ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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※レオナと共にマチコによって倒されたシュペーの乗員の特徴がマリーアと似ていたのですが、マリーアは一番最初にマチコに倒されていた為、レオナと一緒に居たのはマリーアのそっくりさんと判断したので、シュペーの乗員の中でも名前持ちであり、原作ではほんの僅かしか描かれなかったローザに変更してあります。
また、美海が艦橋の階段下でシュペーの乗員と戦った際、リーゼロッテは登場しませんでしたが、一応彼女もシュペーの乗員では数少ない名前持ちだったので、登場させました。


では、本編をどうぞ



51話 アドミラル・シュペー

アドミラルティ諸島にて、ミーナが副長を務めていたドイツからの留学艦、アドミラルシュペーを発見し、ウィルスに感染した乗員の救助を決め、救助作戦を実行した天照。

しかし、アドミラルシュペーは天照の思惑通りの行動をとらず、救助作戦は困難を極めた。

抗体ワクチンを乗員に打ち込まなければ、アドミラルシュペーの乗員を救うことは出来ない。

だが、スキッパーでの接舷乗り込みをするには大きな危険が伴い、そう簡単にアドミラルシュペーへの接舷乗り込みが出来ない。

そんな中、葉月は先日、受け取ったばかりの海兎を使用してアドミラルシュペーへ乗り込みを行うことにした。

後部甲板に海兎を用意し、何時でも発艦できる用意を整える。

アドミラルシュペーへの突入部隊はアドミラルシュペーの副長であるミーナの他に抗体ワクチンを持っている美波、戦闘要員としてマチコ、楓、応急要員として、美海、青木が志願した。

 

「本当にコレが空を飛ぶのか?」

 

ミーナは海兎を見て、半信半疑の様子。

彼女の他の突入部隊のメンバーも同様のリアクションだ。

 

「大丈夫」

 

ミーナの様子を尻目に葉月は着々と海兎の発艦シークエンスを進める。

 

「先任、ミーナ、お前達も抗体は打っておけ、木乃伊取りが木乃伊になっては元も子もないぞ」

 

ウィルスが蔓延するアドミラルシュペーへ行くので、事前に抗体ワクチンを打っておかなければ、突入する自分達もウィルスに感染する恐れがあった。

その為、突入部隊の隊員達は事前に抗体ワクチンを打った。

抗体ワクチンを打ち、発艦シークエンスも完了した海兎は天照の甲板より飛びたった。

 

「と、飛んでいる!?」

 

「まさか、本当に‥‥」

 

「おおー」

 

「‥‥」

 

海兎が天照から飛び立つと、海兎に乗った突入部隊の隊員達は目を見開いて驚いていた。

それは天照に残った者達も同じで、天照の横を飛行している海兎を見て、驚いていた。

 

「あんなのが本当に空を飛ぶなんて‥‥」

 

「ちょっと信じられませんね」

 

「立石さん、散弾式の模擬弾を第二主砲に装填。目標、アドミラルシュペーの前部甲板、第一主砲」

 

「う、うぃ」

 

皆が驚いている中、もえかは立石に主砲の準備をさせる。

葉月の言った通り、アドミラルシュペーの第一砲塔を潰すためだ。

比叡の時の様に完全に破壊する事が目的ではなく、砲身を歪ませることだけで、主砲は使用不能に出来る。

前部甲板の第一主砲を使用不能にしてしまえば、海兎はアドミラルシュペーの前部甲板に着陸でき、そこから突入部隊をアドミラルシュペーに乗り込ませることが出来る。

 

「本艦をシュペーと平行させて」

 

「は、はい」

 

もえかはジャイロコンパスで正確にアドミラルシュペーの距離感と方位を調整しながら、鈴と機関室に指示を下していく。

やがて、二艦は並ぶように航行すると、天照の第二主砲が右舷に旋回し、その砲口をアドミラルシュペーへ向ける。

 

「第二主砲、散弾式模擬弾装填完了!!」

 

「仰角、距離測定完了!!」

 

「主砲、いつでも撃てるよ!!」

 

小笠原、武田、日置の三人から主砲の発射準備が整った事が伝声管から伝えられる。

 

「まる」

 

「‥‥砲撃開始!!」

 

「撃て」

 

