クチバシティトレーナーズスクール 五年E組 ヒキガヤハチマン。
それが俺の今の肩書である。最大六年まで通うことができるトレーナーズスクールでは俺の学年は例年より生徒が多かったりする。
というのもポケモンバトルに秀でた男女が一人ずつ在籍しているからだ。
彼らと供に勉強したいと残っている奴らが挙って在籍し、クラスが入学時と変わらなかったりする。そして、その最強二人はポケモンバトルだけでなく、容姿端麗、才色兼備、成績優秀とまさに生徒の鏡であるわけで。
そんなトップカーストに存在する二人とは真逆の位置にいるのが俺だったりする。
成績は悪くはない。国語に至っては学年三位。数学は死んでるけど。ダメージ計算とか一々そんな細かいことまでバトル中に考えられるわけないだろうに。
顔は悪くないらしい(妹曰く)。
後は友達がいないことを除けば至ってどこにでもいる男子生徒である。その俺が今、絶賛大ピンチであったりするわけなのだが。
どうしてこうなった……………。
いや、理由は分かっているのだ。この場には他に二人の男女がいる。件の最強の二人が。
その二人が今日も今日とて、ポケモンバトルに勤しんでいたらしい。何も卒業式の後にまでやらなくてもいいだろうに。
だが、それは女子の方の姉貴が決めたことらしく、二人は逆らうわけにもいかずこうやって毎日ポケモンバトルをしているとのことだ。
廊下を歩いていたらそんな会話が聞こえてきたんだから仕方がない。別に知りたい情報でもないのに聞こえるような声で話すバカな女どもが悪い。
とまあ、その二人がバトルをしていて決着がついたまでは良かったのだろう。
だが、女子の方のポケモンだと思われるオーダイルが暴走を始めたのだ。暴れ出したオーダイルを恐れて、野次馬たちは俺を踏みつけてまで逃げていった。ヒラツカ先生に頼まれて掲示板に張り紙をしていた俺を、だぞ。
後で焼いてやろうかとも考えるが、今はそれどころではない。為す術を失っている二人は役に立たない。男子の方のリザードンは負けて戦闘ができるほどの力は残っていない。だからといって、放っておけば被害が広がるだけである。
生憎、暴走の原因は分かっている。
オーダイルの特性げきりゅうに奴自身が呑み込まれたのだろう。初めてだったのか、いつもより追い込まれていたのか、どっちにしても今までに起こったげきりゅうとは比べ物にならず、制御しきれていない。
奴を止める方法はあるにはある。
しかし、気が進まない。
「ウォガァァァアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
そんなこんなしていたら標的が何故か俺になっていた。
どこぞのツンツン頭のように「不幸だぁぁぁああああああ」と言って逃げればいいのかもしれないが、俺にはそんな大声を出すなんてことはできない。
だって、恥ずかしいだろ。
だが、猶予は刻一刻と迫っているようで、というか目の前に迫ってきている。
「あっぶねっ!」
オーダイルのドラゴンクローが俺がいたところにクレーターを作った。
反応が僅かにでも遅れていたら俺が木っ端微塵になっていたな、これ。
というかあの女子、いつからこいつ育ててんだよ。
なんでもう地面にクレーターができるようなドラゴンクローが放てるようになってんだよ。
「ウガァァァァラアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
再び雄叫びをあげるオーダイル。
それを聞いた俺の体は一瞬強張ってしまった。
いや、だって俺まだ十一だからな。
逃げてないだけ褒めて欲しい。
「ッッッ!?」
連続で放ってきたドラゴンクローが俺の目尻を掠った。
くそっ、このまま逃げてたって俺の命が狩られるのは時間の問題じゃねーか。
はあ、働きたくねーなー。
「チッ! 仕事だ、リザードン」
目尻から滲み出てくる血を制服の袖で拭い、一つのモンスターボールを開く。
中から出てきたのは俺の唯一の手持ちポケモンであるリザードン。
四年生になった時にオーキドのじーさんからもらったヒトカゲが、この二年弱でリザードンにまで進化したのだ。
スクールの帰りにひっそりと野生のポケモンとバトルしていた甲斐あってのことだ。
