東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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「東方銀翼伝 ep1 F.I.」を八雲紫の手記という形で振り返るという内容になっています。


東方銀翼伝ep2 S.S.プロローグ
八雲紫の手記 銀翼と外来人の章


 平穏なる楽園「幻想郷」の空に「それ」は突然空間を切り裂きやって来た。「それ」は本来なら世界から必要とされなくなって幻想入りする筈だったモノ。外の世界ではすっかり忘れ去られた古ぼけた遊具。誰も遊んでくれないのに、大きいだけ大きくてメンテナンスのコストのかさむ大型筺体であった。

 

 しかしそれはスクラップではなく、どういうわけか戦闘機の形をしていた。私は恐怖した。この妖怪たちの楽園たる幻想郷に攻め入る存在が遂に現れたのかと身構える。しかしそれは間もなく墜落。

 

 間もなくしてそれが私自らが呼び寄せた忘れ去られた外界の遊具であることが判明。だが、こんな物騒な形はしていなかった筈。幻想郷ではもちろん、今の外界の技術ですら為し得ることが出来るかどうかの怪しい危険な超技術の塊。半ばスクラップになっていたとはいえ、これが幻想郷に存在してはいけないモノであることは明らか。私はこの招かれざる来客を始末することにした。戦闘機と、その乗り手を含めて。

 

 結論から言うと、私は仕損じてしまった。戦闘機に乗っていた外来人、確か「轟アズマ」とかいったか、そいつを捕らえたまでは良かった。だが、私は思わぬ干渉を受けてしまう。同じく戦闘機の墜落の調査に向かっていたであろう命蓮寺の住職「聖白蓮」に見つかってしまい、一方的に外来人を襲っていると思われた私は彼女との交戦が避けられないことを悟る。

 

 やむなくこの不届きな侵略者である轟アズマを手放し迎撃に集中することにした。この住職もなかなかのやり手である。荷物片手に戦闘出来るような相手でもない。

 

 その間にみすみす奴を逃がしてしまい、また大破していた戦闘機もやはり墜落の轟音に誘われてやって来た河童の小娘に持っていかれてしまった。かの住職との勝負もどうにか勝利こそ出来たものの、こちらも深手を負ってしまい、しばらくは動けないだろう。更に顔面を思い切り殴られてしまい、とても見られるような状態では無くなっていた。ああもう最悪! 大失態もいいところである。

 

 外来人が幻想郷の常識に上手く馴染めないというのはよく聞く話であるが、それはつまり我々幻想郷の住民も外来人の持つ常識に翻弄される事もあり得ると言うことだ。そして今まさにこの外来人「轟アズマ」の発言に私は酷く戸惑っていた。

 

 奴の行動を監視したところ、彼は幻想郷で広く広まっている「スペルカードルール」に着目し、よりにもよって私を弾幕ごっこで負かすことで幻想郷に住むことを許してもらおうと言いだしたのだから。

 

 我が耳を疑った。確かに多くの異変を平和的に解決してきた弾幕ごっこ。決闘としても用いられるそれではあるが、本来は女の子の遊び。それを幻想郷のイロハも知らない男が弾幕ごっこをやって私を倒すと言うのだ。

 

 よし、もうしばらく生かしてみよう。恐らくはあの銀翼を弾幕ごっこに使用するのだろう。アイツにはそのことに集中してもらえば他に悪さをする危険もなくなるし、大の男が女の子の遊びにムキになって取り組むだなんて見ていて滑稽だろうし。

 

 

 

 早速彼は弾幕ごっこを始めるべく動きだした。少女なんかよりもずっと大きい戦闘機がどうやって弾幕の隙間をくぐるのかと思ったら、どうやら小さく縮むことで少女並みの大きさになることが出来るという機能があるらしい。

 

 そして氷の妖精と戯れたりもしていた(恐らく本人達には真剣勝負だったのだろうが)。偵察に向かわせていた藍と橙によると勝ったり負けたりの繰り返しであり、実力的には氷精と大して変わらないとのことなので、さほど脅威的なものではないとのこと。

 

 彼なりに幻想郷に馴染もうとしているのだろうか? 少し興味深くもありこちらに敵意を向けている限り力を持て余して暴走するという事態に陥ることは考えにくいので、もう少し観察してみることにした。

 

