ウィルス感染した武蔵が横須賀に迫っている中、ブルーマーメイドの主力はフィリピンから全速で戻っているが、間に合わず最後の頼みは福内の予備隊だったが、その予備隊も武蔵に攻撃するが大和型特有の強固な防御の前に攻撃は意味をなさず、反対に武蔵からの攻撃で福内艦隊は壊滅状態となった。
福内は学生艦である天照に退避を指示するが、葉月ともえかは射程外まで退避しつつ海域からは退避することなく武蔵の動向を窺っていた。
そんな中、葉月が海兎を使ったある策を思いつき真雪に許可を得て作戦を実行した。
集められたのは砲雷科、水雷科の中でも射撃が得意とされる西崎と小笠原の二人。
そして、葉月を含めた三人は普段は立ち入り禁止区画となっている武器庫から大きな箱を五つ台車に乗せて後部甲板の海兎の下へとやって来た。
「先任何それ?」
後部甲板で海兎の準備をしていた美海は葉月達が持って来た箱の中身を尋ねる。
「ロケットランチャー」
「ろ、ロケットランチャー!?」
葉月の返答に海兎を準備していた美海、青木、和住、杵﨑姉妹、みかんは唖然とし、ロケットランチャーを運んでいた西崎と小笠原もまさか自分達がロケットランチャーを運んでいたとは思わず、彼女らも唖然としている。
「西崎さん、小笠原さん」
「「は、はい」」
「二人にはこれから海兎に乗ってコイツを武蔵の煙突の中に撃ち込んでもらいたい」
「えええっ!!」
「私達が武蔵に!?」
西崎も小笠原も此処に来て作戦の詳細を知り驚いている。
「で、でもなんで煙突を狙うのさ?」
西崎は攻撃目標が何故武蔵の煙突なのか疑問に思い葉月に説明を求める。
「それは‥‥」
葉月が真雪に説明した通り、武蔵の煙突を攻撃目標にする事を説明する。
「でも、ロケットランチャーで武蔵を止める事が出来るの?」
「そうですよ。武蔵の煙突にだって装甲が施されている筈です」
「確かに煙路開口部には『蜂の巣装甲』と呼ばれる厚さ30cm以上の銅板がある」
「それじゃあ‥‥」
「それでも、ブルーマーメイドの主力が間に合わず、福内艦隊が壊滅し、武蔵が横須賀に迫っている中、やらないという選択肢はない筈だ」
葉月は西崎と小笠原をジッと見る。
「もし、怖いと言うなら構わない。今から代わりの人員を選定する」
葉月はそう言うが、今から代わりの人員など選んでいる時間的余裕はない。
これは賭けに過ぎなかった。
西崎と小笠原、最悪どちらか一人でも来てほしかった。
「代わり?何言ってんのさ、先任」
西崎はニヤリと口元を緩める。
「堂々とあの超弩級戦艦に向けてロケットランチャーを撃てるんだよ。こんな機会もう二度とないじゃん。タマには悪いけど私は行くよ!!」
西崎は行くと言う。
「私も!!あっ、でも先任一つ確認」
「なにかな?」
「壊しても成績に響いたり、犯罪とかにはならないよね?」
「ああ、有事の際の出来事だ。超法規的措置がとられる」
「じゃあ、行きます!!」
西崎も小笠原も堂々とロケットランチャーを撃ててしかも物を壊しても罪に問われないと言う事で行くと言う。
ロケットランチャーを海兎に積み込み西崎と小笠原も海兎へと乗り込む。
「海兎が発進したら、天照は武蔵の電探と測距儀を破壊する為、一時武蔵へと接近する。被弾の可能性があるから左舷側には近づかない様に!!なるべく中央区画か右舷側に居て!!」
葉月は海兎の発進準備をしていた美海、青木、和住、杵﨑姉妹、みかんらに海兎の発艦後の注意を呼び掛ける。
「分かりました!!先任たちも気を付けて!!」
やがて、海兎の発艦準備が整うと、
「こちら、海兎。発艦準備完了!!」