もえかが発射命令を出し、立石が復唱し、天照の第二主砲から散弾式の模擬弾が轟音と共にアドミラルシュペーへ向けて放たれた。

着弾直前に砲弾の中から無数の小さな礫がアドミラルシュペーの前部甲板に降り注ぎ、礫はアドミラルシュペーの第一主砲の砲身を変形させた。

砲身がひしゃげた為、アドミラルシュペーの第一主砲は使用不能となった。

 

「よし、成功だ」

 

空の上からアドミラルシュペーの第一主砲が使用不能となった事を確認した。

 

「それじゃあ、これからアドミラルシュペーに強行着陸をするよ。いいね?」

 

葉月が突入部隊の皆を見ると、皆は頷く。

どうやら、覚悟はできている様だ。

 

「じゃあ、行くぞ。皆、何かに掴まっていてね」

 

海兎は速度を上げてアドミラルシュペーの前部甲板を目指した。

 

「突入部隊、アドミラルシュペーへ向かいます」

 

右舷側の見張り担当の内田が、海兎がアドミラルシュペーへ向かって行くのを確認し、報告する。

 

(お姉ちゃん‥‥皆‥‥頑張って‥‥そして、必ず無事に帰って来てね‥‥)

 

「本艦はこれより、シュペーの主砲射程外に出る!!機関最大船速、取舵一杯!!右舷バウスラスター全開!!」

 

「よ、ヨーソロー、取舵一杯!!」

 

突入部隊が無事にアドミラルシュペーへ強行着陸をしたのを確認し、もえかは天照乗員の安全を考慮してシュペーの第二主砲と副砲の射程外への離脱を命じた。

 

「向こうの射程外に出るのにどれくらいかかる?」

 

「主砲射程外まで最大船速で35分。副砲は25分です」

 

「ふぇ~後35分もかかるの!?」

 

あと35分はシュペーの砲弾にさらされる事実に鈴は涙目に泣きそうな声を出す。

 

「それにあと25分は副砲の射程内だから、25分間は副砲も撃ってきますね」

 

幸子が35分のうち、25分は主砲の他に副砲弾も放ってくる事実を言う。

 

「第二主砲も潰す?」

 

立石がこの際、シュペーの後部、第二主砲も使用不能にするか尋ねる。

 

「これ以上、壊すと外交問題に発展しかねないから、此処は反撃せずに退避に専念して」

 

もえかは、第一主砲は突入部隊を送り込む為、やむを得ず使用不能にしたが、日本国籍ならともかく、ドイツ国籍のアドミラルシュペーをこれ以上損傷させたら、日本とドイツとの外交問題に発展する事を懸念してこれ以上の攻撃を控え、射程外へ退避することにした。

ただでさえ、ミーナを初めに助けた時、シュペーの左舷側のスクリューを壊しているのだ。

これ以上はシュペーの構造物を傷つける訳にはいかなかった。

 

一方、海兎にてアドミラルシュペーの前部甲板へ無事に強行着陸出来た突入部隊は直ちに行動を開始した。

各々が獲物を持ち、海兎から降りると、前部甲板にはウィルスに感染したシュペーの乗員、アレクサンドラ・ティエレ、エルフリーデ・ルフト、マリーア・ローフ、エリーザ・アウグスタ・レーマンの四人が立ち塞がる。

 

「私を倒せると思うなよ」

 

そんな四人に対してマチコが恐れる事無く立ち向かっていく。

アレクサンドラとエルフリーデの拳を躱し、水鉄砲にて彼女らを殴打した後、正面に居たマリーア、エリーザの顔に海水を撃ち込んでいく。

マリーア、エリーザはテア同様、ウィルスの感染時間が短かった為か、海水を浴びて意識を失い、背後から迫るアレクサンドラとエルフリーデの二人は再びマチコに拳を打ち込むが、マチコは冷静に水鉄砲の銃身でそれをいなし、彼女らの僅かな隙を見定め、マリーア、エリーザ同様に顔面に海水を浴びせて二人を倒した。

 

「見事だ」

 

マチコの戦闘を見てミーナはドイツ語で一言そう呟いた。

艦橋の占拠を目指し、ミーナの案内の下シュペーの前部甲板を駆け抜けると、第一主砲の影からレオナ・ベックナーとローザ・ヘレーネ・カールスの二人が襲い掛かって来るが、マチコが水鉄砲であっという間に無効化し、美波が注射器で二人にワクチンを打っていく。

 

「こっちじゃ」

 

