ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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62話 密封指示書 パート2

もえかから直接頼まれて学校が天照のクラスメイト達全員に配る様に指示された開封日時が定められた密封指示書をクラスメイト達に配る事になった幸子。

横須賀市内の雑居ビルで麻雀をしていた麻侖と黒木を除く機関科のメンバーに指示書を渡すとそこにみかんがやってきた。

彼女はどうもこの雑居ビルにある和菓子屋でバイトしている様だ。

そこにはみかん以外にも杵﨑姉妹も居る様なので、幸子達はその和菓子屋へと向かった。

その和菓子屋は杵﨑姉妹の親戚のお店らしい。

早速幸子はみかんと杵﨑姉妹に封筒を渡す。

 

「へぇ~十三日まで開けちゃダメなんだ」

 

「艦長、凄く忙しいみたいだね」

 

「確か資料室に籠っているんだよね?さっきおやつを差し入れしてきたんだけど、武蔵の艦長が苦しみに耐え切れずに大声で泣き叫びながら、右往左往していたよ」

 

「ワーッハハハハァ!本当かぁ、えぇ?」

 

「ええ、その件なんですけど‥‥」

 

「あっ、そうだ」

 

幸子が噂の事をみかんや杵﨑姉妹に言おうとしたら、あかねがお盆に乗った三つのエクレアを差し出す。

 

「試作したんだけど食べてみて」

 

「いいの?いただきます」

 

慧はエクレアの一つを手に取り一口食べると、

 

「うっ‥‥ウググググ‥‥」

 

突然顔色を悪くする。

彼女の顔は忽ち脂汗まみれになり、目を回して失神しそうになる。

倒れそうな慧を鶫が抑え、床に倒れる事は免れた慧。

 

「あれ?美味しくなかったのかな?エクレアに甘納豆を入れて見たんだけど‥‥」

 

「あっちゃんは攻めすぎよ」

 

「悪くなさそうな組み合わせですけどね」

 

ほまれはどう考えてもエクレアと甘納豆は合わないと言うが、反対に幸子は悪くないと言う。

その間に鶫は恵のカバンの中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、蓋を開けて慧に水を飲ませてやる。

 

「めぐちゃん、甘納豆苦手なの」

 

そして慧が何故、失神しそうになったのかを話す。

 

「宇田さん、大丈夫ですか?」

 

「な、なんとか‥‥次行こうか?」

 

「まだ、返信来ていないんだけど‥‥」

 

「心当たりがあります」

 

そう言って幸子はクラスメイトの誰かが居るであろう次の場所へと向かう。

その頃、横須賀市内のとある銭湯では、西崎と立石が風呂上りの牛乳を飲んでいた。

 

「ぷはっ‥‥いや~テスト明けはやっぱり、温泉に限るなぁ~」

 

「うぃ~」

 

西崎の意見に同意する様に牛乳瓶に口をつけ牛乳を飲む立石だった。

 

その頃、幸子達は横須賀市内のとある自然公園に来ていた。

そして公園にある電波塔の上にはマチコが居り、彼女は電波塔の上から風を一身に感じていた。

 

「ホントに居た」

 

慧はまさか本当に居るとは思わず、マチコの姿を見て思わず声に出す。

 

「アイツ、なにやってんだ?」

 

「うーん、いい電波が出ている」

 

鶫は鶫でなにか変なモノを受信している様子。

 

「ないない」

 

慧は即座にそれを否定する。

 

「マッチは陸に上がったてもサイコー!!サイコーよ!!」

 

聞き慣れた声がしたので、声がした方を見るとそこには等松、青木、和住の三人がいた。

等松は電波塔の上マチコをスマホで写真を撮っていたのだが、手ぶれ補正が補正できないぐらい手を振りながら写真を撮っていたので、本当に写真が撮れているのか疑問な感じである。

青木はスケッチブックにマチコの姿をデッサンしており、和住は帆船の模型を作っている。

 

「カッコイイ」

 

慧がデッサン画を見て一言呟く。

 

「マッチと先任のW主人公の漫画を仕上げて、夏のビッグイベントで金をガッポリせしめるッス」

 

「資本主義者め」

 

「野間さんが高い所に居そうなのは読めていましたが、更に三人補足できたのは幸運でした」

 

「ココちゃん名推理だったね」

 

