今回の話には相模アンチな部分が含まれます。
相模に対するアンチが許せないと言う方はブラウザバックをお願いします。
また、今回ゲスト出演した天童菊之丞と天童和光は原作であるブラックブレットでは祖父、孫と言う関係でしたが、この世界では親子関係と言う設定です。
アメリカ海軍最新鋭艦の強奪事件、真白と葉山との婚約騒動が終結してから少しして、もえかはブルーマーメイド本部から招集を受け、出頭時間の15分前に出頭した。
「知名もえか、招集に応じ、出頭しました」
「待っていたわ、知名艦長」
出頭した先の執務室には平賀が待っていた。
もえかが高校時代まで、この部屋の主は真霜であったが、彼女はあの横須賀女子の海洋実習の後、葉月から天照を託された後、調査室室長の役職から天照の艦長職へと異動し、室長の地位を平賀に譲ったのだった。
「あの‥‥今日はどのような件で‥‥?」
もえかは平賀に今日自分を呼び出した要件を訊ねる。
「あっ、ちょっとまって、もう一人来る事になっているの‥‥」
今日、この日呼ばれたのは自分だけでなく、もう一人誰かが呼ばれたみたいだった。
そして、出頭時間となるが、もう一人の人物は一向に現れる気配がない。
「うーん‥ちょっと遅いわね」
平賀が腕時計をチラッと見てもう一人この執務室に来る予定の人物が遅刻している事をボソッと呟く。
「すみません、ちょっと道が混んでいてちょっと遅くなってしまいました~」
執務室にショートカットで紫がかった茶髪のブルーマーメイド隊員が入って来た。
一応平賀に遅れた理由を話したが、その様子から罪悪感など一切感じていないような様子にも見える。
「遅いわよ、相模艦長」
平賀もその様子を感じたのか、注意する。
「ですから、艦から此処まで来る途中の道が混んでいたんですよぉ~」
「知名艦長は出頭時間の15分前には来ていましたよ。貴女もブルーマーメイド隊員ならば、時間前行動の精神を新人研修でやったと思うけど?」
平賀は少しムッとした顔で相模と呼ばれたブルーマーメイド隊員に言い聞かせる。
「それはすみませんでした~それで、うちは今日は何の用で呼び出されたんですか?」
「‥‥今日、二人を呼んだのは貴女達にある任務を行ってもらうからです」
相模の態度に相変わらずムッとしながらも平賀は二人を呼び出した要件を話す。
もえかも相模の態度には好感を得られるはずもなく、やや嫌悪感を覚える。
「「ある任務?」」
「今度、小橋総理のお嬢さん、小橋若葉さんが公務の為、海外へ渡航します。その護衛を貴女達にしてもらいます」
平賀は今回首相官邸とブルーマーメイド本部にて作成した総理大臣の娘の当日の行動と護衛計画の資料を相模ともえかに手渡す。
「当日、若葉さんは相模の艦、夷隅(いすみ)に乗艦してもらい、知名艦長の櫛名田は夷隅の随行護衛をしてもらいます」
手渡された資料を相模ともえかは見ながら、自分達の予定を確認する。
「では、小橋若葉さんの護衛、しっかりと頼みましたよ。いいですか?くれぐれも粗相のないように‥ああ、それから知名艦長はもう一つ、別件があるから残ってくれる?」
「は、はい」
要件を伝え終わり、相模は平賀の執務室から出ていく。
「‥‥平賀さん、何なんですか?あの人?」
もえかは相模の態度を見て相模の態度は問題があるのではないかと平賀に問う。
「相模南‥私と同期入隊の隊員で、夷隅の艦長よ」
平賀は相模の人となりをもえかに伝える。
出身校は異なるが、平賀と相模はブルーマーメイドの同期入隊で、新人の頃は同じ隊に居た事があった。
平賀が見た彼女の人となりは、自身の信念や正義というものは基本持ち合わせておらず、人よりも秀でた能力も無く、人より秀でた行動もできない。
ブルーマーメイドになったのもブルーマーメイドが女子の花形職業だったから‥しかも彼女は集団内におけるカーストのトップに君臨すること」のみに自身の存在意義を見出しているため、集団内において常に主導権を握らないと気が済まない性格で集団内における自身の地位とイメージに異常に執着し、自身のイメージを美化するためなら、偽善的なパフォーマンスも平気でやってのけるほど。そのためなら、手段も選ばないこともある。
