東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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いよいよ大妖怪「八雲紫」との決闘が始まる。
ここで敗北すると、そのまま処刑されてしまうだろう。
生き抜くためにも、勝利せよアールバイパー!


第19話 ~生への渇望 前編~

 紫色のクナイ弾が放射状にばら撒かれる。最初にあのクナイ弾を見た時はたった1つでもビビっていたが、今となっては動きの遅い隙間だらけの弾幕であり、特に恐れることはない。

 

 出来るだけ紫に接近し、そしてターゲットサイトに標的を捕らえ、レーザーを放つ。クナイ弾をすり抜けるように青白いレーザーが伸びていく。紫は回避する様子を見せない。よし、命中……、いや、紙一重で避けた。

 

「きゃっ、ゆかりんこわーい」

 

 こんな状況でもふざけやがっている。余裕綽々と言ったところだろう。それにも負けずにレーザーを発射するが、どれもスルリと避けられてしまう。パッと見ほとんど動いていないように見え、しかも避ける度に「はずれー♪」とか「ゆかりん大ピーンチ」とかふざけた言動を繰り返すため、余計に腹が立つ。

 

 いけない、平常心平常心……。確かに紫は今もスキマに腰かけながら片手で弾幕を放つという完全に相手を舐めきった戦い方をしているが、だからこそあのテングの鼻をへし折ったときのカタルシスが増すものである。そうやってヘラヘラしているがいい。これだけの妖怪の前で恥をかくのはむしろお前の方だ、紫。

 

 更に距離を詰めてレーザーを放つ。くそう、また外した。その標的である紫は呑気に日傘をさしながら、扇子で口元を隠しつつクスクス笑っている。

 

「似ているわね……。私の知り合いに庭師さんがいるんだけど、あの子とそっくり。そう、貴方は少し真っ直ぐすぎるの。余裕がない、攻撃にもそれがにじみ出ているわ」

 

 ニヤァっと彼女の口元が歪む。なんと気味の悪い頬笑みか。何か仕掛けてくる……!

 

「結界『動と静の均衡』」

 

 高々と掲げられたスペルカード、アールバイパーの全身(リデュース後の)くらいあるのではないかと思われる巨大な弾を撃ち込んでくる。なんだ、弾の量が少ないな。見かけ倒しか。落ちついて攻撃を再開しようとしたが、自身が魔法陣で包囲されていることに気づく。

 

 しまった! 速くて大きい弾に気を逸らせて、足元に魔法陣を置くスペルだったのか! 魔法陣からぐるぐると弾幕が発射される。慌てて魔法陣の外に脱出したが、スピードを上げ過ぎて制御できない。

 

 少し高度を上げて紫の背後を狙うことにした。スモールスプレッドでけん制しつつ彼女の頭上を飛び越える。そしてツバメの如く機体を180度回転させ、紫を狙う。

 

 素早い動きに紫は翻弄されている。あらかじめスモールスプレッドで周囲の視界を遮ったのも良かったのだろう。背後からレーザーを浴びせ、ようやく紫に1発お見舞い出来た。2発も3発目とどんどん浴びせまくる。よし、効いている!

 

「いったーい! プンプン、もう怒ったぞ!」

 

 ……だというのに、まだこちらをおちょくってくる。弾幕は辛辣なのにこの言動。不気味以外にどう表現できようか。

 

 今度は紫色の他に水色のクナイ弾もばら撒いてくる。いささか避けるのが困難になったが、まだ何とかなるレベルだ。しかしこの攻撃に飽きたのか、もうスペルカードを掲げ始めた。

 

「罔両『ストレートとカーブの夢郷』」

 

 そのネーミングセンスに思わず「野球かよ!」と突っ込みそうになったが、放たれた弾幕はそんな余裕などかき消すようなものであった。針のような弾が素早くこちらの退路をなくすべくこちらを囲いこむと、巨大な弾をゆらりとこちらに向けてくる。

 

 ワインダー攻撃か……。それをゆらりと揺らしてこちらの挙動を狂わせつつ、更に逃げ込めないようにと時折左右すれすれにレーザーまで撃ってくる。

 

 まずい、巨大な弾が目の前で隙間を埋めた。このままだと喰らう……! ええい、ワインダーにはワインダーだ!

