ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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57話 決戦海域 パート3

横須賀に迫るウィルス感染した武蔵を止める為、海兎からのロケットランチャーの攻撃を開始した葉月達。

しかし、強固な武蔵の防御力に決定打を与えられないままロケットランチャーの弾は次第に減って行く。

やがてロケットランチャーの弾は最後の一発だけとなる。

だが、武蔵は未だに平然と航行している。

最後の一発を決める為、危険を冒して武蔵へと急接近する海兎。

そして武蔵直上にて海兎の増槽と最後のロケットランチャーの弾を撃ち込む。

しばらくして武蔵の煙突から大爆発が起こり、煙突の一部を破壊した。

 

「やった!!」

 

「おぉーすっごい!!」

 

「武蔵の様子は!?」

 

操縦席の葉月は西崎と小笠原に武蔵の状況を尋ねる。

武蔵の煙突から起こった爆発を見て武蔵はもう止まるかと思った。

だが‥‥

 

「‥‥武蔵の艦尾より、航跡(ウェーキ)を確認」

 

「武蔵、約10ノットでなおも航行中‥‥」

 

しかし、武蔵は10ノットになりながらもまだ動いていた。

武蔵がまだ動いている報告を西崎と小笠原は悔しそうに葉月へと伝える。

 

「くっ‥‥作戦は‥‥失敗だ‥‥」

 

西崎と小笠原からの報告を聞いて葉月はギリッと奥歯をかみしめる。

危険を冒してまでも敢行した作戦は武蔵の足を鈍らせることは出来ても完全に止める事が出来なかった。

作戦が失敗した事に葉月は悔しそうに呟く。

 

「此方海兎‥‥作戦は‥‥残念ながら‥失敗です‥‥武蔵は未だに速力10ノットにて航行中‥‥」

 

葉月は天照へと現状を報告する。

 

「‥‥此方天照。了解しました‥海兎は直ちに帰還してください」

 

「了解」

 

もえかから帰還命令を受けて海兎は天照へと戻ろうとする。

しかし、煙突を破壊された武蔵もこのまま海兎を逃がすつもりはないらしく12.7cm高角砲と25㎜機銃が海兎目掛けて火を吹いた。

行きは武蔵の死角を突くことが出来たが帰りはそうはいかない様で海兎は武蔵の弾幕の中をその機動力を生かして必死に逃げる。

 

「うわぁぁぁぁぁ」

 

「きゃっ」

 

「二人とも!!しっかり掴まっていて!!」

 

何としてでも二人を無事に天照へと帰さなければならない。

そう思いつつ必死に操縦桿を操作する葉月。

しかし、武蔵の対空射撃は容赦なく撃ち続けられ、25㎜機銃の銃弾が海兎の機体を捉えた。

操縦席からはヴィー、ヴィーと警報音が鳴り響く。

 

「せ、先任どこからやられたの!?」

 

警報音を聞き西崎と小笠原は不安そうな顔をする。

葉月が急いで被弾化箇所を調べると燃料の残量を示すメーターがぐんぐんと降下していくのが見えた。

被弾箇所はどうやら海兎の燃料タンクの様だ。

 

「せ、先任?」

 

「燃料タンクをやられた」

 

「「えっ!?」」

 

葉月の言葉に固まる西崎と小笠原の二人。

 

「ちょっ、先任、それ大丈夫なの!?」

 

「天照まで戻れるの!?」

 

燃料タンクがやられた事に無事に天照へと戻れるのか?

このまま海へボチャンになるかもしれないと言う不安が西崎と小笠原にはあった。

 

「此方海兎、緊急事態発生」

 

「此方天照。どうしたの!?現状を報告されたし!!」

 

「武蔵の攻撃により海兎の燃料タンクを被弾‥‥残念ながら、天照へは‥‥戻れそうにありません」

 

今の海兎の位置から天照までの距離、そして燃料の噴出から考えて葉月は天照へと帰ることが出来ないと判断した。

増槽があればギリギリで戻れたかもしれないが、その肝心の増槽は武蔵の煙突に落としてしまった。

 

「そ、そんな!?」

 

葉月からの報告を聞いてもえかは絶望に染まった声を出す。

 

「せ、先任‥‥」

 

「私達死んじゃうの?」

 

