司書長の受難の始まりを書いていきます。
それではどうぞ!
模擬戦の行われているブースに入った一同だったが、その中で行われている光景に……一同は驚愕した。
そこで行われていたのは、確かに模擬戦。模擬戦ではあった。
あったのだが――
「覇王空破断ッ!」
「ラウンドシールドッ!」
――入って来た一同をいきなり出迎えた爆風。そして、それが晴れると、翠の魔力光を放つ結界が張って有り……その中では二つの影がぶつかり合っていた。
先程の声から、おそらくアインハルトと……ユーノ? だと、思われるが…… なんだか、妙に高かったような……もしかしてヴィヴィオだろうか? 声が似ているヴィヴィオが大人モードで声が低めのテイストになっている……ということなのだろうか?
しかし、その疑問は――
「うぅ~、誰か……降ろしてぇ……」
「「ヴィヴィオっ!?」」
――翡翠の鎖に縛られた、ヴィヴィオがぶら下げられていたのを見てそれは違うのを知った。
「えっ!? なのはママ、フェイトママ! どうしてここに? それにははやてさんにシグナムさん、リイン、ティアナさん、スバルさんたちも」
「それはこっちのセリフだよ。ヴィヴィオ、一体何でユーノ君と模擬戦なんて……」
「それは……」
そう言ってヴィヴィオの視線の方向を見た一同は、シールドと拳のぶつかり合いがはじけ地面に着地したアインハルトと、バリアジャケットのマントが翻りよく見えないユーノの後ろ姿が見えたのだが…………。
「? 何だろ……何か、小さいような…………?」
「えっ? あ、ほんまや……何かユーノ君後姿小さいなぁ……」
「ホントだ……ユーノが小さい…………?」
「えっ、そんなまさかぁ……。だって、ユーノ先生の身長ってシグナムさんと同じ位だった筈ですよ?」
「まぁ、そうだな」
シグナム167㎝、ユーノ168㎝である。
「だよねぇ~、せんせー背高いもん」
ティアナとシグナム、スバルがそんなことを言っていると、なんだか土煙が立ち込めよく見えなかったフィールドの全容が見えてくる。
「さすがに、御強いですね……」
「仕事に……、戻る…ためさ!」
確かに、そこにはアインハルトとユーノがいた。
いた、のだが…………――
――すごく、ちっちゃかった……。
「「「えぇぇぇええええええええええええええええええええええええっっっ!?!?!?!?!?」」」
――物凄く、ちっちゃかった。
そこにいたユーノは、なのはたちの記憶にあるよりも、小さかった。
「どどど、どういうことなのっ!?」
「わわわ、分かんないよッ!?」
「…………」
三人娘驚嘆。あのはやてですら、この状況についてこれず、硬直中である。
「せんせー……だよね?」
「た、多分……」
「いったい何が起こっているのか……」
状況が分からない一同は、仕方なく戦いの行方を見守ることに…………。
「そろそろ、終わりにさせてもらうよ、アインハルト!」
「させません……!」
互いに構え、決定打を打つべく動き出す。
「チェーンバインド!」
「この程度なら……覇王流には、通じま、せんっ!」
「勿論、そんなことは、わかってるさ!」
「っ!?」
ユーノがそう宣言した瞬間、チェーンバインドを交わしたアインハルトの両足にディレイドバインドが発動・拘束する。
「こんなもの……っ!?」
アンチェイン・ナックルの要領で、足のバインドを砕こうとするが――その隙が、決定打を許した。
ユーノの両手に、魔法陣が出現する。
「広がれ、戒めの鎖……」
翡翠の鎖が、縦横無尽にアインハルトの周囲を駆けめぐる。
「――ッ!」
アインハルトは焦ってどうにか拘束から脱しようとするが、ちょっとやそっとで破れるほど、高位の結界魔導師であるユーノのバインドは甘くない。
その間に、アインハルトに鎖が絡みつき、固める。
「捕らえて固めろ、封鎖の檻ッ! アレスター・チェ――ンッ!!」
ユーノが鎖を引くと、その瞬間鎖に込められた魔力が凝縮し……爆発する。
ドカーンッ! という音と共に鎖ははじけ飛び、爆発の中心にはアインハルトだけが残った。
「終わった……」
「……負け、ました……。流石なのはさんの――エース・オブ・エースの師匠……」
ユーノは、武装形態が解除され子供の姿に戻ったアインハルトに歩み寄り、謝った。
「ゴメンね……」
「えっ……?」
アインハルトは、その謝罪の意味が分からずポカンとした表情を浮かべる。
「ゴメンね、アインハルト……よく考えてみたら、僕が仕事をしたいだけのわがままで君たちを困らせたのに、怪我までさせちゃって……」
「あ、いえ……私たちも司書長――ユーノさんと戦えて、いい経験になりましたから……」
「それでも、僕の考え不足だったよ……。ゴメン、今治療するから」
――シャマル先生ほどではないけど、少し間マシになると思うから、とユーノは印を組み詠唱を始める。