「艦橋了解、発艦を許可します。気をつけてね、皆」
発艦許可が出て海兎は天照の飛行甲板から飛び上がった。
「おおー本当に飛んでいる!!」
「凄い!!」
初めての飛行体験に西崎と小笠原は物凄く興奮していた。
海兎が天照から発艦したのを確認し、天照は武蔵の電探・測距儀を破壊する為、武蔵へと接近する。
「発光信号用意」
もえかは武蔵に対して無駄であると思うが発光信号を放つ。
その発光信号は武蔵の艦橋で立てこもっている真白達も確認した。
「副長、天照から発光信号です」
「何と言っている?」
「ム・サ・シ・二・ツ・グ・テ・イ・セ・ン・セ・ヨ」
天照は武蔵に対して停船信号を送るが武蔵は当然無視をしてしかも砲塔を天照へと向ける。
「艦長!!砲塔が動いています!!前部第一、第二主砲の旋回を確認!!」
「砲口はこちらを向けています!!」
「機関、最大船速!!目標、武蔵!!」
天照の機関が轟音を上げ、速力を上げ武蔵へと迫る。
「半潜航行開始!!」
もえかは天照の被害を最小限にする為天照を半潜航行させる。
そんな天照に向けて武蔵は砲撃して来る。
「武蔵より発砲炎を確認!!」
展望デッキからマチコの叫びが艦内に響く。
やがて、ヒューッと空気を割くような音が聞こえてきたと思ったら、天照の周りに大きな水柱が立つ。
「初弾近弾!!」
(武蔵の砲弾が尽きるまで回避したい所だけど、そんな時間はない)
「発光信号は止めずにこのままの速度を維持して武蔵へ接近!!」
もえかは恐れる事無く各パートへと指示を送る。
舵を握る鈴も武蔵の46cm砲の至近弾を受け、ビビるが今ここで勝手に舵を回す事は出来ない。
恐怖を必死に誤魔化す為、舵輪をギュッと強く握る。
「天照、尚も発光信号を発しながら接近してきます」
「‥‥こちらも天照へ発光信号用意。天照に此方の状況を知らせつつ退避を要請」
「は、はい」
真白は艦橋に備えてあった発光信号機を使って天照へと発光信号を送った。
その発光信号を展望デッキのマチコが確認する。
「武蔵艦橋より発光信号!!」
「っ!?」
武蔵からの発光信号という報告を聞き天照の艦内に衝撃が走る。
まだ艦内にはウィルス感染していない者がいた。
「野間さん、武蔵は何て?」
「えっと‥‥キ・カ・ン・ハ・ソ・ノ・マ・マ・キョ・リ・ヲ・ア・ケ・タ・シ・セ・ッ・キ・ン・ハ・キ・ケ・ン・シュ・ホ・ウ・ダ・ン・イ・マ・ダ・ホ・ウ・フ・ム・サ・シ・フ・ク・チョ・ウ・ム・ネ・タ・ニ・マ・シ・ロ」
「宗谷さん無事だったのね!!」
マチコの報告は天照の艦内に伝えられ、真白の無事に機関制御室にいた黒木は歓喜した。
「なら助けるしかない!」
例え明乃の安否が知れない事がもえかにとって不安であってもまだ正常者が居ると言うのであれば助けなければならない。
「立石さん、まだ副砲で艦橋上部の電探・測距儀を狙えない?」
「まだ‥‥距離が‥足りない」
もえかが立石にまだ武蔵の電探・測距儀を狙えないか尋ねるがまだ武蔵と天照の距離があり狙えない。
武蔵の電探・測距儀を破壊するにはもっと武蔵に接近しなければならない。
その間にも武蔵からは46cm砲弾が降り注ぐ。
「総員、衝撃に備えよ!!」
距離が近づくにつれ夾叉する間隔が短くなってくる。
そして、天照に凄まじい衝撃が襲う。
「左舷高角砲群被弾!!」
等々武蔵の46cm砲弾が天照に命中した。
「艦長、応急処置はどうします!?」
和住がもえかに被弾箇所の応急処置はどうするかを尋ねるが、
「今はいい!!」
もえかは武蔵との接近最中に応急処置作業は危険と判断し、和住達応急員達には待機を命じた。