幸子は其処に居るメンバーの封筒を手渡す。

そして、幸子は青木がデッサンしていたスケッチブックを見る。

其処には実習中に描いていたであろう葉月のデッサン画が何枚もあった。

 

「そう言えば、青木さんは先任と連絡は取っているんですか?」

 

幸子は葉月のデッサン画を描いていた青木ならば葉月の行方を知っているかもしれないと聞いてみる。

しかし、

 

「いやぁ~私も実は先任を探しているッス‥‥実習の後、先任のデッサン画を描こうと思って連絡を取ろうとしたッスけど、先任の連絡先を聞くの忘れちゃって‥‥艦長に聞いても『知らない』って言っていて‥‥」

 

「そう‥ですか‥‥」

 

幸子は葉月ならば何か知っているか、良い策を授けてくれるのではないかと思っていたのだが、青木も知らないと言う事に落胆の色が隠せなかった。

 

「そう言えば、二学期から私達どうなるんだろう?」

 

「天照は元々横須賀女子の艦じゃないみたいだからねぇ‥‥」

 

青木や和住も天照が横須賀女子の所属でない事を知っており、二学期からの実習では自分達はどの艦に乗るのか心配そうだった。

 

「あっ‥‥機関長と黒木さんは研修‥主計科の三人も和菓子屋さんで修業‥わざわざテスト休み中にですよ」

 

「言われてみればちょっと変かも‥‥」

 

「二学期から海洋実習、私達は乗る船が無いんです‥それを見越して動いているんだとしたら‥‥」

 

幸子には言い知れぬ不安がよぎる。

そこへ、楓からメールが入り、彼女は今、天照が入居している大型船ドックに居るらしい。

封筒を渡す為、幸子達は大型船ドックへと向かった。

 

大型船ドックでは武蔵と天照がその傷ついた船体を修理しており、楓はそれをジッと見ていた。

 

「お嬢様だと思っていたけど、此処まで凄いとはね‥‥」

 

武蔵と天照の修理を行っていたのは楓の実家である万里小路重工だった。

 

「お嬢様、そろそろお戻りになっていただかないと‥‥」

 

楓の隣居る執事が彼女に声をかける。

 

「時期に戻りますからもう少し待って下さい」

 

「分かりました。では、御当主様にもそうお伝えいたします」

 

そう言って執事はその場から立ち去った。

 

「分かっております‥‥そこにいらっしゃるのは‥‥」

 

楓は物陰から様子を窺っていた幸子達の気配に気づいており、彼女達に声をかける。

自分達の存在が既にバレているのでは仕方がなく、幸子達は物陰から出てくる。

 

「えっと‥‥お渡しするモノが‥‥」

 

幸子は楓の分の封筒を手渡す。

 

「ご丁寧にありがとうございます」

 

「あの‥‥万里小路さん。さっき話していた『戻る』って‥‥」

 

「実は、お父様から何度も言われておりまして‥‥」

 

「っ!?」

 

楓の言葉に絶句する幸子。

 

「ね、ねぇ万里小路さん」

 

「なんでしょう?」

 

幸子に代わって慧が楓に声をかける。

 

「万里小路さん、先任が何処にいるか知らない?」

 

「葉月さんですか?」

 

「うん。何か実習の後、連絡が取れないし、行方が分からないみたいなの」

 

「申し訳ございません。実は私も葉月さんを探しているのですが‥‥」

 

「万里小路さんも分からない‥と」

 

「はい、お役に立てずに申し訳ございません」

 

楓の情報網にも葉月の行方はようとしてわからなかった。

そして、鶫のスマホに姫路からメールが入り、幸子達は姫路がいる場所へと向かった。

その頃、銭湯の休憩室では西崎と立石が将棋をしていた。

 

「よーし、打っちゃうよぉ~取っちゃうよぉ~ソレ」

 

「うぅ~うぃ~」

 

大事な駒が取られ、立石は次の手を打つ。

 

「おぉっと、また取れちゃうねぇ」

 

「うぃ~」

 

折角打った手も西崎には通じず、かえって被害が大きくなる立石。

 

「タマの仲間はどんどん減って行く~」

 

立石が西崎に将棋で勝つのはまだまだ先の様だった。

 