そうじゃなきゃ、友達のいない俺がバトルをして経験値を稼ぐことなんてできないからな。
「奴は水タイプだ。相性で言ったらこちらが不利だが、当たらなければいい。全て躱せ」
標的を同じポケモンに移したまではいいが、これもただの時間稼ぎでしかない。
それにこれだけ激しく動き回れば危険は拡散していることにもなる。
「おい、そこの二人! ぼーっとしてないでさっさとどっかに隠れてろ。邪魔だ!」
これだけ強く言えば、相手は同じ子供だ。
素直にいうこと聞いてどっかに隠れるだろう。
不安の色を隠しきれていない女子生徒を連れて男子生徒が木陰に隠れていくのを片目で確認し、視線をポケモンの方にへと戻す。
どうやら、技を食らってはいないらしく、逆にオーダイルの方を翻弄させているようだ。
これなら何とかなるかもしれない。
相手は水タイプ。
リザードンにも言ったが相性で言えばこちらが不利。
しかし、技は別だ。
リザードンはかみなりパンチを覚えると聞く。
当たれば効果抜群で先のバトルで消耗しているオーダイルなら、一発当てれば戦闘不能になるかもしれない。
だが、一つ極めて重大な問題がある。
俺のリザードンは…………悲しいことにかみなりパンチを覚えていない。
致命的だな…………。
かえんほうしゃを放っても効きは悪いし、はがねのつばさも水タイプには然り。
「リザードン、えんまくでオーダイルの視界を奪え」
他に効きそうな技といったらこれくらいしかない。
だが、ダメージにはならないのが痛いところだな。
オーダイルの視界が奪われた今、かえんほうしゃを連発して地道に体力を削るのが妥当なのかもしれないが。
「それじゃ、意味ないんだよな」
いつかは水タイプ対策にかみなりパンチを覚えさせようと思ってはいたんだ。
だから、今がそのいい機会なのかもしれない。
「そのままでいいから聞け、リザードン。今からお前にかみなりパンチを伝授する。一発本番、外せば不利になる可能性が高い今のこの状況で、だ。だが、だからこそ、お前も本気になれるだろう?」
ピンチはチャンスという考え方もある。
ピンチだからこそモノにできるってもんだろう。
こいつらの特性がそのいい例だからな。
「まずは拳を握れ。次に拳には電気が、いや雷撃が纏うのを想像しろ。なんなら今までに見た電気タイプの技のイメージでもいい。とにかく拳に電気が走ることを想像しろ」
精神を集中させたリザードンは俺の声のままに拳を握り、拳に意識を持っていく。
すると僅かであるがバチバチッと火花が散る音がした。
可能性は出てきた。
「そうだ、それでいい。そこからさらに力を込めろ。全力だ。体内の力を全部拳にかき集めるんだ」
徐々にではあるが電気が走るようになり、やがて大きく膨れ上がり雷に変わった。
「もっとだ。もっと大きくしろ」
こいつならまだいけるはずだ。
ここまで筋がいいんだ。
威力をあげることも難しくはないはずだ。
「今だ! 握り潰せ!」
膨れ上がった雷の塊を握りつぶすことで上手く拳を覆うようなかみなりパンチが完成した。
「ウォォォォオオオオオガァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!」
丁度視界を取り戻したオーダイルが怒りの雄叫びを上げた。
「全力で、かみなりパンチ!」
「シャァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
こちらも気持ちが高ぶったのか雄叫びを上げた。
「?!」
それがきっかけだったのだろう。
俺の視界にはいたはずのリザードンの姿が消え、代わりに目の前にオーダイルが迫ってきていた。
尻尾を振りかざすオーダイルに俺はよく分からないまま右拳を決めていた。
「ふぅ………」
今のはなんだったのだろうか。
俺がポケモンになったかのような。
右拳はピリピリと痺れる痛みが僅かに走っている。
まあ、考えても仕方がない。
今はとりあえず暴走したオーダイルを止めることができたんだ。
さっさと帰ろう。
「上出来だ、リザードン。帰るか」
これが俺たちにとっての初めて人に見せたバトルだったのは俺たちしか知らない。
にしても目が痛い。
保健室には寄って帰ろう。
「ちょっと、待ってくれ!」