海兎に乗っている西崎と小笠原も顔を青くしている。

 

「乗員は墜落前に海へ避難させます。よって乗員の救助をお願いします」

 

「分かりました。直ぐにスキッパーを救助に出します!!」

 

「お願いします‥‥すまない‥そう言う訳だ。二人とも救助が直ぐにくる。海兎が墜落する前に海へ逃げて。海面ギリギリまでホバーリングするから」

 

「先任はどうするのさ?」

 

「此奴(海兎)を離れた海域に落す」

 

「そ、そんな!?」

 

「それじゃあ、先任は‥‥」

 

西崎と小笠原は葉月がこのまま海兎と一緒に海へ沈んでしまうのではないかと思った。

 

「大丈夫、自分も墜落前に海に逃げるから」

 

海兎は武蔵から離れると海面ギリギリの高さでホバーリングをして停止する。

 

「さあ、今のうちに逃げて!!」

 

「う、うん」

 

「先任も天照で会おうね!!」

 

西崎と小笠原はそう言って海へと飛び込んでいく。

二人はライフジャケットを着ているので沈む事はないし、救助もすぐにやってくる。

西崎と小笠原が海に飛び込んだのを確認した葉月は二人を海兎の墜落から巻き込まない様に一人海兎の操縦席に残って海に浮かぶ西崎と小笠原から離れる。

そしてある程度二人から離れるとシートベルトを外して操縦席のドアを蹴りで壊すと自らも海へとダイブする。

操縦者を失った海兎は錐揉み状態となりやがて海へと墜落した。

 

(ゴメン‥‥海兎‥‥)

 

墜落し海へと沈んでいく海兎を見ながら葉月は天照へと帰す事の出来なかった海兎に謝った。

 

「先任!!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

葉月が海に沈んでいく海兎を見ていると後ろからスキッパーに乗った西崎と小笠原が声をかける。

どうやら二人とも無事に救助されたみたいだ。

 

「先任、掴まるぞな」

 

スキッパーの運転席から勝田が手を伸ばす。

 

「すまない」

 

葉月は勝田の手を掴んでスキッパーに救助された。

 

海兎の乗員を救助したスキッパーは天照へと戻った。

西崎と小笠原は着替えに戻ったが、葉月は着替える時間も惜しいと思い濡れたままの状態で艦橋へと戻った。

 

「お姉ちゃん!!」

 

艦橋に戻るともえかが葉月に抱き付く。

 

「も、もえかちゃん。服‥濡れちゃうから離れて」

 

葉月は濡れている自分に抱き付いたままだともえかの服も濡れてしまうので自分から離れろと言うがもえかは葉月に抱き付いたままで呟く。

 

「心配したんだからね」

 

もえかの声は大事な人を失う不安のせいか震えていた。

 

「ごめん‥それに武蔵の足を完全に止められなくて‥‥」

 

葉月はもえかに心配させた事、そして武蔵を止められなかった事を謝った。

 

「ううん、お姉ちゃんが‥‥皆が無事に戻って来てくれたことが今は嬉しい」

 

「もえかちゃん‥‥」

 

葉月もそんなもえかを抱きしめ返す。

もえかの服が濡れてしまうが既に上着は海水で湿っている。

これ以上はもう関係ないのでお互いに気にせずに二人は抱き合った。

 

「艦長、みくらから通信です」

 

抱き合っていた二人を現実に戻したのは鶫の声だった。

彼女の声を聞いて慌てて離れる二人。

しかし、頬はほんのりと赤い。

 

「な、なにかな?」

 

「『これよりみくらは武蔵の航路を妨害すべく機雷を敷設。天照は現海域より離脱せよ』‥以上です」

 

「機雷を敷設!?」

 

みくらの行動に思わず声を出すもえか。

非常時とは言え、本来は航路啓開と安全維持を目的とするブルーマーメイドにとって機雷敷設という手段は福内にとっても断腸の思いだったに違いない。

しかし、速力が低下しても武蔵の攻撃力が落ちた訳ではない。

武蔵はみくらを航路上の危険と判断し、みくらへの攻撃を開始した。

みくらは機雷敷設の為、動きが単調になり機雷敷設前に被弾し航行不能に陥った。

 

「みくら被弾!!」

 

「航行不能に陥った模様!!」

 

