ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

65 / 80
61話 密封指示書

 

もえかが何とか立ち直り学校へと復帰し、まもなく横須賀女子では中間試験が迫っている中、葉月の葬儀がひっそりと行われようとしていた。

そんな中、真白は真雪、真霜、もえか、明乃の四人をジッと睨みながら詰め寄っていた。

 

「お母さんも姉さんも艦長達もいったい私に何を隠しているんですか!?」

 

「そ、それは‥‥」

 

「「「‥‥」」」

 

四人は互いに互いの視線を泳がせながら真白にどう答えて良いのか分からなかった。

 

「何故お母さん達は制服の上に喪章をつけているんですか!?」

 

四人はこれから葉月の葬儀に出る為に制服の上に喪章をつけており、それがこの後誰かの葬式に出る事を示している。

 

「それに実習が終わったのにどうして葉月さんは家に帰ってこないんですか!?答えて下さい!!」

 

「‥‥」

 

真白は未だに宗谷家に帰らない葉月の行方を尋ねる。

 

「はぁ~‥‥わかったわ。真白‥話してあげる」

 

「お母さん!?」

 

真雪はこうなってはもう仕方がないと真白に葉月が死んだ事を伝えることにした。

だが、可能な限り自分の死を秘匿してくれと言う葉月の遺言に反するのではないかと真霜は反対するが、こうなってはもうどうしようもない。

このままはぐらかしても真白は追及を止めないだろう。

 

「真白‥葉月さんはね‥‥」

 

真雪は真白に葉月が先日の武蔵との戦闘で戦死した事を真白に伝えた。

 

「そんなっ!?葉月さんが‥‥」

 

真白もやはり、葉月の死についてはショックを受けていた。

 

「艦長は知っていたんですね?」

 

真白は、今度明乃をキッと睨む。

 

「う、うん‥‥ゴメン‥」

 

明乃はやはり真白に葉月の死を黙っていた事に対してはそれなりの罪悪感を感じていたが真霜にきつく口止めされていた為口外は出来なかったのだ。

 

「真白、岬艦長に葉月の死を黙っているように言ったのは私よ。それに自分が死んだ事をあまり他の人に知らせないでくれと言ったのは葉月自身なのよ」

 

「でも、艦長は知っていた。それに姉さんやお母さんも知名艦長も‥いくら葉月さん自身が言っていても私には言って欲しかった!!私はそんなに信用がないんですか!?」

 

「‥‥貴女の場合、貴女自身の不幸でどこから情報が洩れるのか分からないからよ」

 

「なっ!?」

 

真霜の返しに絶句する真白。

 

「ま、真霜さん落ち着いて」

 

険悪なムードの宗谷姉妹の中をもえかが仲裁する。

 

「そ、そうですよ。シロちゃんは皆から仲間外れにされた事に拗ねているんですよ」

 

「べ、別に拗ねてなんかいません」

 

明乃も援護射撃を行いこの険悪なムードを和ませようとする。

この後葉月の葬儀なのになんでこんな険悪なムードのまま行かなければならないのかともえかも明乃も思っていたからだ。

 

「宗谷さんも行きますか?お姉ちゃんのお葬式」

 

そしてもえかは真白に葉月の葬儀に出席するかを尋ねる。

 

「‥‥行きます」

 

真白も短い間とは言え色々葉月には世話になった。

葉月がいなければ横須賀女子に入れなかったか武蔵には乗れなかったかもしれないのだから‥‥

こうして真白も葉月の葬儀に出席する事になった。

 

葉月の葬儀会場はブルーマーメイドの基地内ある講堂で行われ、式が始まると宗谷姉妹にはさっきまでの険悪なムードもなく、厳かに進められて行く。

棺に納められている葉月は本当に死んでいるのかと思わせるぐらい綺麗な顔をしていた。

声をかければ目を開けて起きてくれるのではないか?

