ですが、彼に対してのアンチが含まれます。
葉山隼人にアンチが苦手な方はブラウザバックをして下さい。
葉山隼人に対するアンチがOKな方はどうぞ
大学を無事に卒業し晴れてブルーマーメイドとなったもえか。
ブルーマーメイドとなり幾月の時間が過ぎ、ハワイで行われた合同演習から戻ったもえかは教官免許の取得の為、母校である横須賀女子で教育実習中の明乃と再会した。
そして、自分達が幼い日に育った呉の児童福祉施設での訪問からの帰り、もえかは明乃の様子がおかしい事に気づく。
明乃の話ではかつての高校の同級生である宗谷真白が近々結婚をするとの言うのだ。
女性であるならば結婚を夢見る事はおかしくはないのだが、この結婚について真白本人は乗る気が全くなかった。
むしろ結婚なんてしたくないと明乃に相談までしてきた。
明乃としては何とかしてやりたいが、世の中にはどうしても越えられない壁が存在した。
もえかは明乃が悩んでいるのを見過ごすことが出来ずに真白の姉である真霜の下へと向かい、今回の真白の結婚についてどう思っているのか?
また、真白の結婚相手はどんな人物なのかを直接真霜に尋ねに行った。
すると、真霜も今回の真白の結婚に対しては反対な様子だった。
真霜さえ反対する様な人物が一体どんな人なのかを尋ねると、真霜は結婚する相手のプロフィールと顔写真をもえかに見せてくれた。
家柄や経歴を見る限り絵にかいたようなエリート街道を歩いている人物でありおまけになかなかのイケメンな男だった。
一体彼の何が気に食わないのだろうか?
それをもえかは真霜に聞いた。
「これは彼の高校時代の同級生の人から聞いた話で、裏をとったから確かな話よ‥‥」
「どんな話なんですか?」
真霜はもえかにこの葉山と言う男がどんな男なのかを語って聞かせた。
葉山隼人は父が弁護士、母が医者のエリートな家柄の家に長男として生を受けた。
兄弟は他に居らずその為、彼は葉山家の期待を一身に背負って育てられた。
小、中と公立の学校に進んだが成績も極めて優秀、サッカー部のキャプテンとして部活動でも優秀な成績を残していた。
この世界では女子がブルーマーメイドに憧れる様に男子もホワイトドルフィン、海洋関係の仕事が人気の職業であった。
彼もそうした風潮に当てられたのか関東では横須賀女子と同じ位人気で有名な進学海洋高校である総武海洋高校へと進学した。
勿論入学試験の成績も彼は優秀だった。
ここまでは順風満帆な彼のエリート街道だった。
だが、この高校に進学した事で彼のエリート街道に一筋の影が生じた。
横須賀女子同様、総武海洋高校でも新入生は入学してから直ぐに海洋実習が行われる。
そしてこれも横須賀女子同様、学生艦の艦長には成績優秀者が選ばれる。
東舞鶴海洋高校と同じく男子は基本的には潜水艦を使用しての実習となる。
葉山は潜水艦伊168号潜の艦長に任命された。
この時、葉山は当然の結果であり自分は艦長と言う職を上手くこなす事が出来る自信があった。
そして実習は始まった。
新入生の実習の基本は船舶の操縦の他に海上での共同生活に慣れてもらう事も含まれている。
全国から集まった生徒の中には当然顔馴染みのない者ばかりだ。
故に親睦を深める事も実習のコンセプトに含まれている。
だが、限られた特殊な空間に閉じ込められると言うことは意外と気を使う。
ましてやこれまであった事のない者同士‥最初は戸惑いや不安が隠せない。
さらにいくら改修されたとはいえ、海上艦と違い伊号潜での生活環境は快適とはいえない。
そして段々と慣れて来た頃には意気投合する者も居ればいがみ合う者もいるし、人の数だけ意見が分かれる時もある。
そうしたいがみ合う者同士が限られた空間で顔を合わせ続けると当然ストレスも溜まり、それがお互いにほんの些細な事で爆発する事もある。
艦内においてそうしたいざこざが起きた場合、それを素早く収めるのも艦長としての責務でありいかに禍根を残さない様に事態の収拾に納めるかは艦長の手腕次第だった。
ただ、この葉山隼人の信条は「『皆が仲良く出来れば良い』であるが、そんな信条が通じる程、世界は優しくない。
幸いこの世界では大きな戦争は起きてはいないが犯罪は日常茶飯事で起きている。
彼の信条通りの世界ならば犯罪なんて起きないし、警察だっていらない。
故に彼自身もその己の信条故に行動が取れなくことが多々あった。