しかも、これらのことを楽して行うとするから余計にタチが悪い。
平賀の他の同期の隊員には相模を毛嫌いする者が当然居た。
当然相模本人はその事をちゃんと理解しており、自身の気に入らない人物・事象は徹底的に見下す傾向があり、それは今でも変わらないと言う。
現に彼女が艦長を務める艦でも新人が異動願を出してくるケースが度々ある。
それは先程の平賀と相模のやりとりを見れば一目瞭然だった。
もえかとしてはそんな人物がよく艦の長になれたのか不思議でたまらない。
「今回の総理大臣の御令嬢の護衛も、正直に言って彼女の艦には任せたくなかったんだけど、シフトの都合上、どうしても彼女と貴女の艦しか出来なかったの」
「はぁ‥‥」
「貴女の艦だけで担当しようかと思ったんだけど、官邸側から『一隻で大丈夫なのか?』って言われてブルーマーメイド側としては『絶対』とは言い切れなかったの‥‥最近、政府の方でも色々スキャンダルが報道されているでしょう?」
「ああ、確か国交省副大臣の海上都市建設の談合‥ですね?」
「ええ、総理としては自分の内閣内のこの問題を徹底的に追及していく構えだけど、政治家って言うのは色々と裏の顔があったりするから、総理、総理夫人も我が子の事を結構気にしているみたいなの」
「それなら、御令嬢の公務を中止にしては‥‥?」
「そうしたいのもやまやまなんだけど、この公務は談合騒動の発覚の前から決まっていた事で、今更キャンセルをして国の恥を諸外国に晒したくないって政府の意向というか、プライドもあってね‥‥」
「それはまた面倒な‥‥」
「まぁ、流石に彼女も現職総理の御令嬢を無碍に扱うって事は無いと思うけど‥‥」
平賀としてはやはり、総理大臣の娘が関係する案件と言う事で不安が拭えなかった。
もえかが平賀の執務室を出てブルーマーメイド本部の通路を歩いていると、
「ねぇ」
もえかは背後から声をかけられ、振り向くと其処にはさっきまで平賀の執務室に自分と一緒に居た相模が居た。
「あっ、たしか‥相模‥さん?」
「ええ」
相模は目を細める。
その目つきはあきらかにもえかを見下しているかのような目付きだった。
そして口元を緩め、もえかを小馬鹿にしたような笑みを浮かべて近づいてくる。
大方、自分が年上な事と今回の護衛任務で、その護衛対象である総理大臣の娘が自分の艦に乗艦する事から今回の任務の主役は自分であり、もえかはあくまでもお飾り脇役だと思っているのだろう。
「今度の任務、私の艦に総理大臣の娘さんが乗るみたいだから、貴女には随行護衛を完璧にこなしてもらうわよ」
「はぁ‥‥」
「まぁ、いくらなんでも航行中に海賊やテロリストが襲って来る訳無いと思うけど、万が一、襲ってきてうち等の艦にかすり傷一つでも追う事が有れば、それは随行護衛を全うできなかった貴女の責任だからぁ~その点は忘れないでよねぇ~」
「‥‥」
相模の言葉から万が一、今回の護衛任務中に海賊やテロリストの襲撃があり、夷隅が被弾したりしたらその責任は全てもえかが取れと言う。
襲撃が無いに越した事が無いが、物事に絶対など存在しない。
「それじゃあ当日の護衛お願いねぇ~せいぜい頑張って私の艦を守ってよねぇ~」
相模はヒラヒラと手を振りながらその場を去って行った。
「‥‥」
もえかは先程の平賀同様ムッとした表情で相模の後姿を見ていた。
櫛名田に戻ったもえかは早速、今回の護衛任務の件を乗員に説明した。
ただし、相模が言った万が一、海賊やテロリストの襲撃があり、総理大臣の娘の乗艦している夷隅が一発でも被弾する様な事があれば、その責任はもえかにある事を黙っていた。
相模の言う通り絶対に海賊やテロリストの襲撃があるとは言い切れないし、変な事を言って乗員の士気を低下させたり、不安にさせたくは無かったからだ。
もえかと相模が総理大臣の娘の護衛が決まった日、某所にある廃ドックでは、そこが廃ドックにもかかわらず、ドックには水が満たされ一隻の大型貨物船が係留されていた。
そして、その貨物船を整備する大勢の整備士たちの姿もあった。
