小笠原諸島沖合に突如出現した大和級の戦艦と似て異なる未知の超弩級戦艦‥‥。
海に生き、海を守りて、海を往く、ブルーマーメイド達はその役柄上、早速この不明艦の調査に赴いた。
そこで、彼女達が見たのは、今まで自分達が最大の大きさだと思っていた大和級を凌ぐ大きさの戦艦だった。
船体の大きさは当然の事で、主砲さえも大和級の46cm砲を凌ぐ大きさだった。
一体この戦艦は何処から来たのだろうか?
そして、一体どんな人が乗っているのだろうか?
調査の為、この不明艦に乗り込んだブルーマーメイド達は不安と緊張の中、いよいよ不明艦の内部調査へと入った。
まず、艦内に入る為、扉を見つけると、一人が扉のノブを握り、その他のブルーマーメイドの調査隊員達がテ―ザー銃を構える。
ドアノブを持つブルーマーメイドの調査隊員が周りの隊員達を見る。
そして、テ―ザー銃を構える隊員達が頷く。
ドアノブを持つブルーマーメイドの調査隊員が一気に扉を開ける。
テ―ザー銃を構える隊員達は扉が開いた瞬間、緊張するが、扉の向こうを見ると、その緊張を緩めた。
扉の向こうには誰もおらず、静寂とした空間が広がっていた。
隊員達は互いに顔を見渡し、頷くと艦内へと足を踏み入れた。
調査隊の隊員達が不明艦の艦内へ入った連絡は福内が艦長を務めるみくらに連絡が入り、福内、平賀には、逐次調査隊からの連絡が入る様になっており、福内も事前に調査隊には、定時連絡を欠かさずする様に指示を出していた。
また、不明艦を包囲しているブルーマーメイドのインディペンデンス級沿海域戦闘艦も万が一の事態を踏まえて常に主砲を不明艦にロックしたままで、何時でも発砲可能な状態となっていた。
「調査隊、不明艦の内部に進入しました」
「了解、艦内の様子は?」
「今のところ、乗員との邂逅はなし、艦内は人の気配がないとの事です」
「‥‥」
(あの巨艦ならば、乗員の数はかなりの人数‥私達が此処までの近距離に接近しているのは気がついている筈‥‥それなのに未だ何のリアクションも無いなんて‥‥)
福内はこの静寂な時間がまるで嵐の前の静けさの様な感覚を覚える。
(何事も無ければいいけど‥‥)
福内同様、平賀も調査隊の安否を気にして、眼前の不明艦を不安そうに見つめていた。
一方、不明艦の内部に入った調査隊はゆっくりだが、確実に一歩、一歩前に進んでいた。
「艦の構造は、大和級と変わりませんね‥‥」
調査隊の隊員の一人が艦内を見渡しながら、呟く。
確かにこの不明艦は外見が大和級と若干似ている事から艦内も大和級と似ていた。
しかし、今のところ、乗員らしき人間とは未だに邂逅していない。
「誰も居ませんね‥‥」
「まるで、幽霊船、『マリー・セレスト号』みたいですね‥‥」
「ちょっ、怖い事言わないでよ!!」
「ご、ごめん‥‥」
隊員の一人が呟いた船名‥マリー・セレスト号‥‥。
それは、船乗りにとって最も有名な幽霊船の船名であった。
当然、その船名はブルーマーメイド達も知っていた。
1872年11月5日、マリー・セレスト号という二本マストのアメリカの帆船が原料アルコール(飲酒用ではないアルコール)を積んで、アメリカのニューヨークからイタリアのジェノバに向けて出港した。
この船に乗っていたのは、ベンジャミン・ブリッグス船長と8人の乗員、そして、船長の妻、マリー(本によってはファニーと記されている)と娘のソフィアの総勢11人であった。
そしてマリー・セレスト号がニューヨークを出港して1ヵ月後の12月5日、そのマリー・セレスト号が、ポルトガルとアゾレス諸島の間の大西洋を漂流しているのが、イギリス船、デイ・グラシア号に発見された。
マリー・スレスト号は航行している様子はなく、海上を漂っている状態だったため、何か事故が発生したのではと思い、グラシア号は、マリー・セレスト号に近づいて船を横付けにして声をかけてみたが、返事がない。
そのため、船長以下、数人のグラシア号の乗組員がマリー・セレスト号に乗り込んで船の中の様子を確認することにした。
しかし、マリー・セレスト号の船中には誰も見当たらなかった‥‥。
航海中に海賊にでも襲われたのか?
