東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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東方を、そしてSTGを愛する全てのゲーマーに捧ぐ……

WE LOVE SHOOTING GAMES!


それでは本編をお楽しみください……。



東方銀翼伝ep1 F.I.プロローグ
F.I.プロローグ ~銀翼の幻想入り~


「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」

「有利な個々の変異を保存し、不利な変異を絶滅すること。これが自然淘汰である」

チャールズ・ダーウィン(1809年~1882年)

 

 

 

 21世紀を迎えてどれくらいが経ったのだろうか。誰もが熱を上げたバブルも、それがはじけた後の吹きすさぶ不況も、技術の進歩もそれによる弊害も人類は経験してきた。どんどんと洗練されていく街中。新たなものが人類に受け入れられると、時代に適応しないものは形を変えて順応したり、それが出来ないものは容赦なく淘汰されていった。そう、今はもはや20世紀ではない。

 

 

 

 これは遠い遠い昔の話。時は1978年、日本全国が突如、タコやカニ、そしてイカにそっくりな「インベーダー」達に侵略された。

 

 特徴的な「デッデッデッデッ」という足音と共に、左右に移動しながらにじり寄ってくる「彼ら」の襲来によって多くのゲームセンターが産声を上げ、全国で100円玉が不足し、喫茶店までもがテーブルをゲーム機にしてしまうほどであったそうだ。しかしもう何十年も昔の話である。過去の栄光は後の世までで語り継がれても、その「侵略」の影響までは強く残ったりはしない。

 

 そう、ゲームセンターの世界にも「変化」の風潮が押し寄せてきたのだ。シューティングゲームが一斉を風靡したのも今は昔。すっかり時代に取り残されたゲームジャンルになってしまった。

 

 不良のたまり場という不名誉なレッテルも貼られていたゲームセンターは次々と姿を消し、もっと明るい雰囲気のアミューズメント施設へと生まれ変わっていく。プライズゲームを興じる家族にカップル。とても微笑ましい光景であり、かつてのゲームセンターが持っていた暗いイメージなど根こそぎ払拭してくれている。

 

 しかし、そこに古き良きシューティングゲームの姿は……どこにもない。

 

 周囲を取り巻く環境もあの時と比べて大きく変わり、ゲームセンターもその姿を変えていった。いや、変えていかなければ、時代に適応していかなくては生き残れない世の中になってしまったのだ。

 

 

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 そんな世界の動きに逆らうかのように20世紀末の趣を残したゲームセンターはそこにあった。今時珍しい個人経営のゲーセン。暗いかもしれない。機械の唸る音、じんわりと汗をかく暑苦しさ、でもどこか懐かしい。俺「(とどろき)アズマ」はここの常連だった。

 

 そしてその建物の中に見慣れぬ、いや恋い焦がれたものが置かれていた。それは大型筺体。中古品なのか、外装がボロいが、個人経営の店にしては大盤振る舞いだろう。店主に何度も入れてくれ入れてくれと我儘を言ってきたものだ。まさか通るとは思っていなかったのに、それはいかんなく存在感を放ってそこに存在していた。

 

 タイトルは「アールアサルト」。かの有名な横シューティングゲームの流れをくむシリーズの1つなのだが、その中でも異色の存在なのだ。何といっても奥行きのある3Dシューティングゲームなのだから。

 

 喜々して筺体に乗り込む。動画サイトでイメトレは万全。どこが難所なのか、どう切り抜けるのかは頭に叩き込んでいた。稼ぎは……また今度練り込むとして、まずはエンディングまでたどり着けるように頑張ろう。コインを入れ、自機「アールバイパー」を発進させる。映像として見ることと実際にプレイすることは結構違う。まして大型筺体ものとなると尚更だ。思っていたよりも苦戦し、1回目は途中でゲームオーバー。悔しい。一度筺体を降りるが、後ろには誰もいない。

 

 どうやらパイロット志願者は俺一人のようだ。それならば遠慮なくと2回目のプレイと洒落込む。再びSFの世界へと浸かり込んだ……。

 

 イメトレが功を奏したか、数回のプレイで最終面まで行き着くことが出来た。ワープ空間を抜けて一気に敵要塞になだれ込むシーン。このゲーム最大の見せ場だ。今流れているBGMがサビに入った瞬間にワープ空間を出て敵本拠地での攻防が始まるのだ。曲も心も高揚する。よし、サビに入るぞ! どこからでもかかってこい……!

