東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ついに時を止めるメイド長がアズマの前に立ちはだかる。
能力もさることながら、戦闘慣れもしているようだ……!


第13話 ~瀟洒なメイド長~

 リデュースしたまま洋館の内部へと潜入した。吸血鬼の館らしいので気を引き締める。未知の場所ということもあり、薄暗くおどろおどろしい。そう感じる。

 

 事情があるとはいえ、今の俺は招かれざる侵入者。メイド服姿の妖精(……だと思う。昆虫みたいな羽生えてるし)の集団に襲われる。それを一気に青白いレーザーでなぎ払い、進路を切り開いていく。なんだ、吸血鬼の館というから中には怪物や悪魔がウヨウヨいると思ったが、いるのは妖精のメイドくらいである。俺はしばし安堵の息を漏らした。

 

 しばらく薄暗い廊下を突き進むと、特徴的な箒に跨った魔女、いや魔理沙の姿が見えた。

 

「ようやく追いついたぞ、魔理沙。なあ、俺の人形だけでも返してくれよ。そいつは貴重な戦力なんだ。……まだ戦力候補の段階だけど」

 

「まだ言うか。本をちゃんと借りられてからだってあれほど言っただろう。本来なら死ぬまで借りるってってところを、お前さんが人間だからとこっちもこれだけ譲歩しているんだ。それ以上は一歩も譲らないぜ」

 

 変な所でしっかりしている子である。やれやれ、隙を見てネメシスだけでもかすめ取ってやろうか……。

 

 

 そうやって魔理沙の動向を伺いつつ同行していると……。

 

「動くな」

 

 とても冷たい声が投げかけられる。魔理沙の声ではなく、もちろん俺のものでもない。別の声が上方向から聞こえる。とても威圧的だ。声の主を探そうと振り向いた刹那、銀色の光がこちらを掠めるように降り注いだ。

 

「げげげ、その声はまさか……」

 

 こちらの動きが止まったことを確認したのか、声の主がふわりと降りてきた。背の高めの少女である。ヘッドドレスにエプロン姿。服装からすると彼女も紅魔館のメイドなのだろう。だが、今まで相手にしてきた妖精メイドとはその風格がまるで違っていた。

 

 指の間にはナイフが挟まれており、先程投げつけられたものもナイフであったことが伺える。もしそうだとしたら、相当のスピードで投げつけられていることが分かる。何せ最初に見た時は銀色のレーザーに見えたくらいなのだから。

 

 そして目の前のメイドは今もそのナイフをギラつかせてこちらを威嚇している。

 

「やれやれ、また本泥棒ですか。そしてそちらの奇妙な物体は……?」

 

「逃げるぞ、アズマ! いくら私が速いからってこいつには、このメイド長こと『十六夜咲夜』には敵わないんだ」

 

 クルリと向きを変えてトンズラを決め込もうとする魔理沙。だがその直後、周囲から色が失われていく。

 

 揺らめく照明の色が失われ、そしてその動きを止めた。逃げようとする魔理沙の箒、服、そして顔の色が失われ、焦りに歪めた顔のまま、動きを止めてしまった。一体何をしたんだ、あのメイドは……!

 

 揺れる照明、逃げる魔理沙全ての色と動きが失われてしまった。いや、よく見ると咲夜と呼ばれたメイドは動き回っているし、俺も特に動けないという事はない。

 

「何を……した?」

 

 突いて出た言葉は実にシンプル。今の状況が飲み込めないという旨であった。だが、困惑していたのは俺だけではなかったのだ。あのメイドも俺に話しかけられたことにかなり驚いている。

 

「貴方、アズマとか言っていたわね……。なぜ動ける?」

 

 動けるものは動けるのだから何故と言われても分からない。周囲を金縛りにでもする術でも使ったのだろうか? なるほど、メイドの姿をしているが妖怪の類なのだろう。

 

「私の能力、『時を操る程度の能力』を用いて周囲の時間を止めたのよ。どうして貴方だけ動けるの?」

 

 またとんでもない能力が飛び出て来た。時間を止めている間に弾幕を華麗に回避したり、攻撃を加えたり等出来るのだろう。なるほど、いくら足の速い魔理沙でさえ敵わない理由が分かった。時間を止められてしまえば速さなど最早関係なくなる。

 

 そうやって一人で納得している俺に冷酷な声が投げかけられる。

 

「質問に答えなさい。どうして時間を止めているのに動けるの!? 普通ならあり得ないことよ」

 

 そんなこと言われたってなぁ……。時間……時間……。ああもしかしたら、そういうことかもしれないな。

 

 アールバイパーは超時空戦闘機って設定があった。その気になれば時空移動もこなせるのだ。なので時空操作系の能力を受け付けないとかだろうか?

