東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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オプションへの手掛かりになるかもしれない自律人形「ネメシス」が魔理沙に奪われてしまった!
これを追いかけて取り戻したいアズマであるが……。


第11話 ~白黒の魔法使い~

 木々をすり抜けるようにアールバイパーを飛ばす。時折迫ってくる小枝をショットで破壊してひた突き進む。しばらく飛んでいると箒に跨った少女を発見。狙いを定めると更に速度を上げた。

 

「いやー、大漁大漁♪ アリスは私よりもずーっと長く生きるんだ。私が生きている間くらいは借りっぱなしでも……」

 

 あの野郎。すっかりいい気になってやがる。あの泥棒にはとびきりキツいお灸をすえてやらないとな。

 

「良いわけないだろうが! 待ちやがれ、盗んだものを全部返せ!」

 

 こちらの追跡に気が付き、ジグザグに飛ぶ魔理沙。あくまで対話するつもりはないのか。ならばこちらにも考えがある。トリガーにかけた指にゆっくりと力が入る。

 

 ターゲットサイトに魔理沙を捉えるとショットを浴びせた……が、木々が邪魔してなかなか命中しない。それじゃあこれはどうだっ!

 

 ショットを上方向に撃ち急上昇。一度森林地帯を抜け、魔理沙の真上に陣取る。

 

「スモールスプレッドを喰らえ!」

 

 小型爆弾を大量に投下して、魔理沙周囲のごく小さい範囲の木々を焼き払い、逃げられなくしてやった。さすがの魔理沙も動きを止めたようである。

 

「何だよ、男が弾幕の真似事か?」

 

 そうだよ、我が相棒「アールバイパー」は危険でいっぱいの幻想郷を一人で行き来するための大切な道具……いや相棒だ。その結果弾幕決闘も嗜むことになるが、こんな奴にそこまで説明する義理もない。手短に用件だけ告げることにした。

 

「さあ、盗んだものを出せ」

 

「人聞きの悪いことを言いなさるな。ちょっと私よりも長生きの友達から物を借りただけだぜ。私が死ぬまでな」

 

 魔法使いというものは人間よりも寿命が長いらしいが、あの口ぶりからすると彼女は人間なのだろう。だが、彼女の盗んだ人形の中には紛れもなくアレも混じっているんだ。俺が必死に作り上げた……。

 

「その中には人間様の、この俺『轟アズマ』の持ち物も紛れこんでいるんだ。さあ返せ、持っている人形という人形、全部返せ。さもなければ……」

 

 機体の中でスペルカードを掲げる。俺が決闘を申し込む姿を確認すると魔理沙もニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ほぉ、この魔理沙さんに弾幕で勝負しようってのかい? 男ってのはヘンテコな鳥に乗っかって弾幕するんだな。だが、香霖よりかは強そうだ。面白い、受けて立ってやるぜ」

 

「だから変な鳥って言うなっ!」

 

 お互いに魔法の森の上空に上がり、改めて決闘を始める。ニヤニヤと笑いながら魔理沙は最後にこう尋ねた。

 

「もう一度確認しよう。私と決闘するつもりなんだな? なんだよな、男に二言なんかは」

 

「ああないぜ。ネメシスを取り戻す為、そして俺を助けてくれた心優しい魔法使いに恩を返す為にも、魔理沙っ、ここでお前を倒す!」

 

 その決意に揺らぎなどない。俺は即答してやった。カラカラカラと今度は腹を抱えて笑い始めた。

 

「いいだろう。そういう無鉄砲な奴は嫌いじゃないぜ? アズマとかいったな、気に入った。この私に勝てたのなら人形は全部返してやろう。でもそれだけじゃあ不公平だ。……そうだな、お前が負けたら私の言うことを一つだけ、聞いて貰おうか」

 

 こちらの返答を聞く前に、先手必勝とばかりに先に攻撃に転じたのが魔理沙。星の形をした弾をじわじわとこちらに向けてくる。チッ、受け入れるしかないようだな。まあいい、勝ってしまえばいいのだから。

 

 さて、この星型の弾は落ちついて機体を細かく移動させれば回避は容易である。だが何か嫌な予感がする。これだけで終わりの筈がない。何を仕掛けてくる……?

 

「星弾はカモフラージュ。その後ろでマジックミサイルが待ち構えているのさ」

 

 星型弾よりも更にゆっくりな挙動をするミサイルがこちらににじり寄っている。星弾はただの目くらましだったようだ。被弾する刹那……ショットを撃ちミサイルを撃ち落とすと、魔理沙の背後についた。

 

「いただきっ!」

 

「させないぜ!」

 

 弾幕は魔理沙の背後からも容赦なく飛ぶ。戦闘機同士での戦闘では相手の背後を取るのが定石なのだが、弾幕ごっこではその常識は通用しないようだ。

 

 隙だらけの背後を攻めようとするも、思わぬ反撃を受けた俺は、被弾しないように慌てて宙返りすると高らかにスペルカード発動の宣言を行う。

 

「ここで決めてやる。スペルカードだっ! 爆撃『スモールスプレッド』!」

 

 宙返りしながらも魔理沙の真上に陣取った俺。よし、いまこそチャンスだ! スペルカード発動の宣言をすると、そのままポロポロと高高度から小型爆弾をばら撒く。いくら相手が素早くてもこれだけ絨毯爆撃されたらひとたまりもないだろう。

 

 青い爆風が消えた頃には爆風に慌てふためく泥棒の姿が拝める筈だ……。

 

 

 

 そして青い爆風が晴れる。しかし魔理沙は微動だにせず何やらマジックアイテムらしきものを掲げている。あの絨毯爆撃を凌いだというのか!?