クラスメイトがいがみ合っている時も彼は決まって、「みんな仲良く」の台詞を連発していた。
そして彼はなぁなぁな日和見主義的な態度をとる。
彼は決まっていがみ合っている中で人数が多い方の味方をして、少数の方を悪だと決めつけていた。
そしてかかる火の粉や責任については他の誰かに押し付けていた。
特に被害を受けたのが葉山を補佐すべき立場にあった168号潜の副長と航海長だった。
しかし、そうした彼のなぁなぁな態度や責任を他人に押し付ける態度は次第にクラスメイトから信頼を失わせ不満を高めていく結果となった。
優秀な艦長を演じたと思った葉山であったがその目論見は失敗した。
実習が終わった頃、葉山が艦長を務めた艦の成績は実習に参加した艦の中で一番悪かった。
優秀な成績で終わると思っていた葉山はこの成績を見た時愕然とした。
また彼に期待していた教官も驚いていた。
そして教官は成績不振な結果を彼に尋ねてみると彼は成績不振の原因は、自分ではなく、自分を除いたクラスメイト達のせいだと主張した。
これに憤慨したクラスメイト達は職員室へとなだれ込み、葉山の艦長としての資質を教官らに問いただした。
葉山とクラスメイトの意見が真っ向に食い違う中、記録係の生徒が実習中の葉山の言動を公開した事により事態は葉山にとって不利になった。
少数と多数の意見の中でこれまで多数の味方をしてきた葉山が少数派となった。
いや、正確に言うと葉山対クラスメイト達の構図だった。
クラスメイト達からの抗議を受け学校側は葉山に艦長の任を解く処分を下した。
これまで蝶よ花よと褒められながら育ち順調にエリート街道を歩いて来た葉山にとって今回の出来事は自身のプライドを大きく傷つけられた。
また、葉山がクラスメイト達に失敗の責任を押し付けた噂は忽ち学校内を駆け巡った。
特に艦長を務めている他艦の生徒からの視線や言葉は辛辣だった。
『本来責任を取るべき上の者が下の者に責任を押し付けて逃げるなんて、元々お前は上に立つべき人間じゃないのではないか?』と‥‥。
葉山は自分の能力を認めぬ学校などこっちから願い下げだと言わんばかりに一学期だけ在籍した後、総武海洋から普通科の海成高校へと転校していった。
そして大学は父の様な法律家となる為に国立大学の法学部へと進んだ。
だが、彼は屈辱を忘れぬ男だったようで自分を認めなかった海洋職で働いている人間を見下す為にブルーマーメイドの法務官を目指しその法務官となった。
真霜の話を聞く限り『学業や成績が優れている者=人間性も優れている』とは限らない様だ。
真白や真霜が今回のこの結婚に反対する気持ちが分かる気がする。
自分だってこんな人と結婚しろなんて言われたら嫌だもの‥‥。
今回の結婚の件に関して真白の母親である真雪はどう思っているだろうか?
「あ、あの‥‥」
「ん?」
「真雪さんはどう思っているんですか?今回の真白さんの結婚に‥‥」
「本心では私や真白と一緒よ‥でも‥‥」
「でも?」
「でも、やっぱり立場的には断りにくいのよ‥‥」
相手が法務部所属の人間で断れば真霜、真雪、真白の三人に何らかの影響がでるかもしれない。
真白自身もそれを分かっているからこそ、表立って結婚の反対を伝えられないのだ。
「‥‥」
明乃同様、なんだか無力感に苛まれる真霜の姿がそこにはあった。
もえか自身も真白の為に何かしてあげたかったが、何かいい案が浮かぶ事はなかった。
真白と葉山の結婚の日が迫っている中、もえかが艦長を務める巡洋艦、櫛名田の人選が決定した。
「これは‥‥」
決まった櫛名田の人選を見てもえかは思わず顔を緩める。
櫛名田の人選は、
艦長 知名もえか
副長 納沙幸子
航海長 知床鈴
機関長 榊原麻侖
通信長 八木鶫
砲術長 立石志摩
水雷長 西崎芽衣
飛行長 桜野音羽
各パートの長はかつて高校のクラスメイト達でサブリーダーの乗員も昔のクラスメイトの名前が記入されていた。
やはり、須佐之男級を扱った事のある人員が適切に櫛名田を運用できるのだと人事課の者もそう考えたのだろう。
ただ飛行科については新設されたばかりの部署なので知らない名前だった。
人員も決まり出航日時等のミーティングの日程調整に入った。
そんな中、アメリカのハワイから横須賀へブルーマーメイドのアメリカ支部の艦隊が演習に来る事が決まり櫛名田はアメリカ支部の艦隊と合同演習を行う事になった。
