東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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圧倒的な戦力を持つ八雲紫を前に、次々と追いつめられていくアールバイパー。
しかし、絶望に包まれたその時、アズマの懐で新たな「希望」がキラリと光った……!


第20話 ~生への渇望 後編~

 高高度を目指し、上昇。そして次々と爆弾を投下する。いくら素早く動ける相手とて、これだけ絨毯爆撃してやればひとたまりもない筈だ。もしも回避していたとしても動きは相当制限される。

 

 爆撃しながらメインショットを再びレーザーに換装。爆風が晴れるのを待たず急降下しつつ、レーザーの雨あられを喰らわす。爆風とレーザーの複合攻撃に紫はタジタジになっている。

 

「ええい小癪なっ! 藍っ、追いかけなさい!」

 

 紫を通り過ぎ様に攻撃を仕掛けたが、その紫本人は俺の後ろを藍に追いかけさせていた。命令を受け、執拗に追いかけてくる九尾の狐。振りきるべく、ギリギリまで高度を下げる。相変わらずくるくる回りながら迫ってくる藍。駄目だ、速度もさることながら精密にこちらを追ってくるじゃないか。これでは振り切れそうにない。

 

 ならばもう一度上昇。案の定追いかけてきた。

 

「かかったな。スモールスプレッドを喰らえ!」

 

 ポロポロと小さい爆弾を落とす。俺の真下にいた藍はそのまま爆風の中へ突っ込んでしまった。あれだけの爆風を受けたのだ。怯んだ藍が墜落していく。致命傷には到底及ばないが、これで奴はしばらく戦えな……

 

「こちら側がガラ空きよ……!」

 

 ゾクリと刺さる声。そうだ、紫のことを忘れていた。藍単体でも脅威だというのに、あくまで紫に付き従うオプションという扱いである。いかに相手がヤバいかを改めて思い知った。

 

 紫が突き出した扇子からの弾幕、藍の対処に夢中になっていた俺はそれに対処できなかったのだ。あれは扇状に発射されるのだが、この近距離で放たれたら……。くそう、零距離ショットガン戦法を真似された!

 

 自らも爆風の中へ突っ込み……、いや、その中から凄まじい勢いで飛び出る藍の体当たりを受けた。なんてこった、藍がもう復帰している! 下から突き上げられるように体当たりを喰らい、大きく跳ねあげられるアールバイパー。

 

「一気にケリをつけるわ。式神『八雲藍+』」

 

 藍のみではなく、別の方向から橙色の光、恐らく藍の使役する式神のものだろう。

 

 体勢を立て直す間もなく、二つの突撃に為すがまま、弾幕と体当たりを受ける。バイパー内の計器類がオーバーフローを起こしているのか、コクピットはアラートの音と、警告を促す赤いランプの点滅で埋め尽くされていた。

 

 反撃するべく、トリガーを引くが、もはや狙うことなどままならず、あさっての方向へレーザーが飛んでいく。うっ、また被弾した。このっ! ……弾が撃てない!? 執拗な攻撃で致命的なダメージを負っているようだ。

 

 普通はここまで粘らない。こうなってしまったら素直に負けを認める。でも今回ばかりはそうはいかないのだ。この戦いで敗北を喫するということは死を意味するからである。だがこれ以上どうすればいい? ショットも撃てないし……。

 

「人間ごときが式を使うとはね。やはりお前を生かすわけにはいかない。急激に力をつけ過ぎよ。いずれ幻想郷のガンとなる」

 

 はるか上空にスキマを開き、紫がこちらを見下していた。だが、スキマに腰かけたりはしていない。ネメシスを使役したことで、遊びで勝負することを止めたと見える。

 

 どうにか機体のバランスを取り戻すことは出来た。今度は急上昇し、もう一度攻撃を仕掛ける。ショットが撃てないのならミサイルで対処する他ない。俺は静かにスペルカードを掲げた。

 

「爆撃『スモールスプレッド』!」

 

 機体を急上昇させ……駄目だっ! ダメージを受けすぎていて速度が全然でない。あっという間に紫に追いつかれてしまった。

 

 更に悪いことに、紫本人まで本格的に攻撃を始めたのだ。日傘をぐるぐる回転させながら、こちらに迫ってくる。

 

 辛うじて直撃は免れたものの、左側の翼に強烈な一撃をもらう。銀の翼が……折れた。翼を損傷した為か、リデュースが解けてしまい、機体が元の大きさに戻る。明らかな異常事態ににとりが叫ぶ。

 

「うわわ……アレは流石にマズいよ!」

 

「あ、アズマさんっ!!」

 

 遠くでかすかに聖さんとにとりの声が聞こえた気がした……。今度はエンジン部分をやられたか、赤い光で彩られたコクピットから光が失せる。飛行能力を失い、黒煙を上げながらアールバイパーがゆっくりと地に落ちようとする。

 

 いや、まだ完全に機能が死んだわけではない。最後くらい、あがかせて貰うぞ……。

 

 止まっているのか、動いているのかが判別できない程に衰弱していたが、ゆっくりとあの紫に接近を試みる。

 