誰かに呼ばれた気がする。
が、俺ではないだろう。
「君は、一体何者なんだ」
君、とは誰のことを指すのだろうか。
俺の他にもこんな危険なところに顔を出したやつがいるんだな。
「バトルの最中に、技を伝授するようなトレーナーなんか見たことないぞ」
バトルの最中に技を伝授か。
…………………俺だな。
「………」
とりあえず無言で振り返る。
ここで「え? 俺のこと?」何て言って違ったりしてたら恥ずかしいことこの上ない。
だから、何も言わないのが殊勝というモノだろう。
「君は、スクールの、学生なのか?」
振り返った先で目があったのは先の敗北者の男子生徒だった。
目があっているのだから俺で間違いないのだろう。
「………お前らと同じ学年だよ」
それだけ伝えて俺はとっとと保健室に向かった。
結構、痛むんだから呼び止めないでほしい。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「それでどうしてそんな怪我をしたんだ?」
今俺の目の前にはヒラツカ先生がご立腹の表情を見せている。
いや、俺保健室に来たんですけどなんで先生がここにいるんでしょうかね。
「張り紙の途中で階段から転げ落ちて、こうなりました」
至って無難な嘘をついておく。
もし、さっきのことを洗いざらい話したら、後が面倒なことは目に見えてるからな。
「おい、ガキが一丁前に嘘つくんじゃねーよ」
バキボキと指を鳴らすヒラツカ先生。
とりあえず怖いからやめてほしい。
さっきのオーダイルが可愛く思えるほどには超怖い。
「言ったところでどうにかなるようなことでもないですし。済んだことなので、別に先生が気にすることでもないですよ」
目尻の怪我を保険医に手当てしてもらいながら先生にそう返す。
「そういうわけにもいかんのだよ。こっちは親御さんから子供を預かってる身。こちらの不注意で怪我をさせたとなれば、問題になりかねんのだ。それになんとなく予想はできている。ユキノシタとハヤマのバトルの事故に巻き込まれたのだろう?」
そこまで分かってるんだったら聞くなよ。
「そうだとして、これは俺の判断ミスで逃げ遅れてやられただけですよ。自己責任、自業自得、誰も責任を感じるようなことではありませんって」
「さっき、突然ユキノシタとハヤマが私のところに来たかと思えば、君の人相をタラタラと語るじゃないか。しかも怪我までしたとなっては、私も黙って見過ごすわけにもいかんから来てみれば、当の本人は一向に口を割ろうとはしない」
「誰すか、それ」
「君がさっき助けた二人だよ」
別にあれは助けたうちに入らんだろう。
どっちかつーと俺の自己保身のためにやったことだし。
やらなきゃ、やられてたしな。
その副産物で助かったのなら、それは俺が助けたことにはならないはずだ。
「二人がどうしても会わせてくれって言ってきてな」
「断っといてください。俺はああいうトップカーストとは相容れない人間なんで。ぼっちは一人でいてこそのぼっちですから」
「君がそう言うとは思っていたが、事情を話してくれなければその判断も下せんのだが」
「全く、上手いこと駆け引きに持っていきますね。交換条件をつけられれば俺も話さないわけにもいかないじゃないですか」
全くこの人は。
いつも何かあるとこう駆け引きの持って行こうとするんだよなー。
教師と生徒のやりとりでそんな会話が出てくること自体おかしいと思うんだが。
「さっき先生に頼まれて、というか強制労働を強いられて掲示板に張り紙してたら、その後ろであいつらがポケモンバトルしてたんすよ。男子の方が負けたところまでは良かったんですけど、女子の方のオーダイルがげきりゅうの力に溺れて暴走したんです。そしたら、周りの奴らが俺を踏みつけてまで逃げ出して俺は逃げ遅れたところをオーダイルに狙われ仕方なく戦ったってだけです」
ナチュラルに愚痴を含めてみる。
「途中過程にいろいろと問題があるように思うのはこの際置いとくとして。君はポケモン持っていなかったように記憶してるんだが?」
気づいてはいるみたいだが流してくれた。
目が笑っていなかったけど。
「四年に上がった頃にもらいましたよ。今までスクール内でバトルなんてする機会がなかったので出すこともなかったですけど」
