ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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53話 赤道祭 本番

赤道を越えたとある地点にて、明石と間宮の補修と補給作業を受けている天照。

そんな中、機関長の榊原麻侖が赤道祭をやろうと言いだし、もえかも乗員の休息にはちょうどいいと思い赤道祭の許可を出した。

しかし、乗員のほとんどは赤道祭には興味ない様子で、準備も進まず、本当に赤道祭を開くことが出来るのか?と言う空気の中、実行委員長の麻侖が赤道祭に興味がないクラスメイト達の様子と発言で拗ねてしまった。

そんな麻侖の様子を知る由もなく、艦橋では‥‥

 

「せぇ~ん~にぃ~ん。この続きはどうしたらいいと思います?」

 

幸子が葉月に台本が書かれたタブレットを見せる。

クラスメイト達の大半が赤道祭には興味がない中、幸子は赤道祭には興味がある方で、葉月が予想した通り、赤道祭では、演劇をやりたいらしく、その台本を書いていた。

 

「好きにすればいいと思う‥‥監督・脚本は納沙さんなんだから‥‥」

 

「えぇ~。投げやりだな~」

 

「むぅ~納沙さん、最近ちょっと、お姉ちゃ‥‥先任にべったりな様な気がするんだけど‥‥」

 

葉月にベッタリとしている幸子をもえかはジト目で見る。

 

「えぇ~艦長、気のせいですよ、気のせい」

 

そう言いながら、幸子は葉月に腕を絡めてくる。

 

(気のせいなんかじゃない。お姉ちゃんからは納沙さんの匂いがするし、反対に納沙さんからは、お姉ちゃんの匂いがする‥‥って言うか今まさにベッタリとしているじゃない!!う、腕なんか絡めちゃって!!)

 

もえかがふくれっ面で幸子を睨んでいると、

 

「艦長。校長より連絡です」

 

「えっ?校長先生から?どんな内容?」

 

鶫が学校からの伝達事項を伝える。

 

「『天照は補給・修理が終わり次第ブルーマーメイドが行うパーシアス作戦に協力せよ。ブルーマーメイドに合流後は後方第二陣に着くように』だそうです」

 

「後方第二陣‥‥予備兵力か‥‥」

 

葉月が天照の位置から天照は本格的に戦闘に参加するわけではなく、万が一の為の戦力だと予測する。

流石に学生を最前線に立たせる訳にはいかないが、天照は現在、稼働中の戦艦の中でも最強クラスの戦力の為、ブルーマーメイドも戦力に組み込みたいと言う事なのだろう。

それ故の後方配置‥つまり、予備兵力と言う事なのだろう。

 

「予備兵力なら、戦うこともないかもしれませんね」

 

鈴がホッとした様な様子で言う。

 

「あとどんだけ覚醒させるんだ?」

 

西崎があとどれくらいの艦がウィルスに感染しているのかを尋ねる。

 

「五艦ですね。四艦は所在が判明していますが武蔵は不明です」

 

幸子が現在、ウィルス感染している艦数を西崎に教える。

 

「‥‥となると、天照が参加する作戦の相手は‥‥」

 

「武蔵でしょうね」

 

「‥‥」

 

この後、本格的にブルーマーメイドと共に武蔵と砲火を交えるかもしれない事にもえかは顔を俯かせる。

そこへ、

 

「艦長!機関長が…」

 

黒木が艦橋に飛び込んできた。

 

「どうしたの!?」

 

黒木の慌てようから麻侖が祭りの準備中に怪我でもしたのかと思ったもえか。

 

「その‥‥拗ねました…」

 

『えっ?』

 

黒木の言葉に唖然とする艦橋員一同だった。

 

その頃、天照のとある通路では、和住が何かを作っていた。

そこをお手洗いから戻った小笠原が見つけ、和住に声をかける。

 

「何作ってんの?」

 

「できてからのお楽しみお楽しみ~」

 

そう言って彼女は木材に釘を打ち込んでいった。

 

 

黒木から麻侖が拗ねたと聞き、もえかと葉月が赤道祭の様子を見に行くと、準備は思いのほか進んでいなかった。

麻侖と黒木以外の機関科のメンバーは先程の麻侖の様子を見たせいか、祭りの準備をしているが、内田、勝田、山下の三人は甲板でトランプをしている。

 

「成程。自分の思うように盛り上がらなくて拗ねたのか‥‥」

 