「まだだ、まだ俺は見せていない。お前にっ、俺の、俺のっ……潔白をッ! 執念をッ!! そして生き様をッ!!!」

 

 既に弾幕ごっこを行えるような状態ではないが、まだ落ちるわけにはいかない。どうにか機体を安定させフラフラと紫に接近する俺。しかしそんな俺をゴミ虫でも見るかのような目で睨む。

 

「死に損ないが何をほざく。大人しく地に伏していなさい」

 

 あまりに冷徹なスキマ妖怪の一瞥。それと同時に虚空にスキマが開いた。その亜空間の穴から「何か」が落ちてくる。

 

 回避など出来ず、俺は鈍重な一撃を喰らった。その「何か」と重力の赴くまま、俺は地面に叩きつけられた。相当の衝撃に俺は一瞬失神する。

 

 まだグワングワンと意識がもうろうとする中、上からこちらを嘲笑う声が聞こえる。

 

「それは私からのプレゼントよ。素敵な墓石でしょう? ちゃんと名前も彫ってあるわ」

 

 墓石だと? ちくしょう、しっかりと「轟アズマ」と彫ってあるじゃないか。どこまでこちらをコケにすれば……。だが、あの大妖怪の力は本物だ。こちらが苦労して編み出したスペルカードを嘲笑うかの如く攻略している。悔しいが本当に勝てない相手なのかもしれない……。

 

 墓石のせいでキャノピーが破壊される。残骸を踏みにじるように紫が音もなく近寄ると、こちらの胸ぐらを掴み上げ、ギリギリと絞めつけ始める。

 

「ぐああああっ!」

 

 爪が突き刺さり、そこから血がにじみ出る。首を絞めあげられる前にその痛みで俺は叫び声をあげた。

 

「決定的でしょう? 貴方の負け。勝者の言うことを1つ聞いて貰うわ。……貴方には美しさすら勿体ない。ただ残酷に往ね!」

 

 まだだ、まだここで倒れるわけには……! 俺のアールバイパーはまだ死んじゃいない。ちょっと翼を折られただ……け……。無駄なあがきと分かっていながら、俺は首に食い込んだ紫の指を振りほどこうともがく。案の定ビクともしなかった。

 

「もうやめて! 貴女が恐れているのはこっちのアールバイパーでしょう? この人の命まで取る必要はないはずです!」

 

 その時、俺と紫を阻むように白蓮が立ちふさがった。絞めつけていた手から解放され、再びコクピットにドスンと落ちる。自らの身を襲った衝撃よりも首絞めから解放された安堵の方が勝っていた。

 

「あら、妖怪が人間を襲って何が悪いのです? 至極当然の行動。貴女になら分かるでしょう? それに勝者が敗者を好きなようにする。この人だって私に勝てばこの幻想郷に住まうつもりだったのよ。でもこの人は負けた。この理に何か問題でも?」

 

 反論しようとする白蓮であったが、藍と橙に取り押さえられ、引き離されてしまう。ひっきりなしに俺の名を叫ぶ声だけが鼓膜の中でこだました。

 

「さて……と。ちょっと邪魔が入ったけれど、貴方はもう腹をくくっているのでしょう? 幻想郷を超技術をもって崩壊させようとした罪、その身をもって償うがいいわ。さあ、男らしく覚悟なさい……」

 

 再び喉元を掴まれる。またギリギリと絞めあげてくるのだろう。

 

「さあ、多くの人妖の前でその醜態をさらしながらその命の花を散らすがいいわ!」

 

 ギリと少しずつ力が入っていく。このまま再び絞めあげるつもりなのだろう。

 

 だが、もうそんなことさせない! くわっと目を見開き、敵をただ睨みつける。そう、俺もアールバイパーもまだ負けていない。死んでいない!

 

 今が最後のチャンスだ。紫はすっかり油断している上に聖さんが介入してきたことによって集中力が乱れている。アレを決めるのならば今しかない。

 

「いいや、覚悟するのはお前の方だ。八雲紫!!」

 

 先程コクピットに叩きつけられた際に手にした最後の希望、俺の3枚目のスペルカード。その名前を声高らかに宣言した。頼むぞ、上手く虚を突いてくれ!

 

「操術『オプションシュート』(※1)!」

 

 大破したアールバイパーの一部がパカっと開く。その中から再びオレンジ色のオーラを纏ったネメシス人形が勢いよく飛び出した。そのまま光の軌跡を描きながら、紫に直撃する。

 

 俺は再び紫の手から解放された。先程俺が紫の式神たちに執拗にやられてきたように、ネメシスは紫に何度も体当たりを仕掛け続けている。複数の方向から何度も何度もである。そして最後はそのオレンジ色のオーラを大爆発させた。

 

「イャアアアアッ!!」

 

 オレンジ色の爆風に呑まれ、紫がこちらに吹っ飛んでいった。慌てて俺は伏せると、俺の頭上をかすめて、アールバイパーの真上にのしかかっていた俺の名が刻まれていた墓石に直撃し、それを砕いてしまった。うわ、痛そう……。そこから更にもう少し吹っ飛んでようやく地面に落ちた。