ところ変わって横須賀市内のゲーセンでは、水雷科の姫路と松永がボーリングをして、砲術科の小笠原、武田、日置の三人はダーツをやっていた。

姫路と松永はストライクを連発しており、ダーツをしている砲術科の三人で小笠原が一番の成績でビリは日置だった。

彼女は輪投げならば得意だと言って、ゲーセンに輪投げが無い事を嘆いていた。

そして、陸よりも船の上が良いと言う。

すると、小笠原もやはり陸よりも船の上が良いと言う。

やはり、乗っていた船が大破した事と元々の所属が横須賀女子でない事から二学期からの実習はどうなるのか?を不安視していた。

そこへ、

 

「失礼しまーす」

 

幸子達がやって来た。

 

「あっ、一緒にダーツやる?」

 

小笠原は幸子達にダーツをやらないかと誘う。

 

「ビリヤードでもいいよ」

 

「いや~みんなでやるならボーリングでしょう」

 

「いやいや、ここはやっぱりドキュンと輪投げで‥‥」

 

「「「「ないから」」」」

 

ゲームセンに輪投げが無い事に対して日置以外の砲術科と水雷科の全員がツッコム。

 

「いえ、任務が残っているので‥‥ですが、近いうちに是非、一緒に遊びたいです。できればクラスのみんなで」

 

幸子はまだ封筒配りが残っているので、遊ぶのはまた今度と言う。

 

「クラス皆って大げさな‥‥」

 

「ドキュンと集まるかな?」

 

陸ではやはり船と違い、集まる機会が少ない天照のクラスメイト。

現に何人かは固まっているが、基本バラバラになっている。

幸子はそんな現状に恒例の一人芝居をして一人項垂れた。

 

「大丈夫?ココちゃん」

 

そんな幸子を慧は慰める。

 

「なんかただ事じゃないってのは伝わって来たよ」

 

「皆で集まれるのは今の内だけかもしれないので‥‥」

 

「えっ?それって私達船がないから‥‥」

 

「じゃあ、私達のクラス‥‥」

 

幸子の呟きを聞いて今まで幸子と行動を共にして来た鶫と慧もここでやっと自分達のクラスが解体されるかもしれない可能性に気づいた。

 

「ま、まだ、決まった訳ではありませんから、御内密に‥‥」

 

確かにもえかからも古庄からも真雪からも直接、天照クラスが解散になるとは言われていない。

あくまでも幸子の予想の範疇である。

しかし、この場にいる皆に与える不安は大きかった。

 

「あっ、そう言えばさっき、メイちゃんとタマちゃんの居場所を掴んだんだけど、ちょっと離れているんだよね」

 

鶫が西崎と立石の居場所を幸子に教える。

 

「じゃあ、私達でメイちゃんとタマちゃんに届けておくよ」

 

慧が幸子に代わって二人に封筒を渡しておくと伝え、西崎と立石の分の封筒を慧に渡す。

 

「航海科はこの後、ドブ板通りのレストランでご飯だって」

 

航海科のメンバーの居場所が分かったので、幸子は其方へと向かう。

幸子が去り、

 

「やばいよ、クラス無くなるの?」

 

砲術科と水雷科のメンバー+鶫と慧がクラス解散の危機かもと言う事実にあれやこれや言っていると、

 

「あれ?皆お喋りタイム?」

 

そこへ、先程麻雀をしてきた機関科のメンバーがやってきた。

駿河は額を手で抑えていた。

あの後、また罰ゲームを受けた様子。

 

「あれ?機関科の‥‥」

 

「麻雀していたんじゃ‥‥?」

 

「留奈が負けてばっかで、おでこ痛くなったから他のコトをして遊ぼうって」

 

若狭がゲーセン来た訳を話す。

やはり、駿河はあの後、連戦連敗した様だ。

 

「皆さん、仲がよろしい様で何より。で?お揃いで何のお話ですか?」

 

広田が皆で何の話をしているのかを尋ねると、皆は不安そうな顔でクラスが解散になるかもしれない噂を機関科のメンバーに話した。

 

その頃、銭湯の休憩室では、西崎と立石がまだ将棋をしていた。

立石の手には将棋の本があった。

恐らくあまりにも弱い立石にハンデとして西崎がOKを出したのだろう。

序盤は将棋の本のおかげで勝っていた立石であったが、僅かな隙を西崎に見破られて、

 

「ココが急所なんだなぁ、これでタマの船はバラバラとなり、ただの案山子ですな」

 

「うぃ~」

 

ハンデを貰っても立石は不利な立場となった。

 