「いつもは威勢がいいんですが一旦ヘソを曲げるとテコでも動かなくて…」

 

「ううん、お祭りの準備を榊原さんに任せっぱなしにしていた私も悪かったよ」

 

もえかが赤道祭の準備全てを麻侖と黒木に任せっぱなしだったことに関し謝罪する。

 

「一晩寝ればすっかり気分も変わるんですがどうやって機嫌を直したものか…」

 

麻侖の機嫌をどうやってなおすか頭を抱える黒木。

そこへ、

 

「あのさ。私が個人的に作った物で気分が盛り上がるんじゃないかと‥‥」

 

和住が『我に策あり』と言う感じで麻侖の機嫌をなおす方法を提示する。

 

「確かにそれなら、麻侖の機嫌の機嫌もなおりそうね」

 

黒木は和住の提案を聞き、納得し、麻侖を探しに行った。

 

「‥‥艦長」

 

「ん?」

 

「道化になる覚悟はありますか?」

 

「はい?」

 

葉月の問いに首を傾げるもえか。

 

その頃、黒木は麻侖をあっさりと見つけた。

伊達に麻侖の幼馴染をしている訳では無い。

 

「やっぱりここにいた」

 

「よくわかったな」

 

麻侖は機関制御室で不貞寝していた。

 

「麻侖いつも拗ねると船の下に潜り込んでいたじゃない」

 

「そうだったかな?」

 

「ちょっと来て。麻侖が喜ぶ物があるから」

 

「焼肉?」

 

「食べ物じゃない」

 

「パイナップル缶?」

 

「それも食べ物じゃない」

 

「来ればわかるから」

 

「?」

 

黒木に促され麻侖は渋々ついて行く。

そして、着いて行った先の甲板では‥‥

 

『ワッショイ!!ワッショイ!!』

 

クラスメイト達が神輿を担ぎ、楓が笛を吹き、松永が太鼓を叩いていた。

 

「神輿なんてどこにあったんでぃ?」

 

「私が作ったんだ」

 

「個人的に作っていた物ってのはこれだったのか‥‥」

 

「私両親が神田の生まれで祭りって聞くとつい血が騒いじゃうんだ」

 

「生粋の江戸っ子!」

 

麻侖がキラキラした尊敬の目で和住を見つめた。

 

「はっはっ! いやーめでたいめでたい」

 

するととある素晴らしい世界に登場する駄女神のコスプレをして水芸を披露しているもえかの姿があった。

 

「なーにやってんだ?艦長は?」

 

普段のもえかからは信じられない光景を見て麻侖は唖然とする。

他のクラスメイト達ももえかのコスプレと水芸を見て笑っている。

 

「浮かれてんのよ。お祭りだから」

 

「クロちゃん」

 

もえかのコスプレと水芸、そして和住が作った神輿の登場であまり乗り気ではなかったクラスメイト達もその様子を見て関心を持ち始める。

 

「なんか楽しそー」

 

「水鉄砲大会よりは楽しそうかも」

 

「折角のお祭りだから、目一杯楽しんでいこう!!」

 

「艦長‥‥よーし!盛り上がっていくかー!」

 

『オオォー!!』

 

こうして意外な展開をみせつつも麻侖の機嫌は治りクラスメイト達も赤道祭に興味を示しだして、赤道祭の準備は何とか間に合い無事に赤道祭を開くことが出来た。

赤道祭の開始は板で作った赤い扉の前に美海が海の神ポセイドンを意識したコスプレをして桜良が女神を意識したコスプレをし、赤道を渡るための鍵を艦長のもえかに渡す寸劇から始まった。

 

「これが赤道を渡るための鍵であるぞー!」

 

美海がもえかにボール紙で作った鍵を渡すとありがたくそれを頂くもえか。

 

「拍手~!」

 

麻侖が言うとみんなも拍手をする。

 

「じゃ、次は航海の無事を祈るんでぇい!」

 

次は艦内神社があるところで巫女姿になった鈴と鶫が居り、二人の手伝いをする為に楓と慧も同じく巫女の衣装を着て鈴と鶫の少し後ろに控えていた。

そして鈴と鶫はもえかに航海の安全を祈願するお祓いをしていた。

 

「お二人のご実家は神社だったんですね」

 

「そうなの。お諏訪様」

 

「あの‥‥」

 

「あれ?先任?」

 

「どうしたんですか?」

 

