ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

74 / 80
6話 強襲

 

テロリストの手によってアメリカ海軍から奪われた最新鋭の軍艦を航行不能とし、その新鋭艦に乗っていたテロリスト全員の身柄を拘束したもえか率いるブルーマーメイド所属の重巡洋艦 櫛名田。

しかも互いに死亡者なしの結果は傍から見たらこれは大戦果である。

しかし、港に帰港した櫛名田はブルーマーメイド本部より、ある通達を受けた。

それは、

 

「櫛名田全乗員は上陸を禁止とする」

 

と言う櫛名田の乗員全員に対する謹慎を伝える通達だった。

櫛名田は港に係留されたが、タラップを下ろす事は許されず、片舷からはブルーマーメイドの艦艇、陸らかも監視される状態となった。

新人の乗組員にとっては『自分達はテロリストを捕えたのに何故謹慎処分がくだされなければならないのか?』と不満たらたらだった。

そんな不満を募らせる新人のメンタルケアを行うのも艦長‥そして上級士官の務めであり、謹慎処分二日目の夜にもえかは酒保物品庫の一部の開放を許可して甘味品、酒、煙草を放出した。

謹慎中とは言え、飲酒等が禁止された訳ではなく、あくまでも上陸のみが禁止されただけであり、酒保物品庫の一部の開放はなんら規則違反ではなかった。

杵埼姉妹やみかんが作ったスイーツ、お酒をふるまわれた新人達は一晩のこの宴会を大いに楽しんだ。

それから数日後、櫛名田に謹慎中だったもえかに海上安全整備局本部より通達が来た。

 

「櫛名田艦長、知名もえかは本部へ出頭せよ」

 

これは、強奪艦への発砲及び葉山法務官に対する暴行の事情聴取の為であった。

もえかが、櫛名田が停泊する港湾地区からバスで海上安全整備局本部へと行こうとした時、もえかの前に一台の車が停まる。

車に乗っていたのは真霜だった。

 

「真霜さん」

 

「送るわよ」

 

真霜はもえかにウィンクしながら彼女を海上安全整備局本部へ送ると言う。

もえかは真霜の運転する彼女の愛車、ユーノスロードスターで海上安全整備局本部へと向かった。

 

 

「艦長、大丈夫かな?」

 

「心配しても、今の私らにはどうする事も出来ないじゃん」

 

「うぃ」

 

櫛名田のサロンで鈴は海上安全整備局本部へと向かったもえかの事を案じる。

一方、西崎と立石は謹慎中の身ではどうする事も出来ない事を示唆する。

 

「でも‥‥はっ!?ま、まさか、私達このままクビ‥‥なんてことはないですよね?」

 

テロリストに強奪されていたとはいえ、アメリカ海軍の軍艦を攻撃したので、櫛名田乗員全員には何かしらの重い処分があるのではないかと思ってしまう。

既に謹慎処分を受けている身であるが、これはあくまでも仮の処分‥‥

この後、海上安全整備局本部で本当の処分が協議されてブルーマーメイド本部から正式な処分が下り、その処分が懲戒免職処分なのではないかと想像して、不安になる鈴。

 

「『誰がクビなんか クビなんか怖かねぇ!!』」

 

と、幸子は声質を変えて恒例の一人芝居をする。

 

「でも、ココちゃん‥‥」

 

「『怖いか、クソッタレ。当然だぜ。ブルーマーメイドの私に勝てるもんか』」

 

「でも、このままじゃ、私達、ブルーマーメイドの前に『元』がついちゃうよぉ~」

 

「まぁ、落ち着いてください、知床さん。学生の時なんかは反逆者の烙印を押された私達ですよぉ~大丈夫ですって」

 

「そうでぇい、航海長、此処でウダウダ悩んでいてもしかたがねぇだろう」

 

「うーん‥だといいけど‥‥」

 

幸子は学生時代には一時的であるが、自分らは反逆者の汚名を着せられ、半ば賞金首扱いをされた事もあったのだ。

それに比べたら今回の出来事なんてどうって事ないと言う

同じく、麻侖も悩んでいても仕方がない、なるようになると言う楽天主義だった。

それでも、鈴はやはり不安が拭いきれなかった。

 

「まぁ、まぁ、知床さん、榊原さんの言う通り、此処で悩んでいても仕方がありませんし、ここは気を紛らわせるためにしりとりでもしませんか?」

 

幸子は気を紛らわせる為にしりとりをしようと言う。

 

「えっと‥‥じゃあ、『魚雷』」

 

西崎が最初の言葉、『魚雷』から始まったしりとり。

 

「い、インク‥‥」

 