漁港では麻侖と黒木が漁船のエンジンの修理をしていた。

 

「いい自主研修ね、コレ」

 

「だろう?勘も鈍らねぇしな」

 

機関科のメンバーが言っていた研修とは学校側が提案した研修ではなく、麻侖と黒木が自主的に行っているボランティアで漁船のエンジンの点検や修理、整備をするものであった。

研修と言われ幸子達は学校側が提案し麻侖と黒木がそれに参加しているのではないかと勘違いしているだけだった。

しかし、当の麻侖と黒木は勘違いされていることなど知る由もなかった。

 

「マロンと二人で何かをするのって結構久しぶりね」

 

天照に居た時は当然、黒木は麻侖と一緒に居たが、二人っきりではなく、他の機関科のメンバーもいたので、二人っきりと言うカテゴリーからは外れる。

 

「ああ、たまにはいいもんだろう?」

 

そんな漁船のエンジンの修理をしていた二人に声をかける人物が居た。

 

「やっぱりいい腕しているね」

 

その声に反応して麻侖と黒木が桟橋を見ると、そこには横須賀女子の制服の上に防水コートを羽織った小柄な女子生徒が一人立っていた。

 

「なんでぇ、あんたは?」

 

「明石艦長、杉本珊瑚‥‥妙な噂を耳に挟んだんで会いに来た」

 

「さんご?なるほど、その服のサイズは3号か?来いミニペンギン」

 

漁港で麻侖と黒木が明石の艦長、杉本と邂逅を果たしている頃、みかんと杵﨑姉妹がバイト兼修業をしている和菓子屋でも‥‥

 

「いらっしゃいませ」

 

「貴女は確か‥‥」

 

和菓子屋の自動ドアを潜り入って来たのは横須賀女子の制服を身に纏う一人の女生徒で、みかんと杵﨑姉妹はその女生徒に身に覚えがあった。

 

「話があるんだけど、いいかしら?」

 

「令状はあるの?」

 

「きついジョークだ」

 

和菓子屋を訪れたのは間宮艦長の藤田優衣だった。

 

辺りが夕焼けに包まれ始めた横須賀の町を幸子は一人トボトボ歩いていた。

しかし、その顔色は優れず不安に包まれている。

 

「まだ‥‥決まった訳じゃ‥‥あっ‥‥」

 

幸子が航海科もメンバーがあつまるレストランに向かっている最中、前方からセグウェイミニに乗った美波がやってきた。

 

「美波さん」

 

美波も幸子に気づいて、彼女の前でセグウェイミニを止める。

 

「よかった。これを」

 

幸子は美波に封筒を手渡す。

 

「ん?」

 

「学校からの期日付の密封指示書です」

 

「感謝する」

 

美波が封筒を受け取った瞬間に彼女のスマホが鳴り出す。

 

「もしもし‥‥分かった」

 

「あの?」

 

「研究室に戻る。衣帯不解‥‥」

 

幸子が声をかける間もなく美波は大学へと戻っていく。

研究が忙しい様子で此処には夕食でも食べに来たのだろう。

幸子は美波が去り際に残した『衣帯不解』の言葉の意味を調べた。

タブレットには、

衣帯不解‥‥衣服を着替える事もせず、ある事に熱中すること。

         不眠不休で仕事に打ち込むこと。

    「衣帯」は着物の帯の意。

と表記された。

 

銭湯ではまだ西崎と立石が将棋をしていた。

 

「いよぉし、此処は一気に広げていこう!!」

 

盤上は立石の駒が完全に西崎の駒に包囲された形となっている。

どうやったらこんな風になるのか知りたいぐらいの盤上になっていた。

 

「うぃ~」

 

立石にはもう打つ手がない。

と言うか、此処まで来る前にすでに自分の負けは分かっていたはずなのに立石は徹底抗戦の構えで臨んでいたのだろう。

その結果がこれだ。

 

「一度火が着くと、ぅあ!っと言う間にこうなって皆殺しだぁ!!」

 

結局この日、立石は将棋で西崎に勝つことは出来なかった。

 

航海科のメンバーがいるレストランでは、まるでお通夜のような暗い雰囲気を出していた。

 

「「「「‥‥」」」」

 

テーブルに置かれた横須賀名物の横須賀海軍カレーをメンバー達は手をつけずにただジッと頷いていた。

そこに幸子が来店した。

 

「あの‥‥失礼します~」

 