「妙なる響き、光となれ。癒しの円のその内にて、若き覇王に安らぎを与えよ」
翡翠の魔法陣が再び現れ、アインハルトを包み込む。
「これは……?」
「回復魔法なんだけど、昔なのはにも使ったことがある回復の結界魔法で、『ラウンドガーター・エクステンド』の防御抜きのバージョン。『ヒーリング・エクステンド』(癒しの拡張)」
翡翠の輝きが、自分の物とは少し違う『翠』の魔力光が、優しく舞い散る雪のようにアインハルトの体の傷を癒していく……。
「凄い……」
そして、ユーノはその結界を維持したまま、アインハルトを抱き上げる。
「ゆ、ユーノさんッ!?」
「? どうしたの?」
「え、だって……えぇっ!?」
「? なんだかよく分からないけど、じっとしてて。子供に戻っちゃってるから、動かれると支えずらいから」
完全無自覚である。
そうして、ユーノはそのままアインハルトを抱えて、ヴィヴィオを拘束しているあたりへと向かう。
「ヴィヴィオ~ずっと縛ったままでゴメンね。いま解除するから――アレ? どうしたのみんな?」
ヴィヴィオが拘束してあったところには、何故か――幼馴染ズとその守護騎士、元生徒とその友人がいた。
なんで皆がいるのだろうか? と、ユーノは疑問を口にした。
「「「どうしたの? じゃなあああああああぁぁぁいいいいいっっっ!!!!!!」」」
「~~~~~~っ!?」
皆の大声に、耳がキーンとするユーノ。
「な、なんだっていうのさぁ~~……?」
「ユーノくん! この状況と、その姿は何ッ!?」
「そうだよ! 何で子供になってるの!?」
「そや! なんでそうなっとるん!?」
「えぇと、その…………」
かくかくしかじか、まるまるうまうま――というわけでこうなったと、その経緯を話したところ――
「「「そんな状況になってるのに、なんで休まないの/ないの/へんのッ!?」」」
――理不尽(?)にも、怒られた。←まずその認識が(ry。
「だ、だって……仕事したくて……――」
「「「――休みなさいッ!!」」」
「~~~~~~っ!?」
また怒られた。今この幼児化の原因となったロストロギアのせいで、思考が幼く子供寄りになっているユーノは、この理不尽(←だから、その認識が(ry)な怒りにもはや涙目である。
そもそも、替えの効かないポジションに据えられている以上、ユーノがいなくなるのは管理局としても、勿論なのは達としても困る。(勿論、婚期的な意味でも……ゲフンゲフン)
なのに、本人はそういうところに無頓着で……こんな状況になっても誰か別の後継者に司書長を譲り、そのうえで自分がサポート役になればこの姿でもよくね? と思っている始末である。
それを本気で思っているあたり、たちが悪い。
ユーノが大物だと誰もが言うが、本人は「僕が大物? そんなわけないよ~」という始末、ほんっとうに始末に負えない。
――大物じゃない? 『無限書庫』を稼働まで至らせたくせに?
――替わりはいる? 誰がアンタみたいに百冊同時に検索&速読できるマルチタスク持ちなんていねぇよ。
ユーノが必要な理由や、いてほしい意味など、挙げればきりがない。なのに、本人は無自覚。
そんな訳で、先ほどの発言を理解していないユーノはただただ、怒鳴られた理不尽(?)に涙目になり、皆を上目遣いで(現在の身長的な意味で)一同を見上げるだけである。
「な、なんなのさぁ~……? みんなしてぇー……。ぼ、僕が何したってのさぁ……?」
そんな涙目ユーノに、一同の胸がキュンとなったのは内緒だ。
「と、とにかくッ! ユーノ君には休息が必要です! なので、ここはユーノくんの愛弟子の私が……」
ガシッ! と音がするほど、なのはの肩をフェイトが強くつかんだ。
「ふぇ、フェイトちゃん?」
「ユーノのお世話をするのは…………私だよ」
「……これは、いくらフェイトちゃんとは言えども譲れないの」
「私も、譲れない……」
二人はいつの間にかセットアップしており、各々のデバイスである『レイジングハート』と『バルディッシュ』を構えて、瞳のハイライトを消した姿で対峙していた。
ユーノはそんな二人を見てオロオロとしていた。
「な、なのは、フェイトも! どうしたのさ?」
「ええんやよ、ユーノくん。気にせんといてや、それより…… 私の家でご飯食べへん? 好きなもん作ったるよぉ?」
「は、はやて?」
「ええから、ええから~。お家帰ろうなぁ~?」
「えっ……ちょ!? は、はやてっ!?」
はやてに抱きあげられるユーノ。
「あぁ~……フェレットモードとはまた違った、抱き心地が…………」
ユーノのことをモフモフする、はやて…………だが――
「――はやてちゃん? 何してるのかな……?」
「――はやて、何してるの……?」
――悪魔と死神の目と鼻と耳は、しっかりとそれを捉えていた。
「な、なのはちゃん、フェイトちゃん…………?」