葉月を慕う者達はそんな錯覚を覚える。

 

(葉月さん‥本当に‥‥)

 

出棺の後、火葬場で荼毘に付している時、もえか、明乃は煙突から出ていく煙を見ながら自分達の家族の最後を思い出していた。

 

(あの時と一緒だ‥‥お父さんとお母さんの時と‥‥)

 

(泣くのはまだ早い‥‥お姉ちゃんを見送るまでは‥‥)

 

もえかも明乃も散骨の時までは泣かないとグッと涙を堪えた。

やがて、火葬が終わり、遺骨が骨壺に納められて散骨の為に海へと向かう。

てんじんの甲板には関係者らが集まり葉月の遺骨を横須賀の海へと還す。

遺骨を散骨し終えると、

 

「広瀬葉月一等監査官に敬礼!!」

 

葉月の遺骨が散骨された横須賀の海にその場にいた者達が敬礼し、てんじんの放送からは『海ゆかば』が流され、弔砲が撃たれる。

これまで我慢していたもえかと明乃であったが、涙がブワッと出てきて敬礼していたがやがて、その場に崩れて泣き出す。

古庄や真雪がそんな二人を慰める。

こうして広瀬葉月は一部の人達に見送られながら横須賀の海へと還って逝った。

なお、余談であるが、葉月の忘れ形見の一つである多聞丸であるが、当初もえかが引き取るか五十六の様に学園の敷地内に住まわせるかと色々検討された。

そんな中、多聞丸は何故か真白に物凄く懐いたので、多聞丸は宗谷家で引き取られる事になった。

 

 

 

 

あの海洋実習から約一ヶ月の月日が流れた。

 

 

 

 

この間、横須賀女海洋高校を始めとして各海洋高校、大学、ブルーマーメイド、ホワイトドルフィン、文部科学省が今回の事件解明と原因となったラットと呼ばれる生命体の解析及び背後処理にあたっていた。

再度の感染があった場合の対策は国立海洋大学で編成された特別チームがワクチンと抗体の研究を行い対策はすでに確立されようとしていた。

また、葉月が遺書に記したように学生艦の規制についての検討が行われ、中島教育総監も今回の事件と学生の安全を鑑みてやはり40cm砲以上の搭載艦の使用を控える事とし、学校が保有できる最大の大きさを36cm砲搭載艦とする事を決めた。

各学校には36cm搭載艦の金剛、比叡、榛名、霧島、扶桑、山城、伊勢、日向が割り当てられることになり、地球一周などの超遠洋航海時のみ40cm砲以上の搭載艦の使用が認められることになった。

これを受け、各造船所では急遽巡洋艦クラスの艦の建造依頼がふえた。

そして、海兎の製造も検討される事となった。

やはり飛行船よりも速度、旋回性能に勝るオートジャイロは今後のブルーマーメイドの活動において不可欠だと判断されたからだ。

近い将来、海洋高校にオートジャイロの搭乗員を育成する飛行科が誕生したのは言うまでもなかった。

 

そんな中、横須賀女子では中間試験が行われその結果が吉と出るか凶と出るかまだ分からないハラハラドキドキしながらの試験休みとなった。

幸子は記録係としての今までの癖なのか、実習後も航海記録と言う名の日記をつけていた。

そして今日もそれを書いていると、

 

「なあにをしとるんじゃ?」

 

幸子に声をかける人物がいた。

ドイツからの留学生のミーナだった。

 

「ん?ああ、航海日誌をつけているんですよ」

 

「航海しとらんじゃないか」

 

「してなくてもつけるんです」

 

「お主らしいな‥‥ところで‥‥」

 

「おう、今夜も仁義なき上映会をやるけぇのう」

 

幸子とミーナは今夜もまた二人で任侠物のDVDをみる約束をする。

そこへ、

 

「楽しそうに会話している最中すまない‥‥」

 

澄んだようなドイツ語が聞こえる。

ミーナの親友であり、アドミラルシュペー艦長のテアがミーナに声をかけてきた。

 

「昼休みが終わったら会議室に来てくれ」

 

「わかりました」

 

ドイツ語がわからない幸子には二人が何を言っているのかわからない。

テアがチラッと幸子を見ると、幸子は一瞬ドキッとする。

そして、テアは手をシュッタとあげるとその場を去って行く。

幸子がテアとミーナの会話の内容が気になる様子でミーナを見ると、ミーナは先程テアと何を話していたのかを幸子に教える。

 

「ん?」

 