幸子も航海科のメンバーの暗い雰囲気に声を掛け辛かったのだが、いつまでも黙って立っている訳にはいかないので恐る恐る声を掛ける。

幸子の声に反応して航海科のメンバーが一斉に幸子へと視線を向ける。

 

「ココちゃん‥‥」

 

幸子の姿を見て鈴と内田が涙目になる。

そして、一斉に幸子に駈け寄る。

 

「「うわぁぁぁん!!」」

 

「ど、どうしたんですか?皆さん!?」

 

突然泣きつかれて狼狽える幸子。

 

「私達、皆バラバラになっちゃうんだって~」

 

「お、落ち着いてください。公式にそんな発表は‥‥」

 

「でも、見たぞな。さっき和菓子屋でみかんちゃんと杵﨑姉妹が間宮の艦長にスカウトされていたぞな」

 

「えっ?」

 

聡子の言葉を聞いて幸子も驚く。

 

「マロンちゃんとクロちゃんも明石の艦長がヘッドハントしに来たって聞いたよ」

 

「ええっ!?」

 

内田の言葉に更に驚く幸子。

みかんと杵﨑姉妹、麻侖と黒木が他艦の艦長にお誘いを受けたなんて幸子には寝耳に水だった。

 

「きっと私達の航海長も比叡あたりから引き抜きに来るよ」

 

炊飯員、機関長と機関助手が声を掛けられたのだから航海長もきっと他艦からのお誘いが来るのではないかと予想する山下。

 

「いやだ!!皆と離れたくないよぉ~!!」

 

鈴は天照のクラスメイト達と離れるのを泣いて嫌がった。

卒業すればそれぞれの進路はバラバラになるがせめて高校の時だけはこうして仲良くなったクラスメイト達と一緒に過ごしたい。

それはクラスメイト達全員の総意だった。

 

「ココちゃん、先任は!?先任は今どこにいるの!?」

 

「そうだよ、葉月さんなら何か知っているかもしれないし、知恵をかしてくれるかもしれないじゃん」

 

鈴と山下が葉月の行方を幸子に尋ねる。

 

「それが、皆さんも葉月さんの行方を捜しているみたいなんですけど、見つからなくて‥‥」

 

「うぅ~」

 

「先任、何処に行ったぞな‥‥」

 

クラスがバラバラになるかもしれないと言う不安と力になってくれるかもしれない葉月が行方不明と言う事態に天照のクラスメイト達の不安は益々募るばかりだった。

 

暗い面持ちで寮に戻る幸子。

彼女は寮の手前で自分の名前が書かれた封筒を見る。

 

「これは‥‥転属指示書と言う訳ですか‥‥」

 

此処までの話を総合するとクラスの解散は既に決定されており、有能だと思われる人材は他艦の艦長らが直接赴いてヘッドハンティングしてクラスの能力を高めようとしている。

幸子にはそう思えて仕方がなかった。

いずれは自分の下にも他艦の者がヘッドハンティングに来るのだろうか?

それとも封筒の中身には既に今度転属するクラスが既に表記されているのだろうか?

沈んだ気持ちで寮に入る幸子。

ロビーではミーナが任侠物のDVDを見ていた。

 

「‥‥」

 

「ん?おう、帰りが遅かったから視聴会先に始めていたぞ」

 

幸子に気づいたミーナが片手をあげて声をかける。

 

「ミー‥ちゃん‥‥」

 

ミーナの姿を見て、幸子はこれまで我慢していたモノが一気にあふれ出し、ミーナに抱き付いて声を上げて泣いた。

 

「ココ‥‥」

 

「うちのクラス‥解体‥されるかも‥‥しれないんです‥‥」

 

「噂は本当じゃったか‥‥」

 

「クラスがバラバラに‥‥もう、私の居場所無くなっちゃう‥‥」

 

「‥‥もし、そうなったら‥‥お主、わしの学校に留学せんか?」

 

「えっ?」

 

ミーナの提案に暫し呆然とする幸子だった。

 

その頃、横須賀女子海洋高校の校長室では真雪があるところへ電話をかけていた。

 

「‥そうですか‥建造は順調で予定通りの期日に就航できると‥‥分かりました。ご苦労様です」

 

真雪が受話器を置き、チラッと机の上の書類に目をやる。

そこには『クラス再編成案』と書かれた書類が置いてあった。


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