「その‥‥ちょっと色々あって‥‥念の為祓っておいてもらえるだろうか?」

 

「えっ?」

 

「あっ、ハイ‥‥」

 

最近になって色々フラグが立っている葉月はこれ以上、クラスメイト達との肉体関係が広がらない様にと鈴と鶫の二人にお祓いを依頼した。

甲板では麻侖が大きな団扇を持ち先頭を歩いて後ろからはクラスメイト達が神輿を担いで天照を一周していると通信マストでマチコが綱一本で華麗なバランス感覚の芸を見せた。

 

「こっちも負けてらんねぇぜ!それわっしょいわっしょい!」

 

麻侖が大きな団扇を思いっきり振り風が舞うと神輿を担いでいたクラスメイト達は片手でスカートを押さえた。

 

その後日は落ちてきて甲板では各々が出した屋台からいい匂いが立ち始める。

 

「おいしいたこ焼きだよー!」

 

みかんと若狭がたこ焼き屋の屋台を開き、多聞丸はたこ焼きを頬張っていた。

桜良がフランクフルトの屋台を開いたのだが、そこに五十六がやってきてフランクフルトを一本口に咥えてそのまま走り去って行く。

 

「あー!ちょっと五十六!」

 

シュペーで食べたソーセージが余程美味しかったのかソーセージが大好きになった五十六だった。

 

「これ梅干し?」

 

葉月は杵﨑姉妹と共にハンバーガーとケーキを売る屋台を開き、葉月はコーヒーやカフェオレを提供する。

そして慧がチーズケーキを貰いに来てケーキの上に乗っている具に付いて尋ねる。

 

「横須賀名物チェリーチーズケーキなの。レモン絞って食べてもおいしいよ」

 

あかねが慧にケーキの説明をする。

砲雷科のメンバーは射的の屋台を開いたのだが、西崎と立石がその景品を根こそぎ持っていってしまった。

その為、砲雷科は出禁となった。

松永、楓、鶫の三人が笛と太鼓で演奏をしてマチコが踊りを披露するとマチコのファンのクラスメイトは踊るマチコの姿にうっとりとしていた。

そして周りの屋台も盛り上がって気分が最高潮になった時、

 

「皆の衆!七時からは教室で出し物をやるぜぃ!」

 

「盛り上がっていくぞ!」

 

『オオォー!!』

 

午後七時になり講堂にみんなが集まった。

 

「本日の司会を務めさせていただきます機関課の広田空と‥‥」

 

「若狭麗緒でーす」

 

「まずは砲雷科さんによるモノマネです」

 

若狭と広田の司会で出し物が始まり、先頭を切るのは砲雷科によるモノマネであった。

 

「それでは小笠原やります。ずぼーん」

 

「‥‥」

 

小笠原のモノマネは細かすぎて伝わらず、葉月は唖然として

 

「何のものまね?」

 

鈴も一体何のモノマネなのか全く理解出来ず、

 

「あーコアラの鳴き声じゃないですかねー」

 

幸子は全然興味が湧いていない様子で雑なコメントをする。

 

「今のは、イージス艦5インチ砲のまねでした」

 

小笠原が何のモノマネをしたのかを言うが、

 

(5インチ砲ってあんな砲声だっけ?)

 

葉月はやはり小笠原のモノマネに疑問を感じた。

しかし、

 

「おー。似ている」

 

「うま」

 

西崎と立石には理解出来た様子。

 

「「「えっ?」」」

 

しかし、葉月、鈴、幸子には本当に似ていたのか分からなかった。

 

「武田やります。どぅん」

 

「長10cm砲長10cm砲!」

 

「うぃ」

 

武田のモノマネもやはり砲撃音のモノマネで、西崎と立石は直ぐに分かったのだがやはり他のクラスメイト達にはまだ分からない様子。

 

「日置やります!ぼー」

 

「今のは52口径11インチ砲ぞな!」

 

すると、日置のモノマネは勝田も分かった様子。

 

「もえかちゃん‥今の分かった?」

 

葉月はもえかに砲雷科のモノマネが分かったか尋ねると、

 

「‥ううん‥分からなかった」

 

もえかにも砲雷科のモノマネは分からなかった。

 

「そ、それでは次に参りましょう」

 

砲雷科のモノマネはマニアック過ぎてちょっと滑った感があった。

 

「航海科です」

 

砲雷科に続いて次は航海科の番となった。

 

「航海科! 航海ラップをやります!」

 

山下、勝田、内田、鶫、慧の五人がリズムに乗ってラップを歌い始める。

 

『私、航海、後悔、公開中!あなたの後悔なんですか!?』

 

まず歌っているメンバーが内田を指さすと、

 

「私の後悔知ってるかい?ついついしちゃった日焼けだよ!」

 

内田が後悔した事を公開する。

 

(えっ?日焼け‥していたの?)