 

「銀符『レーザーワインダー』!」

 

 青白いオーラ型のバリア「フォースフィールド」を纏いつつ、こちらもお手製スペルカードを高々と掲げた。なぎ払われるレーザーが、巨大な弾と針のような弾をかき消していく。

 

「カーブだろうがストレートだろうが、俺のレーザーで全部ホームランにしてやる!」

 

 尚も左右に素早く動き回り、特殊な軌道を描くレーザーで周囲を埋め尽くしてやった。レーザーは紫にも命中する。

 

「あら、そんな闇雲にバットを振るものじゃないわ。野球は駆け引き、野球はチーム戦、そして相手の心理をかき乱しての一撃が……」

 

 唐突に放たれた紫の囲いこみレーザーにこちらから突っ込んでしまった。バイパーに衝撃が走る。被弾してしまったようだ……。

 

「無闇にハズレの球にまでバットを振るからよ。ストライク、バッターアウト! ……なんちゃって」

 

 ストライクって……こっちはデッドボールと言いたい。

 

「知らないの? たとえボールが体に当たってもバットを振ったらストライク扱いなのよ?」

 

 こ、この野郎……!

 

 こんなことで負けてたまるか。まだこちらも全力を出しているわけではないのだ。エンジンを吹かし、まだアールバイパーが動けることを確認すると、オプション展開ボタンを思い切り押す。

 

『OPTION!』

 

ここでオプション……というかネメシス人形を展開。こぎみ良いシステムボイスと共に機体からオレンジ色をした楕円型のオーラを纏った上海人形が飛び出てくる。一度間合いを取ろうと、少しバックする。ネメシスもそれに続くように後ろに下がった。

 

「あらあら、とっても可愛いお人形さん」

 

 案の定油断している。しかしただの上海人形じゃないぞ。思い知らせてやる!

 

「レーザー発射!」

 

 2倍に増えたレーザー。微妙に角度に変化をつけているので一筋縄には回避できない筈。よし、反応しきれていない。が、このスキマ妖怪は手にしていた日傘をこちらに向けるとレーザーを防いでしまった。あらぬ方向へ青白い光が反射していく。

 

「そんなのアリなのかよ。ず、ズルいぞ!」

 

 日傘をゆらりと動かすと、スペルカードを掲げた紫の姿が見えた。

 

「あら、2対1だなんて貴方も十分卑怯じゃない。私も仲間を呼ばせて貰うわ。藍ー、出番よー。式神『八雲藍』!」

 

 眼下でのんびり観戦していた九尾の狐が急に浮かび上がる。こちらと同じ高さまで上昇すると、くるくると回転し始めた。何を仕掛けるつもりだ……?

 

 直後、回転した藍が凄い勢いで突っ込んできた。すれ違うように高度を少し落として藍の突進を回避、更にこの時にレーザーからダブル系兵装のショットガンへ換装。相変わらずスキマの上に腰かけてる紫に限界まで近寄るとショットガンを浴びせてやった。

 

「っ!?」

 

 流石に面食らっているようである。これだけのショットを一度に浴びせたのだから。レミリアはこの一撃で倒すことが出来た。だが、相手はあの紫。念のためもう1発ブチ込もうとしたが……。

 

 紫は腰かけていたスキマに潜り込むと、スキマを閉じてしまった。直後、背後から藍の突進を受け、アールバイパーは大きくバランスを崩した。操縦桿を手放さないようにオプションに指示を出す。

 

「ネメシス、支えてくれ!」

 

 必死に追いかけるネメシスに落ちないように支えて貰った。くっ、今ので魔力切れを起こしたようだ。ネメシスのオレンジ色のオーラが消えてしまった。

 

「戻れっ」

 

 呼びかけに応え、ネメシスは再びアールバイパーに格納される。オプションを使役できるのはネメシス人形に蓄えられた魔力が残っている間だけだ。魔力を失い楕円のオーラが消えたら、アールバイパーに格納して魔力がチャージされるのを待たなくてはならない。

 

 もちろんそんな事情を紫が知る由もないだろうし、藍は回転しつつも弾幕を張りながらこちらに迫ってくる。当然のことながら紫の使役する藍の方が主の攻撃を援護する存在として良く出来ている。それは俺も認めなくてはならない。ようやく短い時間の間だけ、自分の後を追って援護射撃する程度のネメシスと、半永久的に縦横無尽に動き回りながら弾幕を展開する藍とでは雲泥の差があるのだ。

 

 本体だけではなく、オプションまでもが劣っている。だが、嘆いている場合ではない。ここで諦めてしまえばこの命を散らすまで。

 

 どうせ散らすのならば俺の命じゃなくて……こいつだっ! 俺は次の攻撃を仕掛けるべく、一気に上昇を始めた。


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