東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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一日が過ぎても命蓮寺に戻ってこないアズマ。彼を心配して命蓮寺の皆も動き始めたようだ。

その頃アズマは人間であるはずの魔理沙に浚われると、紅魔館まで連れまわされる羽目に……。


第12話 ~譲れぬ戦い~

(その頃、命蓮寺では……)

 

 アズマが命蓮寺を出て行ってから1日が経過しようとしていた。いまだに戻ってこないアズマを案じて、命蓮寺の皆が周囲を探し始める。

 

「聖、人里でも見つけられませんでした。やはりもっと遠くに行ってしまったのでは?」

 

 ふわりと着地する星とナズーリン。門前で白蓮が彼女達を迎える。

 

「そうですか……。アズマさんがいなくなってしまってもう一日ですが……」

 

 星の脳裏に最悪の事態がよぎる。

 

「まさか妖怪に襲われて、攫われちゃったんじゃ?」

 

「縁起でもないことを言うんじゃありません! アールバイパーも一緒に消えているんです。恐らくはあれに乗って出て行ったのでしょう。そう簡単には屈しません!」

 

 捜索範囲を広げようということで意見が一致する。だが、どこから探そうかと皆が考えていると、ナズーリンに何かいい案があるらしく挙手していた。

 

「そういえば人里で少し気になる話を聞いた。昨日、銀色の鳥の妖怪が魔法の森に向かって凄い勢いで飛んでいったとか……」

 

 その「魔法の森」に心当たりがあった白蓮はハッと目を見開く。

 

「銀色の鳥の妖怪……。もしかして『アールバイパー』のことでは!?」

 

 そういえばアリスとお近づきになりたいという旨を貴方の口から聞いていたことを思い出した白蓮。次は魔法の森でアズマを探すということで意見がまとまりそうだ。

 

「なるほど、アリスさんに会いに一人で魔法の森に行ってしまったんですね……。大変! あの森の瘴気の中に長くいたら……」

 

 議論の真っ最中、そこに割って入るのは金髪の魔法使いであった。いくらか上海人形を従えている。

 

「その心配はないわよ、聖さん」

 

 息を切らせたアリスが命蓮寺の門前までやって来ていたのだ。

 

「アリスさん。アズマさん、アズマさんと会ったのですか?」

 

 身を乗り出して金髪蒼眼の少女にまくしたてる。

 

「ええ会ったわ。自分だけのお人形さんが欲しいって懇願していたわよ」

 

 心底安心したのだろう。ほっと胸をなで下ろす尼僧。

 

「よかった……。それではアズマさんは今アリスさんの家にいるんですね」

 

 本当はそうなる筈であった。しかし、気まずそうにアリスは視線を逸らす。

 

「ごめんなさい、ちょっと厄介なことになっちゃって」

 

 申し訳なさそうにうなだれるアリス。その様子から何か大きな問題に直面したことを白蓮は読みとった。

 

「アズマは攫われたわ。私の目の前で」

 

「えええっ!?」

 

 アリスの口から事の顛末が語られる。苦労して人形を完成させたものの、突然押し入って来た魔理沙にアズマの人形を他の人形ごと奪われてしまったこと。取り返す為に弾幕ごっこを仕掛けたが、圧倒的なパワーの前に屈してしまい、アズマが彼女に攫われてしまったこと。

 

「魔理沙は霧の湖の方角へ飛んでいったわ。恐らく次の狙いは紅魔館の図書館。アズマにその手伝いをさせるつもりに違いないわ」

 

「魔理沙さんが!? いささか信じ難いですが、それは本当なんですね?」

 

 無言でコクリと頷く人形使い。

 

「人間である魔理沙さんが彼に手をかけるとは考えにくいですね。その点はひとまず安心ですが……。魔理沙さんの手伝いなんかして紅魔館の吸血鬼に目をつけられたらいよいよ危ないですよ! そうなる前にアズマさんを救いださないと!」

 

 白蓮は星に寺の留守を頼むと、アリスと共に大空を舞った。

 

 

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(一方、魔理沙に攫われたアズマは……)

 

 アールバイパーに乗り、魔理沙の後に続く。今も不平不満を漏らす俺に魔理沙も少しタジタジになっているようである。

 

「そんなクヨクヨするなって。お前はこの私に追いついて、そして追い越したんだ。私が天狗以外に追い越されるだなんてこれが初めてなんだぜ?」

 

 こうやって心にもないお世辞をまくし立ててくるのを無視しながら、俺はバイパーの操縦桿を握る。

 

「なぁ、そんな辛そうな顔ばっかりしていると、掴める幸せも逃げちまうぞ。お前、紅魔館は初めてなんだろ? 紅茶はうまいし、珍しい魔道書も読み放題だ。こんな未知の場所にワクワクしたりはしないのかよ」

 

「これ以上妖怪の敵は作りたくない……」

 

 その未知の場所に泥棒しに行くのだ。友達になりに行くわけではない。むしろこれから敵対する。

 

「なんだよ、お前レミリアが怖いのか」

 

 れみりあ??