ようやくシュペーの艦内に侵入し、艦橋を目指していくと、通路の反対側からレターナ・ハーデガン、アウレリア・ブランディ、ロミルダ・ハンネ・カールスの三人が立ち塞がる。

 

「くっ、レターナ‥お主までも‥‥」

 

ミーナはなかなか艦橋へ辿り着けない事、そして友人達がウィルスに感染している事に対して悔しそうに顔を歪ませる。

特に今、ミーナの眼前に立ち塞がった三人の内、レターナはミーナにとってテア同様、昔からの友人だった為にショックも大きかった。

すると、ミーナの前に楓が出てきて、持参した白樫製の薙刀が入った布カバーを外し、構える。

 

「万里小路流薙刀術…当たると‥痛いですよ!」

 

楓は俊足で一気に相手の懐へと踏み込むと、レターナ達を一瞬の内で無力化してしまった。

 

「凄いッス‥‥」

 

楓の薙刀の技に青木は唖然とした表情で感想を呟いた。

それはミーナも同様でまさか三人を一瞬の内に無力化させる腕前とは思わなかった。

 

「万里小路さんの言う通り、痛そう‥‥ウィルスに感染して、痛感か意識が無かったのが彼女達にとっての唯一の幸いだろうか?」

 

万里小路流薙刀術を喰らい通路の床に倒れているレターナ達を見て、葉月は楓の言う通り、物凄く痛そうだったので、レターナ達に同情しつつ、意識を取り戻した時にはこの時の痛みもなくなっている事を祈った。

 

「兵は敵に因りて勝ちを制す」

 

美波はこれまでと同様、倒したシュペーの乗員にワクチンを打って行く。

その時、レターナの服から黒と白のネズミが逃げて行った。

それはこのウィルスの感染源である例のラットだった。

 

「ぬぉー!」

 

逃げて行くラットを見るやラット捕獲用に連れてきた五十六が物凄い勢いでラットを追いかけて行った。

 

「五十六!!」

 

五十六を追いかけて青木が駆けて行った。

 

葉月達シュペー突入部隊がシュペーの艦橋を目指している頃、未だにシュペーの主砲射程外へ退避中の天照は未だシュペーからの砲撃を浴びていた。

右舷の後部甲板や高射砲・副砲群にはいくつもの被弾箇所がある。

 

「シュペーから11マイル! 副砲の射程外に出ました!」

 

何とかシュペーの副砲の射程外へ退避したがまだシュペーの第二主砲からの射程内に居る為、シュペーは第二主砲を天照に向けて撃ってくる。

 

「うっ‥くっ‥‥射程外まで、あとどれくらい?」

 

「主砲射程外まであと10分!」

 

「見張り員は見張りを厳として!!射程外に完全に退避するまで気を抜かないで!!」

 

「「了解!」」

 

内田と山下は返答した後、双眼鏡でシュペーの動向をジッと睨むように窺う。

 

その頃、シュペーの突入部隊は艦橋目前の所まで来ていた。

 

「ここを上がれば艦橋じゃ」

 

ミーナを先頭に楓、マチコ、美波、美海、葉月が艦橋に続く階段を登ろうとした時にシュペーの砲術長、リーゼロッテ・フォン・アルノーらシュペーの乗員らが後ろから来るのに気付いた。

 

「ここは行かせない! マッチは私が守る!」

 

「等松さん一人じゃ、流石にあの人数はきついだろう?自分も此処に残る。皆は艦橋へ!!」

 

と、美海と葉月がミーナ達の殿として残った。

 

「さて、あの人数に対して、こっちは二人か‥‥」

 

眼前に迫るシュペーの乗員達を逸らさず、見ながら懐から鉄扇を取り出す。

 

「ちょっときついかもしれませんね」

 

美海は無理に笑おうとし、引き攣った笑みを浮かべる。

 

「例え二人でも離れなければ良い‥互いの背中を任せ、眼前の相手のみ集中すればいい‥自分が倒れなければ、もう一人も倒れない」

 

「は、はい」

 

「行くぞ!!」

 

「はい!!」

 

葉月と美海はリーゼロッテらウィルス感染したシュペーの乗員達に向かっていった。

シュペーの乗員が繰り出した拳を葉月は広げた鉄扇で防御し、相手が怯んだ隙に鳩尾には拳、首筋には手刀を打ち込みシュペーの乗員達を次々と倒していく。

シュペーの乗員も美海よりも葉月の方を厄介な敵だと判断したのか、美海よりも葉月の方が数が多い。

そんな中、一人の乗員が葉月の背後から迫り、葉月を羽交い締めにする。

 

