東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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アールバイパーに興味を抱くレミリア。どうやら彼女と弾幕ごっこをすれば今までの無礼はすべて水に流してくれるそうだ。
だが、幼い容姿とはいえ相手は吸血鬼。果たして勝てるのか、いや、生き残れるのか……。


第16話 ~紅い悪魔 前編~

 周囲が赤黒い霧で薄く覆われる。満月も不思議と皆既月食の時みたいに真っ赤に変色していた。この一瞬でこれだけの演出をやってのけている。それはつまり、演出に拘るだけの余裕があるという事なのだ。この吸血鬼の娘……とてつもなく強い筈!

 

「私のカリスマに恐れおののいているわね……。いいわよ、その怯えきった表情」

 

 ブンブンと頭を振ると俺は我に返る。まだ始まってもいないのにここで諦めるとは何事かと自分を律する。

 

 ええい、先手必勝! ロックオンサイトにこの吸血鬼を捉えると、青白いレーザーをお見舞いしつつ急接近する。

 

 そしてすれ違いざまにスモールスプレッドを浴びせる。背後でドカドカと青い爆風が吹きすさぶ。それがやんだことを確認すると機体をUターンさせる。追撃の為にロックオンサイトにレミリアを捉えつつ。

 

「き、傷一つないだと!?」

 

「随分と荒々しい弾幕ね。あんなの喰らったらと思うとゾクゾクしちゃう……」

 

 なんとあのミサイルとレーザーの複合攻撃を全て回避してしまったようである。彼女の口ぶりからそれを感じ取れる。ならばもう一度……いや、何か仕掛けてくる!

 

「それじゃあ私もスンゴイの見せてあげる。神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

 

 スピア……槍か。直線的にこちらを狙い撃つ魂胆だな。俺はバイパーの速度をあえて落とし、やり過ごすことにした。

 

 案の定、俺の目の前を赤い光が凄まじい速度で横切っていく。マスタースパークほど極太でなくて助かった……。その槍からまるで星屑のようにばら撒かれる小さい弾に晒されることとなったが、速度を落としていたことが幸いして、精密移動で回避することが出来た。

 

「You got a new weapon.」

 

 またもシステムボイス。どうやら再び武装を習得したようである。赤くて槍のような直線的で……あれ、これってもしかすると? うーん、ちょっとマズいことになったかも。

 

 ディスプレイに表示されるはレミリアの赤い槍。そして刻まれた名前は「ARMOR PIERCING(※1)」。やっぱり、アーマーピアッシングだ。

 

 原作では敵の装甲を貫通出来る代わりに、連射がまるで出来ないというハズレ武装だったが、果たして幻想郷ではどのような使い心地になっているのか……?

 

「喰らえッ、アーマーピアッシング!」

 

 まず使ってみないことには赤い光の残像をわずかに残し、凄まじい弾速で標的を貫く。まるでさっきのグングニルをそのまま小さくしたような感覚である。よし、威力は申し分ない。よし、ビビっている間にもう1発……。

 

しかし、いやここは案の定というべきか。トリガーをカチと引く音が虚しく響くだけであった。うわぁ、全然連射がきかない。しかも発射までにタイムラグがあるのでこちらの手の内を知られてしまった以上次は当てられないだろう……。

 

「あら、さっきので終わり?」

 

 再び攻勢に出るレミリア。レーザーが使えないとあっては防戦一方……。

 

「神鬼『レミリアストーカー』!」

 

 またスペルカードだ。こんなにバカスカ使うところを見ると魔力は無尽蔵かそれに準ずるものであることが伺える。細かい弾を周囲にばら撒き、こちらの接近を許さないようにしている。じっと様子見で隙間ができたら……。

 

 いや、レーザーが来た! 放射状に放っており、さながら後光である。慌てて機体を傾けると間一髪でレーザーを避けることに成功。しかし……。

 

「まだまだね!」

 

 そのレーザーをガイドラインに巨大な弾が飛んできた。予想外の攻撃には対処しきれずにもろに被弾してしまった。

 

「うわあああっ!!」

 

 錐揉み回転しながら、アールバイパーは落下していく。このままでは地面に叩きつけられるぞ! こうなったら一か八か……。

 

「ネメシス! アールバイパーを支えてくれ!」

 

 ネメシス人形を放ち、自由落下するアールバイパーを引っ張ってもらった。戦闘機を支えるにはいささか細すぎるロープが命綱だ……。どうにか地面に叩きつけられる前にプラーンと振り子運動をし始めたようだ。

 

「それは……人形?」

 

 ロープが切れないうちに再びアールバイパーのエンジンを吹かし、飛べるようにする。そうか、アールバイパーでネメシスを引っ張りながら行動の命令をすれば一緒に戦えるぞ!