 

「『レミリア・スカーレット』だよ。知らないのか? あの館の主さ。吸血鬼なんだが、どう見ても小さい子供だ。怖いというかはちんまい。……フム、外来人っぽいのは何となくわかっていたが、まだ幻想郷に慣れていないようだな」

 

 その幻想郷に慣れていない俺に本気のレーザーをぶちかましたのはお前だぞ。

 

 

 

 そうやって悪態をついていると森林地帯を抜けたようで、一気に周囲が明るくなる。モヤのかかった湖を過ぎると、真っ赤……というよりかはレンガ色をした洋館が見えてきた。あれが紅魔館なのだろう。

 

 門の入口には赤毛の少女が立ちはだかり、招かれざる侵入者を見張っている……。

 

「うつら……うつら……ブルブルっ!」

 

 少し寝ていたようにも見えたが、こちらの気配に気が付き、警戒態勢を取っている。

 

「なんだよ、珍しく門番が起きている。アズマ、早速仕事だ。あの門番にちょっかい出して気を逸らさせろ。私はその間に潜入する」

 

 待てと止める俺を無視して魔理沙は門の向こう側へと飛んで行ってしまった。やれやれ仕方がない。人形をあちらに握られている以上下手な動きは出来ないな。ここは大人しくしたがっておこう。紅魔館のみんな、俺を恨まないでおくれよ……。

 

 そう思いながら、俺は二人の間に割って入り、門番の行く手を阻んだ。

 

「あーっ! また侵入を許してしまう。ちょっと、そこをどいて下さい! まるで立ちふさがるように動かない、さては魔理沙さんの仲間ですね?」

 

 赤毛の門番はみるみる小さくなっていく魔理沙の姿を追いかけようとするが、俺がそれを邪魔している。やれやれ、やっぱり魔理沙の仲間ってことになるか。

 

「不本意ながら……な。アイツに大切なものを人質に取られていて逆らえないんだ。恨みはないが、追跡はさせない」

 

「私だってこれ以上侵入者を許すわけにはいかないんですっ! お仕置きされるならまだしも、クビになんてされたら……」

 

 両者とも大切なものをかけており、どちらかが折れるという選択は考えられないだろう。ということは……。

 

「弾幕ごっこ……か」

 

 揉め事をもっとも平和的に解決するには弾幕ごっこが一番だ。後腐れもないしね。

 

「だ、弾幕っ!?」

 

 俺が弾幕ごっこの話を持ちかけると大体驚かれる。次に飛び出る言葉は「変な鳥」だとか「男のくせに弾幕ごっこ」だろう。こんなセリフは聞き飽きた。だからその後の台詞を言わせはしないっ!

 

「だから『変な鳥』とか『男のくせに』とか言うんじゃないっ! この中国妖怪っ!」

 

 言ってやった。溜まりに溜まったフラストレーションをブチまけてやった。これ以上馬鹿にされるのはコリゴリなのだ。

 

 が、突然周囲の空気が変わった気がした。門番はギンとこちらを睨みつけている。いままではあくまで侵入者に対してそれを阻止する程度であったようだが、今の彼女の目つきは言いようのない怒りに染められており、近付いたものに容赦なく襲いかからん勢いであることが分かる。

 

「『中国』って言うなぁっ! 私は『紅美鈴(ホン メイリン)』っ! 紅美鈴っ! 紅美鈴っ!」

 

 地雷を踏んでしまったらしい。なんだか知らないが「中国」と呼ばれると傷ついてしまうらしい。まあこれで皮肉にも魔理沙の手伝いが上手くいったことになるのだが……。

 

 いきなり命の危機。逃げようかしら……

 

 

 

「虹符『彩虹の風鈴』」

 

 相手が名乗っていなかったということもあるが、名前を蔑にされたのだ。そりゃあ怒る。それにあの口ぶりからすると余程「中国」と呼ばれることにコンプレックスを抱いていたらしいことがわかる。その点については謝りたいところだが、まずは落ちつかせないといけないな……。

 

 彼女の放つ弾は虹をモチーフにしているらしく、七色に光り、かなり綺麗である。マズイな、相当のやり手らしい。塊になった弾を大きく避け、ターゲットサイトに美鈴を捉える。今だっ!

 

貴方「レーザー発射っ!」

 

 七色の中を青白い光が一閃、標的めがけて突き進む。いち早く気づいた美鈴はゆらりとそれをかわす。

 

「甘いっ! レーザーワインダー!」

 

 最初はやはりハッタリで言い出した。だが、青白い光線はアールバイパーをトレースするかのように弾道を変えていく。

 

 思った通りだ。ビックバイパーのレーザーは弾速が遅めな代わりに発射直後はある程度自分が動くことでレーザーを振り回すことが出来るのだ。どうやら幻想入りしたアールバイパーでも適用されるらしい。

 

 見慣れぬ軌道を描く光線にはさすがに対処できなかったらしく、なぎ払うように美鈴にレーザーが襲いかかる。へなへなと地面に降りてうずくまっている。勝負あった。

 

 

 

 アールバイパーを低空でホバリングさせると、両手を合わせ謝罪の言葉を投げかける。

 

「名前のこと、すまなかった。でも勝負は勝負だ。中に入れてもらう。何、一緒に入っていった泥棒から盗まれたものを取り戻すだけだ。悪さはしない……はず」

 

 魔理沙を追い、紅魔館へと潜入っ……する前に。

 

「折角だ。今のレーザーワインダーもスペルカードにしよう」

 

 コクピット横に刺しておいたメモ帳とペンを取り出し、簡単に絵を描く。相変わらず残念な絵心だが、分かればいいだろう。

 

「名前はええっと……折角の銀翼だし、そろそろ銀の文字も使いたいな。というわけで、銀符『レーザーワインダー』」

 

よし、謝罪も済ませスペルカードも出来た。このまま魔理沙を追いかけよう。さて、アイツはどっちに行ったのやら……。


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