「ヤバッ」

 

動けない葉月に殺到するシュペーの乗員達。

その時、

 

「やぁ!!」

 

美海が葉月を羽交い締めにしているシュペーの乗員の脇腹に拳を打ち込む。

突然脇腹に拳を撃ち込まれたシュペーの乗員は不意を突かれ、葉月を掴んでいた手を緩めてしまう。

羽交い締めから脱出した葉月はそのシュペーの乗員を一本背負いで投げ飛ばす。

 

「助かったよ、等松さん」

 

「い、いえ‥そんな‥‥」

 

葉月に礼を言われて美海は照れていた。

 

葉月と美海が殿を務めたおかげでミーナ達は無事に艦橋へとたどり着いた。

そしてウィングに立つアドミラルシュペーの艦長、テア・クロイツェルと対峙した。

 

「艦長!」

 

「‥‥」

 

しかし、テアはミーナの呼び掛けには一切応じず、それどころかテアはミーナに向かって回し蹴りをしてくる。

 

「うぅぅあ!」

 

「‥‥」

 

テアの回し蹴りをミーナは左の蟀谷に食らうが、彼女は表情を変えず、そして動じず冷静にテアの足をはたく。

 

「くっ‥‥」

 

テアは自らの蹴りがミーナに効かなかった事に顔を歪ませる。

その隙にミーナはテアを抱きしめる。

当然、テアはミーナを振りほどこうと暴れるが、ミーナは決してテアを離さなかった。

ミーナがテアを押さえている隙に美波がテアの腕にワクチン入りの注射器を刺し、ワクチンをテアに打つ。

すると、ワクチンが効いてきたのかテアは大人しくなった。

 

「遅れてすまない…」

 

意識を失ったテアにミーナはすまなそうに謝罪をした。

テアを救い、機関を止めて、シュペーの機能を完全に奪還すると、シュペーのメインマストには制圧完了の合図である白旗が上がる。

 

「艦長、シュペーのマストに白旗を確認!!」

 

「シュペー、行き脚が止まりました!!」

 

「やったぞな!」

 

「やった! 」

 

もえかも双眼鏡でシュペーのメインマストに翻る白旗を見てホッと安堵する。

 

「マッチ…私…役にたったかな? 」

 

「ああ、こうして殿を立派に務めたんだから、野間さんもきっとそう思っているよ」

 

艦橋に続く階段の下では、ボロボロになった美海と葉月が居り、床にはリーゼロッテ達シュペーの乗員達が倒れていた。

 

「‥そう‥‥よ‥良かった‥‥」

 

美海は満足そうな表情でその場に倒れるが、そこを葉月が受け止める。

 

「お疲れ様‥等松さん」

 

眠る美海に葉月は礼を言う。

そこへ、艦橋を制圧したミーナ達が戻って来た。

 

「先任‥代わります」

 

「‥うん」

 

眠る美海をマチコに託す葉月。

マチコは美海をお姫様抱っこで海兎へと運んだ。

青木が見れば興奮する様な光景だったが運悪く彼女はこの場には居なかったし、美海にとっても夢の様な時間であったかもしれないが、彼女も眠っており、この夢の様な時間を記憶することなく逃してしまった。

 

シュペーの甲板上では五十六が捕まえてきたラットを青木の前で置く。

 

「これで10匹目…お手柄っすね~」

 

取りあえず、素手で直接触るのは危険なので、青木は手袋をはめて五十六が捕まえたラットをケースへと入れた。

 

救助作戦が無事に終了すると天照はシュペーに接近し、両艦の間にはタラップが接舷され、行き来が可能となる。

ワクチンを打たれ、昏倒していたシュペーの乗員らが目を覚ましてから暫くして、シュペー甲板上では天照とシュペーの炊事委員達による手料理が振舞われていた。

大きさでは天照の方が大きかったのだが、天照の後部甲板はシュペーの砲撃を受けて、損傷した状態で見栄えが悪かったので、会場はシュペーの後部甲板となったのだ。

 

「美波さん、抗体の接種は?」

 

「うむ、全員終わった。見た限り、皆初期症状だったようで、今の所は問題ない。突入部隊の隊員達もウィルスに感染した形跡はない」

 