「二学期からどうするかカリキュラムの組み直しをするそうじゃ‥‥例の事件のせいでな‥‥噂で聞いたのじゃが、天照クラスはこのままでは実習が出来ん‥‥その為、学校側は何らかの対策を行うと‥‥」

 

「えっ?それはどういう事なんですか?」

 

「今回の事件を受けて、学生が使用する艦船に制限が設けられるみたいなんじゃ」

 

「そう言えば、天照は本来、横須賀女子の学生艦ではありませんでしたし‥‥っ!?もしかしてクラスが解体されるんじゃ‥‥私、この後艦長に呼ばれているんですけど‥‥まさか、その件で‥‥」

 

幸子の脳裏にクラス解散の最悪の事態が過ぎる。

 

「あまり悪い予想せん事じゃ、今回の事件では天照の活躍が事件解決の大きな要因じゃ、そう簡単に解体なんてさせんじゃろう」

 

「で、ですよね‥‥」

 

ミーナは幸子を励ますが、幸子は不安を完全に拭い去る事が出来なかった。

 

その頃、横須賀女子の図書室に隣接する資料室では、明乃、真白、もえかが何かにとりつかれたようにペンを走らせていた。

そして、明乃はさっきから「うんうん」唸っており、それがピークに達したのか、

 

「うぅ~うぅ~うぅ~‥‥うわぁぁぁぁぁぁぁ!!分かんなくなってきたよぉ!!」

 

「ですが、艦長、今回の事件の報告書を学校に提出しないと」

 

三人がやっていたのは今回の事件の報告書の作成だった。

 

「書類仕事は苦手なんだよぉ~私のスタイルじゃないし、それに私、途中から記憶がないもん」

 

「この仕事にスタイルもクソもあるか」

 

確かに明乃は途中でウィルスに感染してしまった為、その間の事は覚えていない。

報告書を書けと言われても無理がある。

だが明乃よ、ブルーマーメイドになれば当然書類仕事とは切っても切れないモノになるのだが、大丈夫なのか?

 

「み、ミケちゃん。私の分が終わったら手伝ってあげるから、頑張ろう」

 

もえかが明乃に手伝ってあげると言うと、明乃は目を輝かせて、

 

「ありがとうもかちゃん!!」

 

明乃にとってはまさに地獄で仏と言う感じだった。

だが、量はあきらかにもえかの方が多いので明乃が終わる間にもえかの分が終わるのか微妙な所である。

もえかは今回の報告書に関して心苦しいが葉月が死んだ事を省いていた。

決して学校から隠蔽するように言われた訳ではないが、あくまで省いているのは表側に出る報告書で秘匿保管される方にはちゃんと葉月の最後が書かれていた。

 

「知名艦長、あまりうちの艦長を甘やかさないでください」

 

「あっ、でもちょっと手伝うだけだから」

 

「はぁ~」

 

真白は深いため息をつく。

と言うのも明乃がウィルスに感染してしまった後の責任者は真白だったので、真白が書く報告書が明乃よりも多かったからだ。

出来れば自分の方を手伝ってもらいたい。

そんな心境だった。

そこへ、幸子がやって来た。

 

「失礼‥します」

 

「あっ、納沙さん」

 

「艦長‥あの‥‥私が呼ばれたのはもしかして‥‥」

 

幸子はもえかの口からクラス解散と今後自分が配属される新しいクラスの場所かと思っていた。

そして、自分の前には他の誰かがきて同じ様な事を言われていたのではないか?

そんな不安ばかりが幸子の脳裏を過ぎる。

しかし、もえかの口からは幸子の予想とは異なった事が発せられた。

 

「納沙さんにお願いがあるんだけど‥‥」

 

「な、なんでしょう?」

 

「これをクラスの皆に渡してほしいの」

 

もえかは机の上に置いてあった封筒の束を幸子に手渡す。

 

「ん?クラス全員にですか?」

 

「校長先生からなんだけど、大事なモノで必ずクラス全員に配る様にって‥‥私は暫く此処で缶詰状態だから、頼まれてもらえるかな?」

 

「わかりました」

 