「福内さん!!大丈夫ですか!?」

 

「え、ええ‥‥なんとか‥‥でも、ごめんなさい。折角、葉月さん達が武蔵の足を鈍らせてくれたのに‥‥」

 

葉月は急いでみくらと連絡を取り福内の安否を確認する。

艦は被弾して大破したが乗員は無事な様子。

だが、みくらがやられた事により福内艦隊は全滅。

残っているのは中破した天照一艦のみとなった。

 

「横須賀には緊急避難警報が出されるわ。天照も避難して」

 

福内は天照へと再度退避を指示する。

 

横須賀では、福内艦隊全滅の報告が入る。

 

「福内艦隊は全滅」

 

「武蔵、速力10ノットにてなおも横須賀へと進行中」

 

「避難状況は?」

 

「東京湾内全域に警報を発令しました。しかし間に合うかどうか‥‥」

 

「学校艦に総員退艦命令を‥それから国土保全委員会にホットラインを繋いでください」

 

「はい」

 

真雪は国土保全委員会に現状を報告する。

 

「校長の宗谷真雪です。報告します。海上保安法第12条に基づき横須賀女子海洋学校に緊急事態を宣言します」

 

「なん…だと…」

 

「私は艦橋に上がりますので失礼します」

 

真雪はまだドックで整備中の艦を動かし自らが乗艦する旨を国土保全委員会に伝えると校長室を後にしようとした。

 

「委ねるしかないのか…来島の巴御前に…」

 

国土保全委員会のメンバーの一人がボソッと呟く。

 

「何ですかそれ…?」

 

「十五年前領海内を荒らしまわっていた武装船団を単艦で殲滅したのがあの校長だ」

 

国土保全委員会が真雪の過去の武勇伝を語った。

 

真雪が校長室を出ようとした時、

 

「校長」

 

真雪に声をかける人物がいた。

 

「貴女は‥‥」

 

「私に行かせてください」

 

「体の方はもう大丈夫なの?」

 

「はい。それに生徒達が頑張っている中、病院で呑気に休んでいる訳にはいきません」

 

「‥‥分かりました。貴女に任せます」

 

「ありがとうございます」

 

その人物は真雪に礼を言うと艦船ドックへと急いで向かった。

 

 

みくらが航行不能になり天照は武蔵の主砲射程外を並走している。

 

「私達…何もできないの…?このまま武蔵を浦賀水道に行かせちゃうの…?」

 

着替え終わりCICに戻った西崎が残念そうに呟く。

彼女としては海兎で武蔵を攻撃し、その武蔵を止められなかったと言う苦い思いがあるので悔しさは人一倍ある。

 

「…主砲。いつでも撃てるけど」

 

「艦橋!速力このままでいいの!?」

 

「艦長!おにぎりできています!」

 

「カレーもあります」

 

「おしるこも」

 

「‥‥艦長‥どうしますか?」

 

各部署から報告を聞き、葉月はもえかに決断を尋ねる。

このままブルーマーメイドの指示に従い現海域を離れるか?

それとももう一度学校に具申して武蔵へ向かうか?

 

「‥‥」

 

しかし、もえかは決断を下せない。

先程の海兎の件を見て今度は天照を武蔵へと向かわせれば一体何人の怪我人がでるだろう?

いや、死者が出るかもしれない。

皆、覚悟を決めて艦に残ってくれた。

でも、本音を言えば誰も怪我をして欲しくはない。

でも、このまま武蔵を横須賀へと向かわせれば大勢の人々が傷つく。

 

「‥‥」

 

もえかは親指の爪を噛み決断に迷う。

不安、恐怖の為か小さく震えている。

 

「‥‥艦長‥艦長の優しさ‥そして艦長と言う役職の重責、辛さはわかります。でも、艦長は最善だと思う決断をして下さい。艦長の決断を皆が‥‥天照の皆が支えますから‥‥そう思っているのはきっと自分だけではない筈です。その為、皆は敢えて艦に残ったんです」

 

「艦長!!私達もっとやれるよ!だから行こう!!」

 

CICから西崎がもえかに退避ではなく武蔵へと行こうと言う。

 

「私だってもう逃げてばかりじゃありません!なんだってできます!だから‥行きましょう!!武蔵の皆を助けに!!」

 