「そう、よかった」

 

「もえか、葉月」

 

「あっ、ミーナさん」

 

「紹介する。こちらが我が艦の艦長…」

 

「アドミラルシュペー艦長のテア・クロイツェルだ。話は副長から聞いた。我々を救ってくれて感謝する」

 

そう言ってテアはもえかに手を出して、もえかもそれに応え、もえかもテアに自己紹介する。

 

「天照艦長、知名もえかです。こちらは‥‥」

 

「天照先任士官の広瀬葉月です」

 

葉月もテアに名を名乗る。

 

「全員無事でしたか?」

 

「現状は‥これからゼーアドラー基地に戻って補給と補修だ」

 

シュペーは現在、左舷のスクリューと第一主砲が破損している状況だ。

それに乗員がウィルスに感染した後、補給が一切されていない状況なので、補修と補給は急務であった。

 

「それじゃあ、ミーナさんも‥‥」

 

「ああ。当然我々と行く」

 

「えっ!?」

 

テアのこの言葉に一番のショックを受けたのはもえかと葉月の後ろにいた幸子だった。

幸子はそのまま夕食会に参加することなく、目に涙を浮かべて人知れず自室へ籠ってしまった。

 

「基地に戻ったら、念の為、精密検査を受けて欲しい」

 

「わかった」

 

「ごはんできました~」

 

「できました~」

 

杵﨑姉妹が夕食の準備が出来た事を知らせ、夕食会が始まった。

 

「これは…」

 

テアは寿司桶の中にある寿司に首を傾げている。

 

「それは寿司と言います」

 

「「我々も手伝いました!」」

 

この寿司作りにはレオナとアウレリアも一緒に参加した様だ。

 

「スシ、サシミ、カロウシってやつか?」

 

「最後のはなんか違う」

 

「これはアイントプフだな?」

 

続いてテアはおでんに興味を持った。

 

「そうです艦長。おでんともいいます」

 

「お、おでん?」

 

「ん?」

 

レオナとアウレリアはおでんを初めて見た様子でおでんをジッと見ていた。

 

「艦長、挨拶を」

 

「うむ」

 

ミーナに挨拶をする様に促され、テアは皆の前に立つ。

 

「我々の不断の努力により、艦と自らの制御を取り戻した。このめでたい事に対して天照艦長から乾杯の音頭を頂きたい」

 

「えっ?私?」

 

突然の役目に戸惑いながらももえかはテアの隣に立ち、乾杯の音頭をとる。

 

「それじゃあ‥‥みなさん‥乾杯!」

 

『乾杯!』

 

『プロ―ジット!!』

 

天照とシュペー乗員達は手に持ったジュースの入ったコップで乾杯をし、食事をする。

日本とドイツの料理が入り混じった夕食会で山盛りのザワークラウトに美波はドン引きしたが、その山盛りのザワークラウトはテアが全て片付け、レオナとアウレリアの二人が作った寿司ネタのクネーデル寿司やアチェス寿司は日本人の口に合う者と合わない者に分かれた。

 

マチコはシュペーの前部甲板で戦ったアレクサンドラ、エルフリーデ、マリーア、エリーザに囲まれ、同い年なのにお姉様の扱いされており、美海と葉月はローザから奮戦を称えられて賞状を送られた。

葉月はマチコ同様、お姉様扱いをされて、それを見たもえかが、ムッと頬を膨らませる場面も見受けられた。

 

「はい、艦長。あ~ん」

 

「はむっ、ムグムグ‥‥」

 

ミーナはテアにソーセージを食べさせていた。

そもそも二人の交流の切っ掛けが、10歳の頃、テアと一緒に入ったホットドッグ店でミーナがテアに餌付けをしたことが切っ掛けであった。

 

「それ、ソーセージ?」

 

「我が船特製のヴルストじゃ。これがずっと食べたくてな~」

 

「はむっ、モグモグ‥‥なかなかいけますね」

 

皿に残った二本のヴルストの内一本を食べた楓はうっとりしながらヴルストを食べている。

シュペーのヴルストはお嬢様である楓の舌をも満足させる一品の様だ。

最後の一本は五十六がかすめ取って行った。

 

「艦長…ずっと預かっていたこれ…」

 

ミーナは被っていた艦長帽を脱ぐ。

 

「被せてくれ」

 