それとも船内で伝染病が起き、船に乗っていた皆がその病気に感染して乗組員全員が死亡したのだろうか?
だが、もし、海賊に襲われたにしろ、船内で伝染病が発生したにしろ、船内に乗員の死体がないのはおかしい。
しかし、不思議なことはそれだけではなかった‥‥。
船内の様子を調べる内に、次々と奇怪なことが分かったのだ。
無人で漂流していたマリー・セレスト号の船長室のテーブルの上にあった食事は食べかけのままで暖かく、コーヒーは、まだ湯気を立てており、調理室では、火にかけたままの鍋がグツグツと煮立っていた。
また他の船員の部屋には食べかけのチキンと、シチューが残っていた‥‥。
洗面所にはついさっきまでヒゲを剃っていたような形跡があり、ある船員の部屋には血のついたナイフが置いてあった。
そして、船長の航海日誌には、「12月4日、我が妻マリー(本によってはファニー)が‥‥」と走り書きが残っていた‥‥。
船に備え付けの救命ボートも全部残っており、綱をほどいた形跡もなかった。
船の倉庫には、まだたくさんの食料や飲み水が残っており、積荷のアルコールの樽も置かれたままで、盗難にあった様子はなかった。
12月4日、一体この船に何が起こったのだろうか?
マリー・セレスト号の乗組員が、どこへ消えたのかは、未だ謎のままである。
未だにこの艦の乗員と出会っていない事がマリー・セレスト号の事件と酷似している。
「いや、もしかしたらオーラン・メダン号の様な事が起きるかもしれないよ」
「だから、怖い事を言うな!!」
オーラン・メダン号‥‥。
この船もマリー・セレスト号程ではないが、この船も謎が多い、幽霊船として船乗りの中で、語り継がれている船であった。
1948年 航行中のアメリカ船籍の船舶、シルバースター号はインドネシア・マラッカ海峡で一つの無線信号を受信した。
その無線信号はインド・ジャカルタに向かって航行中だったオランダ船籍の商船オーラン・メダン号からの物であり、通信を送って来たのは同船の通信員からだった。
彼は、船員のほとんどが死亡したこと、そして自分自身も死の危機に瀕していることなどを伝えた。
しかし、無線は途中で途切れてしまった。
不審に思ったシルバースター号はオーラン・メダン号の下へと向かい、船員をオーラン・メダン号の船内に乗り込ませると、オーラン・メダン号の乗組員達は恐怖におののくような凄まじい形相で倒れている死体が山のようにあったという。
死体は人間だけでなく、船で飼っていた犬までもが死体となって発見された。
まるで死の直前にこの世の物とは思えない恐ろしいものを見たかのような表情をしていた遺体であったが、その遺体のどこを調べてみても外傷らしき傷は何一つなかった。
それどころか、オーラン・メダン号自体は全くの無傷であったのである。
ますます不審に思ったシルバースター号の乗組員達が詳しく船内の調査をしようとしたその時、オーラン・メダン号は突如、激しい爆発音とともに炎上し、シルバースター号の乗組員達は撤退を余儀なくされた。
乗組員達の撤退後、激しく炎上したオーラン・メダン号の船体は瞬く間に傾き、多くの乗組員達の亡骸を乗せたまま船は海の底に沈んでいった。
後日、調査がなされたが詳しい沈没原因などは特定されず『何らかの突発的要因による』として片づけられた。
乗組員の死亡原因に至っては船体が炎上したこと、沈没していることなどから手掛かりがほとんどない。
ちなみに、オーラン・メダン号へ近づいた際の状況をシルバースター号の乗組員が後に語った話によると、事件当初オーラン・メダン号の船体は無数の鮫によって取り囲まれていたらしい‥‥。
一体この船に何があったのか?
乗組員達は何を見たのか?
そして、その身に何があったのか?