続いて鈴が『魚雷』の終わりの言葉、『い』から始まる『インク』と答えると、三番目の回答者である幸子は、

 

「クルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロックポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット‥‥次は『と』です」

 

とドヤ顔で『く』から始まる言葉を言い放ち次は『と』であると伝えると、

 

「ドヤ顔やめい!!『と』ですじゃないよ!!」

 

幸子の答えに西崎がすかさずツッコミを入れる。

 

「なにそれ!?呪詛!?呪詛なの!?副長、一人芝居や任侠モノに飽き足らず、とうとう呪いにまで手を染めたの!?」

 

「えぇー知らないんですか?バンコクの正式名称ですよ。やんごとない名前ですよー」

 

「そんなの知るか!?」

 

幸子と西崎のやりとりを見ていた鈴は昔、高校時代の実習中にあったある出来事を思い出して、幸子に尋ねた。

 

「ココちゃんって外国が好きなの?ほら、高一の春の実習中の時にもジンバブエのお金を出していたし」

 

「うっ‥‥」

 

グサッ!!

 

鈴の問いに対して幸子の胸にグサッと矢が刺さったように見えた。

 

「ああ、あの時盛大にスベっていたよね。確かトイレットペーパー募金の時」

 

鈴の言葉から西崎もあの時の出来事を思い出した。

当時は滑ったかもしれないが、今となっては懐かしい思い出で、思い出すと自然に笑いがこみ上げてくる。

 

「んもっー!!滑ったとか言わないでくださいよ!!」

 

幸子にとってあれはどうやら黒歴史だった様だ。

 

「あの時は、いつか使えるかと思ってずっとお財布の中に忍ばせていたジンバブエドルだったのに万里小路さんの小切手のインパクトに食われちゃったんですよ!!」

 

悔しさを間際らせるために言い訳をしながら鈴に抱き付く幸子。

 

「あんま、関係ないと思うけどね‥‥万里小路さんは‥‥」

 

西崎は呆れながらツッコミ返す。

なんかグダグダとなってきた空気の中、

 

「それじゃあ、次は古今東西ゲームでもしますかー」

 

幸子はしりとりを止めて古今東西ゲームをやろうと言う。

 

「切り替わり早っ!?なんか怖いよ‥‥」

 

あまりの切り替えの早さにちょっと引く西崎。

 

「まぁ、めげない所がココちゃんの良い所じゃないのかな?」

 

一方、鈴は幸子の切り替えの早い所は彼女の美徳なのではないかと思った。

まぁ、何はともあれ、幸子のおかげでこのどんよりとした空気を変えることが出来たのは事実なのだから‥‥

 

 

その頃、真霜の運転する車で海上安全整備局本部へ向かっているもえかは‥‥

 

「ここぞと言わんばかりにあの男(葉山)は偉く気合が入っていたわ」

 

運転中、真霜がもえかに葉山の状況を伝える。

 

「彼、随分と貴女ことを目の敵にしていたけど、何かあったの?」

 

「艦橋内で少々もめごとになりましてね」

 

「へぇ~艦橋内‥‥でね‥‥」

 

「ええ、艦橋内で‥‥それよりも例の強奪艦はあの後、どうなったんですか?やはり、アメリカ海軍の元に返還されたんですか?」

 

もめごとが起きた現場が艦橋と言う事で真霜ももえかも含む言い方をした。

そして、もえかは葉山も事は放っておいて、自分達が戦った例のアメリカ海軍の強奪艦について尋ねる。

 

「船体はアメリカ海軍横須賀基地のドックへ運ばれてブルーマーメイドアメリカ支部の立会いの下、調査中‥‥乗員に関しては海上安全整備局本部で現在取り調べ中よ」

 

「そうですか」

 

強奪艦についてその状況を聞いた後、もえかは車窓の外の風景を呆然としながら見ていた。

やがて、海上安全整備局本部の出入り口まで来ると、門の守備をしている警備員と誰かが揉めていた。

いや、揉めていると言うよりも警備員が困惑していると言っていた方が正しかった。

警備員が対応しているのは右目に前髪が掛かっている水色の髪でショートヘアーが特徴のメイドだった。

 

((なんでこんな所にメイド?))