そんな廃ドックの事務所にはサングラスに黒服を着た男と青い髪にメイド服を着た少女が居た。
「まぁ、個人的な意見では、政治家の汚職は後を絶たず、見ていて胸糞が悪くなる部分もあるが此方としても小間使いの身でね‥‥そう言う意味では君達、テロリストと言う生き物が時々羨ましく見える事があるよ」
黒服の男は今回何故この様な事になったのか先日の出来事を思いかえす。
男が自分の飼い主である天童菊之丞から呼び出しを受けたのは彼の息子にして国土交通省副大臣のポストについている天童和光が海上都市建設の談合疑惑をマスコミに叩かれ、本来彼を庇うべき総理大臣が談合の詳細を明らかにすると国会で明言したその日だった。
天童菊之丞‥‥東京帝国大学を主席入学、主席卒業をした後、財務省官僚を経験し、政財界に深いパイプを築き上げ、退官した後、金融、不動産を始めとする様々な企業を起業し成功した人物で日本は勿論、世界的に有名な人物であった。
ただしそれはあくまでも表向きであり、裏では決して表沙汰にできない行為や法に引っかかるかなりあくどい事をして今の地位と財産を築き上げていた。
そんな彼の息子が父親と同じく法に引っかかる行為をしたのだが、父親と違い詰めが甘かったのか、彼の汚職が世間にバレてしまった。
これが菊之丞の子飼いの部下ならば彼は簡単に切り捨てる所だが、今回不正をしたのが自分の息子と言う事で菊之丞は彼を擁護することにしたのだが、親子である為表立って彼を擁護することが出来ない。
そこで彼は息子の上司にも当たる現職の総理大臣に彼の擁護を頼んだが、総理大臣はそれを拒んだ。
勿論、菊之丞もバカではなく、息子が談合に関わっていた事を隠し、適当に国交省の官僚に責任をなすりつけてうやむやに終わらせようとしたのだが、総理は菊之丞からの脅しに対しても「脅迫には屈しない」とあくまでも彼からの頼みを断った。
「あの堅物め、政には金がつきものだと言うのにそれを全くわかっとらん。ああいう堅物は一度痛い目に遭わねば政治を理解しないとみえる‥‥そう言えば、今度奴の娘が公務の為、海外へ行く予定があったな?」
「ええ」
「‥‥海には危険がつきものだ‥‥命を落とす事だってあるかもしれんな‥‥そうだろう?」
「‥‥」
(獅子身中の虫とはまさに貴方の様な人間ですね)
菊之丞は遠回しにテロリストか海賊を雇い、襲撃しろと言ってきたのだった。
飼い主から頼まれた彼は世界的に有名なテロリスト、双角鬼と呼ばれる双子の姉妹のテロリストと接触し、いい値を払って今回、総理大臣の娘が公務で海外へ遠征する際襲撃し、総理大臣の娘を亡き者にしてくれと依頼したのだった。
総理本人ではなく、彼の娘を狙ったのは天童菊之丞に逆らえばどうなるか、それを総理に知らしめるために敢えて彼の娘を狙ったのだ。
彼の娘を殺した後、自分の頼みを無視した報いと今後、自分に逆らえない様にする為の見せしめでもあったのだ。
使えている身としては否定も文句も言えないが、男は内心、この親子が日本をダメにするのではないかと心の中で思った。
「そうですか‥‥だから、何十億もする船をポンと簡単にくれる訳ですか?」
青髪のメイド少女こと、レムは黒服の男の言葉に対して興味ないですと言った感じで返答する。
「理由はそれだけではない。『双角鬼(そうかくき)』と呼ばれる君達、姉妹の腕を信じてこその先行投資だ」
「ビジネスにはあまり興味はありません。私達は依頼された事を行い、それなりの報酬をもらう‥‥それだけです」
(先行投資‥‥つまりは今後も私達に依頼をすると言う事‥‥?私達は暗殺者じゃなくてテロリストなのに‥‥それとも秘密を知ったから私達を子飼いにでもする気でしょうか?もし、そうだとすれば、私達は貴方達のような下衆如きが飼いならす鬼でないと証明するまでですけどね)
レムは無表情のまま、黒服の男をジッと見る。
「いい答えだ。流石は一流のテロリストだ」
「でも、いいのですか?国際的な指名手配犯に依頼なんかして‥‥そう言うスキャンダルは貴方の飼い主的にも不味いんじゃないんですか?ただでさえ、貴方の飼い主の息子がスキャンダルのネタにされているのに」
