東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ネメシスを取り戻し、パチュリーからも逃げたアズマ。
このままアールバイパーを探して紅魔館から脱出しようとするけれど……。


第15話 ~脱出、紅魔館!~

 とはいえ……。アールバイパーがあるならともかく、生身の状態で紅魔館に投げ出されてもそれはそれで危険なわけで……。

 

 キィキィと甲高い声で妖精メイドが群がってくる。中には槍や剣を装備している者もおり、まともにぶつかっていては命を捨てるようなものであることは容易に想像が出来る。

 

 俺の手には先程俺自身を拘束していた縄と、苦労の結晶「ネメシス人形」がある。さて、どうしたものか?

 

 うわっ、弾幕撃ってきた。容赦がない。と、壁を見ると装飾用なのだろうか、盾が飾られている。ちょっとこれを拝借……と。盾をむしり取ると、ネメシスに持たせる。

 

「守れ!」

 

 そしてダメ元で命じてみる。するとネメシスは盾を構えて弾幕を必死に防いでくれた。鋭い音をたてながら弾幕から身を守ってくれる。よし、使えるぞ!

 

「そのまま後ずさり!」

 

 ガードしながら距離を取ってやり過ごそうという魂胆だ。しかし、ネメシスはその場から動こうとしない。

 

「何をしている? こっちに来い!」

 

 少し語気を強める。言葉が通じたのか、ネメシスはくるりと向きを変えてふよふよと飛んで行こうとする。だが、あろうことか盾を捨ててしまった。

 

「ちょ、ストップ! やっぱり守れ!」

 

 慌てて命じ直すと再び盾を構えてくれた。何故かこちらに向かって。俺はネメシスを抱きかかえると真逆の方向に向かせた。どうやら複数の命令は聞けないようである。特に移動系の命令と併用できないのは致命的だ。

 

 ん、待てよ……。アリスは完全な自律人形は出来ないから糸で操っているとか言っていた。そして俺の手には先程まで俺の四肢を縛っていた縄が握られている。そうか、移動は手動で行い、行動だけを命じてネメシスに行わせる。

 

 アリスみたいに大量の糸を一度に操ることは無理でも、1本位なら自分にも出来るのではないだろうか……。

 

 それはまるで親の後をしっかりと着いて行き、親と同じように行動するカルガモのような。……具体的に言えば、ビックバイパーをトレースして、自機と同じ攻撃を繰り出すオプションのような……これだっ!

 

 実際にネメシスの腰のあたりをロープで縛り、こちらで引っ張ってみると……、おお! 思った通りだ。

 

「攻撃がやんだ。ネメシス、戻れ!」

 

 肩を差し出し、ネメシスにここに乗っかるようにと命じる。同時にロープをクイっと軽く引っ張りこちらに向かう事を促す。よし、上手くいった。

 

 ネメシスだけに任せるわけにもいかないな。こちらも装飾用の剣を手にして振りまわす。とはいえ、武道の心得などないから適当に振りまわして退路を切り開くのが主な目的だ。

 

 そんなわけなので、このままではジリ貧だ。いずれネメシスの魔力も底をつき、動けなくなってしまうだろう。時間を置けば魔力を回復できるらしいが、こんな状況で悠長に休憩など取れるはずもない。

 

 さらに悪いことにパキンと盾の割れる音がした。装飾用ゆえに実戦ではあまり役に立たないようだ。これでは戦うことも身を守ることもままならないぞ。どうする……。

 

「ふぃー。なんとか紫もやしを撒いたぜ。今日は疲れた……」

 

 上空を悠々と飛行するのは魔法の箒に跨る魔理沙。空を飛べるやつは羨ましいな……。そうだ、乗せてもらうか。コイツは散々俺に迷惑かけてきたんだ、これくらいはいいよね。

 

「ネメシス、箒に飛びつけーっ!」

 

