東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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圧倒的に有利に立ち回っていた筈なのに、虚を突かれ咲夜に敗北してしまったアズマ。目を覚ますと捕虜として四肢を縛られていた。そして目の前で物静かな魔女が侵入者「轟アズマ」を尋問するべく待ち構えていたのだ……!


第14話 ~紫色の魔女~

 どれくらいの時間が過ぎたのか、十六夜咲夜との戦闘で敗れた俺が次に意識を覚醒させた場所は薄暗い場所であった。

 

 周囲を見渡すと本棚が何処までも連なっており、ここが魔理沙の言っていた図書館であることが伺える。

 

 四肢は縄か何かで拘束されているようで身動きが取れない。アールバイパーも失ってしまい、どうやら捕虜になってしまったようだ……。

 

「目を覚ましたようね。気分はどう?」

 

 背の低い紫色の長髪を持った少女が語りかける。こうやって両手両足を縛られているのだ。気分が良い筈がない。そう言葉を返す代わりに彼女を睨みつけた。

 

「縛っておいて正解だったわね。とても元気。そして反抗的……。さて、一応名乗っておくわ。私はこの魔法図書館を任されている『パチュリー・ノーレッジ』。こう見えても魔法使い……魔女よ」

 

 あえて魔女と言い換えてこちらの恐怖心を煽ろうとしているようだが(最後の「魔女よ」って部分だけ声のトーンが低かった)、残念ながら俺に魔法使いの知り合いは多いので(しかもみんな女性だからある意味魔女とも言える)、その程度では驚かない。こんな状態だが、一応こちらも名乗っておくか。

 

「そう、『轟アズマ』というのね。ところでアズマ、聞きたいことがあるのだけれど」

 

 これから恐怖の尋問タイムといったところか。どんな拷問が待っているのやら……。

 

「貴方、魔理沙の仲間ね。門番からもまるで魔理沙を守るかのように立ちはだかれたって報告を受けているの」

 

俺は強調して「不本意ながら」と付け加え、その件は否定しなかった。恐らく次に来るのは「魔理沙はどこ?」だろう。今となっては黙秘してやる義理もないので話してやりたいところだが、生憎俺もそれは知らない。

 

 だが、質問は思わぬものであった。

 

「そう、ところで貴方は魔理沙の何?」

 

 はい? この子は何を言っているんだ? 返事に困って首をかしげていると、低くドスの利いた声が投げかけられる。小さな声だがとても威圧的であり、思わずヒッと小さく悲鳴を上げてしまった。

 

「聞こえなかったのかしら。アズマは魔理沙の何なの? どこまでの関係なの?」

 

 どんな質問だよ……。関係? 俺と魔理沙の? そんなの決まってる。そうだ、何にも後ろめたしい事なんてないんだ。正直に話してしまおう。

 

「ええと、俺は被害者だ。魔理沙に盗まれたものを取り返そうと追いかけたらここまで来てしまった」

 

 洗いざらい正直に話す。もしかしたらこれで解放されるかもしれないと淡い希望を抱きながら。

 

 ところがパチュリーはこちらの話を聞いているのかいないのか、焦点の合ってない目でボソボソと何か独り言をつぶやき始めてる。

 

 

 

「お前の背中も結構広いんだな。香霖よりも広いぜ。なあ、脚が疲れちゃったよ。なぁ、あずま、おんぶして」

「もう、まりさは甘えん坊だな。ほらっ」

「へへ、あずまは優しいんだな。お前みたいに優しい人、結構キュンと来るんだぜ」

「(俺の心もキュン……)」

 

 

 

 一人で複数の人物を演じているようだ。その内容はパチュリーの抱く妄想なのだろう。とにかく傍から見ると危ない人である。唖然としていると急に彼女は大声を張り上げる。

 

「ああ、なんてこと! 貴方もハートを盗まれたの? またライバルが増えるじゃない!」

 

 なんだろう、会話がまるでかみ合っていないような……?