 

元々色黒な内田が日焼けしたと言っても全然わからない。

しかし砲雷科の出し物よりは盛り上がっている。

 

『そりゃするね!後悔するね!しちゃうよね!私、航海!後悔!公開中! あなたの後悔なんですか!?』

 

すると次はみかんが指名された。

 

「え…私?えとね…見たいドラマの録画をね。忘れてきちゃったことかしら?」

 

『あなたの後悔なんですか!?』

 

続いてあかねが聞かれると、

 

「えと…航海中に425g体重が増えたこと!あぁ言っちゃった…」

 

あかねは航海中に体重が増えた事を暴露する。

 

『おっと後悔二倍だね~あなたの後悔なんですか!?』

 

あかねに聞いたので次に次に双子の姉妹であるほまれに尋ねる航海科。

 

「実習に来る前幼馴染に告られたんだけど返事せずに逃げちゃったこと…」

 

『えええええぇぇぇ!!』

 

ほまれの後悔の告白は衝撃的だった。

 

「聞いてない聞いてない!」

 

「誰? 誰?」

 

みかんとあかねがほまれに詰め寄る。

恋に関して興味あるのか他のクラスメイト達もほまれにどういった状況だったのかを尋ねる。

 

「ちょっと今しなよ」

 

「そうでぇい、そうでぇい」

 

航海科のメンバーは、

 

『してみな、してみな、やってみな』

 

と告られた幼馴染に聞いてみろと煽る。

そしてほまれがメールを送り暫くして‥‥

 

「…ということでメールしたら返事が来ました」

 

『返事は?返事は?何なのよ?』

 

「ごめん…他に好きな子ができたって…」

 

『えええええぇぇぇ!!』

 

ほまれの返答にまたもや衝撃が走る。

彼女の目には薄っすら涙が見える。

 

(これ、本人にとってはかなりの黒歴史じゃないか?)

 

自分の失恋現場を大勢のクラスメイトに見られ知られたほまれに同情するクラスメイト達。

 

「うわぁ‥‥」

 

「ご、ごめん」

 

「私達が後悔しているよ」

 

まさか、失恋現場をクラスメイトに知らせてしまった原因を作ってしまい、

 

『私達、航海、後悔、公開中~』

 

歌いながらほまれに謝る航海科だった。

 

「次は砲術長・水雷長による漫才です」

 

「どうぞ!」

 

舞台袖から立石と西崎が黒いドレスに頭に奇抜な被りものと胸に何かしらの詰め物をして出てきた。

 

(言われないと誰だかわからない格好だ)

 

葉月は二人の衣装の感想を心の中で述べる。

 

「はじめましてメイタマでーす」

 

「す」

 

そして漫才が始まる。

 

『51音マンボウ!』

 

(あんなに喋る立石さん初めて見るかも)

 

51音マンボウとやらを歌っている立石を見て葉月は普段の立石からは考えられない饒舌ぶりに驚いた。

 

「ビックリのア行」

 

「あ、こんな所にケーキが食べちゃお。ムシャムシャ‥‥」

 

「それ腐っているよ」

 

「い!」

 

「お腹壊すよ、それ」

 

「う!」

 

「トイレ一杯だったよ」

 

「え!」

 

「間に合わないかもね」

 

「お~」

 

二人の独特な漫才にクラスメイト達は大笑いし、赤道祭を楽しんでいるみたいだった。

 

「次は艦橋メンバーによる劇!」」

 

「仁義ある天照です!」

 

司会の二人が出し物の名を説明すると舞台は一気に暗転し舞台にスポットライトが照らされるとそこには制服の上から羽織を着た鈴がセリフを言い、鈴の隣で膝をつきながら鈴の部下役をしている萌香の姿があった。

 

「くっくっく。これで天照もわしらのシマじゃ」

 

「うまくいきましたね親分」

 

「待てや!」

 

「ま、待てや…」

 

