東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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かくして見覚えのない世界に迷い込んだ我らが主人公「轟アズマ」はこの世界の管理者「八雲紫」と出会います。最悪の形で。


東方銀翼伝ep1 F.I.(First Ignition)
第1話 ~最悪のファーストコンタクト~


(その頃、轟アズマは……)

 幸いだったのは太陽が真上でさんさんと輝いていた事だ。間昼間である。太陽が沈む前に先ほどの田舎町に辿り着ければひとまずは助かるだろう。

 

 しかしその希望は思っていたよりも早く潰えた。道が途中で途切れているのだ。こう目印もないと森の中で真っすぐ歩くということは難しい。恐らくはこの辺りで高度が下がったのだろう。

 

 もし「アールバイパー」の軌跡を追うのであれば空を飛ばないといけない。もちろん生身の人間にそんなことが出来る筈もないことは分かっている。人間が空を飛ぶなんてばからしい。諦めがちに空を見上げると……俺は驚愕して思わず両眼をこすった。

 

 遂に幻まで見えてしまったのか、虚空が突然「切り裂かれ」たのだ。そう、何もない空間に1本の線が引かれ、線がくわっと口を開いたのだ。中は紫色のおぞましい空間が広がっていた。一種のワープ空間なのか? そしてそこから出てきたのは醜悪なエイリアンではなくて、妖艶な女性。紫色のドレスに身を包み、長い金髪をなびかせる。手には日傘と優雅な容姿であった。人が……空に浮かんでいる?

 

 人の形をした「それ」は自らが開いた空間の裂け目に腰かけてこちらを見下ろしている。髪の毛や亜空間への入り口にたくさんの真っ赤なリボンが結ばれており、それらは可愛らしいが、リボンの持ち主である彼女はかなり威圧的であった。

 

「ごきげんよう、貴方は外来人ね。でも貴方は招かれざる客」

 

 本能が身の危険を知らせている。その証拠に体の震えが止まらない。逃げたいのだが、足がすくんでしまって動けない。

 

「ここはね、『幻想郷』といって人々に忘れ去られたあらゆるモノ、現象が入り込む場所なの。そして私はその幻想郷を管理する妖怪『八雲紫』。私はね、すっかり人間に忘れ去られたゲーム機をこの幻想郷に誘ったわ。でも貴方は誘っていない。そればかりかゲーム機ではなくて物騒なモノをこの世界に持ち込んでしまったわ」

 

 妖怪? ゲンソーキョー? もう何でもありだな。そして彼女の言う『物騒なモノ』とは紛れもなく「アールバイパー」のことだろう。しかしあれはもう大破してしまって動かないはず。今はただの鉄クズだ。

 

「あの鉄の塊はオーバーテクノロジーの塊でもあるの。そんなモノをこの幻想郷に野放しにしていたら幻想が幻想でいられなくなってこの世界が壊れてしまう。そしてそれが私にとってとても耐えがたいことであることも伝えておくわ」

 

「無茶苦茶だ! 俺だってあんな戦闘機知らない。気が付いたらアレに乗っていただけで、アレがどんなシロモノなのかも俺にはさっぱり分からない! そんな状態でテクノロジーを得る事なんて……」

 

 とにかく理不尽な理由で襲われる事を回避しようとするも、途中でピシャリと遮られてしまった。

 

「お黙り! 前にもね、外の世界のテクノロジーを持ちこんだばかりに幻想郷が大変なことになったことがあるの。ええ、超技術をよりにもよってその力と釣り合いの取れない大馬鹿者が手にしてしまったばかりにね。だから今回はそうなる前に技術ごと釣り合いのとれない力を手にした貴方を屠(ほふ)ることにしたわ」

 

 容赦がない。魔法の類だろうか、紫色に光るクナイのようなものを足元に投げつけてきた。それは地面に刺さると爆発を起こした。ヤバい、ヤバすぎるぞ! 怖いからといって膝をいつまでもガクガクと震わせている場合ではない。ジリと後ずさりながら俺はこの場を離れる。この状況を打破するには……逃げる他ない!