 

「しかもアズマは男だし、見たところ魔法使いじゃなくてただの人間っぽいし……。こんなの圧倒的に有利じゃないの。どうしてこんな人のハートまで盗んで……」

 

 おーい、盛大な勘違いをしているぞー。俺は魔理沙の恋人ではないんだけどなー。

 

「駄目よ! 魔理沙は私のもの。私の本だけじゃなくてハートも盗んでいったのよ。ああ、魔理沙ぁ……」

 

 いかん、またさっきの妄想モードに突入してしまう。時折ウヒヒと笑いながらブツブツとつぶやいている。四肢さえ縛られてなければこのまま逃げられるというのに……。

 

 

 

「いよーう、ぱちゅりー」

「何よまりさ、また本を盗みに来たの?(ムスッ)」

「へへ、今日は本を借りに来たんじゃないんだぜ? ぱちゅりー、お前を盗みに来た」

「やんっ、そんな心の準備がまだ……。まりさぁ……」

 

 

 

 今度は魔理沙に盗まれる妄想のようだ。駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。再び素面に戻ったパチュリーはさらに鋭く睨み付け、尋問を続ける。

 

「さあ、誤魔化さないで。本当のことを話してもらうわ。貴方は魔理沙の何なの!?」

 

 こんな変な質問で拷問されるのは勘弁だ! 言った通りだろうと口にしても、彼女は聞く耳を持ってくれない。手にしていた怪しげな魔道書まで開き始めて、洗いざらい口にさせる……いや、下手すると危害を加えてくるのでは……。

 

 転倒しないようにピョンピョン跳ねて逃げようとするが、脚元の何かに躓いて転倒してしまう。それは俺の作った「ネメシス」だった。

 

「逃げようったって無駄なのよ! 貴方のような薄汚いお邪魔虫は燃やして排除するに限るわっ!」

 

 異常だ。魔理沙への愛が歪みに歪んでいる。まずい、このままでは……!

 

「ちょっ……アズマっ! いったい何があったの!?」

 

 その図書室の入り口を蹴破る音が飛び込んできた。音のする方を見ると、タッタッタと走ってくる少女の姿が見える。多くの人形を従えており、戦闘態勢に入っているようだ。

 

 おお、助かった。アリスが駆けつけてくれたんだ! この危機的状況でこの面倒くさい俺と魔理沙の関係をしっかり説明してくれそうな人が現れた。

 

「見ての通りだ。助けてくれーっ!」

 

 縛られて倒れたまま、俺はこの紫色の魔女に馬乗りされポカポカと拳を打ち付けられる。大して痛くはないが、早く解放してくれアリス……。

 

「何、貴女もこの人間の肩を持つの? 言っておくけれど、コイツも魔理沙狙いなのよ」

 

 敵意むき出しにアリスを睨み付ける紫色の魔女。俺は彼女に馬乗りにされながらも違う、違うと必死に弁明する。

 

「あのね、パチュリー。冷静になって聞いて」

 

「これが冷静になって……ゴホッ! ゴホッゴホッ……!」

 

 急にせき込むパチュリー。どうやら喘息持ちのようだ。少なくとも腕力や体力は人間並み……いや、それ以下かも知れない。もちろん魔法使いを名乗るくらいなので魔力は凄まじいものを持っているのだろうが。

 

「ゴホッ……。あ、ありがとう小悪魔」

 

 パチュリーの異変に気づいたのか、頭に蝙蝠の羽を生やした赤毛の少女が薬を持ってきた。

 

「パチュリー様、あんまり無理しちゃ駄目ですよ?」

 

 薬を一気に飲み干すと、再び平静さを取り戻す。

 

「ええっと、何処まで話したっけ? ……まあいいわ、これが冷静になっていられるものですかっ! さあ、ハッキリしてもらうわよ。貴方は魔理沙の何なの!?」

 

「下僕だぜ」

 