今現在もほとんどが謎に包まれており死亡原因は特定されていない。
今のところ乗員の姿を見ていない中、幽霊船の船名を連続で聞いた為、隊員達の中で、もしかしてこの艦は幽霊船なのではないかと言う不安と恐怖が芽生え始めて来た。
その為、艦内を歩いていく中で、遭遇した部屋を調べる際、隊員達は逃げ腰の様な格好となっていた。
やっぱりブルーマーメイドとは言え、人間なのだから、怖いモノだってあるのだ。
誰もいない巨艦‥‥。
電気が付いていない薄暗い通路‥‥。
ホラー要素は満点の環境だった。
「も、もし、オーラン・メダン号の様なケースだったら、皆、何時でも退避できる様にしておきなさい」
「りょ、了解」
ビクビクしながら艦内を進んで行き、自分達の母艦であるみくらにも定時連絡を怠らない調査隊のブルーマーメイド達。
一方で連絡を受けるみくらの福内らは調査隊の声が震えている事に何となく疑問を感じた。
しかし、調査隊からの連絡からは相変わらず、「異常なし」 「乗組員の姿を確認できず」 の報告で、声を震わせる要素など無い筈なのに‥‥。
調査隊は相変わらず、この不明艦の乗員と邂逅出来ない状況が続き、若干調査隊の気持ちも落ち着きを取り戻し、調査任務を続行していたが、この状況を長々と続ける訳にはいかないので、乗員が居そうな艦橋を目指す事にした。
例え、乗員が居らずとも、もしかしたら航海日誌など、この艦が何処から来たのかを知る手掛かりがある筈だと思い、調査隊一同は艦橋を目指した。
そこで、漸く調査隊はこの艦の乗組員と出会う事が出来た。
「っ!?」
「人だ!!」
乗員らしき人物は、艦橋の床で倒れていた。乗員らしき人物は紺の制帽に同じく紺色の詰襟の軍服を着ていた。その為この床に倒れている人物がこの不明艦の乗員である可能性が高かった。
「しっかり!!大丈夫ですか!?」
調査隊の隊員が急いで駆け寄り、乗員らしき人物の声をかけるが、乗員は意識不明の状態となっていた。
しかし、身体に傷は無く、負傷している様子は無かった。
「みくらへ、こちら調査隊!!不明艦の乗員と思われる人物を発見!!」
調査隊はみくらに乗組員発見の報告をいれた。
調査隊からの報告にみくらの艦橋は一瞬であるが、活気だった。
「調査隊、此方みくら、福内。不明艦の乗員の様子は?」
「負傷はしていませんが、意識不明の状態です!!至急救護班の派遣を要請します!!」
「了解」
福内は直ぐに医務室へ連絡を入れ、急いで救護班を不明艦の艦橋へ‥‥不明艦の乗員の下へと向かわせた。
みくらの救護班は不明艦の艦橋へと向かい、この不明艦の乗員をストレッチャーに乗せて、みくらへと戻って行った。
不明艦の乗員は医務室へと運ばれ、検査が行われた。
その際、今乗員が着ている服では、検査しづらかったので、みくらの女性医務官は乗員が着ている服を脱がせた。
服を脱がせている最中、医務官はある疑問を抱いた。
「あら?この娘、ブラを着けていないわ」
露わになる胸部を見ながら医務官は首を傾げた。
しかし、いつまでも胸部をさらしておくわけにはいかないので、疑問を感じつつ、医務官は乗員に検査衣を着せる為、次に乗員が穿いているズボンを下ろした。
すると、またもや不自然な点があった。
「‥‥えっ?」
(‥‥えっ!?な、なんで?なんで、この娘、男物の下着を穿いているの?)
乗員が身に着けていた下着は女物の下着では無く、男物の下着だった。
(ま、まさか、この娘、俗に言う男の娘って奴じゃないわよね?でも、胸はあるし‥‥)
医務官はますます混乱し、この乗員の性別を確かめるべく、乗員が着ている下着に手をかけた。
ゴクリと生唾を飲み込み、あとは下着を降ろすだけ‥‥
その時、医務室の扉が開いた。
「医務長、例の不明艦の乗員‥‥」
扉を開けたのは艦長の福内だった。
そして、福内の後ろには平賀の姿もあった。
「「「‥‥」」」
医務室の扉を開けた福内と平賀見たのは不明艦の乗員の下着を降ろそうとしている医務官の姿が目に入った。
医務官は突然医務室に入って来た福内と平賀の姿を見て固まり、反対に福内と平賀も不明艦の乗員の下着を降ろそうとしている医務官の姿を見て固まった。
「「「‥‥」」」
長い様で短い沈黙の時間が流れる。
そして‥‥
「「お、お邪魔しました‥‥//////」」
そう一言呟き、福内と平賀は顔を赤くして医務室の扉を閉める。
「ちょっ!!艦長!!待って下さい!!これには訳が‥‥」
「そうよね、長い船暮らしだと欲求も溜まるわよね」
「そ、そうですね」
福内と平賀の二人は医務官から目を逸らしながら通路を何事も無かったかのように歩いていく。
「だから、違うんですってば!!」
医務官が福内と平賀を追いかけて必死に説明をしていると、
「なんじゃこりゃぁあ!!」
と、医務室から叫び声が聞こえて来た。