「どこ行く気なの? ユーノくんをお持ち帰りするのは、私なの」
「違うよ、なのは。それは私……だからはやて、ユーノを渡して……」
「……こればっかりは、譲れんなぁ」
バチバチと火花散る修羅場(←というより、ユーノ一人が割を食う状況である)にユーノはすっかり怯えている。だんだんと思考が――というより、感性が子供寄りになっているユーノはこのよく分からない(ユーノ一人だけだが)状況に泣きである。そんな彼に手を差し伸べる天使(つまり、悪魔)の姿も。
「ユーノ先生……私と行きましょう」
「へっ? ら、ランスター……さん?」
「そんな他人行儀な呼び方しないでください、前みたいに『ティア』って呼んでくださいよ」
「あぁー……ずるいよぉティア~! 私もせんせーを抱きしめたいぃ~!」
「スバル、アンタはもう妹がいっぱいいるでしょ……そっちで我慢しなさいよ!」
「ええ~、おーぼーだよぉ~!」
年下にさえ引っ張り合いされることに抗えない自分が情けないユーノくんでした。
(誰か……、助けて…………)
それは――切な願いであった。
「ししょちょー……そろそろ、私を下してください……」
「あっ、ゴメン……ヴィヴィオ」
ユーノはヴィヴィオを下す。
「うぅ……汚されましたぁ」
「他人聞きが悪いよ……すぐに降ろさなかったのは謝るから……」
「……じゃあ、責任とって――家に来てください♪」
「なんでそうなるの!?」
「それは…………何でもいいよね♪」
「何その理不尽な理由!?」
大人モードが解けてないヴィヴィオは、ユーノをがっちり捕まえ……お持ち帰りの体勢に入った。
しかし、それをなのはが止める。
「ヴィヴィオ……ユーノくんを、返して……」
「…………なのはママ、ユーノ君はもうヴィヴィオのだよ」
「何言ってるの? ユーノくんはなのはの旦那様なの」
「うぇぇぇっっ!?」
驚愕の宣言。確かになのはに人並み以上に好意はユーノも持っていたが、いつも『お友達』な反応ばかりなので、もう希望は無いかなと思っていたのだが……。
そして、高町母娘の母娘喧嘩、勃発。
流石にこのカオスな状況に、ユーノも怒った。
自分が原因なのだろう、でもだからと言って今こうして争っている皆はいつもの皆じゃない。
――だから、止める。
ユーノが腕を振ると、彼の翡翠の魔法陣が部屋中に次々と並んでいく。
その様子を見て皆は一斉にユーノの方を向く。
「ゴメン。きっと僕がいけなかったんだ、だからここで皆を止めるよ…………。広がれ、戒めの鎖。全てを捉えろ……封鎖の檻。アレスター・チェーン・アルティメットッ!」
全ての魔法陣から発生された鎖が、その場にいた全員を捉え、固める。
そうして皆を引き離し、落ち着かせるためにユーノはみんなに謝った。
「ゴメン皆……。僕がわがままで仕事をすると言い張ったばかりに、こんなことになって……」
心から、謝った。
ただそれだけの事。
だが、それでみんなの頭も冷え、冷静になった。
互いに謝り合い、ここでこの混沌は終わりを告げた。
『司書長幼児化事件』による副次的な抗争は、ここで終わったのだった。
おまけ
何やら精神リンクでフェイトから変な感情が流れ込んできたので、心配になり様子を見に来た。すると、フェイトのほかにいたなのはたちも何やらただならぬ様子で戦っておりいったい何があったのか!? と驚いたが、それもすぐユーノの鎖で終了させられた。
ホッとして、フェイトたちに何があったのかを聞き、しばし説教をしたのち……。仕方ないのでローテーションを提案してみた。
(ぶっちゃけこのままユーノを一人で家に戻らせたら、子供の一人暮らしとかそういうこと以前に、このお子様司書長はまともな生活サイクルを送るとも思えない。よって、誰かを監視役にとのことだ)
そのローテーションはくじ引きにより決まった。
早速今夜からユーノはお泊りの日々開始である。(ただ、一人暮らしの者はユーノの家に来てもらう、という形だが)
ユーノはそのアルフの発言に驚いていたが、正直今の彼の生活状況を把握しているアルフにその事実を突きつけられるとぐうの音も出ないので、ユーノはおとなしく従うことに。
――司書長の受難は、ここからはじまる。
ゆーのくんシリーズの第三話が何だか筆が進んでしまい、勢いのままに書いてしまいました。
かなりカオスでしたね。
自分で書いててもそう思いました。
もう少し表現力を身に着けられるように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
次回からヒロインたちの家を訪れたりするわけですが、そのヒロインはまだ決めてないので、活動報告の方にアンケートを設置しておきますのでよろしければお気軽にどうぞ。
あまり集まらない場合は、適当にリアルくじ引きで決めようかと思いますのでご了承ください。
それではまた次回お会いしましょう。