東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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墜落したはずのアールバイパーが飛行している。アズマの声も聞こえる。
そう、新たな力を引っ提げて我らがアズマ君は再びレミリアの前に姿を現すのであった!


第17話 ~紅い悪魔 後編~

 涙ぐむ白蓮の視線の先、砂煙でよく見えないが二つの影が空中に浮いている。そして砂煙が晴れる頃、土を被ったアールバイパーと服や髪の毛がボロボロになりながらも原形を保っているネメシス人形の姿が夜空に映し出された。

 

「アズマさんっ! よかった……。そうでした、アズマさんはそう簡単に折れる人なんかじゃないですもんね!」

 

「何て奴だ……! さすがにあれは死んだと思ったぜ」

 

 バイパーの墜落した地面は大きくえぐれていた。

 

「落ちる間際に『アーマーピアッシング』を撃って地面を削った。それによって作られた空間上で体勢を立て直したんだ。さあ、吸血鬼。再開と行こうか、月夜のダンスとやらを……!」

 

 ビシとレミリアを指差し、闘志がまだ有り余っていることを見せつけるアズマ。

 

「え、ええ。私だってそれくらいはやる男だとは思っていたわ。それじゃあ続きを始めましょう?」

 

 若干困惑しつつも戦意を剥き出しにするのはレミリア。再び激突する……!

 

 

____________________________________________

 

 

 とっさに利いた機転によりどうにか生き永らえた俺。だが、ネメシスはロープを失い制御がより困難になっている。いや、もはやその心配はいらない。今なら出来る。そう確信できたのだ。

 

「ネメシス、行くぞっ!」

 

 呼びかけに応え、ネメシス人形は我が銀翼の真後ろをついていく。

 

 ぐんぐんと高度を、スピードを上げていった。ネメシスは置いていかれる事なく後ろにぴったりとついてくる。

 

 更に速度を上げる……。ネメシス人形がオレンジ色に光り輝いた。摩擦熱か、闘気によるものか、まるでオレンジ色の玉のようなオーラを纏っているのだ。

 

「You got a new weapon!」

 

 どこか誇らしげなシステムボイス。装備した武装を示すディスプレイでの空白の部分、つまりオプションの部分に今まさに「その名前」が刻まれていたのだ。そう、アールバイパーは遂に取り戻したのだ。

 

「OPTION!」

 

 アールバイパーをバイパー(蛇)たらしめる攻撃支援ポッド「オプション」を! オレンジ色の気を纏うネメシスが敵をただ睨みつけている。不思議と上手く行く確信があった。さあ、反撃開始だ。

 

「一気に蹴りをつける! 喰らえ、これが俺のスペルカード! 爆撃『スモールスプレッド』!」

 

 高高度のまま、レミリアの周囲めがけて小型爆弾をポロポロと落とす。今はネメシスも一緒に落としているので単純な火力は2倍である。

 

「お人形さんがアールバイパーにピッタリついてきている……。そういうことだったのですね、あの人形はアズマさんと同じように動いて、本体と全く同じ攻撃を繰り出せるもの」

 

 突然の爆風に驚き一瞬怯むレミリア。爆弾は容赦なく投下されていく。

 

「つまりアズマさんはオプションとなりうる媒体が欲しくてアリスさんにお人形さんが欲しいって……」

 

 爆風の隙間、吸血鬼は優雅に飛び交いこれをかわしているが、まるで退路を塞ぐように爆弾が落とされる。次第に逃げ道が失われるレミリア。

 

「あのスペルは私にも使っていたな。でもあの人形も同じだけ爆弾を落としているから単純計算で火力も範囲も2倍……。あのオプションとやらがもっと増えたら確かにパワフルなスペルになりそうだぜ」

 

 ギャラリーがざわめいている。俺も正直驚いているのだが。まさか本当にネメシスがオプションになれるとは……。さあ、感心している時間はない。爆風が晴れるのを待たずに自らもこの青い弾幕の中に突っ込む。

 

間もなく爆風が晴れる。よし、何とか間に合ったな。だが、この状況に気付いていないレミリアは未だに高圧的だ。だが、彼女はすぐにその表情を恐怖にひきつらせる、間違いない。

 

「フフン……。少しはやるようね。驚かせるじゃないの。でもあんな小さい爆風、当たらなければ意味が……」

 

 そう、俺達は爆風に紛れて俺はレミリアに急接近していたのだ。ネメシスに至ってはレミリアにしがみついている。

 

「悪いけれど、これでチェックメイトだ」

 

 零距離から放つショットガン。それが2つとなれば相当の威力になるわけで……。

 

「うー!」

 

 文字通りレミリアの身体を吹っ飛ばした。最後のあがきだったのか、しゃがんで頭を抱えるような体勢をとって身を守ろうとしていたが、吹き飛ばしてしまったのだからそれすら無意味である。

 

「お、お嬢様っ! アズマ、よくもお嬢様を……」

 

 血相を変えてすっ飛んでこちらを攻撃しようとするのは咲夜。自分のつかえている主がああやって吹っ飛んだのだから当然ではある。しかしそんな彼女を引き留めたのは他でもない「お嬢様」であったのだ。

 