 ブンと人形を放り投げると一直線に魔理沙の箒に絡みついた。そのままロープを手にしていた俺も宙に浮かぶ。しかし……

 

「おわああああああっ!!」

 

 振り子の如く俺が揺られる。固まっていた妖精メイドにブチ当たりながらこれをなぎ払っていく。そりゃそうだ、魔理沙は動き回っている。こうやって振り回されるのは至極当然の結果ではある。

 

「うわわ、この人形は……まさかアズマっ! どういうつもりだっ!」

 

 振り落とされまいとロープをよじ登りながら俺は魔理沙に詰め寄る。

 

「俺はアンタの子分だったなぁ。子分の面倒をちゃんと見るのが親分の役目だ、違うか?」

 

 次の振り子の動きで反対側の壁に激突しそうになる。待ち構えていた妖精メイドの頭を踏みつけて、壁への激突を免れる。そのまま弾みで魔理沙に飛びかかり……あ、コラ避けるな!

 

 このまま地面に叩きつけられるのは勘弁ととりあえず己の手を伸ばしてしがみつこうとする。よし、落ちてない。何かを掴んだようだ。

 

「ちょ、お前何処触って……ひゃあっ!」

 

 予想以上に甲高い魔理沙の悲鳴。やはりガサツで男勝りといえ、女の子なんだな。さて、俺はどうやら彼女のスカートの裾にしがみついていたようだ。足蹴にされて落ちそうになるが、落ちるわけにはいかない。意地でも離すものかっ!

 

「離れろっ、この変態っ! ドスケベっ!」

 

 顔面を蹴られながらも必死に抵抗する。ここから離れることは即ち死を意味するからだ。

 

「こっちだって落っこちたくないんだ! ネメシス、手を伸ばしてくれ」

 

 箒の後ろの方で絡まっていたネメシスを呼び起こすと、俺は人形に手を伸ばした。同時にスカートの裾から手を離し、箒の根元にぶら下がる形となった。箒が重量に耐えられないのか、その挙動がフラフラとし始める。

 

「何考えてんだアズマ! 定員オーバーだぜ。早く降りろ!」

 

 なおも魔理沙は箒を左右に振って俺を振り落とそうとしてくる。

 

「俺は生身じゃ空飛べないんだよ。降りて欲しけりゃ俺のアールバイパーを探してくれ。咲夜にやられた時にどこかに行ってしまったんだ」

 

 やんややんや……

 

「なんで私がお前の手助けしなきゃならないんだよ!」

 

 やんややんややんや……

 

「元をたどればお前が人形を盗むからだろう!」

 

 やんややんややんややんや……

 

 不安定な空中での取っ組み合いはいつまでも続いていただろう。だが、今の俺達は追われている身。至近距離で弾幕が爆ぜると、お互いにそれどころではないことを悟り大人しくなった。

 

 それはつまり俺が魔理沙の箒に乗ることを認めさせた瞬間でもある。

 

「ああわかったわかった……。だから箒の上で暴れるなよ。マジで墜落する」

 

 

 

 こうして二人で紅魔館を脱出することになったのだが、定員オーバーというのは本当だったらしく、魔理沙の箒はまったくスピードが出ない。これではいい的である。ノロノロと飛んでいるうちに妖精メイドの放った1発の弾が箒にぶち当った。

 

 被弾の衝撃で箒が大きく揺れる。俺は大きくバランスを崩し落ちそうになる。再び箒にぶら下がった形になった。

 

「それ見ろ、喰らっちまったじゃないか!」

 

 不平を漏らす魔理沙。俺もこのまま落ちるわけにはいかない。と、俺は更なる脅威が迫っているのを目の当たりにした。思わず叫び声を上げる。

 

「ちょ、魔理沙! 前、前!」

 

「え……? おわああっ!!」

 

 眼前に広がっていたのはまるで壁のように立ちはだかった妖精メイドの布陣。このまま突っ込んでいくのは自殺行為だろう。何とか箒をよじ登り、魔理沙の後ろにしがみつくと、俺は魔理沙に指示を出す。