 

あまりにも釣り合わない場所と人物に真霜ともえかもギョッとする。

そしてそのメイドは日本語でも英語でもない言語を話して門の警備員を困惑させていた。

 

「えっと‥君の言っている事が分からないんだけど‥‥おい、誰か通訳できるヤツ、居るか?」

 

仲間の警備員に助けを求めてもメイドの言葉を聞いて他の警備員達は首を横に振るだけだった。

 

「あれは、何処の国の言語でしょう?」

 

「あの発音とアクセントは‥‥恐らくマレー語ね」

 

真霜は、あのメイドの会話の内容は分からないが、あのメイドが話している言語については何処の国の言葉かは分かった。

 

「マレー語‥‥」

 

(なんで、そんな言葉を話す人が‥‥しかもメイドがどうして此処に居るんだろう?)

 

もえかはマレー語を話す謎のメイドにちょっと不審感を抱いた。

 

「どうぞ、お通り下さい」

 

マレー語を話す謎のメイドをチラッと見ている間に通行手続きが終わり、柵がどけられる。

そして真霜が車を出そうとした瞬間、メイドはダッと駆け出した。

 

「あっ、待て!!」

 

メイドは突然駆け出し、ジャンプすると真霜のユーノスロードスターの後部に飛び乗るメイド。

警備員は咄嗟に銃を構えるが、真霜ともえかが車に乗っているので下手に発砲出来なかった。

 

「なっ!?」

 

「っ!?」

 

突然車に飛び乗ったメイドに驚く真霜ともえか。

メイドは驚く二人を尻目にどこしまっていたのか‥‥?

 

ジャラ‥‥

 

鈍い金属音を出しながら、棘と鎖のついた鉄球‥モーニングスターを取り出した。

 

「貴女‥一体‥‥」

 

「止まらず、そのまま車を走らせて‥‥此処でひき肉になりたくなかったらの話ですが‥‥」

 

メイドは冷たい目でギロッと真霜を睨みながら車を走らせろと脅す。

真霜としても此処で抵抗すればもえかも自分も命の危険があったので、メイドの指示に従うしかなかった。

 

「こんな事をしてもココは海上安全整備局の本部‥すぐに追手が来て捕まるわよ」

 

「‥‥」

 

もえかの忠告を無視してメイドは腕時計を見る。

すると、海上安全整備局本部の建物の一部で爆発が起きた。

 

 

海上安全整備局本部で爆発が起きる少し前‥‥

本部内の留置場の一室に先日の強奪艦の乗組員一人‥‥強奪犯のリーダーから『ラム』と呼ばれた人物がそこに収監されていた。

 

「飯の時間だ」

 

そこへ、配食係がやってきて留置人に食事を配って行く。

そして、ラムの収監されている留置場へと行くと、

 

「ほら、飯だ」

 

「‥‥」

 

配食係から食事を受け取った。

 

「大事に食べろよ‥‥特製だからな」

 

「‥‥」

 

配食係は何やら意味深な言葉をラムに投げかけた後、去って行く。

 

「‥‥」

 

配食係から受け取った大きな二つのパン。

ラムが慎重に二つのパンを手でちぎると、中には爆薬と起爆装置が仕込まれていた。

それを見たラムは手慣れた様子で爆発物を設置し起爆させた。

爆発の轟音は港にまで響き渡った。

櫛名田で当直をしていた見張り員が向かい側の岸にある海上安全整備局本部ビルが突如爆発するのを見て、目を見開く。

そして、急いで副長の幸子に報告を入れる。

 

「副長!!海上安全整備局本部にて爆発を確認!!」

 

「なっ!?」

 

「海上安全整備局の本部で!?」

 

「確か、今艦長がそこに行っている筈じゃ‥‥」

 

幸子達の間に動揺が広がる。

 

「状況は!?」

 

「分かりません。何せ、突然の事でまだ此方にはなんの情報も入って来て来ません!!」

 

「くっ‥‥緊急スクランブル!!海鳥発艦用意!!」

 

幸子は状況確認の為、櫛名田に搭載されている海鳥の発艦命令を下す。

 

「えっ!?でも、私達今、謹慎中だよ。海鳥なんか飛ばしたりしたらそれこそ、本当にクビになっちゃうよぉ~」

 

鈴がこれ以上の命令無視をしたら自分達はブルーマーメイドを解雇されてしまうのではないかと幸子に言うが、

 

「全責任は私がとります!!今は艦長の安全確認を最優先するべきなんじゃないんですか!?」

 

「そ、それはどうだけどぉ~」

 

「桜野さん!!園宮さん!!飛んでください!!海鳥なら最短距離で現場に行けます!!」

 

「は、はい!!」

 

「りょ、了解です」

 

幸子から呼ばれた海鳥搭乗員の桜野音羽と園宮可憐は急いで海鳥が格納されている格納庫へと向かった。

 

その頃、海上安全整備局本部では、

 

「貴女、一体何が目的なの?」

 