夜間艦橋からは鈴が涙目になりながらももえかに武蔵へ行こうと言う。

 

「そうですとも…」

 

「できるできる!」

 

西崎と鈴の言葉を着て楓と慧も賛同する。

 

「為せば成る」

 

医務室では美波も武蔵へと行こうと言う。

 

「海の仲間に超えられない嵐はないんでしょう?」

 

「先任‥皆‥‥」

 

「明乃ちゃんはきっと艦長が来るのを待っています。行きましょう!!」

 

「‥‥うん!!各員に達する!!本艦はこれより武蔵の横須賀進行の阻止、および乗員の救助を行う!!機関、最大船速!!目標武蔵!!」

 

もえかは決断を下した。

 

「野間さん、武蔵に発光信号!!宗谷さんに救助に向かう事を伝えて!!」

 

「了解」

 

もえかからの指示でマチコは武蔵の艦橋に居る真白達に発光信号を送る。

 

「副長!天照から発光信号です!」

 

「天照はなんと言ってきている?」

 

「『コ・レ・ヨ・リ・ア・マ・テ・ラ・ス・ハ・キ・カ・ン・ノ・キュ・ウ・ジョ・ニ・ム・カ・ウ‥‥ク・リカ・エ・ス・ワ・レ・キ・カ・ン・ノ・キュ・ウ・ジョ・ニ・ム・カ・ウ』以上です」

 

「‥‥」

 

真白はジッと武蔵の横を並走している天照の艦影をジッと見た。

 

「このままではあと二十分で武蔵が浦賀水道に侵入する!」

 

『繰り返します。ただちに全員退艦してください』

 

ウィルス感染した武蔵が接近していると言う事で各地に避難警報が発令される。

 

「校長。天照から通信です」

 

「繋いで」

 

「はい」

 

「天照艦長、知名もえかです。校長先生、もう一度武蔵への作戦行動を許可願います。クラス全員の同意は取れています。やらせてください!!お願いします!!」

 

「‥‥分かりました。武蔵への作戦行動を横須賀女子海洋学校校長・宗谷真雪が許可します」

 

真雪としては海兎の攻撃が失敗し、福内艦隊も既に全滅し、ウィルス感染した武蔵が迫っている今、心苦しいがもはや手段を選んでいる暇はなかった。

本音を言えばもうこれ以上生徒を危険な目に遭わせたくはなかったが、このままウィルス感染した武蔵が横須賀に入れば国家そのものが危機にさらされる。

真雪は断腸の思いで天照に攻撃命令を許可した。

 

「ただし攻撃は一回だけ地上側でも武蔵への対応を用意しています。反復攻撃の必要はないわ。五分…いえ、三分時間を稼いでくれればそれで十分よ」

 

「はい!」

 

三分もあれば、ドックから出撃したあの人が率いる艦隊が天照の援護を出来ると確信していた真雪。

 

「それと武蔵の艦橋では宗谷副長が艦橋に立てこもって奮戦中です。無線は通じませんが発光信号での通信は可能です」

 

「分かりました。ブルーマーメイド側も作戦行動を許可します。武蔵への接近及び作戦行動を了承します」

 

真霜も真雪同様、天照の武蔵攻撃を許可した。

 

「それでは行きましょうか?艦長」

 

葉月は流石に濡れたワイシャツは気持ちわかったのかワイシャツを脱ぎ、その上から一種軍装の上着を纏い、軍帽を被り直してもえかに声をかける。

 

そしてCICからもクラスメイト達がもえかに声をかける。

 

「狙われるものより狙う方が強いんです!」

 

「その通り!」

 

「うい!」

 

「艦長、指示をお願いします!」

 

「うん。30度ヨーソロー!」

 

「30度ヨーソロー!」

 

鈴がもえかの命令を復唱して舵輪を回す。

 

「機関最大船速、前進いっぱーい!」

 

「前進一杯でぇい!」

 

天照の機関がうなりと轟音を上げて速力が上がっていく。

 

「ミケちゃん‥‥待っていて」

 

次第に近づき姿が大きくなってくる武蔵をもえかは睨むようにジッと見つめる。

其処に居る大事な親友を助けるために‥‥

天照と武蔵‥‥国家の命運をかけたラストバトルが始まろうとしていた。

 


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