 轟アズマの夢に中に入り込んで決闘を受け入れる旨を明かした。アイツは私の姿を見て相当怯えていたようだ。見ていて面白いからもっと脅してみる。なるほど、人間を普通に脅かすだけでもなかなか妖怪らしくなるではないか。

 

 私は私であの戦闘機(「アールバイパー」というらしい)について調べてみることにした。幻想郷で戦闘機についての文献があるとは思えない。案の定、紅魔館の図書館を一通り回ってみたも収穫なし(その際に魔理沙とアールバイパーが紅魔館に入り込む様子を確認した。今度は魔理沙と遊んでいるのか)。

 

 外界に出て戦闘機について調べるもやはりまともな情報は得られない……と、ここで私は重大な見落としがあることに気が付いた。アールバイパーは本来ゲームの中の存在。実在の戦闘機について調べても出てくる筈もないのだ。改めてゲームの方を調べて回る。

 

 アールバイパーについて記された文献自体は発見できなかったが、よく似たタイプの宇宙戦闘機の存在を確認。その名前は「ビックバイパー」というらしい。

 

 ミサイルとレーザーを駆使して戦うがその最大の特徴は自身を追従する「オプション」と呼ばれる攻撃支援ポッド。どうやら最大4つまで装備可能であり、一つ一つが本体と同じ火力を持つようである。更にはオプション自体に攻撃を加えても破壊出来ないというオマケ付き。火力が最大5倍になるのは脅威的だがこれは一気に本体を叩けば問題ないだろう。オプションの見た目は本体とは全然違うので見間違う心配もない。

 

 恐らくはアールバイパーも先程調べたビックバイパーに類似した能力を持つのだろう。もっと調べようとした矢先、慌てる藍から知らせを受け取る。

 

どうやらアールバイパーが紅魔館の主であるレミリアと弾幕ごっこを行い、勝利してしまったらしい。勝因は「ネメシス人形」と呼ばれる上海人形。どうやらその上海人形をオプションに見立てて戦闘したらしい。

 

 少し前は氷精レベルであった戦闘力が異常な速度で上昇している。藍は危険な超技術でありこれ以上放っておくことは得策ではないと言うが、逆に私が興味をひかれてしまった。

 

 私は怖かったのだ、いきがって決闘を仕掛けるあの外来人が恐ろしい程弱くて決闘として成り立つのかが。しかしそれは杞憂となったのだ。あのレミリアを倒す程度の実力ならある程度は楽しめるだろう。

 

 そしてこの状況を私は楽しんでさえいた。ただの口だけではない、今時の外来人にしては珍しい妖怪を倒してやるぞという強烈な闘志を持った人間が現れたのだ。油断していたら私も……退治されるかもしれない。

 

 

 

 いよいよ決闘の時が来た。調べたとおりミサイルとレーザーを用いた戦い方。動きはかなり素早くなかなか決定打を与えられない。しかし攻撃があまりにも直線的過ぎた。あれでは最小限の動きで避けれてしまう。

 

 そして遂に切り札であろう上海人形を展開してきた。なるほど、本体の後をついて回り同じ動きをする。確かに厄介であった。しかしこちらも援軍を呼べばいい。藍の出番だ。式神としての藍とちょっと不格好な人形のどちらが優れているのかは明白であった。さらにあちらは長時間展開できないようであり、途中で格納してしまう。

 

 さて、頼みの綱を失ってこの外来人はどうするのか。うかうかしていると目の前の妖怪に殺されちゃうぞ。さて、そろそろ本腰を入れることにする。この外来人は圧倒的な力を見せつけられてどこまで気丈にふるまえるのか。殺さない程度に轟アズマとアールバイパーを追い詰めていく。

 

 なかなか驚くべき結果が出た。アールバイパーが大破したというのにまだ戦うというのだ。それもその筈、奴はとんでもない隠し玉を持っていたのだから。

 

 上海人形を制御するための魔力を一度に爆発させる大技をやってのけたのだ。油断していた私は思い切りそれを受けてしまう。武器を失いまさに命を散らさんという時に起こした起死回生の一撃。

 

 なるほど、面白い人間だ。殺すのは惜しい。あの住職に監視役を任せればおかしなこともすることないだろうし、コイツが何かやらかさない限りは幻想郷に住まわせてもよいかもしれない。

 

 命蓮寺の新入りとして幻想郷に受け入れられた「轟アズマ」。この忘れ去られた楽園でいったい何を見て何を感じるのだろうか……。




そして物語はS.S.(セカンド・シンクロナイザー)へ……

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