「艦長、間もなく武蔵が副砲の射程内に入ります!!」
「野間さん、武蔵の宗谷さん達に発光信号!!」
「はい!!」
マチコは武蔵の艦橋に居る真白達に発光信号を送る。
「ふ、副長。天照より再び発光信号です!!」
「天照は何と言っている!?」
「‥‥破壊予告です」
「破壊予告!?」
「はい、電探・測距儀を破壊するので艦橋に居る者は衝撃に備えよとのことです」
「っ!?総員衝撃に備えよ!!」
真白が艦橋に居る角田、小林、吉田に注意すると皆は床に伏せる。
「第三副砲、第九副砲、諸元入力完了!!目標、自動追尾開始!!」
「撃ち方始め!!」
「てぇぇー!!」
第三副砲は武蔵の艦橋上部にある電探・測距儀を狙い、後部の第九副砲は武蔵の後部にある予備電探・測距儀に狙いを定めて撃つ。
やがて武蔵の艦橋に衝撃と轟音が襲い掛かる。
「キャァァァァ」
「うっ‥くっ‥‥」
衝撃と轟音に真白達は思わず悲鳴を上げる。
そして目を開けた真白の目に飛び込んできたのは撃ち落された武蔵の電探・測距儀が落下していく光景だった。
「予告通りに電探・測距儀を!?」
目の前の現実に真白達は驚愕するしかなかった。
破壊された武蔵の電探・測距儀は轟音を立てて武蔵の甲板上に落ちた。
艦橋上部の電探・測距儀が破壊されたのと同時に後部にある予備の電探・測距儀も天照の副砲弾の攻撃を受けてバラバラになった。
これで武蔵の射撃性能と命中精度はガクッと落ちる事となった。
「やりました!!艦長!!目標の撃破を確認!!」
マチコから目標である武蔵の電探・測距儀を破壊した報告を受け、もえかは、
「退避行動!!左舷バウスラスター全開!!面舵一杯!!ダッシュ!!水流一斉噴射!!」
武蔵からの射程外への退避を命令した。
「お、面舵一杯!!」
鈴が舵を勢いよく右へと回す。
「ガッテン!!水流一斉噴射!!」
機関制御室では機関員が機関を制御して水流を一斉に噴射して天照の速度を上げて武蔵との距離を取る。
電探・測距儀を破壊され射撃性能が落ちた武蔵であるが標的である天照がデカい為に目視による直接射撃で『逃がさん』と言わんばかりの砲撃をして来る。
「左舷後部被弾!!」
「構わない!!このまま射程外まで退避!!退避後は半潜航行止め、応急処置にかかれ!!」
(後は任せるよ‥お姉ちゃん。頑張って)
もえかはやるべき事はやり、後の事を海兎の葉月達に委ねた。
「よし、予定通り天照は武蔵の電探・測距儀を破壊したみたいだ‥」
「でも、武蔵の針路も速力も変わらないままみたい」
射撃性能が落ちても武蔵はそれを無視して横須賀を目指していく。
「電探が破壊された事で武蔵はまだ此方を補足していない。こちらも予定通り、このまま武蔵後方より突入する。攻撃準備を」
「は、はい」
「了解」
西崎と小笠原は箱の蓋を開けて中のロケットランチャーを取り出す。
「間もなく攻撃開始地点だ‥これより高度1千まで上昇する」
(電探をやられたととは言え、武蔵も攻撃されれば嫌でも気づくはず‥‥二発目以降は対空砲火浴びるかもしれないな‥‥)
「いくよ」
「「はい」」
「突入開始!!」
海兎は武蔵に気づかれる事無く後ろから忍び寄る。
「うひょ~空から見てもやっぱり武蔵は大きなぁ~」
ロケットランチャーの照準器越しに空か見た武蔵の感想を述べる西崎。
「ターゲットは‥‥あそこか‥‥15万馬力の機関の熱源‥‥頼むよ迷わずに‥‥食らいつけ!!」
そして狙いを定めて西崎は引き金を引いた。
「次!!」
一発目を撃った後、すぐさま次弾を撃つように西崎は小笠原に次のロケットランチャーを撃つように言う。
「OK!!」
ズドーン!!