 

 しかし紫色の亜空間を抜ける事はなかった。処理落ちでBGMとのシンクロがずれているのだろうか? 少し興ざめ。それにしても随分と長いな。そう訝しんでいると、突然BGMにノイズが走り始める。耳障りだ。やはり中古なのでオンボロなのか。遂にはノイズだけになってしまった。画面までもが揺らぎ始めて本格的に故障したらしいことが素人目にも分かる。店員を呼ぼう。そう筺体を降りようとしたが……。

 

 降りられない。は? どういうことだ? 文字通りのことなのだ。どこを見渡しても見慣れぬ機械。まるで本当にコックピットの中にいるような錯覚さえ覚える。あり得ない事象に頭が混乱する。

 

Watch your back!!(背後に注意!!)

 

 混乱するこちらのことなど無視してシステムボイスが鳴り響く。というか背後だって!? ありえない、何かの間違いではないのか? このゲームで背後から敵の攻撃を受けるだなんてことはない。大体後ろからの敵をどうこうする手段なんて持ち合わせていないが……。仕方ない、回転するように動き回って追跡を振り切ろう。

 

 ズガーン! と衝撃が走る。まるで本当に被弾したかのようなリアルな感覚。機体が大きく揺れ、モニターからはアラート音が鳴り響く。機械がオーバーフローしているのか、時折煙を上げている。うう、駄目だったか。

 

 リアルすぎる。まさか……、いやそんなはずはない。でもこれはまるで……、本物の「アールバイパー」の中にいるとしか考えられない。というかゲームで被弾したなら派手に爆発するはずではないか。そうだ、これはゲームじゃない。リアルで起きている事なんだ。信じがたいが、今置かれている状況をまとめるとそのような答えに導かれてしまうのだ。いつの間にかゲームの世界に迷い込んで戦死する。冗談じゃない! そんな理不尽なことで死んでたまるか! 機体のスピードを最大にし、ワープ空間をフラフラと飛び続ける。よしっ出口が見えてきた。

 

 

 

 愕然とした。宇宙空間に忽然と現れるはずの大要塞などどこにもない。というか宇宙ですらない。地球に戻ってきてしまったのか。再び後ろで爆発音が響く。エンジンに無茶をさせたからか。どんどん高度が下がっていく。眼下に目をやるとまるで時代劇にでも出てきそうな家屋がひしめいていた。タイムスリップ? それとも時代テーマパーク? もうどっちでもいい。こんなところに落ちたら大惨事だ。町を抜けなくては。

 

 町は意外と狭かったようで田園風景、そして森林地帯へ自機は突っ込んでいく。木々が「アールバイパー」にぶつかり無理矢理道をこじ開けるような感じ。そして今までよりも大きな衝撃がわが身を襲う。墜落した。だがそれではまだ終わらずバウンドし始めた。そうして落ちた後もしばらく地面を滑り込み、森林地帯のど真ん中でようやく止まった。

 

 キャノピーが勝手に開いて俺は「アールバイパー」から追い出される。そうして俺は初めて自機を目の当たりにした。当然だがデカい。機体の先端が左右に分かれているという独特のデザインを持つそれはほとんど鉄クズ同然となっていた。惜しいけれどこれは乗り捨てていこう。とても運べるようなものじゃない。幸いにも(というか奇跡的にかも)大きな怪我はしていないようで、体は自由に動く。出口を求め俺は「アールバイパー」のこじ開けた道をとりあえず進むことにした。それにしても木々の倒れた跡が生々しい。

 

 

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(轟アズマが大破した銀翼から立ち去った直後……)

 人間の気配が消える。それを確認するや否や、先ほど大きな音を立てて落ちてきた鉄の塊に近づく者がいた。背丈は人間の少女くらい、特徴的なのは不自然なまでに大きなリュックサックを背負っていることである。

 

「おわーっ、さっきの人間凄そうなものを捨てて行ったぞ」

 

 青色の髪の毛を持った少女はキラキラと目を光らせて戦闘機だったものを見つめていた。

 

「さてはさっき川沿いを飛んでいた奴だな。人間がいなくなったってことは……こいつは捨てられたんだ、そうに違いない。捨てられたのなら今からこの鉄クズは私のものだ」

 

 意気揚々とどこから持ってきたのか、滑車に残骸を乗せてリュックサックの少女は森を出て行った。




このあとがきの項目では主に作中に登場したSTGネタの解説なんかを行っていこうと思います。

まず作中で「アールアサルト」という名前のゲームが出てきますが、これは「ソーラーアサルト」というゲームをモチーフにしています。ソーラーアサルトはグラディウスシリーズでも珍しい奥行きのあるシューティングゲームです。

そして「アールアサルト」に出てくる「アールバイパー(Earl Viper)」ですが、名作STG「グラディウス」の自機「ビックバイパー」の末裔にあたるという設定があります。
アールの名前は「R」ではなく「Earl(伯爵のこと。紅茶のアールグレイのアールと同じ綴り)」、ここ間違えないように。

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