 

「ネメシス、盾を構えっ!」

 

 アールバイパーを少し後退させて早速命じる。前方向からの弾幕を丁度ネメシスが防御する格好だ。……って盾はもう壊れているんだっけ!? 慌てて庇うためにアールバイパーを前進させる。

 

「You got a new weapon.」

 

なんだよこんな時に、またシステムボイスか? 更にハズレ武装なんて引いた日には……。そう戦慄していたが、ディスプレイに一瞬表示されたのは紅美鈴が一番最初に見せてくれた弾幕。弾の親玉みたいなのが射程距離の短い弾をばら撒いているアレだ。

 

 そして刻まれる名前は「SHOT GUN(※2)」。ショットガンとは扇状に射程距離の短い弾を発射する武装であり、レーザーとは違う系列の武器である(確かダブルって名前の系統だった)。零距離での攻撃が強力なのだが、弾幕ごっこでそんな機会はあまり見られない。弾に当たっても平気なオプションさえあればどうにか狙えそうだが、ネメシスに同じ動きなんて出来る筈が……。

 

「何をゴチャゴチャと言っているのかしら? 要はマリオネットの糸を切ってしまえば、無力化できるってことでしょう?」

 

 再び放たれたグングニルが生命線であるロープを断ち切ってしまった! なんと無慈悲な!

 

 アールバイパーにぶら下がっていたネメシスはそのまま重力の赴くまま落下していく。この高さから落ちたらまず無事ではない……!

 

 折角掴みかけたオプションへのヒント……。こんなことで手放してなるものかと戦闘機を急降下させて回収を試みる。

 

「な……血迷ったのアズマ!? そんなスピードで地面に向かって飛んだら……」

 

この吸血鬼と外来人の決闘を見届けていたアリスが叫ぶ。そうだ、彼女の言う通りだ。くそう、駄目だ間に合わない……。

 

「なんだつまらない。これじゃあ相手の自滅で勝ったようなものじゃない」

 

「お嬢様、彼は所詮外来人。それも男性の弾幕使いというあまりに特異な存在なのです。技術がまるで磨かれていないのは当然と思います」

 

 地面に突き刺さらん勢いのアールバイパーをある者は嘲笑し、ある者は俺の大惨事を見るまいと両目を覆っている。先程の発言で俺も我に返った。人形一つ救うために今の俺は命を投げ出しているようなものなのだ。

 

 思えば俺はバカだった。世渡りってのが究極的に下手なのだな。この世界を管理する妖怪に喧嘩を売るわ、吸血鬼と戦う羽目になりしかもその弾幕で屠られるのではなくよりにもよって自滅で敗北しこの世を去る……。

 

 もう、俺はここでオシマイなのか。いや、諦めてなるものか! 俺はこの幻想郷で生き抜く、俺の生き様を、俺の潔白を、俺の意地をあの紫に見せつけるまでは死んでも死にきれないっ……!

 

「ネメシスぅーー! 目を覚ませェーーーー!!」

 

 

____________________________________________

 

 

 アズマの最期の叫びが紅魔館周辺にこだまする。その直後、戦闘機が地面に突っ込んだであろう爆音と、おびただしい量の砂煙が周囲を覆った。

 

「アズマさん……、そんなっ、アズマさんっ! アズマさーん!!」

 

 慕ってくれていた人間を、新たな仲間となりうる一人の青年を失った白蓮はただただ崩れ落ち、号泣する。その後ろで視線をそむけながら魔理沙も苦虫を噛み潰したような表情を見せていた。

 

「アイツ……どうしてあんな不細工な人形にご執心だったんだよ? まったく理解出来ないぜ。まさか、あのまま死んじまうだなんて……」

 

 爆音の後の静けさ、白蓮のすすり泣く声だけがこの紅い夜にこだましていた……

 

 

 

「不細工な人形で悪かったな、エセ魔法使い」




※1 アーマーピアッシング
グラディウスIVに登場したレーザー系兵装。非常に貫通力の高い弾丸を撃ち出すが、連射がきかない上に当たり判定は先端の弾丸のみ(レーザーみたいに弾丸の後ろに軌跡のエフェクトが出るがこちらに攻撃判定がない)であり、肝心の威力も低いというまさにハズレな兵装。


※2 ショットガン
オトメディウスに登場したダブル系兵装。射程距離の短い実弾を広範囲に発射する。射程距離が短く、連射がきかないという弱点を持っているが、近距離なら広範囲を対処できるうえに、ゼロ距離で当てるとすさまじい威力を誇る。

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