そこへ羽織を着た幸子と横須賀女子の制服を着た葉月が姿を見せる。

 

(うぅ~は、はずかしい‥‥)

 

普段はズボンと詰襟の制服を着ている葉月だが今回だけは劇と言う事で横須賀女子の制服を無理矢理着せられた。

 

「お~。なんだ。天照のイモか?」

 

鈴はこういった劇に関して恥ずかしいと感じるかと思ったが意外とノリが良かった。

 

「天照乗員はイモかもしれんがのう。相手の風下に立った事は一度もないんじゃ!」

 

「な、ないんじゃ!」

 

「ほぉ~来るならこいやー!」

 

「こいやー!」

 

「根性注入しちゃる!」

 

(鈴ちゃんもそうだけど、もえかちゃんも結構ノリノリだ‥‥)

 

鈴に続いてもえかも意外と劇の配役にのめり込んでいた。

そして鈴が腰に差していた小道具の刀で幸子に斬りかかり、

 

「頭」

 

幸子を庇って葉月が斬られる。

 

「葉月の!!」

 

「頭…頼むけん…仇討ってくっせぇ…」

 

葉月は幸子の腕の中で息を引き取る。

やっぱり仁義の無い感じの劇になった。

そして最後に麻侖の提案により甲板上で相撲大会をする事になった。

 

(甲板での相撲大会なんて久しぶりだな‥この世界にきて初めてかも‥‥)

 

前世ではよく甲板上で剣道、柔道、相撲、リレーなどの競技をよくやったものだ。

甲板の上にマットが敷かれ、相撲大会が始まる。

優勝したのは機関科の黒木で対戦相手を瞬殺する程の腕前だった。

黒木は元々地元の女相撲大会で優勝経験があるのでそれも当然の結果だ。

 

「よーし!じゃあこれで終了!」

 

相撲大会が終わり、麻侖が赤道祭の閉会を宣言すると、

 

「私だけまだ何もやってない」

 

美波がボソッと呟く。

確かに美波の言うとり、彼女はこの赤道祭でまだ何もやっていない。

 

「えと…美波さん何かする気?」

 

「ちゅ…注射とか…?」

 

美波の芸と聞いて皆はすこし引く。

良識がありそうで彼女はマッドサイエンティストの一面も備えているのでクラスメイト達が警戒するのもわかる。

 

「最後にみんなで歌いたい。『我は海の子』を」

 

「なんでぃ随分かわいい歌を歌うじゃねぇか」

 

「民謡とか演歌じゃないんだ」

 

広田は美波の歌のチョイスに意外性を感じる。

 

「もしかして自分の子供に聞かせてた?」

 

「私はまだ十二歳だ」

 

「マジ!?」

 

「嘘だ!」

 

「嘘」

 

美波の実年齢を知って驚くクラスメイト達。

 

「てっきり年上かと‥‥」

 

(いやいや、みんな体型でわかるでしょう?)

 

葉月は乗組員の選抜時に美波の情報を予め見ていたので彼女の実年齢を知っていた。

 

「飛び級して大学に入ったからな。とにかく歌うぞ! みなさんのもご唱和ください!」

 

美波が歌いだして皆も其れに続いて歌いだす。

歌を歌い終えて今度こそ天照の赤道祭は幕を下ろした。

 

 

赤道祭が無事に終わり片付けが行われている最中、もえかは深刻そうに水平線の彼方をジッと見ている。

 

「艦長」

 

「先任」

 

「やっぱり‥不安?」

 

「う、うん」

 

この後のパーシアス作戦では武蔵と‥明乃と砲火を交えるかもしれないと思うともえかにしてみれば不安しかない。

予備兵力とは言え、武蔵の近くへと行くのだ。

明乃が今どうなっているのか?

それが心配でならない。

もし、予備兵力も投入しなければならない程の戦いになったら‥‥

もえか安は尽きない。

 

「大丈夫だよ」

 

「えっ?」

 

「必ず明乃ちゃんは助ける‥‥この艦は何度も奇跡を起こして来たんだ‥‥今度も必ず勝ってみせる‥それでみんなで横須賀に帰ろう。明乃ちゃんや武蔵の皆を連れて」

 

「う、うん」

 

(そうさ、この艦は今まで大石長官と日本武尊と共に何度も死線をくぐり抜けてきたんだ‥‥今度も必ず勝ってみせる)

 

もえかと葉月は共に水平線の彼方を見つめた。


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