真霜がメイドに目的を尋ねるが、やはりメイドは無視をする。

 

「こんな事をして逃げ切れると思っているの!?」

 

もえかがメイドに再び尋ねた瞬間、正面玄関前でまたもや爆発が起こり、海上安全整備局の本部ビルの中から誰かが此方へと走って来るのが見えた。

それはあの強奪艦の乗員の一人、ラムだった。

ラムは此処まで来る途中で奪ったと思われるライフルを片手に真霜、もえか、メイドの居る所へと走って来る。

 

「桜野さん、園宮さんは空から艦長を探してください。私達も準備が出来次第、現場に向かいますから」

 

「「了解」」

 

翼についているプロペラを勢いよく回転させて海鳥は櫛名田の飛行甲板から離れると、爆発を繰り返す海上安全整備局本部へと飛んで行った。

 

「さっ、車から降りてください」

 

メイドは真霜ともえかに車から降りるように言う。

相手はモーニングスターとは言え、武器を持っており、此方は逆に丸腰‥‥

二人はメイドの指示に従うしかなかった。

真霜ともえかがシートベルトを外し、車から降りると、ラムがやって来る。

 

「姉様、御無事で何より」

 

「レム、陽動が甘いわ。爆薬の量も足りない。おかげでかなり手間取ったわよ」

 

「それは申し訳ありませんでした。姉様」

 

「連中は私達をただの泥棒か海賊の類だと思って慢心しきっていたわ。それに足りないとはいえ、この爆発で混乱しきっている‥‥長居は無用よ。此処からお暇をしましょう」

 

「はい、姉様」

 

二人のやり取りを見る限り、このモーニングスターを持つメイドの名前は『レム』と言う名前で彼女はラムの妹である事が伺える。

 

「貴女、もしかしてあの強奪艦の乗員?」

 

「人質はいらないわね。この状況じゃ足手まといになりそうだし」

 

「そうですね。姉様」

 

そう言ってラムはライフルを構え、レムはモーニングスターを構える。

真霜ともえかが命の危険にさらされた時、空からプロペラのローター音が聞こえてきた。

櫛名田から発艦した海鳥が到着したのだ。

 

「真霜さん、今です」

 

「ええ」

 

ラムとレムが海鳥に目を奪われている隙をついて真霜ともえかはその場から走る。

ラムがライフルを構えるが、其処を海鳥が威嚇射撃をする。

 

「くっ、此処は逃げるが勝ちよ、レム」

 

「そうですね、姉様」

 

ラムとレムもその場から逃げた。

海鳥はラムとレムの二人を追尾したが、敷地内の建物が入り組んでいる箇所に逃げられ、二人を見失ってしまった。

 

その後、救命艇で櫛名田から海路で海上安全整備局本部へとやってきた幸子達と合流したもえかと真霜。

 

「艦長!!無事ですか!?」

 

「艦長!!」

 

「みんな‥どうして‥‥?」

 

「そりゃあ、艦長が心配だったからにきまっているじゃねぇか」

 

「‥‥どうして」

 

「えっ?」

 

「どうして、こんな危険な所に来たの!?皆!?それも命令を無視して!!」

 

「か、艦長?」

 

もえかの言動に困惑する幸子達。

 

「無茶だと分かって‥‥分かっている筈なのに‥‥こんな事‥‥私は皆に傷ついてほしくないのに‥‥私なんかの為に‥‥」

 

海上においては櫛名田と言う鋼鉄の鎧と武器があってもこの地上ではほぼ丸腰状態‥‥しかも爆発が起こり、近くには武装したテロリストも居た。

そんな中で見は自分を心配して丸腰でこんな危険地帯へと飛び込んできた。

もえかにとってそれは武蔵の攻撃から身を挺して守り、そして自分が気づかぬうちに命を落とした葉月の行為を思い出させる。

もう、自分の為に自分の大切な人が傷ついたり、死んだりするのは見たくなかったのに‥‥

そう思うともえかの目からは自然と涙が流れだす。

 

「艦長に心配させるなんて‥‥皆‥‥皆‥‥大っ嫌いだ‥‥」

 

もえかはまるで癇癪を起したかのように泣きわめき、幸子達を困惑させた。

 

「知名さん‥‥やっぱり葉月の事を‥‥」

 

真霜はもえかの言動にやはり心当たりがあり、それに葉月が関係しているとすぐに分かり、複雑そうな表情で泣きわめきもえかを見ていた。

 

海上安全整備局本部にて突如起こった爆発事件のせいで、もえかへの事情聴取は改めて後日となり、もえかは幸子達に連れ添われて櫛名田へと帰った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。