 

 ある程度距離を取り後ろを振り向いた瞬間、紫色の亜空間が大口を開けていた。そしてその先には恐るべき大妖怪。踵を返す暇もなく、その妖怪の腕が喉元に食らいつく。為すすべもなく首を絞め上げられた。

 

「あ……が…………」

 

 ギリギリと息道を、頸動脈を締め付けてくる。尋常じゃない力、これが妖怪の……。駄目だ、苦しくて意識が……遠のく…………。

 

「南無三っ!」

 

 そんな矢先のことであった。珍妙な掛け声と共に軽い衝撃、そして瞬間移動の類なのか、紫とは違う女性が突然目の前に現れた。次の瞬間には俺は地面に這いつくばっていた。久々の新鮮な空気を必死に取り込もうとしながら。せき込みながら何度も呼吸した。

 

 さっきの女性は俺をかばうように立ちはだかっていた。紫色と金色のグラデーションが見事なロングヘアの女性はにこりとほほ笑む。柔らかな表情に思わず安堵する。

 

「貴女は……『命蓮寺』の住職『聖白蓮』ね。これはどういうつもりかしら? 私は今から人間の身でありながら異変を起こそうとしたあさましい人間に罰を与えようとしたところなのだけれど」

 

 紫が凄むが聖白蓮と呼ばれた女性は少しもひるまない。

 

「話は聞かせていただきました。先ほどの異変は自らの意思とは関係なく発生したもの。この方はそう言っていましたよ。それなのにこの人を罰するのは、少しばかり勝手が過ぎるのではありませんか? これでは『死刑』ではなくて『私刑』ですよ」

 

 見るからに険悪なムードだ。紫は扇子を取りだしこちらに向けた。対する聖白蓮も光る巻物を手にし、にじり寄る。

 

「それでは決めましょう。決闘……、幻想郷流の決闘『弾幕ごっこ』でこの人をどうするか」

 

「貴女の強大さは知っている。でも……、それでも私は精一杯抵抗します。出会ったときからまるで変わっていな。誠に独善で、土豪劣紳であるッ! いざ南無三――!」

 

 少なくとも自分は介入できないことが分かった。乱れ飛ぶ弾、弾、弾。聖さんが押されているようだが、こちらを振り向き、きりりと一言。

 

「何をしているのです? 今のうちに逃げてください。私が紫を足止めしている間に。さあ! 道なら大丈夫、この巻物で正しい道を描きました。この模様を追いかければ貴方は助かります。さあ、私に構わず逃げて!」

 

 反論の余地はない。少しカッコ悪いかもしれないが……命には代えられない! ぼんやりと浮かぶ巻物の模様をなぞるように俺はひたすらに走った。

 

 

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(その頃、リュックサックの少女は……)

 かつて「アールバイパー」と呼ばれていた鉄の塊はリュックサックの少女に運ばれている。むき出しではなく大きな布に被せられており、中身は見えないようになっている。丸太で作られたイカダがその鉄の塊を乗せて川を遡っているのだ。ただのイカダではなく、スクリューが付けられているようだ。

 

 自動で動くイカダに乗り、リュックサックの少女はにんまりと笑みを浮かべていた。この鉄の塊も彼女にとっては好奇心をくすぐる宝の山なのだ。早く分解したい、動くのならば修理したい。

 

 その上空で爆発が起きていた。少女は「ひゅいっ!」と奇妙な悲鳴を上げると空を見上げる。女性二人が魔法弾を撃ち合っているようだ。空間を切り裂かれた跡と、奇妙な模様の光のライン。彼女にはこの二人に見覚えがあった。彼女の眼はその二人が八雲紫と聖白蓮であるということをはっきり認識していた。

 

「どうしてまたあんな強力な二人が戦っているんだ?」

 

 外界から幻想郷に迷い込んだ戦闘機とその乗り手である外界の人間の存亡をめぐる戦いだなんてこのリュックサックの少女に分かるはずもない。

 

「魔法『紫雲のオーメン』っ!」

 

 聖が強力な攻撃を仕掛けたようだ。撃ちだした弾が流れ弾となり川に着弾した。ドボンと爆発を起こし、イカダを大きく揺らす。リュックサックの少女は頭を抱えてうずくまった。

 

「冗談じゃない! あんな戦いに巻き込まれたら命がいくつあっても足りないよ!」

 

 イカダの速度を最大限に上げて、逃げるように川を進む。その間に鉄の塊が眩い光を放っていた。今の衝撃が原因のようだがどうすればいいのかなど分かるはずもない。

 

「わわわ……、一体全体どうしたっていうんだよーぅ!」

 

 オロオロしているうちに間もなく光は引いてしまった。呼びかけたり軽く叩いたりするが反応はしない。

 

 とんでもないものを拾ってしまったかもしれないとリュックサックの少女は少しだけ後悔し、だがすぐに未知のモノに対する好奇心がその後悔の念を押しのけてしまった。全速力で家を目指す彼女。

 

 今運んでいるモノこそが紫と白蓮が争っている原因であることも知らずに。




それにしても大破したアールバイパーを勝手に持ち出す輩がいるようですね。こんなガメツイ少女、一体誰なんでしょう……?

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