クラス解散の事ではないので幸子はホッと一息ついて資料室を後にした。

だが、出た後で今後のクラス運営について尋ねるのを忘れている事を想いだした。

でも、報告書の作成で忙しいもえかにまた部屋に入って尋ねるのも無粋なので、まずは頼まれ事を片付けようと行動を開始する幸子。

学校の昇降口で自分の名前が書かれた封筒を見ると、そこには名前の下に開封日時が指定している指示が書かれていた。

 

「これは‥‥密封指示書‥‥」

 

幸子が太陽に封筒を透かしても中身は見えない。

 

「‥‥『おはよう天照の諸君、今回の君の使命は横須賀女子海洋学校に潜入したスパイのあぶり出しだ。追いかけ、見つけ出してコロス。成功を祈る』」

 

ただの頼まれ事に対しても一人芝居をする幸子。

 

「何と言う困難な任務だ。まさにインポッシブルな大作戦!!」

 

幸子がキメた時、

 

「ココちゃん?」

 

「何しているの?」

 

「っ!?」

 

背後から声をかけられて現実に戻る幸子。

後ろを振り返ってみるとそこに鶫と慧が立っていた。

 

「八木さん、宇田さん。丁度いい所に‥‥うーん‥‥はい」

 

幸子はさっきの一人芝居を見られたにも関わらず恥ずかしがる素振りも見せずに二人に封筒を渡す。

 

「ん?」

 

「何コレ?」

 

「学校からの指示書です。開封期日が指定されているので、気を付けてください」

 

「ありがとう」

 

「それ、全部配らないといけないの?」

 

慧が幸子の手にある封筒の束を見て尋ねる。

 

「はい、艦長が書類仕事で忙殺されていたので‥‥」

 

「艦長も大変だね」

 

「折角のテスト休みなのに‥‥そう言えば、先任はいないの?

 

慧は葉月の行方を幸子に尋ねる。

 

「そういえば、実習の後、先任と連絡がつかないんですよね~どこに行ってしまわれたんでしょう?」

 

幸子も葉月と連絡を取りたがっていたのだが、葉月とは連絡も付かず、出会う事も出来ていない状態だった。

 

「あっ、そうだ。それ配るの手伝おうか?」

 

鶫が幸子に封筒配りを手伝うと提案してきた。

 

「えっ?」

 

「私、横須賀出身だし、これからめぐちゃんを案内するとこだったんだけど‥‥」

 

「うん、ついでだし、みんなにソレを配りながら町を歩くのも良いね」

 

「でも、折角の御予定を‥‥」

 

「クラスメイトなんだし、水臭いこと言わない」

 

「ココちゃんとは航海中あんまりお喋り出来なかったし、いい機会だよ」

 

「宇田さん‥八木さん‥‥ありがとうございます」

 

「じゃあ、早速‥‥」

 

鶫はカバンから自分のスマホを取り出すと物凄い速さでメールの文章を作成してクラスメイトにメールを送る。

その速さは指の動きが残像みたく見えるかの様だ。

鶫の指裁きも凄いが彼女の指裁きに対応できた彼女のスマホも凄いのかもしれない。

 

「あの?何が早速なんでしょう?」

 

「クラスメイト全員にメール出したよ。居場所教えてって」

 

「流石電信員」

 

「勿論です。プロですから」

 

「時期に返信が来るだろうし、とりあえず出ちゃおうか?」

 

慧がクラスメイトの返信を待ちながら横須賀の町を歩こうと提案し、

 

「うん、行こう、行こう」

 

鶫も慧の後を追い、幸子も二人の後を追った。

その頃、横須賀市内のとある雑居ビル内にある雀荘では、機関科の若狭、広田、駿河、伊勢の四人が麻雀を興じていた。

 

「うーん‥‥よーすがおかしーぞぉ?」

 

駿河は自分の手牌を見て呟く。

 

「そりゃまぁ、おかしいでしょう。手牌、足んねぇみてぇだぜ」

 

「えええっー!!えっと‥‥」

 

広田の指摘を受けて駿河は自分の手牌の数を数えると一つ足らない。

 

「ほん゛だぁ゛ぁ゛!!じゅ゛ーに゛ま゛い゛しかな゛い゛よぉぉ!!」

 