 

「ギリギリまで高度を下げるんだ」

 

「弾喰らってるのにそんな細かい動き出来るかっ!」

 

 箒は低空飛行に失敗し、思い切り墜落した。無様に床を転がる俺達に、わらわらと詰め寄ってくる妖精メイド。絶体絶命か……。

 

 いや、少し遠くに乗り捨てられた銀翼の姿が見える。あれさえあれば……! 全身打ち身で悲鳴を上げる体に鞭打ち、銀翼へと駆け寄る。

 

「させないわ……」

 

 銀翼へ駆け寄る俺を遮るかのようにメイド長が立ちふさがる。くそっ、こんな時に! これはマズい……。アールバイパーなしでは普通に時間操作の能力の影響を受けてしまうだろう。じりじりと後ずさりするが、背後は妖精メイドでひしめいている。絶体絶命か……!

 

 

 

 咲夜が能力の行使に使うであろう懐中時計を取り出す。ここまでの時間の流れが非常にゆっくりに感じられる。そして時計が掲げられた矢先……。

 

「南無三っ!」

 

 目にもとまらぬ速さを持った影がその時計をはたき落とす。その影の正体は……。

 

「聖さんっ!」

 

 間違いない。あの紫色から金色にグラデーションする髪の毛を見間違うはずがない。ようやく聖さんと合流できたんだ。

 

「ええっ、聖がいるのか!?」

 

「お話は後です。さあ、今のうちに」

 

 咲夜から俺達を守るように立ち回る聖さん。俺はただコクリと頷き、銀翼へと駆け寄る。邪魔してくる妖精メイドはネメシス人形でいなし、そしてアールバイパーのコクピットまで辿り着いた。

 

 俺が乗り込んだことで、再び命を吹き返す銀翼。

 

「うぉりゃああああ! アールバイパー、フルスピード!」

 

 魔理沙を襲う妖精メイドの大群めがけてリデュースも使わずに突っ込んだ。ボウリングのピンのように豪快に吹き飛んでいく妖精メイドたち。唖然としながら腰を抜かした魔理沙の前でホバリングする。

 

「箒でここまで乗せてくれたこと、感謝する。さあ、今度は俺の翼に乗ってくれ」

 

 アールバイパーを取り戻した俺はまさに水を得た魚。群がる敵をなぎ倒し、あとはここから脱出するのみだ。魔理沙が振り落とされない程度のスピードで急ぎ、出口を目指す。

 

 

 

 巨大な門の前までやって来た。あとはこの門を破り、霧の湖を抜けるだけ……。

 

「逃がしは……しない! お嬢様の威厳にかけて!」

 

 だが、そうは問屋が卸してくれない。恐るべき執念で咲夜が再び道を塞ぐ。遅れて聖さんが咲夜を追いかけているようだ。いくら魔法で素早くなっても時間を止められてしまうと追いつけないのだ。

 

 仕方あるまい。かくなる上はこの俺が彼女を倒すほかない。だが、前とは違う。あいつが何をするのか大体予想がつくのだ。時間を止める能力は厄介だが、何か対処法がある筈……。

 

「また自分の時間を加速させるのか? 同じ手は通用しないぞ咲夜。それでもまだやるつもりか?」

 

 ジリジリとお互いの間合いを詰めていく。そして決戦の火ぶたが切って落とされんとするその時、呑気な声がその戦闘に水を差した。あの声は聖さんだ。

 

「そもそも、どうしてアズマさんが紅魔館にいてこうやっていがみ合っているんですか?」

 

 ああそうか、外野である聖さんからすればこのような状況を理解する事はほぼ無理であろう。俺はこうなってしまった経緯を丁寧に説明した。

 