ついこの間もハワイにて合同演習が行われた筈なのに再びこの短期間で合同演習を行うのにはある理由があった。
それは、もえかが参加したハワイでの合同演習後、白浪が日本に向けて帰国した後の事だった。
ハワイ、オアフ島のアメリカ海軍基地がテロリストに襲撃されその軍港に係留されていたアメリカ海軍の最新鋭艦がテロリストに強奪されると言う事件があった。
当初、アメリカ海軍はテロリストに試作とは言え最新鋭艦を強奪された何て恥ずかしい事を公表できるはずもなく新鋭艦強奪事件は隠蔽されていた。
しかし、その後太平洋の各所にてアメリカ海軍の軍艦、ブルーマーメイドの艦船が正体不明の艦に攻撃される事件が多発した。
白浪も一つ間違えればこの事件に巻き込まれていても不思議ではなかった。
事態を重く見たアメリカ国防省はブルーマーメイド、ホワイトドルフィンに対して新鋭艦強奪の事実を説明した。
ブルーマーメイドもホワイトドルフィンも当初はアメリカの対応に憤慨すると同時に呆れた。
しかも軍事機密と言う事で強奪された艦の詳しい詳細は知らされなかった。
これでは手の打ちようがない。
ただ、一つ言える事がこの広い海のどこかにテロリストが乗ったアメリカ海軍の最新鋭艦が居ると言う事だけだった。
そこでブルーマーメイドもホワイトドルフィンも演習を行いつつ警戒する事しか出来なかった。
出航当日、櫛名田の艦橋に立ったもえかの服装は白いブルーマーメイドの制服ではなく、濃紺色のスラックスに同じく濃紺色の詰襟、帽子は使い古した軍帽を被っていた。
「艦長‥その恰好‥‥」
鈴がもえかの服装を見て唖然とする。
「先任と同じ服装ですね」
幸子がもえかの服装をかつて天照にて先任将校を務めた葉月と同じ服装だと言う。
被っている軍帽も高校時代使用していた葉月の軍帽である。
「艦長特権で許可は貰っています」
ブルーマーメイドには艦の艦長には一つだけ可能な限りの特権が与えられる。
もえかはその特権を使い通常のブルーマーメイドの制服から今自分が着ている詰襟の制服への変更を申し出た。
制服の変更にあたっては余程ブルーマーメイドの職務に著しい支障をきたす様な服装でなければ構わないと言う事で今回許可がおりた。
まぁ、制服に関しては真雪も同じように艦長特権を使いその変更を申し出ていた。
そして福内はあの狸耳のカチューシャの着用に艦長特権を使っていた。
「出航準備‥完了しました」
やがて、出航が整うと、
「機関始動、両舷微速前進」
「機関始動、両舷微速前進」
もえかが出向命令を下すと櫛名田の機関が唸りをあげる。
櫛名田はアメリカ支部の艦隊との合流地点を目指し横須賀を出航した。
アメリカ支部の艦隊との合流を目指していた櫛名田であったが、あの時の海洋実習同様、何もせずに合流地点を目指すわけではなく合流後の演習で日本のブルーマーメイドとして恥ずかしくない行動を取らなければならない。
「噴進魚雷本艦に接近中!!」
「方位、125、距離十七マイル、数は‥三本!!」
「機関最大船速面舵二十!!バウスラスター左舷全開!!」
「機関最大船速面舵二十!!バウスラスター左舷全開!!」
「この機関はじゃじゃ馬だかなら、今のうちにしっかりと乗りこなしておけ」
『は、はい』
機関室では麻侖が新人の乗組員相手にその姉御肌ぶりを発揮して機関の指導をしていた。
「迎撃!!六二式魚雷発射用意!!」
「六二式魚雷発射用意!!」
「撃て!!」
「撃て!!」
「二本命中!!」
「残り一本、本艦左舷後方に命中!!」
「ダーメジコントロル!!至急、応急修理急げ!!」
「メディックアは負傷者の確認と救助を!!」
「応急処置急げ!!」
被弾した箇所では防水シートと当て木を使用して防水作業へと入る。
「敵艦接近!!」
「主砲を此方にロックしています!!」
「迎撃する!!ン式弾発射用意!!」
「諸元入力‥‥入力完了!!」
「発射準備よし!!」
「撃て!!」
「新たな目標発見!!」
「海鳥、発艦始め」
櫛名田の後部の飛行甲板では搭載されたばかりの海鳥の発艦準備が始められる。
「シーバード001、発艦準備完了」
「発艦!!」
「海鳥、発艦しました」
「シーバード001、此方櫛名田CIC、感度どうか」
「感度良好」
「櫛名田了解。座標を送る、目標の地点へ急行し現状を報告されたし」
「了解」
海鳥は櫛名田から送られた座標へと向かい、そこで目標の敵艦と接敵、向こうが迎撃してきたので状況を説明し退避行動にはいる。