 やんややんや騒いでいるうちに図書館に新たな侵入者が現れた。箒に跨った金髪のステレオタイプな黒い魔女装束。そう、魔理沙が侵入していた。高所からこの奇妙な取っ組み合いを見物している。

 

「げっ、下僕……!」

 

 とんでもないこと言い出す魔理沙にパチュリーはショックを覚え……、そして妄想を暴走させ始めた。

 

 

 

「ほーら四つん這いになれあずま。うりうり、キノコをほっぺにグリグリ……」

「やめ……やめてくれっ! まりさ……」

「あれれー、違うなぁ? まりさ『様』だろーぅ?」

「やめて下さい、まりさ……様」

「ダメだダメだ。下僕が口答えしちゃいけないんだぞ?」

 

 

 

「どんな想像だよっ!?」

 

 あまりにヨコシマで巨大な妄想は、こちらからもある程度読みとれる程であった。

 

「そんな……。もうそんな所まで進展していただなんて……」

 

 そしてこっちが呆れているのもつゆ知らず、パチュリーは相変わらずであった。相当思い込みの激しい子のようである。

 

「わかったわ……。魔理沙、私も下僕になるっ! あなたの性癖も全部受け入れるから私をお嫁にしなさいっ!」

 

 喘息持ちの体とは思えないほどに勢いよく飛びあがり、魔理沙にアタック(恋のアタック的な意味で)してきた。

 

「ちょ、話が読めないぜ? 暑苦しい、離れろパチュリー!」

 

 ジタバタと振り払おうとするが、意地でも離すまいとしがみついている。俺ほったらかし。うん、これはチャンスだよね。コッソリとアリスを呼ぶ。

 

「アリスー、聞こえるかー? とりあえず縄を……」

 

「上海、縄を切ってあげて」

 

 上海人形が手にする剣で縄が切られる。だが、魔理沙に食いつく紫もやしに気付かれてしまった。

 

「逃がさないわ……。私はアリスと違って生まれた時から魔女。生粋の魔女は執念深いのよ……!」

 

 ひとりでに、パラパラパラと魔道書が一気にめくられる。ついに彼女に火をつけてしまったようだ。

 

「火符『アグニシャイン』 」

 

「上海達、盾を構えて!」

 

 俺は盾を装備した上海人形の後ろに逃げ込むように転がり込み、炎を回避する。

 

「蓬莱人形、援護射撃。大江戸人形は突撃っ!」

 

 魔法使い同士の決闘に巻き込まれたら命がいくつあっても足りない。アリスの後ろで戦況を見守る。あっという間に人形達の布陣が出来上がり、今度は反撃に出ていた。突撃していった人形は一定距離進むと爆発を起こした。火薬入りなのだろう。

 

 その鮮やかな人形さばきに俺は見とれていた。無数の人形に様々なフォーメーションを組ませて戦術に組み込んでいく。ここまで見事なものはアールバイパーにもビックバイパーにも成せない芸当である。

 

「聖さんも来ているの。別のルートでアズマを探しているらしいから、もしかしたら貴方の銀色の鳥を見つけているかも。私は大丈夫だから、今のうちにここを脱出して白蓮さんとうまく落ち合って!」

 

「わかった。アリス、色々と……ありがとう」

 

 深々とお辞儀をし、転がっていたネメシス人形を拾い上げると、この優しい魔法使いの元を離れる。ここまで世話を焼いてくれたんだ。それに彼女と会うのはこれが最後になるかもしれないし、お礼をしっかりするのは当然だろう。

 

 深々と頭を下げた後、俺は一目散に図書室から脱出した。




銀翼シリーズでのパチュリーはlove的な意味で魔理沙が好きなようです。
クレイジーでサイコな感じが出ていればいいのですが……。

3回ほど出てきたパチュリーの妄想シーンですが、原作では文字の色を全部紫色に変えて表現していました。
こちらではこの部分だけ台本形式にしようかとも考えましたがその案はボツにして、妄想の中に出てくる登場人物は全部平仮名表記という形にしてみました。

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