「そうでしたか。魔理沙さんに盗まれた人形を取り戻す為にこんな所まで追いかけて……。

咲夜さん、二人の無礼は私からもお詫びしますから、どうか許してはいただけないでしょうか?」

 

 白蓮は床に降り立つと深々と頭を下げる。自分にも落ち度があると思い、自らもバイパーから降りて同じく頭を垂れた。

 

「くっ、事情も事情だったしそこまでされると確かに……。でもお嬢様の場所をここまで滅茶苦茶にされたのもしばらくぶりで……」

 

 彼女の言う「お嬢様」とやらに随分と忠誠を誓っている様子。咲夜は今も葛藤しているようだ。

 

「いいじゃないの。咲夜、この者達を許してあげなさい」

 

 そんな迷いに迷った彼女に道を指し示すのはあまりに甲高い声であった。子供っぽい声ではあったが、どこか威厳に満ちた声。それが優しく咲夜を諭す。

 

「お、お嬢様っ!? ですが……」

 

 メイド長の視線の先にいたのはピンク色のドレスに身を包んだ背の低い少女であった。なるほど、あの子がこの館の主であり、咲夜が「お嬢様」と呼んで慕う……。

 

「私がいいと言っているのよ」

 

 気丈だった咲夜にピシャリと言い放って黙らせてしまった。ピンク色のナイトキャップにやはり薄ピンク色のドレス姿。背中には大きなコウモリの翼を生やし、その口元をよく見ると伸びた八重歯が見え隠れしている。

 

「申し遅れたわね。ようこそ、吸血鬼の館、紅魔館へ。私がこの館の主『レミリア・スカーレット』」

 

 背丈は低く、パッと見は幼い少女だが、見れば見る程ただの子供ではないことが分かる。声だけではない、その風貌からもとんでもない威圧感を放っているのだ。咲夜が忠誠を誓うのも何となく分かる。

 

「心の広い方で……。では私達は用事も済んだのでこの辺で……」

 

 何故かは知らないが、レミリアは俺を許してくれるようだ。それならば気が変わらないうちにご厚意に甘えてしまおう。というわけで、そそくさと立ち去ろうとする俺。しかし……。

 

「待ちなさい」

 

 俺がそう思って銀翼に乗り込もうとした矢先、まるで俺にくぎを刺すように短く声を発する。思わずコクピットの前でビクンと跳ねる。

 

「丁度退屈していたところに、アンタが侵入してきてね。新聞見たわよ。大妖怪『八雲紫』に喧嘩を売る外来人『轟アズマ』、そしてアズマの使役する銀翼『アールバイパー』。随分面白い奴がやって来たなってむしろ心躍ったわよ」

 

 ああ、ちゃんと名前で呼んでくれた。そう、アールバイパーは変な鳥でも無骨な妖怪でもないんだ。

 

「人でもない、妖怪ともちょっと違う存在とちょっと『遊び』をしたくてね……」

 

「『遊び』ってのはまさか……」

 

 ゴクリと固唾を飲む。そしてそれに対する答えは俺が予想している通りのものであった。つまり弾幕ごっこ。

 

「話が早いわね、その通りよ。人とも妖とも分類されず、しかも男の弾幕使い。こんな珍しい方だもの、是非一戦交えたい!」

 

 これ、拒否権はないんだろうな。あと俺はれっきとした人間な。

 

「おー、今日のレミリアは一味もふた味も違うなー。カリスマがすんごいぜ」

 

 完全に部外者となってしまった魔理沙は呑気にこの様子を眺めているようだ。

 

「私はいつもカリスマで満ち溢れているでしょう! さあ、こんなにも紅い月が出ているのだもの。夜は長いわ。弾幕で彩られた舞踏会と洒落込みましょう?」

 

 吸血鬼らしく牙をギラリと見せつける。

 

「Shall we dance? 紅い月の下でさあ踊りましょう?」




銀翼シリーズのレミリアは基本的にカリスマブレイクしません(たまにする)。

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