この時点で駿河の負けが決定されており、彼女は頭を抱えて絶叫する。

 

「アホだな、お前」

 

若狭からそんな事を言われている駿河であるが、彼女は別の世界では学校で生活をしながらシャベル片手にゾンビと戦っている元陸上部(元グリンベレー)の少女なのだ。

 

「配牌の時、一枚取り忘れたんじゃないの?何時も平気でやっている事だろうが‥‥やっとリーチね」

 

「うっうぅ~‥‥ポン」

 

「あがれないのになんでポンするの!?」

 

「ツモ」

 

その間に広田があがってしまった。

その牌を見て、若狭が、

 

「堅いなぁ~」

 

と呟くと、

 

「地味でお堅い女さ」

 

伊勢がそれに乗っかる。

 

「今度余計な事を言うと口を縫い合わすぞ」

 

そして、ビリとなった駿河へのお仕置きが実行される。

駿河は広田からおでこにデコピンを食らった。

そこへ、幸子達が封筒を届けにやって来る。

 

「これはこれは書記殿」

 

「あ、いたっ!!

 

「レオちゃん。レスありがとう」

 

「メール気付いたの私だけだったし」

 

「皆さんにお渡しするのがありまして‥‥」

 

幸子は卓を囲んでいる機関科のメンバーの封筒を手渡す。

 

「何コレ?」

 

「学校からだって‥‥」

 

「へぇ~なんだろう?成績表かな?」

 

駿河は封筒を手で破って中を見ようとする。

 

「此処で開けちゃダメだ!!」

 

それを幸子が大声を出して止める。

 

「これ、開封日時が定められている密封指示書なんですよ。今開けたら校則違反で停学ですよ!!」

 

「ええっー!!」

 

幸子に注意されて事の重大さに気づく駿河。

 

「開けなくてよかったわね、留奈」

 

「マロンちゃんとクロちゃんは?」

 

鶫は同じ機関科のメンバーでこの場に居ない麻侖と黒木の居場所を尋ねる。

 

「ああ、機関長達なら今日は研修するんだって」

 

若狭が麻侖と黒木の予定を幸子達に教える。

 

「研修?はっ!?まさか‥『君達は選ばれしエンジニアだ。この特別訓練をクリアーし、ワンランク上の仕事について貰いたい』 『てやんでぃ。朝飯前でぇい』 『ワンランク上とやらを目指そうじゃないの』‥みたいなことになったりはしないですよね?」

 

幸子は研修と聞いて麻侖と黒木がクラスを離れる為の特別訓練を受けているのではないかと伊勢と若狭に詰め寄る。

 

「‥‥それは無いと思うけど」

 

しかし、伊勢は幸子の考えを否定する。

 

「まっ、確かにうちの機関長はずば抜けて腕が立つけど」

 

「クロちゃんも機関長とは阿吽の呼吸だし」

 

「そうそう」

 

「二人そろえば最強だよね」

 

広田達も入試の時の実技試験と実習を通じて麻侖と黒木のエンジニアとしての腕は認めていた。

 

「指示書、私が渡しておこうか?晩御飯は機関長達と一緒に食べる約束をしているから」

 

若狭が麻侖と黒木の分を渡しておこうかと尋ねる。

 

「では、お願いします」

 

幸子は麻侖と黒木の指示書を若さに手渡す。

 

「ところで、例の噂ご存知ですか?」

 

そして、若狭達にクラス解散の噂を知っているかを尋ねる。

 

「噂?‥‥なんの!?」

 

どうやら、若狭達は知らなかった様で、噂と聞いて目を輝かせて幸子に聞いてくる。

 

「実は‥‥」

 

幸子が若狭達に伝えようとした時、

 

「お待たせしました」

 

そこへ、お茶が乗ったお盆を持ったみかんがやって来た。

 

「「みかんちゃん」」

 

みかんにも当然指示書を渡さなければならないので、幸子達は噂の事を若狭達に伝えずにそのままみかんに指示書の事を伝えると、どうやらこの雑居ビルにはみかんと杵﨑姉妹がバイトをしている和菓子屋があるみたいなので、幸子達はその和菓子屋へと向かった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。