 

「銀翼『アールバイパー』を見くびったな。こいつは超時空戦闘機。時空操作の影響は受けないのだっ!」

 

 しめたっ、今の魔理沙は動けない。……ということは、盗まれた人形をここで取り返すことも可能である。

 

そうと決まればちょっくら失礼して魔理沙の懐をまさぐる。しばらくゴソゴソと物色して、ついにそれらしい人形を発見した。慌てずにゆっくりと抜き取り、あとは痕跡を残さぬように、服の乱れを直す。

 

「ネメシス人形回収成功っ! これでもう用は無くなった。ならばこんな物騒な所とっととトンズラするに限……」

 

 シュっとナイフが目の前を掠め、俺の目の前で止まった。コクピットがなければ喉元に刺さっていたかもしれない。とんでもない速度だ。いくら戦闘機とはいえ、あんなのを食らったらひとたまりもないだろう。

 

「逃がさないわ。お嬢様の領域に土足で踏み入った罪、その身をもって償って貰う……」

 

 話せばわかる……って言える雰囲気ではない。咲夜の切り札たる時間止めは封じたものの、まるでレーザー光線のようなナイフ投げの脅威が残っている。俺は回避するのに精一杯であった。

 

「くぅっ、こちらもレーザー発射!」

 

 放たれた青白いレーザーは咲夜めがけて一直線に伸びて……そして目の前で止まってしまった。まずい、咲夜の投げるナイフが途中で止まったように、放った弾幕は時間止めの影響を受けてしまうらしい。くそっ、どうする!?

 

 ……そうだ、何も戦う必要はない。幸いアールバイパーは魔理沙並みにスピードが出せる上にメイド長の能力も受け付けない。逃げようと思えば逃げられるのだ。もちろんただ逃げるわけではなく、スモールスプレッドで退避しながらの妨害を組み込む。

 

 通路を抜けて広間に出る。ええと出口は……あっちだ。あと少しで脱出できる!

 

「アズマ、私の能力も見くびって貰っては困るわ」

 

 ところが信じられない速度で咲夜が行く手を阻んできたのだ。これだけ飛行して振り切ったと思ったのに、アールバイパーが追いつかれるとは……。

 

 そういえば咲夜はこちらに時間止めが通用しないと分かっていながら、あえて術を解いたりはしなかった。どういうことだ……?

 

 はっ、しまった! 弾幕勝負に慣れている魔理沙と、ほとんど素人の俺を引き離すのが目的だったんだ!

 

「今更気がついても遅いわよ。時間操作は時を止めるだけではない。ふふ、これが正真正銘のタネなし手品」

 

 周囲から色が戻りゆく。そして彼女はスペルカードを手にしていた。何かが来るぞっ。だけどどう仕掛けてくるんだっ? 全く予想がつかない。いや、一つだけ確かなことがある。時間止めの影響を受けないアールバイパーにも有効なスペルであるという事である。

 

「奇術『ミスディレクション』!」

 

 一瞬そう叫んだかと思うと何の変哲もない花火弾幕を浴びせる。スカスカの隙間だらけで回避は容易……。身構えていた俺は思わぬ肩すかしに気合が空回りする。

 

「!?」

 

 いや、なんだこれは……? 先程目の前で弾幕を放っていた咲夜は真後ろにいるではないか。背後を取られた。こちらは狙い撃つかのような素早い攻撃……!

 

「『貴方』に能力が効かないなら、私自身の時を加速させるだけよ」

 

 何という事だ。切り札を潰し圧倒的優位になっていながらもあっさり敗れてしまうとはっ!アールバイパーが地面に叩きつけられる感覚がしたような気がしたが、駄目だ、気が遠くなる……。

 

 これでは、脱出……できな……。

 

「あっけないものね。そこの妖精メイド、この不埒な侵入者を引きずり出して捕らえなさい。お嬢様の館を荒らした罪、その身で償わせる……」

 

 薄れゆく意識の中、勝ち誇ったメイド長の声が聞こえた気がした。




能力バトルはいかに相手の虚を突くかが醍醐味ですよね。それにしてもこうやって書いていると咲夜さんの能力って滅茶苦茶強い。
超時空戦闘機の時間を止めることは出来なくとも、使い方一つ変えるだけでこうやって応用できちゃうんですからね。
時間の巻き戻しだけは出来ないそうですが……。

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