櫛名田は応急修理を行いつつ反撃を加え目標を無力化したところで、その日の訓練は終了した。
当然、仮想模擬戦なので貴重なン式噴進弾や主砲の弾を本当に撃ったりはしていない。
「報告します。本日18:45、訓練終了」
「予定よりも5分ほど遅れましたが、まぁ最初の航海にしては十分ではないかと‥‥」
「そうだね」
幸子は訓練の記録を日誌とパッドに記入していく。
櫛名田は訓練をしながらアメリカ支部の艦隊との合流地点へと向かった。
それから二日後‥‥
「前方に艦船を確認」
「味方識別信号を確認」
「了解‥‥識別信号を確認。ブルーマーメイド、アメリカ支部、旗艦、スイートフラッグ以下四隻を確認」
櫛名田は無事にアメリカ支部の艦隊と合流した後、早速合同演習に入った。
アメリカ支部の艦隊との合同演習最終日、艦隊は輪形陣をとり航行していた。
すると‥‥
「っ!レーダーに感あり!!」
突如、艦隊のレーダーが此方に向かって来る何かを捉えた。
「噴進弾です!!」
飛んできたのは噴進弾‥つまりミサイルだった。
「噴進弾、スイートフラッグに着弾!!」
「敵襲!!総員戦闘配置!!」
模擬戦や訓練ではなく突然正体不明の噴進弾の攻撃を受け、艦隊は一時大混乱に陥る。
「更に新たな熱源を確認!!第二波です!!」
「各艦、迎撃態勢!!対噴進弾戦闘開始!!」
各艦は主砲、CIWSを空に向けて撃ち、迫ってくる噴進弾を迎撃する。
「敵噴進弾の発射位置は?」
「方向は分かるのですが、レーダーには映っていません!!」
もえかは海鳥を飛ばそうかと迷ったがこの戦闘の最中、海鳥を飛ばすには対空戦闘を止めなければならない。
敵がいつ噴進弾を放ってくるのかわからないこの状況で対空戦闘を止める訳にはいかないし、相手が噴進弾を装備していると言うのであれば海鳥が撃墜される恐れもある。
「構わない、発射位置から一マイルおきにン式噴進弾発射!!」
この為、めくらうちになるがもえかは海鳥ではなく、こちらも噴進弾を撃つことにした。
ン式弾が空を舞い上がり目標の海域へと飛んでいく。
すると、ン式弾が空中で爆発した。
「ン式弾撃墜された模様」
「レーダー波をン式弾撃墜海域へ照射」
「やはり、ノーコンタクトです。ですが、二次攻撃の兆候は見られません」
「敵噴進弾、全弾撃墜」
「敵は逃げた‥のでしょうか?」
「わからない‥‥」
幸子がもえかに敵の動向を尋ねるがもえかとしては判断に困った。
まだ近くに潜んでいる可能性もある。
それに相手は一隻だとは限らない。
「アメリカ支部艦隊の指揮は?」
「現在、フェイロンがスイートフラッグにかわり代行指揮を執っています」
「では、此方はスイートフラッグ乗員の救助に当たります。周辺の警戒を厳とし、救助活動開始。それから海鳥を飛ばして空から周辺の警戒に当たらせて」
「了解」
アメリカ支部の艦隊との合同演習は突然の噴進弾攻撃によるスイートフラッグの撃沈と言う事件で幕を下ろした。
スイートフラッグの船体は海へと沈み乗員には大勢の死傷者を出す結果となった。
合同訓練の為、遠征に来たアメリカ支部の艦隊旗艦の撃沈。
ブルーマーメイドはフェイロン以下の艦艇からの報告を重く受け止めた。
また今回の攻撃が例のアメリカ海軍からの強奪艦の仕業なのかを調査する為の調査チームが直ぐに結成された。
フェイロン以下合同演習を行った艦隊は演習を切り上げて横須賀へと帰港した。
横須賀へ戻ったもえかの下にブルーマーメイドからのお達しが届いた。
明日の夕方、再び今日の演習海域へと戻り沈没したスイートフラッグの調査を行う為の調査船団の護衛をせよと言うモノだった。
尚、櫛名田には今回の事件調査の為の法務官が乗艦すると言う事だ。
ただ、その法務官というのが‥‥
「葉山隼人です。明日はよろしくお願いします」
もえかの目の前に金髪のイケメン男が形だけのまるで仮面の様な笑みを浮かべて挨拶をしてきた。
(気持ちの悪い笑み‥‥)
もえかは眼前の男の笑みを見てゾワッと生理的な寒気を感じた。
普通の女性ならばコロッとこの甘いマスクに騙されてしまいそうだが、これまでの家庭環境や男っ気がなかった事で彼女は騙される事はなかった。
「こ、此方こそよろしくお願いします。葉山法務官」
もえかは顔を引き攣らせながらも社交辞令的な挨拶をした。
アメリカ海軍の最新鋭艦の強奪。
真白の結婚相手の乗艦。
今度の航海も何やら波乱の予感がした。