ミーナはテアの頭に艦長帽を被せる。

その時、テアの目からは一筋の涙が流れた。

信じていた友人とこうして再会し、乗員も元に戻ったことが余程嬉しかったのだろう。

 

「艦長さん…」

 

感動の再会に鈴も涙目であった。

 

「私は泣いてない!!…しかし、そちらの船は相当酷い状態だな」

 

テアは袖で涙を拭き、話を逸らす為、被弾した天照の後部甲板を見る。

 

「誰のせいかな~。でもナイスパンチだったよ。私達を倒すにはちょっと足りなかったけど」

 

西崎がシュペーの奮闘を称える。

だが、ポケット戦艦と超弩級戦艦とでは比較にならない。

 

「我々と共にゼーアドラーに行って修理を受けたらどうだ?」

 

テアはこの後も行動を共にしないかともえかに提案するが、

 

「いえ。私達は明石と合流するように連絡を受けています」

 

もえかはこの後、明石と合流し補修を受ける旨を伝える。

それに自分達にはまだ武蔵探索の任務がある。

今は、一刻も早く武蔵を見つけなければならず、基地へ寄る余裕はなかった。

 

「そうか。ではここでお別れだな」

 

「はい。お元気で‥‥」

 

もえかとテアは再び握手を交わした。

 

「あっ‥‥」

 

そして、ミーナは此処で幸子が居ない事に気づいた。

その幸子は部屋で毛布にくるまってミーナとの別れを一人悲しがっていた。

そしてシュペーは出航の準備が整い、いつでも出せる状態となる。

シュペーのメインマストには国際信号旗の『U』 『W』 『1』 の旗が翻っており、意味は『協力に感謝する。御安航を』という意味で、反対に天照のメインマストには国際信号旗の『U』 『W』 の旗が翻っており、意味は『御安航を祈る』となっていた。

 

「八木さん」

 

「何でしょう?」

 

「シュペーが出航したら、見送りにこの曲を流してもらえるかな?」

 

葉月は鶫に一枚のレコードを差し出す。

 

「いいですけど、何の曲ですか?」

 

「ドイツの民謡で、再会を胸に別れゆく友を想う歌だよ。別れは辛い‥でも、人は再び出会う‥それを込めてね‥‥」

 

「わかりました」

 

葉月の頼みを聞き、鶫はレコードをセットする。

 

シュペーの左舷甲板にはミーナとテアがいた。

 

「どうした?」

 

「ココ…いえ、なんでもありません」

 

そしてシュペーはゆっくりと前に進みだす。

 

「楽しかったぞ!」

 

ミーナがそう叫ぶともえかも、

 

「私達もです! 良い航海を!」

 

ミーナとテアに航海の安全を祈った。

 

「Gute Reisen!!」

 

シュペーがボォ―!!と汽笛を上げると、幸子は急ぎ部屋から飛び出て甲板に出る。

やはり、このままミーナと顔を合わせずに別れるのはこの先、ずっと後悔すると思い、その思いが彼女を突き動かしたのだ。

甲板から幸子の姿を見つけたミーナは、

 

「わしゃあ旅行ってくるけん!」

 

ミーナに別れの言葉を投げかける。

 

「体を厭えよ~!」

 

すると、幸子もミーナに返答する。

 

「ありがと!!」

 

ミーナは幸子に手を振る。

そして、天照からは一曲の音楽が流された。

 

「~~♪~~♪」

 

「これは、『Muss i denn』‥‥」

 

音楽家一族出身のテアは瞬時にこの音楽が何の曲なのか分かった。

Muss i dennを聞き思わず口ずさむシュペーの乗員も居た。

 

「間尺に合わん仕事をしたのう…」

 

涙を流しシュペーを見送る幸子に葉月が声をかける。

幸子とミーナがよく部屋に来て任侠物のDVDを見ていたせいか思わず任侠っぽい台詞で幸子を慰める。

 

「…もう一文無しや」

 

「‥‥そうか‥‥でも、出会いがあれば必ず別れは訪れる。でもその別れは永遠ではない筈‥‥別れが永遠になるか一時になるか‥‥それは全てこの後どう動くか‥だ‥‥納沙さんが、またミーナさんと会いたいと思えば、必ず会えるさ」

 

「先任‥‥そうですね‥‥//////」

 

Muss i dennが流れる海原で遠ざかるシュペーの姿を葉月は幸子と共に見つめていた。


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