「バレないさ‥‥うまくやっているし、こういう裏の案件を積み重ねてあの方は今の地位に居るのだからな」
「私達がマスコミに売るかもしれませんよ。お小遣い稼ぎの為に」
「それはない。双角鬼は義に厚いと聞いている。だからこそ、今回の依頼を君達に任せた」
「義‥ですか‥‥?それは随分と時代錯誤な事を言いますね。フリーのテロリストが信じるのは、クライアントとのお金で繋がる刹那的な関係と切っても切れない肉親との関係だけですよ」
レムはそう言ってドックで整備士たちに対して毒を吐いている姉のラムの姿をチラッと見ていた。
政財界の影の黒幕とも言える人物の野望が絡む中、やがて要人護衛の日となり、相模の夷隅ともえかの櫛名田の二隻は東京湾晴海埠頭に停泊していた。
見送りには今回の護衛対象の父親でもあり現政府の内閣総理大臣である小橋総理大臣も来ており、晴海埠頭は物々しい警戒態勢がとられていた。
「初めまして、小橋若葉です。今回は私の海外公務の為、お世話になります」
もえか達の前に現れ挨拶をしたのは、黒髪にサイドアップテールをした一見女子高生と見間違えるぐらいのあどけなさをもった女物のビジネススーツを着た女性だった。
この女性こそ、現職総理大臣の娘であり、今回の護衛対象である小橋若葉だった。
彼女の前には夷隅の艦長である相模と副長らしき明るい茶髪でお団子の髪型をした女性、そして櫛名田の艦長であるもえかと副長の幸子が立っていた。
最も相模はもえかに責任を押し付けたが、今回の護衛対象や現職総理の前で、あくまでも今回の任務では一番偉いのは私ですと言わんばかりにもえかや幸子らより一歩前に若葉の近くに立って居る。
(ふん、いかにも世間の辛さを知らない箱入り娘って感じね)
相模は若葉を一目見て心の中で毒づいた。
父親が政治家、しかも現職の総理大臣と言う事で生活に関しては大した苦労もなく、実家も金持ちなのだろう。
勿論、社会的地位もブルーマーメイドである自分よりも高い。
「はじめまして、若葉さん。私は今回、貴女の護衛を務めます、ブルーマーメイド所属、夷隅艦長の相模南です」
相模は当然心の中で思った嫉妬心を表に出す事無く、営業スマイルを浮かべて若葉に挨拶をする。
「同じく、夷隅副長の由比ヶ浜結衣です」
「よろしく、相模艦長、由比ヶ浜副長」
夷隅側の乗員の挨拶が終わり、続いてもえか達櫛名田側の挨拶となる。
「はじめまして。ブルーマーメイド所属、櫛名田艦長の知名もえかです」
「同じく櫛名田副長の納沙幸子です」
もえかと幸子が若葉に自己紹介をしたら、若葉のテンションがいきなり高くなり、
「まぁまぁまぁ、貴女があの天照の艦長、知名もえかさんですね!?」
もえかにズイッと近づく。
彼女の父親である小橋総理は娘のそんな様子が初々しいのか思わず苦笑している。
「えっ?ええ‥ですが、私が天照の艦長だったのは高校一年生の実習の時だけで‥‥」
「存じ上げておりますわ。あのラット騒動の中、勇敢に艦と乗員を指揮し、ウィルス感染した武蔵を止め、日本をラットウィルスからの脅威から救った救世主」
「い、いえ、それは私だけの力ではなく、天照の皆の力があってこそです」
(それに、一番の功労者は‥‥)
若葉はまるで英雄かファンであるアイドルにでもあったかのような口ぶりだったが、もえかとしてはその賛美を浴びるのは自分ではなく、あの実習で命を落としたあの人だと思った。
「今回の航海であの救世主である貴女と共にできる事を無情の光栄と思います」
「きょ、恐縮です」
もえかが一礼すると、若葉はもえかとの距離を更に詰めると、
「んっ‥‥」
「んっ‥‥」
いきなりもえかの唇を自らの唇で塞いだ。
若葉のこの行為に相模も由比ヶ浜も幸子も唖然とし、キスされたもえか本人は完全に思考が停止した。
一方、若葉の父親である小橋総理は娘が同性とは言え、もえかにキスをした事に対して何らリアクションは取らなかった。
「素晴らしい航海を期待していますわ。知名艦長」
若葉はもえかにキスを終えると、まだ思考が停止しているもえかに輝く様な笑みを浮かべてそう言った。
様々な思惑の中で、前途多難な要人護衛の航海が始まろうとしていた。