別にこれは嘘ではない。
ポケモンを持っている生徒は特別カリキュラムを組むことも可能ではあるが、生憎俺は取っていなかった。
そのカリキュラムでは実践的なポケモンバトルの実力をつけることができるらしいが、そんなものは野生のポケモンでなんとかなるからな。
「ほーう、なら何か? この二年弱の間、ずっと私はお前の実力を見誤っていたというのか?」
「別にそういうことにはならんでしょ。俺の実力なんてテストの結果を見れば、分かると思いますけど?」
でなければテストの意味がないだろ。
進級するのに必要ってだけでは他にもっとやりようがあるからな。
「そういうことを言いたいんじゃないんだが。二人の話によればバトルの途中で新しく技を覚えさせていたと聞いたんだが?」
やっぱり、人に見せるもんじゃないな、と俺はこの時強く思ったのは言うまでもない。
「それが先を見通した上で一番効率がいいと思ったんでそうしただけですよ。失敗すれば俺たちはこんな怪我じゃすまなかったでしょうけど」
どっちにしようがいつかは覚えさせようと思っていた技なのだ。
それが遅いか早いかの違いはあれ、覚えることにはかわりない。
なら、最高に集中できる追い込まれたあの時がいい機会だと思う。
後悔はしていない。
「随分と危ない橋を渡ったな。一歩間違えればあいつらまで巻き込んでいたかもしれんぞ
?」
「それはないですよ。あのオーダイルの目は強いものにしか興味のないような目をしてましたから。標的を俺たちから外すことはなかったと思いますけど?」
危ないのはどのポケモンバトルでもそうだろう。
いい例がさっきのあいつらだ。
あの二人だってまさか特性のげきりゅうに呑み込まれて暴走するなんて思いもしなかっただろうからな。
それはまた、あの野次馬どもも然りだ。
「全く、君はどうしてそんな捻くれた性格になってしまったのだ。昔はもっとこう………可愛げが……………ないな」
「人間そうそう変わりませんて」
俺は昔からこんな。
だからと言って、自分を変えたいなどとは思わない。
いくら友達がいなかろうとカースト最底辺だろうと俺はこんな自分が大好きである。
変える必要なんてどこにもないのだ。
「まあいい。事情は分かった。今日は帰っていい。話はまた明日聞く。気をつけてな」
後手に手をひらひらさせながらヒラツカ先生は保健室から消えていった。
どうでもいいが超男前だった。
「ふふっ、ヒキガヤ君はヒラツカ先生には弱いのね」
ちょっとー。
背筋に寒気が走るからいきなり喋るのやめてもらえませんかねー。
「う、うっす」
こんな反応しかできなくなっちゃうじゃん。
いつも通りですね。
テンプレ化してるまである。
「ヒラツカ先生ももう少し優しくしてあげればいいのに。あれで結構責任感じてるみたいだし、すっごく心配もしてるのよ。顔には出さないけどね。あーあ、また後で色々聞かされるんだろうなー。どうして私はあの時ヒキガヤに仕事を押し付けてしまったんだーとか、どうしてあの時私はあの場所にいてやれなかったんだーとか。しかも今日は怪我したのがヒキガヤ君だからね。大分、荒れるんだろうなー」
なんか想像できてしまった自分が情けない。
怪我なんてしなければそこまで心配はかけなかっただろうに。
他人に迷惑かけるなんてぼっち失格だな。
これからはリザードンだけでなく俺自身も鍛えた方がいいのかもしれない。
本気でそう思ってしまった。
「………とりあえず、明日謝っときます」
「うん、よろしくね」
どうにも馴れ馴れしい人間は苦手だ。
まるで自分が負けているように感じてしまうから。
そして、それが事実であったりするからだ。
だが、たまには悪くないのかもしれない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
翌日。
俺は再びヒラツカ先生に呼び出されていた。
「で、なんでこの二人もいるんですかね」
だが、呼び出されたのは俺だけではなく、先の男女二人組もだった。
俺昨日、正直に話したのに、会うの断ってくれたんじゃねーのかよ。
「会わせるかの判断はしかねると言っただけで、正直に言ったからといって断るとは言ってないぞ」
この腐れ教師め。
言葉の綾でまんまと俺をはめやがって。