 

「アズマ、それがお前のスペルカードか。パワーを微塵にも感じないショボさだったぜ」

 

 八角形の不思議な道具がジンワリと発光する。

 

「いいか、弾幕ってのはパワーだ。スペルカードならば尚更だぜ。弾幕はブレインだなんて気取ったこと言うんじゃないぞ? よーし、この魔理沙さんが見せてやるよ、こういうのをスペルカードって言うんだ……ぜっ!」

 

 読めた。あの八角形の物体からレーザーを撃ち出すつもりだ。撃たれる前に回避……。

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

 そんな暇は残されていなかった。あの道具の、そして一人の少女が繰り出したとはとても思えないような巨大な真っ白な光がアールバイパーを包む。なんだあのバカでかい光は? 魔理沙の数倍の大きさを誇る光の塊があの八角形の物体から放たれたのだ。信じられない……。

 

 回避行動などまるで意味をなさない高火力に晒された。銀翼はその力を失い、再び森林地帯へと向かう。俺との意思とは関係なく、重力の赴くまま……。

 

 煙を上げ、墜落する最中ただ一つの朗報……。

 

「You got a new weapon」

 

 新たな兵装を手に入れたことを知らせるシステムボイスである。先程の白い極太レーザーのアイコン一瞬表示された後、見慣れたバイパー用のアイコンに変化する。刻まれた名は……。

 

「LASER」

 

 レーザー。様々なレーザー系兵装が登場する今では「ノーマルレーザー(※1)」と呼称することもある。初代ビックバイパーも使用していた由緒正しい青白いレーザーである。弾速が若干遅いが、敵を貫通したり出来るので威力は高い。

 

 しかし負けは負け。魔理沙はこの俺に何か命令するつもりだったが、この後何命令されるんだろう……。落ちながらも俺はそのことが気がかりであり、それをずっと考え込んでいた。

 

 

 不時着したアールバイパーから這い出す俺。箒に乗ってふわふわと降りる魔理沙が悪戯っぽく笑っている。

 

「どこからどう見ても私の勝ちだな」

 

 それは否定するまい。俺は負けてしまった。

 

「うう、最強の妖精とは渡り合えたのに……」

 

「チルノとどっこいどっこいだったのかよ! そんな実力でよく私に挑もうとしたな。私は幻想郷で発生する異変解決の真似事が趣味なんだぜ? 向う見ずというか無謀というか……」

 

 なんてこった、チルノは自らを最強と自称していたが、もっとヤバい奴がいるじゃないか。挑む相手があまりに悪すぎたようだ。だけど、あの状況で戦いを放棄することが出来たか? いや出来なかった。そう考えるとこうなってしまうのは必然だったのだろう。

 

「とにかく負けは負けだ。男らしくそこは腹を決めてくれ。それじゃあどんな命令を聞いて貰うかな……」

 

 ムムムとしばらく考え込む(考えてるフリかも)。頼むから「死んでくれ」とか「聖さん暗殺」とかそういうのはやめてくれよな……。

 

「お前、『紅魔館(こうまかん)』って知ってるか?」

 

 恐ろしい命令を下されると思い、身構えていた俺だが、見知らぬ建物の名前が出てきた。「こーまかん」だって?

 

「吸血鬼が住んでいる真っ赤なお屋敷さ。そこには大きな図書館があってだな……。本を()()()行きたいんだが、どうも私は嫌われているようでね……」

 

「つまり吸血鬼の館にある図書館で略奪行為するからそれを手伝え……と?」

 

「なんだ、物分かりがいいじゃないか。でも略奪じゃなくて拝借だぜ」

 

 最悪だ……。泥棒の片棒を担いだだなんてこと、白蓮に知られたら、軽蔑されるんだろうな……。こんなことなら一人で危ない所に行くんじゃなかった。そうガックリと肩を落としていると遠くからアリスの声が響いてくる。どうやらいきなり飛び出していった俺を追いかけていたようだ。

 

「アズマーっ! いた……、貴方が魔理沙を足止めしてくれていたから追いつけたわ。さあ、盗んでいったものを……」

 

「ちょーっと遅かったな。さっきマスパでケチョンケチョンにしてやったよ。アズマもちょっと借りて行くからよろしく頼むぜっ」

 

「ちょっと待ちなさ……」

 

 ほとんど攫われるような形で俺とアールバイパーが連れて行かれる。アリスの声など簡単にかき消されてしまった。




※1 レーザーとは初代グラディウスに登場する光学兵器である。
様々な光学兵器の登場するグラディウスシリーズでは他と区別するために「ノーマルレーザー」と呼ばれる場合もある。
ザコ敵を貫通する青白く美しいレーザーは当時のゲーマーを魅了した。
光学兵器にしては弾速は遅いが、発射直後は弾道が自機の上下運動に追随するという特徴がある。通称「レーザーワインダー」

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