「やめなさい咲夜」

 

 激昂するメイドの目の前に現れると、腕を伸ばしてたしなめた。レミリアの服装はボロボロであったがほとんど怪我らしい怪我はしていない。あんなの普通の人間が食らったらまず命はないというのに。

 

「フランが暴れだしたらこの程度日常茶飯事でしょう? それにこれは轟アズマと私の勝負。貴女が関与することではないわよ?」

 

 何事もなかったのようにケロリとしている。俺は吸血鬼がどれだけバケモノじみた存在なのかをまざまざと見せつけられたのだ。なるほど、やっぱり威厳溢れた態度。見た目は幼くても、これだけの仲間を従えるだけのことはある。

 

「弾幕ごっこ、楽しかったわ。あんたはこの紅魔館の主である私を倒したのよ? もしかしたらあのスキマババアともいい勝負が出来るんじゃないかしら?」

 

 幼い主はメイド長を呼び寄せる。

 

「絶対観戦しに行くからね。今日の日没でしょう? 咲夜、予定入れといて」

 

 そうだった。色々あったがもうそんなに時間が経っていたのか。白みかけた東の空を見てようやく気が付いた。そうやって放心している俺に檄を飛ばすのは咲夜である。

 

「どうしました? 今までのことはお嬢様に免じて不問にしました。もう命蓮寺に帰って英気を養いなさい。それとも、不完全なコンディションで紫と勝負してお嬢様に無様な姿を見せるつもりですか?」

 

 いえいえとんでもない! 改めて二人に挨拶をすると。この館を後にする。……と、その前にあの子に挨拶しておくか。

 

「パワーないとかいってゴメンな。随分とやるじゃないか、気に入ったぜ。もしかしたら……ってこともあるかもな。私も観戦しに行くぜ!」

 

 長丁場だったのであくびをしつつ魔理沙は箒に跨る。何かを思い出したかのように振り向くと一言。

 

「もし生きてまた会えたのなら、リベンジはいつでも受け付ける……ぜ!」

 

 生きて紫を倒す。俺はその意思を固く結び、言葉を返す代わりに魔理沙に向かって無言でサムズアップをした。俺の意地の為にも、聖さんの為にも、皆との約束を果たす為にも……あの戦いは負けられないっ!

 

 

____________________________________________

 

 

(その頃紅魔館周辺……)

 

「それー! やっつけろー!」

 

 レミリアとアールバイパーの一騎打ちを紅魔館から少し離れた茂みで観戦する二つの影があった。尻尾の2本ある化け猫と、尻尾が9本もある妖狐。そう、橙と藍である。

 

「橙、あまり大声を出すな。見つかったらどうする」

 

 アールバイパーを応援し始めた橙を嗜める主であったが、この黒猫はむくれながら主に抗議し始めた。

 

「だって、凄いんだよ。あの銀色の鳥さん」

 

 橙に促されて藍も貴方とレミリアの勝負を見る。丁度レミリアに止めを刺したところを目撃していた。

 

「なっ!? 嘘……だろ? 紅魔館のお嬢様を下しただって。少し前は氷精レベルだったというのに!?」

 

 ワナワナと震える藍。急に強くなったと実感しているのだ。

 

「それにあのオレンジ色のぽわぽわも気になるね」

 

 意外と目ざとい橙。オプションの存在に気が付いているようだ。

 

「あれ以上強大になったらいよいよ幻想郷が危ない……。まだ紫様の指示は出ていないけれど、手が付けられなくなる前に奴を抹殺したほうが……」

 

「藍、勝手な行動は許さないわ。また『待て』の所から躾し直さないといけないかしら?」

 

 藍の前で紫色の空間「スキマ」が開くと、藍の行く手を阻むように紫が出てくる。下半身はスキマの中だ。

 

「決闘の日時、つまり轟アズマの命は今日の日没まで。もう1日もないのよ。それにあの吸血鬼だけに楽しませるだなんて勿体ないじゃない。私だってあんな刺激的な弾幕勝負をしたいわよ」

 

 けげんな表情を浮かべる九尾の狐。

 

「あの、紫様? 超技術が暴走して幻想郷が崩壊するとかのくだりは……?」

 

 そんな式の困惑などつゆ知らず、紫は手にした扇子を口元にあてながら朗らかに返す。

 

「だからぁ、そうなる前に仕留めるんじゃない。弾幕でね。普通に殺すのは簡単だけど、それじゃあつまらないわ? さあ、偵察も終わったでしょうしもう撤収よ。藍の作る朝ごはん、楽しみなんだから♪」

 

 それだけ言い残すと式神たちをスキマに押し込んだ。そしてそのままスキマは人知れず閉じていった。

 

 誰もいなくなった夜明けの中、風に吹かれてボロボロになった新聞紙が舞っている。新聞紙にはこう書いてあった。

 

 

 

「文々。新聞 号外」

銀翼の外来人「轟アズマ」VSスキマ妖怪「八雲紫」

 

×日の日没、マヨヒガ上空で遂に激突!

 

八雲紫が語るには……

 

 

 

 再び突風が吹きすさぶと、新聞紙はまたどこかへ飛んで行ってしまった。決戦の時は近い……。


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