西崎が撃った一発目は見事に煙突の天井部にある軽装甲を破って命中する。
その直後に二発目‥小笠原が撃ったロケットランチャーが命中する。
「二発とも命中を確認!!上手いぞ、西崎さん、小笠原さん!!」
海兎のコックピットから初弾と次弾が命中した事を確認した葉月は二人を褒める。
「武蔵も此方に気づいた筈だ。次からは回避運動をしながらの発射になる!!安全ベルトの確認を要チェックね!!」
「「はい!!」」
「先任も当たらない様にしてよね!!」
「ああ、任せろ!!」
葉月は操縦桿をグッと握る。
西崎は三発目のロケットランチャーを放つ。
武蔵の方も空から攻撃をしてくる正体不明の飛行物体を放置しておくわけにはいかず、高角砲群の中になる測距儀から指示を送り高角砲を撃って来た。
武蔵の高角砲群火を吹いたのと同時に三発目のロケットランチャーが命中する。
「三発目、命中」
「先任、武蔵に何か変化はある!?」
小笠原が武蔵に何か変化があるかを尋ねるが、
「いや、未だに針路・速力変わらず」
ロケットランチャーを三発食らっても武蔵の機関は未だに健在の様子だった。
「かぁ~やっぱ手ごわいねぇ~」
「此方、海兎。天照へロケットランチャー三発目の命中を確認。武蔵機関へのダメージは確認不能。しかし、未だに針路、速力に変化が無い事から無傷化と思われます」
葉月は天照に現状を報告する。
「武蔵も其方に気づいた筈です。詳細を報告してください」
「はい、武蔵も此方に向けて高角砲を射ち上げて来ています。ですが、射撃管制は甘く本機の機動にはついていけていません。これなら十分に躱せます。引き続き武蔵への攻撃は続行します」
武蔵は電探を破損している為、高角砲群の測距儀では機動力のある海兎を捕捉する事が出来ず、高角砲は弾幕を張るぐらいでとどまっている。
「ロケットランチャーの弾はまだまだある。派手な花火をもっと武蔵に見せつけてやれ!!」
「「はい!!」」
その後も西崎と小笠原は武蔵の煙突にロケットランチャーを撃ち込むが武蔵には未だに変化がなく、ロケットランチャーの弾だけが減って行く。
「先任、武蔵に何か変化は!?」
「未だに27ノットの速力を出している‥‥最後の攻撃は少し待って!!」
「は、はい?」
「どうして?」
葉月の言葉に西崎と小笠原は首を傾げる。
(ロケットランチャーの弾は残りあと一発‥‥どうする?このまま攻撃して止められるか?それとも多少危険を冒してでも武蔵の至近距離‥直上までいって攻撃するか?)
最後の一発だからこそ、これで決めなければならない。
「先任、煙突の上まで行ける?」
「えっ?」
西崎が海兎を武蔵の煙突の上に飛ばしてくれと言う。
時間的にも横須賀への距離も考えても多少の危険もやむを得ない。
「‥‥わかった。海兎より、天照へ」
「此方、天照。海兎どうしました?」
「ロケットランチャーの残弾数‥残り一発。ですが、武蔵未だに速力変わらず‥作戦の変更を行います」
「作戦の変更?どうするんです!?」
「燃料が一杯に詰まった増槽を武蔵の煙突内に投下、その後ロケットランチャーを打ち込みます」
「『煙突内に投下』って、まさか武蔵の煙突の直上に行く気ですか!?危険です!!」
「大丈夫‥電探を潰されて対空砲はお粗末‥対空砲の弾幕が薄い後部上空からの突入なら接近は簡単です」
「で、でもそんな危険な事は‥‥」
「では、どうする?艦長?このまま武蔵を横須賀に案内する?」
「うっ‥‥」
葉月の言葉にもえかは言葉を詰まらせる。
「‥‥分かりました‥でも、絶対に帰ってきてね」
「了解。機体反転、目標、武蔵後方上空!!二人ともしっかり掴まっていて!!」
葉月の指示に従い西崎と小笠原はギュッと手すりにしがみつく。
(武蔵まであと2千‥‥すでにこの機体は両舷の高角砲の死角に入った。主砲、副砲も沈黙したまま‥‥残る脅威は艦尾の機銃‥この砲火を抜ければ煙突開口部はすぐそこだ!!)
「突入するぞ!!」
海兎は武蔵の対空砲を避けるため海面すれすれの超低空で武蔵の懐に侵入し甲板を掠めてほぼ垂直に上昇する。
「高度一千に達したら、今度は一気に三百まで降下する!!攻撃準備を!!」
「了解!!」
「今度こそ、止めてやる!!」
西崎と小笠原は最後に残ったロケットランチャーの準備を行う。
「目標高度まで残り50m‥最終針路を確認‥引き起こし!!ホバリングに移行!!左舷増槽投下用意!!」
やがて、海兎は武蔵の煙突の上に到着した。
「左舷増槽投下!!」
海兎の左舷に備え付けの増槽が武蔵の煙突の中に吸い込まれて行く。
「先任!!うまい具合に入りました!!」
小笠原が増槽は無事に武蔵の煙突の中に入った事を伝える。
「撃って!!」
「了解‥くらえ!!」
続いて西崎が放った最後のロケットランチャーが煙突の中に入って行く。
「よし、命中!!」
「爆炎は!?」
「まだ確認できていません!!」
増槽そしてロケットランチャーは見事命中したが未だに武蔵の煙突からは何のリアクションも起きていない。
失敗かと思われたその時、轟音と共に武蔵の煙突の一部が吹き飛んだ。