「子供相手に大人気なくないですか」
「なんだ? 子供扱いして欲しかったのか?」
「うぐっ」
だめだ。
勝てる気がしない。
「よろしい。………それで君たちを呼んだのにはわけがあるんだが」
「勿体ぶらずに言ってください」
女子の方がはっきりとそう口にした。
「実は新入生をもっと呼び込もうという話になってな。来週、そのイベントのメインに抜粋した生徒のポケモンバトルをやることになったんだ。そこで君たちにはそのイベントには出てもらおうと思ってな」
また、面倒なイベントを考えやがって。
しかもなんで俺もなんだよ。
「お断りします。そのイベントに出たところで私が得られるものなんてあるとは思えません」
俺が断ろうとしたところで先を越された。
それにしても意外だな。
こいつらなら、張り切りそうなことなのに。
「ユ、ユキノちゃん………」
男子の方は頼りなさそうだし。
普段あんなに人の注目集めてるのにな。
「逃げるのか?」
「なにを!?」
「昨日のことにまだ恐れているんだろう? 次バトルした時にもまた暴走してしまったら。そう考えられずにはいられないという顔をしている」
あー、なるほど。
要するに本題はこっちなわけね。昨日のことを一番に責任を感じてるのはきっと彼女なのだろう。自分がもっとしっかりしていたら、とか思っては過去を後悔している。
だが、それは終わったことだ。なってしまったものは仕方がない。仮定の話をしたところで過去が変わるわけでも時間が戻るわけでもないのだ。
「そ、そんなこと!」
「ないと言い切れるのか?」
「うっ」
しかしそこはまだ子供。
言いたいことはあっても上手く言葉にできないらしい。
まあ、こう感情をむき出しにしてる時点で勝負は見えてるがな。
「……先生はユキノちゃんをどうしたいんですか?」
ここまで、頼りなさそうなオーラを出していた男子の方が、静かな怒りを込めて先生に言い放った。
「私はな、昨日のことを後悔している。なぜ私はあの時君たちの側にいてやれなかったのだろうか。なぜヒキガヤに仕事をさせてしまったのか。そして、私があの場に居合わせたとしてヒキガヤみたいに暴走を止めることができたのだろうか、てな」
いや、多分先生なら簡単に止められたと思うんですけど。
なんなら、先生自身が止めに入りそうなのに。
ポケモンみたいな格闘技持ってるし。
「そ、それとこれと何の関係があるというんですか!?」
こいつらまだ分からないのか。
「関係ならあるさ。だが、私は敢えて答えは言わないでおくよ。これは自分で気づいてこそのものだからな」
「意味が分かりません」
「そう言っている間は何も見えてきはせんよ」
分かったら今日は解散だ、と案に話は済んだとそう告げてくる。
いやいや、そんなあっさり終わらされても困るんだけど。
「あの、これ俺いる必要ありました?」
俺さっきからずっと空気だったんですけど。
いつも通りって言えばそれまでなんだけど。
「ああ、もちろん。君にもイベントのことを伝えなければならなかったからね」
「は? 俺も出るんですか?」
え?
俺も出なきゃなんねーの?
こいつらだけじゃなくて?
「当たり前だろう?」
なんでそんな当たり前になってるんだよ。
「なんでだよ」
「私が個人的に君のバトルを見てみたいからだが?」
全く当たり前じゃねーよ!
仕事に私情を挟みすぎだろ。
「なんつー私的な理由なんだよ」
「これは強制だ」
なんつー横暴な。
労働基準法もあったもんじゃねーな。
これじゃ、奴隷制度に逆戻りしてんじゃねーか?
二人が出て行くのを見据えたかと思うと彼女はこう言った。
「さっきはああ言ったが、次暴走しないとも限らない。しかもイベントでとなると被害は彼女たちだけじゃ済まないかもしれない。だから、一度暴走を止めている君がいれば心持ちとしては安心できるんだよ。気は抜けないがね」
それって………。
要するに暴走したら任せたぞってことだよな。
「はあ、大人って汚ねーな」
「今から大人の世界を知っておくのもいい社会勉強だよ」
そんなもんを十一歳に見せるなよ。
「というわけだ。頼んだぞ」
「はいはい、分かりましたよ」
働けばいいんでしょ、働けば。
あーあ、仕事したくねーなー。
こうして、俺は強制労働を予定に組み込まれた。