく緊急着陸するとキャノピーにこびりついた白い物体を引きはがす。

 

 なんだコレ……? 真白く微妙に透き通っている。顔を近づけてみるが特に匂いはしないようだ。触り心地はまるで白玉とかお餅のようにモチモチしている。こんな得体の知らないものは捨ててしまおう。そこらの茂みに投げ込もうとする。

 

 が、その白い塊がふるふると震えた。まるで嫌がっているかのように。うーん、もしかしてこれは生命体なのか? でも一言も発しないし、なんというかいわゆる生気ってものをこの物体からまるで感じないのだ。

 

 ここで頭をひねっても解決しない。誰かの落とし物かもしれないしとりあえず命蓮寺に戻って保管しよう。あそこに置いておけばしばらくは安心だろうし。




というわけで、東方銀翼伝第二部の開始です。
知恵と結束力とあと運と不意打ちでどうにか紫に勝ったものの、霊夢には全く歯が立たないようです。

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