 

 オーラを失いフラフラになったネメシスを回収すると、翼の折れた銀翼に再び乗る。不安定ではあるものの、どうにかゆっくり浮遊する程度は可能なようだ。機体の中から尻もちをついた大妖怪に詰め寄る。

 

「どうだ、まだ銀翼は動けるぞ。俺の勝ちだ。超技術だか、幻想郷を崩壊するだかは知らないが、お前が銀翼本体にばかり固執していたのが敗因だな。何故アール『バイパー』と呼ばれるのか、それは蛇のように本体についてくるオプションがあるからこそ……だ」

 

 ああ、流石に無理をさせたのか、背後で大きく爆発を起こすと今度こそ機能を停止してしまった。しかしもはや紫に戦意は見られない。

 

 俺は……勝ったんだ。かの大妖怪、八雲紫に……!

 

 

 

 ボロボロになりながらも、勝ち誇る俺の足元で未だにペターンと地べたに座り込む紫。その周囲ではまさかの大番狂わせにギャラリー達が物凄く沸いている。賭けに負けて阿鼻叫喚の悲鳴を上げる者もいれば、思わぬ勝利に大金が舞い込み雄たけびを上げる声も聞こえてくる。

 

「俺の……いやこの俺『轟アズマ』とアールバイパー、そしてネメシスがもぎ取った白星だ。さあ紫、約束した筈だったな。俺の願いを叶えて貰うぞ」

 

 その願い、幻想郷で生きたいという旨を口にするその前に、座り込んだ紫が大声で泣き喚き始めた。泣き方がわざとらし過ぎて嘘泣きなのは丸分かりなのだが、問題はその喚いている内容である。

 

「あーん、ゆかりん男の人に退治されちゃったー。ゆかりんこの獣のように鼻息の荒い男の人にこれからナニされちゃうのかしらーん」

 

 そうやって身をよじりながら喚く大妖怪に「いや俺は何もしねぇよ!」と思わずツッコミを入れる。そんな叫びを無視してこちらになだれかかってきた。涙目になりながら上目遣いにこっちを見てくる様は色っぽくて、それはそれで煽情的だが、俺の願いはそっちじゃない。あとあれだけダメージを受けていた筈なのに怪我らしい怪我はまるでしていない。

 

 そう、あんなこと口で言っているが、紫はまるで負けたようには見えない。勝利した俺の方がむしろボロボロなのだから。

 

「そんなことしたって惑わされないぞ。俺の願いはただ一つ。もう俺の命を狙わないで欲しい、俺はこの幻想郷で生きていきたいんだ! 相棒である『アールバイパー』達と、そして命の恩人である『聖白蓮』と生きていきたい! いや、生きる!!」

 

 言い放ってやった。俺はこの一言を紫に伝え、叶えるためにこの日まで頑張って来たのだ。渾身の色仕掛けをスルーしたからか、紫はむくれながらもスックと立ちあがり、こちらの話に耳を傾ける。

 

「そうね、貴方にはもう『心に決めた人』がいるものね。くすくす……。いいわ。もう貴方を狙ったりはしない。スペルカードによる決闘が広まった後も残る『妖怪は人を襲うもので人は妖怪を退治するもの』という幻想郷の摂理。私に狙われて、そしてその私を自らの手で退治しようとしたアズマにはそれを理解できる筈。だからアズマは幻想郷の何処にいたって生きていけるわよ」

 

 こちらをからかったり、柔らかな表情を浮かべたりと素の彼女は結構表情豊かなのかもしれない。決闘中のあの不気味な頬笑みは見せていない。ようやく立ち上がる紫は付け加えるように一言。

 

「でもね、これだけは約束して。その『アールバイパー』を悪用する事はしないで。正直あの銀翼の能力はブラックボックスだらけだわ」

 

 そんなの初めから分かり切っていること。俺は即答する。

 

「悪用するものか。アールバイパーは最後の希望を繋ぐ翼、それは幻想郷でも変わりない。この力は何かを守る時にしか使わない! ああ、約束する」

 

 引き締まった表情で誓う俺に紫はニコリとほほ笑むと、目いっぱいこちらに接近してきた。先程もこれだけ近づいていたけれど、殺気がまるでないと紫もなかなかの美人であることがわかり、思わずドキリとする。

 

「あの子を……聖白蓮を泣かせるようなこと、しちゃダメよ?」

 

 聞こえるか聞こえないかの小さな声で俺の耳元で囁くスキマ妖怪。確かそんなことを言っていた気がする。確認するべく聞き返そうとした矢先、紫は再びスキマの中に潜り込んでしまった。




※1
オプションシュートとは「沙羅曼蛇2」に登場した攻撃手段であり、その名の通り装備していたオプションを敵に向かって飛ばす技である。
飛ばされたオプションは敵を追尾したのちに「オプションシード」と呼ばれるアイテムに変換される(オプションシードを2つ集めると普通のオプションになる)。
しかし本体と同じ攻撃をするオプションを失うリスクに対してのリターンが少なすぎてあまり使用する機会がない。

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